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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章
80/85

第23話

 

 新王国歴7268年8月13日




「全軍、戦闘態勢。作戦開始。繰り返す、作戦開始」

「6ヶ戦略艦隊、6ヶ統合艦隊、亜空間ワープ開始」

「連合潜宙艦隊および連合潜宙艦隊航空部隊、全艦全機攻撃準備。対艦魚雷造成」

「海軍各艦より航空部隊発艦開始。直掩態勢へ」


 惑星を包囲する帝国軍艦隊。その数は80億と、今までに無い数となっている。

 それをさらに包囲するように、王国軍艦隊は現れた。数は約6億6000万と帝国軍に比べれば少ないが、火力は数倍以上だ。


「全艦亜空間ワープ終了。惑星まで距離250万km、敵艦隊まで200万km」

「全軍、攻撃を開始しろ」

「了解、攻撃開始」

重力子砲(主砲)および重粒子砲(副砲)、敵艦隊へ向け砲撃開始」

「エネルギー制御力場展開。目標、惑星全土」

「敵惑星地上基地マーク。砲撃用意」

「連合潜宙艦隊および連合潜宙艦隊航空部隊、敵潜宙艦をロックオン。命令次第いつでも攻撃可能」

「敵艦隊に反応あり。砲撃開始を確認」

「敵簡易要塞からも砲撃を確認」

「惑星地上基地より敵機動兵器の発進を確認。陸戦兵器群も戦闘態勢をとっています」


 敵の行動は予想通りになりそうだ。まあ、こんな規模の防御用陣形を取っていれば、他の作戦はやりづらい。それはAIだろうと変わらない。

 そして俺達が主導権を握った以上、勝利は決まったも同然だ。


重力子砲(主砲)および重粒子砲(副砲)、初弾推定命中率、81.4%」

「敵初弾推定命中率17.2%」

陽電子砲(両用砲)、対空モードで待機」

「航空部隊、全機直掩態勢維持。敵の砲撃に当たらないよう注意」

「敵弾予測通過範囲計算完了。全軍へ通達」

「敵艦隊に動きあり。陣形変更の模様」


 とはいえ、気を抜くと負けかねないのも事実だ。80億隻が相手となると、流れ弾で被害が出る可能性も否定できない。

 油断はせず、容赦なくすり潰す。いつも通りに、な。


重粒子砲(副砲)初段命中まで、5、4、3、2、1、着弾」

「命中率83.7%、敵艦隊の0.07%を撃沈」

「次弾以降も着弾。平均命中率85.1%」

「敵砲撃の着弾を確認。推定命中率9.4%、被害無し」

「敵機動兵器、通常移動で接近中。空母はワープしない模様」

「敵潜宙艦、動き出しました。各方面へ向け移動開始」

「分かった。連合潜宙艦隊は攻撃を開始しろ」

「了解。連合潜宙艦隊、攻撃開始」

「目標、敵潜宙艦および敵空母。対艦魚雷斉射」


 前と同じことをやられても対処する自信はある。だが、それを先に潰せるならそちらの方が良いに決まっている。

 そして、敵に発見されていない潜宙艦が引き起こす奇襲の効果は大きい。狙った敵艦は全て沈め、潜宙艦隊の被害はゼロに等しい。

 そのまま亜空間での戦闘は本格化したが……こちらの優位は変わらなかった。


「弱いな。集めただけか」

「ここまで集めただけでも凄いことですよ?」

「だが、それだけだ。使いこなせなければ意味は無い」

『そうね。その点、貴方は合格よ』

「それはありがたいな」


 戦局は王国軍(俺達)が有利。重力子砲(主砲)が着弾する段階になっても、それは変わらなかった。どうやら、今回の帝国軍は消極的な部隊らしい。

 奴は下っ端の1人、といったところか。このまま消化試合になりそうだ。


重力子砲(主砲)着弾まで、5、4、3、2、1、着弾」

重力子砲(主砲)初段命中率79.5%。次弾命中率80.6%」

「敵推定損耗率1.3%」

重粒子砲(副砲)命中率、90%に向上」

「現在、艦隊損耗率0.2%。海軍は0.03%」


