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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

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第24話

 

 新王国歴7268年8月13日




『ん?……申し訳ない。そちらの男性の方。しばらくの間、家族とは別行動となります』

『え?何故ですか?』

『疫病保持者の可能性があるためです。万が一に備え、精密検査を受けていただきます』

『そうですか』

『パパ?』

『大丈夫だ。少しの間くらい、待てるよな?』

『うん!』

『いってらっしゃい、あなた』

『いってくる』

『では、こちらへ』


 住民を惑星中からかき集め、本星へ連れて行く。多くの者は若干の不安を感じつつも、その顔には喜びが写っている。助けた甲斐があったな。

 そんな中、ごくごく稀に声をかけられ、彼のように他の人とは別行動になる者達がいた。割合としては1000人に1人程度、そう多くない。


「それで……何か言うことはあるか?」


 その男は今、俺の目の前にいる。

 腕は後ろで縛られ、足は椅子に固定され、翼も縄で拘束された、身動き1つできない状態。

 そして、頬は赤く腫れていた。手加減に手加減を重ねたが、何度も殴ればこうもなる。


「それとも、家族に言い残すことの方が良いか?それくらいの慈悲はないことはない」

「ひっ、な……」

「遺言を残したいなら早く言え。お前1人に無駄な時間をかけたくない」

「なんで……!」

「何で?……ふざけるな!」


 流石にこれには怒りが生じ、腹を蹴る……が、手加減に失敗してしまった。

 今度は椅子ごと吹き飛んでいく。


「お前は自分が何をしたか分かっているのか?自分の手がどれだけ汚れているか気づいていないのか?それならここで殺した方が家族のためになりそうだな」

「そん、なの……がっ⁉︎」

「俺達は国民に、国家に害をなす連中を許さない。例え同胞であろうと、裏切れば処断する。理解したな?」


 吹っ飛んだ男の首を掴み、持ち上げる。息が苦しいようでもがいているが、その程度で外れるほど俺の握力は弱くない。

 もちろん、このまま捻り潰すことも可能だ。しかし……この後を考えるとやりたくはない。


「……し…た……った……!」

「ん?何か言ったか?」

「し、かた、無かった、んだ……家族、を、殺す、って……!」

「なるほど。詳しく話せ」

「げほっ、けはっ……連中、急に俺のところに来て、そう言ったんだ……従わないと家族を殺すって……指示通りに動けば多少は優遇してくれたけどさ」

「それで?その程度で仲間を売ったのか?」

「どうでもいい情報なんだ!隣の子どもが風邪をひいたとか、向かいの夫婦が喧嘩したとか……小石をばら撒けとか、岩を動かせって言われたこともあったけどさ……信じてくれよ……!」