 しかし、消化試合でも被害は出る。好ましくないことに。


「このままなら確実に勝てるが……早急に勝負を決めるぞ。リーリア、始めろ」

『了解よ。亜空間ワープ用意、第7戦略艦にも通達しなさい』


 だからこそ、残りの部隊を動かす。

 まずは第4戦略艦隊と第7戦略艦隊。リーリア達は作戦通りに亜空間ワープを行い、敵艦隊のど真ん中に出現した。

 出現座標にいる敵艦を抉り、粉砕しながら。


「第4戦略艦隊、第7戦略艦隊、亜空間ワープ終了。位置、惑星公転円接線方向の敵艦隊中央」

「第4戦略艦隊および第7戦略艦隊、全方位へ向けて攻撃開始」

「全戦略艦隊続け。亜空間ワープ開始」


 続いて他の6ヶ戦略艦隊も敵中に亜空間ワープを行い、同様に楔を打ち込む。

 どうやら旗艦を何隻か轢いたようだが、反応性が低下した艦は5%にも満たない。はやり地道に潰すしかないか。


「亜空間ワープ終了。座標誤差0.0001%以下」

「全艦攻撃開始。目標、全方位」

「航空部隊全機発艦。敵艦隊へ攻撃開始」

「敵機動兵器によるこちらへの攻撃を確認。迎撃戦闘開始」

「……対空戦闘始め」

重装揚陸艇(ガロッサ)は全機発艦、降下を開始しろ。損耗は気にするな」

「了解。各戦略艦隊より重装揚陸艇(ガロッサ)全機発艦、大気圏目前へ向けて亜空間ワープ実行」

「航空部隊より重装揚陸艇(ガロッサ)護衛部隊を抽出、亜空間ワープ開始」

重装揚陸艇(ガロッサ)先行部隊、亜空間ワープ終了。現在位置は地表より5000km、降下開始」

「敵地上基地より陸戦兵器多数出現。重装揚陸艇(ガロッサ)および艦隊へ向けた対宙砲撃も確認」

「敵簡易要塞は全て撃破完了」

「敵地上基地ロックオン。砲撃開始します」

「敵機動兵器に動きあり。最優先目標を重装揚陸艇(ガロッサ)に変更した模様」

「惑星から発進した敵機動兵器も同様に重装揚陸艇(ガロッサ)を狙っています」

「作戦通りに対策しろ」

「了解。重装揚陸艇(ガロッサ)護衛部隊、護衛戦闘開始。艦隊近郊の敵機動兵器は陽電子砲(両用砲)で排除」

「……対空砲撃、始め」


 そのため全方位への火力投射を行い、敵艦隊を蹂躙する。航空部隊も対艦攻撃を連続して行い、次々と沈めていく。

 至近距離ゆえに敵の反撃も激しいが、想定の範囲内だ。そもそも、使い捨ての精鋭が揃う戦略艦隊に消耗戦で勝てる相手はそういない。

 そして、こいつらは例外には入れない。潰すだけだな。

 ちなみに、アーマーディレストの直下1kmの位置には奴がいる。もちろん、これは狙ってのことだ。


「トラクタービーム用意完了。斥力力場による高出力シールド場、形成用意終了」

「目標、白い旗艦。照射準備完了」

「照射開始だ。そのまま捕まえろ」

「了解。照射開始」

「トラクタービーム命中、シールド突破。シールド形成を開始します」

「敵艦の機関を……今、抑えました。出力が急激に低下」


 奴が最高指揮官であったら不可能だっただろうが、数多くの指揮官の1人であればどうとでもできる。

 これの半分は政治的な要請だ。まあ、ちょっとした手土産だな。大勢に影響は無い。少なくとも、今は。


「そのまま抑え込んで艦内へ入れろ。ああ、砲塔は破壊しておけ。今なら斥力力場だけでも出来るはずだ」

「……斥力力場……極所的に、出力上げて」

「了解。斥力力場、出力上昇」

「シールド強化します」

「砲塔破壊完了。艦内へ収容開始」

「敵、ほぼ全ての艦が奇襲への対応を開始。各戦略艦隊に大きな被害が出ています」

「慌てるな。火力はこちらが上だ。高速戦艦(アルドレア級)以上は重力子砲(主砲)重粒子砲(副砲)を機動要塞に集中、1隻ずつ確実に落とせ。軽巡洋艦(シェルラン級)以下は対艦ミサイルを75%斉射、敵の空母と戦艦を沈めろ。潜宙艦隊は敵空母への攻撃を再開、早急に殲滅しろ」