 前者は情報分析活動かもしれない。些細な情報であろうと、解析してみると面白データが出てくることがある。

 それとも、罪悪感を植え付けることが目的か?家族を殺される恐怖を保ち続けるためかもしれない。

 しかし、後者は確実に盗聴器や監視カメラに関わる行動だ。調べれば分かることだが、何らかの監視網を敷いていたらしい。

 こいつは全く気づいていないようだが。


「どうだ?」

『読み取った思考と同じで、嘘はありません』

「分かった」

「ひっ⁉︎」


 合図と同時に声をかけると、部屋の外から通信が入った。この部屋をモニタリングさせていた、俺と同じ穏健派のオペレーターだ。

 そして答えを聞いた俺は拳銃を抜き、撃つ。


「……え……?」


 狙いは……頭でも心臓でもない。連射すると縛っていたものが全て千切れ、男は解放された。

 散々痛めつけたためふらついているが、骨や内臓に異常はなさそうだ。この程度ならナノマシンを打っておけば勝手に治る。


「今回だけは許してやる。だが、2度目は無いぞ」

「え、あ……」

「俺達の目はどこにでもある。王国にいて、逃げられると思うな」


 具体的には陸海軍の目が、だ。最近それに諜報部も加わった。帝国のスパイなど存在すら許さない。

 そんな恐怖を味わった男は、別の穏健派からナノマシンを打たれる。そして怪我が治るのを待ち、転送装置に乗ってどこかへ消えた。

 恐らく、海軍の輸送艦(ガッザレス級)に乗った家族の元へ行ったのだろう。


「とりあえず、奴で終わりか?」

「はい。例の連中以外では最後です」

「そうか。それならしばらく休憩にする。ただし、過激派には気をつけろ。怒りやすくなっている可能性は否定できない」

「了解」


 彼らの分もちゃんと残しておいたのだから、責められる謂れはないが……不機嫌にならないとは限らない。

 それに、恐らくはいつものアレもある。


「司令はどうされますか?」

「とりあえず、食堂に向かう。まあ、邪魔される可能性はあるが」

「ああ……お疲れ様です」

「必要なことだ。良くも悪くも、な」


 どちらの意味でも、仕方のないことだ。もう変えられないことであり、互いの選択以上の何物でもない。

 そんなところで話を終わらせ、食堂へ向かった。予想に反して道中では何も起きなかったため、メニューを見ていると……


「ねー、ガイルー?」

「メーリアか、がっ⁉︎」


 背後からかけられた声に振り返った時、思い切り振り抜かれた平手に頬を打たれ、頭から壁に激突した。

 いきなりとは、予想の中でも最も悪いものだが……ちっ、奥歯が折れたか。


「いきなりだな……用があるなら先に口で言え」

「それで聞いてくれるのー?」

「いいや?」

「じゃあー……やるしかないよねー?」


 そんな言葉を発しつつ、メリーアが椅子から引きちぎった金属塊を投げてくるが、拳1発で粉砕した。そして金属塊の真後ろにいたメリーアへ蹴りを放ち、天井に埋め込む。

 さらに飛び上がりながらアッパー、メリーアの腹へ拳を打ち込んだ。余波で天井が粉砕されたが、些細な問題だ。そんなことより、肋骨が2本か3本は折れたな。

 なお、食堂にいた連中は最初の1発の時点で全員逃げ出している。また、一連の格闘で照明の半数が壊れたが、暗闇でも見える俺達にとって障害とはならない。


「まだやるか?」

「当然だよねー。誰かが代わりにやらないといけないしー?」

「そうだな。俺としてはあまり気乗りはしないが……まあ、付き合ってやる」


 俺とリーリアが穏健派、父さんが穏健派寄りなため、過激派の面々は抑圧されている所もある。

 しかし、過激派が主体であれば王国はもっと荒れていた。残念ながら、我慢してもらうしかない。それは彼ら自身も分かっていることだ。

 メリーアの左ストレートを右ストレートで粉砕しつつ、いつも通りの言葉を発した。


「だが、この程度か?」

「言ってればー?」


 蹴りを左手で掴んで振り回し、床に叩きつける。

 だがメリーアはその前に床に右手を付け、そのまま回転蹴りを放ってきた。流石にこれは危険なため、スウェーバックで避ける。


「は!」


 しかしそれは読まれていたのか、メリーアは一瞬で床に伏せると、かなりの勢いで懐へ飛び込んできた。

 俺もそれは避けきれず、肘が直撃する。鳩尾に綺麗に入ったな……


「ぐっ、かぁ!」

「ひっ⁉︎」


 だがそれを無視し、メリーアの顔を掴んだ上で顎へ膝蹴りを直撃させる。


「はぁ!」


 さらに下へ投げると、そのまま頭を踏みつけた。

 床にはクレーターができたが……この程度ならよくあることだな。


「女の子をー……踏むんだねー……」

「この程度でお前は諦めないだろ。だいたい、っ!」

「あー、残念だなー」

「こいつ……!」


 頭を踏まれた状態で体を反らして蹴りを放ってくるとか……どんな体だ。

 流石に威力は弱いが、俺を押しのける程度の力はある。足は外れ、メリーアはまた自由になった。


「ふぅー……ガイルー、強いねー」

「潜ってきた修羅場の数は俺の方が多い。白兵戦もな。だから諦めろ、メリーア」

「無理だよー。だってー……必要だしー?」

「ああ、そうだな」


 メリーアの突撃に合わせて机を投擲。そしてその後ろから蹴りを放ち、壁と机で挟む。

 さらなる追撃をしようとしたが……机が飛んできて、今度は俺が挟まれた。


「ちっ」

「あはは」


 邪魔な机を2つに割り、メリーアへ投げたが両方避けられる。

 勢いが乗せられた蹴りを翼で弾き、回転しつつ突きを放った。


「はっ!」

「オラァ!」


 しかしその腕を取られ、地面へ叩きつけられるが……その反動を利用して天井へ投げ飛ばす。

 そして飛び上がって放った蹴りは互いに相殺し、左腕が双方の頬に突き刺さった。


「うー、頭がー……」

「もう限界か?これなら諦めても文句は無いだろう」

「まだまだやれるよー?分は悪いけどねー……」

「そうか」


 だが、俺とメリーアが受けたダメージの量は違う。メリーアの拳が伸ばした限界位置だったのに対し、俺の拳は綺麗に突き刺さった。

 体格差から来たその差は無視できるものではなく、既にメリーアはふらついている。


「それなら、遠慮は無しだ」


 だが止まらないのであれば、遠慮はしない。

 翼も使って一気に接近、メリーアの額を捉え、壁まで吹き飛ばした。


「ハッ!」


 さらに鳩尾に蹴りを入れ、右肩に突きを放って骨を砕く。

 そして足払いで半回転させた上で両足を掴み、床に叩きつけた。


「ふぅ、はぁ……まだやるか?」

「無理だよー……動けないしー、肺に骨刺さってるしー……けほっ」


 メリーアでは俺には勝てない。それは彼女自身が1番よく分かっている。しかし、下の者の不満がメリーアより大きくなることもある。だからこそ、こうして見世物となり、発散させなければならない。