「戦艦および要塞艦、各艦重力子砲(主砲)および重粒子砲(副砲)の目標再設定。機動要塞へ向け斉射再開」

「全対艦ミサイル造成完了。全艦一斉射」

「接近する敵機動兵器群へ陽電子砲(両用砲)一斉射」

「連合潜宙艦隊、対艦魚雷追加造成完了。攻撃再か……新たな敵潜宙艦隊が接近。追加造成魚雷の半数は敵潜宙艦隊へ向け、発射」

「戦略艦隊損耗率8.3%、海軍は0.08%」

「敵艦隊推定損耗率23.8%。敵艦隊の11.6%の反応性が低下」

重装揚陸艇(ガロッサ)損耗率11.4%。しかし、7.3%が着陸に成功」

「揚陸部隊はそのまま敵基地への攻撃を開始、敵の注意を引き付けろ。ポーラ」

「既に準備はできているとの報告です」

「もう少し待つように言え。30分だ」

「了解です」


 今は王手まであと3手、といった所だろう。既に詰みは見えている。

 もちろん、心配事が無いわけではないが……今気にする必要が無いものの方が多いな。


「この10隻の機動要塞を優先して潰せ。半分以上が旗艦だ」

「このあたりはこっちでー、そこはあっちに動いてねー。砲撃は変わらないよー」

制空戦闘機(アーレス)戦闘攻撃機(リングス)は敵の機動兵器で、他は機動要塞を狙ってね。あ、惑星の方はドンドン基地を攻撃しちゃって良いよ」

「メリーアとレイはそのまま続けろ。ハーヴェ、問題はないか?」

「ま、こっちは攻めるだけだからなぁ。損耗を気にしねぇならだけどよ」

「この戦いでは損耗は無視しろ。気にしても仕方がない。現在の展開率は?」

重装揚陸艇(ガロッサ)、23.7%が着陸。揚陸部隊は22.5%が展開済み。損耗率は24.6%」

「そんなところか。ハーヴェ、基地は可能な限り早く落としてほしいが、できるな?」

「おう。やってやんよ」


 揚陸部隊の役割は敵戦力の排除、もしくは拘束だ。基地周辺に敵が集まっているのなら、艦砲射撃で排除できる。

 だが、これは露払いに過ぎない。


「敵潜宙艦隊、全艦撃沈。連合潜宙艦隊は敵空母へ攻撃を集中」

「敵機動要塞、34.6%を撃沈。31.5%の敵が反応性低下」

「敵艦隊推定損耗率、40%を突破」

「揚陸部隊、敵地上基地の4.2%を破壊。敵陸戦兵器は基地周辺に集まっています」

「そろそろだな。第15統合艦隊は亜空間ワープを開始。第2軍団と第4軍団を惑星に送り込め」

「了解です。通達します」


 本命の、作戦最終段階。惑星直上に第15統合艦隊を送り込み、第2軍団と第4軍団を降下させる。敵基地周辺……ではなく、街の近くだ。

 本作戦の主目的はあくまで住民の保護であり、敵艦隊の殲滅と敵基地の破壊はついでにすぎない。

 そして、達成するための囮が戦略艦隊だ。被害は大きいが、やる以外の選択肢は無い。


「第2軍団および第4軍団、揚陸艇第1陣が着陸開始」

「第2陣、第3陣も順調に降下中」

「第4陣発艦開始」

「第1、第2、第5、第8、第9、第14、計6ヶ統合艦隊より多数の揚陸艦が亜空間ワープを開始。惑星上にて第1および第9軍団が降下開始」


 また、用意していただけで投入は後になったが、第1軍団と第9軍団も惑星へと送り込んだ。

 歩兵師団が多いこの2ヶ軍団が保護の主力であり、機甲戦力の多い第2軍団と第4軍団はその援護に当たる。


「都市の5.7%を占拠完了。残る全ての都市で戦闘継続。都市制圧率31.6%」

「住民の保護は順調です。戸惑いはあるものの、反抗は皆無」

「シュベールは発見次第射殺しろ。数は5万程度だ。作戦に問題が無ければ、全て消しても構わない」

「了解。帝国人への攻撃は全て許可。ただし、住民の保護を最優先」

「敵の強制収容施設の位置を発見。多数の女性が連行されたとの情報あり」

「ポーラ、特務を動かせ。第952だ」

「了解です。第952戦術強襲師団へ命令を伝達します」

「第952戦術強襲師団の行動開始を確認。任務達成まで推定45分」


 今回のために第10軍団から借りてきた部隊がいくつかある。