 そして俺も、解消する場も用意しなければならない。妥当性があり、納得できる生贄を、な。


「その程度で済んだか。だがまあ、ミーンを呼ぶか?」

「来て欲しいかなー……」

「分かった。今の時間なら……」

「いや、ここにおるぞ」


 各所の骨が砕けたようで、床に這いつくばることしかできなくなったメリーア。俺のダメージも大きいが、動けなくなるほどではない。

 そんな周囲、食堂は見るも無残な状態となっていた。壁も天井も全て砕け、床にはクレーターができすぎて昔の月のようになっている。

 というより、基礎構造が装甲材で作られた艦内だからこそ、これだけで済んでいる。生体義鎧同士が本気でやり合えば、伯区や公区単位で荒廃するからな。

 いや、装甲材も薄い部分はかなり砕けているか。内部の装甲材は最外面のものより弱いとはいえ……慣れた力だが、やはり恐ろしい。

 しかし、攻撃を受ければ怪我もする。この程度で死にはしないが、後の予定を考えるとこのままなのはマズい。なのでミーンを呼ぼうとしたが……もう来ていたようだ。


「すぐに連絡が来たからの。予想はしておったが……凄まじい惨状じゃな」

「まあ、そうだな」

「一応、本気だったからねー」

「まったく、お主らは。いくら体の方が頑丈とはいえ、限度はあるのじゃぞ?」

「だけどさー、ガイル相手でしょー?」

「本気でやらないと立場は逆になっていたな。それで、治るまでどれだけかかる?」

「四肢の全て、肋骨と背骨が半分以上じゃな。内臓は7割といったところかの。再検査とリハビリも含めて……長くて1時間といったところじゃな。ガイル、お主はどうじゃ?」

「肋骨が2、3本と右の鎖骨、それと奥歯が1本折れた。内臓もいくつか破裂したな」

「それなら15分じゃの。すぐに来れば、じゃが」

「ガイルー、背負ってー」

「ああ、分かった」


 怪我をさせた責任のようなものか。そういうわけで俺はメリーアを背負って運び、ミーンの医務室へ向かう。

 とはいえ、この程度なら治すのも簡単だ。1時間もかからず、治療はリハビリも含めて30分程度で終わった。


「じゃあガイルー、そろそろ行くー?」

「そうだな。時間的にも良い頃だ」

「でもさー、待ってるかなー?」

「可能性はある。というより、高いだろう」

「だよねー」


 合図があるまで手出しはしないだろうが、準備をしている可能性はある。まあ、そこまで規制するつもりは無いけどな。

 しかし、待たせすぎて不満を残すのは良くない。急ぐわけではないが素早く目的地へ向かった。

 ここは1時間ほど前にいた部屋とは違うエリアだが、内装は似た部屋だ。


「これは司令、メリーア閣下、お疲れ様です」

「挨拶はそれで良い。どうだ?」

「アレ、元気にしてるー?」

「どうも何も、見ての通りですよ」


 ここは尋問室の隣にある監視室、いつでも好きな時に尋問室の中を覗くことができる。

 そして俺達がここにいる以上、当然ながら中身がある。というより、こいつだけは俺がいないと報告書が書きづらい。他の連中は別だが。


『くっ、出せ!貴様ら、ワシを誰だと思っている!早くせんか!』

「ずっと騒いでいますね。今はうるさいとしか思えませんが……どんな悲鳴が出るか楽しみで」

「最低限のことをするまでは抑えろ。メリーア」

「もちろん良いよー。決めたことだしー、ちゃんと譲ってくれるもんねー」

「助かる」


 そういうわけで、部屋へはまず俺だけが入った。


「ぬっ、貴様!ワシをこんな目に合わせてタダで済むと思うな!ワシを誰だと思ってとる!」

「タダで済むと思うな、か。それはこっちのセリフだな」

「……何だと?」

「レキアス-ファルバレト、アレウス殿下の叔父。王族の血を受け継ぐ者にも関わらず帝国に通じ、自己の利益だけを求めた裏切り者。シュベールどもの走狗となった売国奴。そんな奴に与える容赦など存在しない」

「そ、それをどこで」

「バレないとでも思ったか?お前の拙い偽装など、俺達にとっては隠していないのと同じだ。もっとも、隠すつもりがあったのかすら怪しいところだけどな。すぐに消える人間には不要な忠告だが」

「そん、な……か、金なら大量にあるぞ。それなら……」

「そんな塵屑は要らない」


 シュベールともの金など、王国では何の価値も持たない。そもそも金銭自体が存在しない。

 俺がここに来た理由は……


「俺が欲しいのは情報だけだ。もっとも、もう終わったようだが」

「何だと?」

「まあ、この後は楽しい時間だからな。邪魔をするのも悪い。俺の話は終わりだ」


 思考を読み取るだけで情報は手に入るため、更生させないのであればこれだけで良い。放置していても情報は取れるが、感情を荒ぶらせた方が楽に手に入る。ここだけに関わらず、誰かが口を出すのはそういう理由だ。