 その1つ、この戦術強襲師団は所属する兵全てのステルス装置が強化されている、後方への奇襲を目的とした部隊だ。

 しかしそれだけでなく、こういった人質救出作戦でも十分に活躍できる。


「敵艦隊推定損耗率68.7%、反応性低下は残存艦の43.8%。敵の艦隊陣形は崩壊しつつある模様」

「戦略艦隊損耗率17.6%、航空部隊は24.8%」

「揚陸部隊損耗率39.2%」

「海軍の損耗率は0.2%、陸軍の損耗率は0.05%」

「都市制圧率、37.1%に向上」

「敵陸戦兵器、推定で23.6%を撃破。敵基地は8.6%を攻略完了」

「住民保護、推定で30%を突破」


 (俺達)こそ大きいが、それも含めて順調だ。

 これらの損耗も計画通り……いや、予想より少し大きいが、想定内には違いない。


「最後の機動要塞群を殲滅する。この23ヶ所に集中砲火、残りの旗艦の半分以上を消す」

「了解。重力子砲(主砲)目標設定、照準良し」

「……発射」

「全戦略艦隊砲撃開始。継続時間、100秒」

「敵機動兵器が複数の群に分かれて展開、各戦略艦隊へ向かう模様」

陽電子砲(両用砲)で早期に殲滅しろ。航空部隊、優先して攻撃だ」

陽電子砲(両用砲)対空モード。照準設定、射撃開始」

「航空部隊へ通達。敵機動兵器へ向け移動開始」

「全艦、長距離対空ミサイル30%斉射」

「敵地上基地の一部から大型対宙砲台が出現しました。各アーマーディレスト級を狙っています」

「この口径なら無意味だ。シェーン、重力子砲(主砲)を3基回せ」

「……了解」


 いくつかの敵基地から現れた大型対宙砲台の直径は10mほど、要塞でも見たことの無いサイズだ。単純なレーザー砲のようだが、かなりの威力を持っている。

 しかし、無意味でもある。スティアレグラ級やニーランレント級ならともかく、アーマーディレスト級があの程度でダメージを負うわけがない。

 そして艦砲射撃により、大型対宙砲台はすぐに沈黙した。


「敵大型対宙砲台は全て排除完了。通常サイズの対宙砲台は67.5%を破壊」

「敵基地への艦砲射撃を強めろ。敵艦隊は瓦解しかけている。重粒子砲(副砲)を回せ。地下施設ごと破壊しろ」

「……了解……重粒子砲(副砲)、照準変更……発射」

「他艦隊も対地艦砲射撃を強化。揚陸部隊正面の敵防御設備、40%以上を破壊」

重力子砲(主砲)、敵機動要塞群へ着弾開始」

「敵機動要塞6隻を撃沈。続いて10隻、さらに9隻」

「敵艦隊、反応性低下艦は85.4%に増加」

「敵機動要塞の残存は0.7%」

「残存機動要塞の近くに航空部隊はいるか?」

「はい。半径10万km以内であれば1隻あたり1万機以上、合計1000万機います」

「ちょうど良い。残りは航空部隊にやらせろ」

「はーい。攻撃開始!」


 残った機動要塞へ、航空部隊による一斉攻撃が開始される。

 制空戦闘機(アーレス)戦闘攻撃機(リングス)が対艦ミサイルの直後にマイクロミサイルを放ち、対空火器を潰す。

 その後に続いた爆撃機(ケイフィ)重爆撃機(バドラ)により、機動要塞は次々と沈んでいった。全て沈めるのも、時間の問題だろう。


「第952戦術強襲師団、作戦終了。住民4835名を救助、現在後方へ移送中」

「揚陸部隊、および第2軍団と第4軍団の一部が敵基地への一斉攻撃を開始。半数以上で既に敵正面防御ラインを突破」

「現在、都市制圧率50%。完全制圧まで推定約4時間」

「敵基地は17.3%を攻略完了」

「敵は、あれ?……敵陸戦兵器が都市より撤退を開始。付近の基地へ向かうコースです」

「追撃させろ。挟み撃ちを受けるのはあまり良くない」

「おう」


 また、地上戦も終わり始めている。

 既に都市のほぼ半分を制圧し、敵基地は6つ中1つを落とした。攻略が終わっていない基地も敵陸戦兵器は敷地内に抑え込んでおり、施設内部で乱戦が始まっている場所も多い。損耗は増えるだろうが、もう少しで落ちるだろう。