 そして、それが終われば用は無い。こいつと長話をするような趣味はないため、俺はさっさと部屋から出た。

 なお、まだ話は終わってないやら、ワシを誰だと思っているやらと喚き散らす屑は完全に無視した。これ以上話していても不愉快になるだけだ。


「メリーア」

「んー?」

「俺の用は終わった。あとは好きにしろ」


 穏健派と過激派の最大の違い、それは同胞からスパイ(裏切り者)になった者達への扱いだ。

 俺達穏健派は裏切ったとしても同胞であり、更生できるのであれば再度同胞として迎え入れたい。

 一方、メリーア達過激派は裏切ったのであればもはやシュベールどもと同じであり、皆殺しにしようとする。


「全部良いんだよねー、ガイルー?」

「ああ。こいつらは全員情状酌量の余地無しだ。好きにしろ」

「りょうかーい」


 意見の違いはある。しかし双方ともに王国のためを思ってのことであり、対立する意味はない。そのため、妥協点が決められた。

 家族を人質に取られるなど、嫌々シュベールどもに従わされていた者達には穏健派が対応し、説得も行う。更生したならば過激派は手を出さない。

 何らかの利益を求め、自分からシュベールどもに協力した連中は過激派が対処し、どのような処分をしても穏健派は口を出さない。

 この仕組みには個人個人であれば不満を持つ者もいる。しかし全体では上手くいっており、俺達の争い(見世物)以外の直接対決は無かった。


「じゃあー、始めちゃおっかー」

「はい」

「了解」

「待ってました」


 そして、メリーアを始めとした過激派の面々は意気込むように部屋へ入っていった。

 同じような光景が見られる場所はアーマーディレストだけでも他に4万6328ヶ所あり、似たような状況が繰り広げられているのだろう。

 1時間前より数はかなり少ないが、中身は数十倍苛烈だ。とはいえ、奴らに同情することはない。

 しかし……


「はぁ……」


 あの部屋は分厚い装甲板に囲まれており、悲鳴がこちらまで響くことはあり得ない。

 だが、幻聴が聞こえるようだ。そんなもの、あり得ないのにな。


「先生」

「ポーラか」

「何かありましたか?元気がないように見えましたが……」

「いや、何でもない。気分的な問題だ。それより、任せておいたものはどうなった?」

「目処はつきました。あそこまでできれば残りを任せても大丈夫です」

「そうか。それなら少し付き合え。最後の1人に会いに行く」

「分かりました」


 そんな感傷は無視し、次の場所へ向かう。

 とはいえ2人一緒ではない。ポーラを隣の部屋に入れた後、俺はある扉を開けた。


「ガミロシエ共和国所属、エルフィク・ドメラン元中将だな。一応、初めましてと言っておくか」

「……あなたは?」

「薄情だな。3度も戦った仲だろう。最も、3回目はすぐに終わらせたが」

「3度?……まさか」

「バーディスランド王国軍第1戦略艦隊司令長官ガイル-シュルトハイン、階級は元帥になる。ああ、敬語は不要だ。貴官は俺の部下でも何でもない」

「いえ、そういうわけには……」

「そうか。まあ、無理強いするつもりはない。言った通り、貴官は俺の部下ではないからな。だが、俺は貴官を気に入っていることは覚えてほしい」

「気に入っている……とは?」

「1回目の艦隊指揮は見事だった。俺を本気にさせられる奴はそういない。逃走の判断もそうだ。無人艦を捨て駒にする、良いタイミングでの判断だった」


 最終的には圧倒したが、そこまではかなり大変だった。一歩間違えれば俺達が負けた可能性すらある。

 もっとも、こいつはそんな風には思っていないだろう。2回目の記憶が強すぎるからかもしれない。


「2回目のワープ攻撃についても着眼点は悪くない。ただの経験不足だな。だが、あの帝国軍の戦闘艦で有用なワープ攻撃を計画した手腕は見事だ」

「しかし、自分の敗北です。逃げることしかできず……」

「それは当然だろう。王国は3000年以上ワープ戦法を実戦で使っている国だ。試行錯誤も経験も貴官よりはるかに多い。初心者の思い付きに負けたとすれば、ただの無能者だな」

「うっ……」

「っと、こういう評価は嫌か?だが事実だ。自分の経験と得意分野、および新戦術は分けて考えた方が良いぞ」


 まあ、事実ではあるのだが……この言い方にはポーラが笑っていそうだ。俺は組み合わせることが得意な方だからな。

 と、こんな風に話しているが、ドメラン元中将からの視線には猜疑が見える。まあ、仕方ないか。


「まだ疑っているようだな」

「それは……当然でしょう。あの程度では敵対者を救う理由になりません。何か他にあるとしか……」

「エリサ・ドメランおよびヨハン・ドメラン。直属の上司はディッツ元大将……上司の娘と妻の仲が良いのか」

「っ!何故それを⁉︎」

「分かりきったことだろう。もっとも、帝国軍は知らせていないようだが」


 国を質に戦わせていたのだから、当然だろうな。


「ガミロシエ共和国は2ヶ月ほど前にバーディスランド王国軍が解放した。今は我が国が防衛体制を構築し、全住民は保護所に入ってもらっている段階だが、帝国との戦争が終われば自立できるだろう。貴官の家族についてもそこで調べさせてもらった。まあ、得られた情報以上に救出嘆願や助命嘆願が多かったが」