 まあ、都市から引き返した敵部隊に背後から攻撃されれば大きな被害が出るが、そこまでやらさるつもりは無い。すぐに殲滅されるはずだ。


「敵艦隊、全艦反応性低下。全ての旗艦を撃沈した模様」

「油断せず、全て沈めろ。戦艦からだ」

「了解。攻撃継続、照準再設定」

「都市制圧率100%、全住民を確保完了。現在は住民を安全圏へ移送中」

「敵陸戦兵器群、敵基地へ引き返した部隊は全て殲滅完了」

「敵基地は46.7%を攻略完了」


 敵旗艦を全て沈め、都市を全て落とした。敵戦闘艦も大半が消え去り、地上基地も陥落目前だ。

 そのため、残りは少しの待ち時間だけだった。


「戦闘終了。敵は艦機ともに全て消滅」

「全艦警戒態勢を構築しつつ、戦闘態勢を解除しろ。損耗は?」

「第1戦略艦隊の損耗率は28.6%です」

「航空部隊損耗率は47.5%、揚陸部隊は61.7%」

「他は、あっ……第2戦略艦隊および第9戦略艦隊で有人のスティアレグラ級が1隻ずつ撃沈。無人のスティアレグラ級は全戦略艦隊で5隻撃沈、4隻大破」

「また、スティアレグラ級とニーランレント級、有人無人合わせて12隻中破、38隻中小破。フォルスティン級は7隻小破」

「戦略艦隊の平均損耗率は30.4%」

「海軍の損耗率は0.4%、陸軍は0.1%。戦死者は合計で11億2153万3845名です」

「そうか……」


 また要塞艦、それも有人艦が沈んだか……戦闘中は聞かないようにしていて正解だったな。例え俺でも、指揮に影響が出ないとは言い切れない。

 それで……第2戦略艦隊の方は脱出もできずに全滅、第9戦略艦隊の方は12人が脱出したが他は戦死……合計58人か。

 陸海軍の戦死者予想は20億人ほどだったため、少なかったのは良いことだが……生体義鎧(同胞)が死ぬのもやはり辛い。


「ガイル?」

『貴方、大丈夫よね?』

「大丈夫だ。若干憂鬱にはなったが」

『それは仕方ないわ。私もだから』

「そういうものですよ。それで、どうしますか?」

「そうだ。メルナ、降りるぞ。リーリアもついて来い」

「ええ、分かりました」

『予定通りね。後始末はだいたい終わったし、大丈夫よ』

「ポーラ、しばらく任せる。来ないとは思うが、警戒は怠るな」

「はい、了解です」


 予定通り、3人で動く。あらかじめ移動させておいた大型揚陸艦(ロファレス級)へ転送装置で移ると輸送艇(ババール)に乗り、惑星へ降下させる。

 その間に、地上の様子を確認してみると……


『君達は何者だ?何故ここに来た?』

『自分に答える権限はありません』

『連邦軍、という者達か?いることは知っているが……』

『まだそれにはお答えできません。代表者をお待ちください』

『顔を見せては……』

『それも不可能です』


 主に軽装歩兵(メラート)へ、時々機動歩兵(バルシン)へ質問が浴びせかけられていた。内容は色々とあるが、俺達の正体についてのものが多い。

 しかしそれだけ気になっていても、重装歩兵(フォルテ)へ近寄る者達がいないのは怖いからだろうか。まあ、デカいからな。

 なお、素っ気ない返答なのは仕方がない。俺の命令だ。