「え、あ、そんな……」

「後で家族との通信回線を構築しておく。好きに話すといい」

「あ、あ……あ、ありがとう、ございます……!」

「気にするな。俺達は王国の利のために動いたたけだ」


 やっぱり、この言い方には気づいたか。嘘の方を避けた結果であり、想定内とはいえ、良いわけでも無いだろう。少し修正して、次の段階へ移るとしよう。

 この部屋にも監視室は付いているが、ここは応接室だ。内装は尋問室とは比べものにならない上、実用可能な小物もある程度揃えている。


「さて、感動に水を差すようで悪いが、何か飲むか?といっても、俺はドルしか淹れられないが」

「いえ、あ……そ、その、ドルとは?」

「我が国の主要な飲み物だ。貴国では……アハトマというものに近いな。もちろん、貴官の種族にとって毒になる物質は入っていない」

「ではいただきます。好物ですので」

「それは良かった」


 というわけでドルを淹れる。葉は1種類しか持ってきていないが、とりあえずはこれでも良いだろう。

 そもそも、今回はお試しだ。気になるようなら複数種類用意して渡せば良い。


「……美味い」

「口に合ったようで何よりだ。」

「他の人が淹れるとどうなるかは分かりませんが、こちらの国でも好む者は多いでしょう。しかし何故元帥自ら?」

「趣味だ。50くらいから始めた結果、俺より美味く淹れられる者は居ないと自負できる程度にはなった」

「え……バーディスランド人の資料を見たことはありますが、どう見ても20程度のような……」

「そうだろうな」

「失礼ですが、おいくつで……」

「3ヶ月前で3017になった」

「……ゑ?」

「まあ、気持ちは分からなくはない」


 平均寿命の約20倍だ。困惑するのも無理はない。逆の立場なら俺も同じような反応を返すだろう。

 とはいえ、これが事実だ。そして言った以上ある程度の説明は必要だろう。


「貴官の見た資料か大きく間違っているということはないだろう。現在、バーディスランド王国における一般人の平均寿命は150歳だ。500年前から変わっていない」

「では何故……」

「俺達が特殊なだけだ。一種の生体兵器だからな」

「なっ……!」

「勘違いしないように言っておくが、全員志願者だ。志願しても適性が無ければ施術はしなかった。そして施術を受けたかどうかに関わらず、戦死者は兆を大きく超える。俺達はそれだけの覚悟を持ち、犠牲を払って帝国と戦い、国を取り戻した。それは忘れるな」

「なる、ほど……それでは、この情報はどうされるおつもりで?こちらにもその覚悟を持てと?」

「いや、これを他国へ供与する気はない。今はもう不要なものだ。王国でも新たに施術させることはない。貴官に話したのも、単に貴官を気に入っているだけだ」

「それは自分としては安心できますが……貴国には不満を持つ者も多いのでは」

「確かに、そういう者はいる。共に戦おうとしてくれる気持ちは非常にありがたい。だが、この苦しみを受けるのは俺達だけで十分だ」


 敵になりうる存在に重要技術を渡すなど(もっ)ての(ほか)……という考えもあるが、そもそも生体義鎧は俺達だけで十分だ。これ以上増やす必要はどこにもない。

 だがもし、施術が再開されるようなことがあれば……その時は王国が滅ぶ時なのかもしれない。


「さて、そろそろ君の艦とその乗員についての話をするとしよう」

「と言われましても、自分達だけで帰還することも可能ですが……」

「いや、帝国軍や連邦軍に攻撃を受けることは避けたい。俺の艦隊所属の戦艦2隻と接続し、星系間宙域のみを経由して向かってもらう。ガミロシエ共和国へは要塞跡地を経由して3600光年、行きだけなら1日だ」


 実際は5時間足らずだが、言う必要は無い。

 連邦に見せたものよりは速いが、あまり変わらないだろう。嘘を渡したと連邦が気づいている可能性は高い。


「ありがとうございます、元帥閣下」

「気にするな。俺がやりたくてやることだ。ああそれと、戦争が終わるまで船には乗らないことをお勧めする。防衛のため、大量の機雷とミサイルをばら撒いた。もちろん、俺達であればすぐにでも全弾撤去可能だ。少しの間待っていろ」

「はい」


 その後、ドメラン元中将としばらく個人的な話をした。その中で戦術論議も行ったが、彼の話は興味深いものが多い。

 それらはどうやら、ガミロシエ共和国で過去に起きた戦争の話らしいが……どこにも良い戦術を立てる者はいるな。今の戦闘では使えないとはいえ、ある程度参考になる。

 とはいえ、いつまでもこうしていられるわけではない。時間が来た。


「貴官と話せて楽しかった。またこうして話せると良いな」

「いえ、自分こそ参考にさせていただきました」

「それはお互い様だ。しばらくしたらまた案内役が来る。貴官の船に戻るといい」

「ありがとうございます」


 俺には他にも仕事があり、戦艦2隻の準備も必要だ。

 そういうわけで話を終わらせ、扉を出て……隣に声をかける。


「納得していない顔だな、ポーラ」

「はい。先生は何故あそこまで情報を与えたのですか?それにあそこまで優遇するようなことを……」

「理由はいくつかあるが……簡単に言えば政治的な要請だ。総帥府からの指示を実行したまでに過ぎない」

「総帥府からですか?」

「ああ。どうやら、ガミロシエ共和国の親王国化工作に必要なことらしい。奴はある程度気づいていたようだが、ガミロシエの国民は違う。敵から英雄を救った相手を嫌悪する者は少ない、だそうだ」


 あくまで戦後工作の一環として、王国を有利にするためであり、個人的な感情から動いたわけではない。

 もっとも、私情がゼロかと聞かれれば否と答えるしかないが。


「俺が奴を気に入ったことは本当だ。だが、それだけであんな対応をすることはない。必要がないからな。だが要請となれば、やらない理由は無い」

「分かりました。他にも気になる点はありますが、後にします」

「感情的にはまだ収まっていないか。それほど不満なら、そうだな……今から発散するか?」

「え、あ、いえ、そういう意味では……」

「どうしてほしい?」

「うっ……夜に、お願いします」

「了解だ」


 まあ、ポーラをからかうのはこれくらいにして、仕事に向かうとしよう。

 艦橋には大量の情報が集まっているはずで、実際にそうだった。


「陸軍より通信、全住民の誘導完了。惑星地上施設の探索も終了し、帝国技術の収集に成功。現在爆破準備中」

「ゲラスリンディ級、全艦ワープゲート展開完了。王国本土各ワープゲートとの連動も問題無し」

「海軍より通信、全住民の輸送艇(ババール)もしくは輸送艦(ガッザレス級)への搭乗を確認。合計人数87億3842万8365名」

「戦略艦隊より諜報部へ。住民の中に継続監視を必要とする者あり。合計762万7351人」

「処分数36万9432名、遺体も全焼去」

「処分に対する情報処置は想定の範囲内。不満分子の鎮圧用意良し」


 ほぼ全ての準備が終わり、王国本土への移送は秒読み段階。

 周辺の星系に敵影はなく、足止めされているのか連邦軍も来ていない。

 ここはまだ戦場であるため油断はできないが、ある程度気を抜くことはできた。


「あ、お兄ちゃん、ポーラお姉ちゃん。おかえり」

「今は参謀長が担当か、レイ。他はどうした?」

「メルナお姉ちゃんとシェーンお姉ちゃんは休憩してるよ。リーリアお姉ちゃんは……」

「ここにいるわ」

「背後に回るな。リーリアに本気で隠れられると流石に見つけられない」

「だからやったのよ。この方が面白いでしょ?」

「まったく。それで、第4の方はどうだ?」

「こっちと同じよ。過激派のみんな、今凄く生き生きとしてるわ」

「十分な数がいるからな」

「500年ぶりっていうのもありそうね。まあ、思うところがないわけじゃないけど」

「そこは諦めるしかないな。約束だ。そんなことより、次の作戦を立てるぞ」

「分かったわ。ここから先も重要だもの」

「ある程度は連邦軍に押し付けるが、俺達がやる量も多いだろうな」

「長距離砲撃に専念して、最初に星を破壊し尽くすのはどう?超遠望交戦距離なら、反撃はほぼ無視できるわ」

「だが、それをそのままやると連邦軍の反発が強そうだ。改良するとすれば……」


 連邦軍は大量虐殺を好まない。そして今の段階で入っている情報は少ないが、バルジ内の工廠星系には億単位のシュベールが住んでいるようだ。

 リーリアの案は魅力的、かつ楽だが、実行すると政治的にマズイのは俺でも理解できる。いくらか改良するべきだろう。

 ただ、作戦立案にのめり込みすぎて、この場にもう1人いるのを忘れていた。


「お兄ちゃん?リーリアお姉ちゃん?」

「すまない。リーリアと話しすぎた」

「ごめんね。レイを無視したいわけじゃないのよ」

「うん、分かってるよ。でも、ね」

「分かった。レイ、一緒にやるぞ。意見を出してくれ」

「はーい!」


 3人集まれば何とやら、か。予想以上に良いものが出来るかもしれないな。












・翼に蚤を残す

 自身にとって害悪なものを己の中に残すこと。それが転じて昔のバーディスランド王国では、スパイをワザと泳がせていることも表した。

 獅子身中の虫とほぼ同じ意味。

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