「随分と困らせているようですね」

「まあ、あそこだけは揚陸部隊、精鋭かつ特に口が固い者達で占拠したからな。他の街では陸軍と住民の交流が始まっているようだが、パワードスーツは脱がせていない。彼らにとっては謎のままだ。まあ、こっちにも不満はあるようだが」

「疫病が怖いもの。それに最後の仕事は陸軍と海軍に任せるんだから、少しくらい待ってほしいわ」

「500年以上囚われていた同胞の救出だ。そうなるのも仕方ない。それを自分達の手で解放したとなれば尚更だな」

「そうですね。昔も同じことがありましたから。自分が英雄になったようだと言っていました」

「ああ。さて、無駄話は終わりだ。行くぞ」

「ええ」


 そんなことを話している間に輸送艇(ババール)が着陸したため、まずは俺とリーリアだけが降りた。

 正面にいるのは少し薄汚れている以外、俺達と同じ姿をした者達。この立ち位置であれば、彼らの驚いた顔がよく見える。


「バーディスランド王国軍第1戦略艦隊司令長官、ガイル-シュルトハイン元帥だ。君達の指導者に合わせてほしい」

「同じく第4戦略艦隊司令長官、リーリア-メティスレイン元帥よ。遅くなったけど、助けに来たわ」


 驚きの理由はいくつか考えられる。もしかすると、本星は滅んだと伝えられていたのかもしれない。

 それは聞かなければ分からないが……それより、代表者と話す方が先だ。


「私が行こう」

「アレウス様⁉︎」

「しかし……!」

「同胞だ。無下にはされまい」


 前へ出てきたのは40歳ほどの男。翼はいくつか羽根が抜けた上に若干色褪せているが、元は綺麗な紫だろう。

 また、周囲からの扱いを見る限り、メルナを連れてきて正解のようだ。


「私が指導者、のようなものだ」

「名前は?」

「アレウス-ファルバレト=テスラ-バーディスランド、王家の血を引いている」

「そうか」


 やっぱりいたな。

 とはいえ、まだ分からない。


「だが君はまだ王族と認められていない。王家は唯一無二のものであり、そこに偽りは許されない」

「でも、特別法の要件に該当すれば王族として認められるわ。それで良いわね」

「それで構わん。王家の血を引くというのも、言い伝えに過ぎない。本当であろうと嘘であろうと、私は私だ。全てそちらに従おう」

「良い覚悟だ。王族詐称の罪には問わないと約束する」

「助かる。それでその要件とはどう調べるのだ?どこか別の場所か?」

「いえ、認定はここでできるわ。殿下」


 帝国軍が双方を人質とするため、王家に連なる者を連れてきたことは予想通りだ。500年前もそうだった。

 しかし、その当人の血統が残っているとは限らない。既に殺されていて、当人達が知らない内に替え玉となっていても不思議ではないからな。

 だからこそ、必要となる。輸送艇(ババール)から、王族としての豪華絢爛なドレスで身を包んだメルナが降りてきた。


「やはり、出番はあったようですね」

「はい。紹介しましょう。こちらの方はメルナ-ファルトルム=ティア-バーディスランド王女殿下です」

「初めまして、アレウス-ファルバレト。特別法では遺伝子を調べた後、成人王族の誰かが認めなければなりません。今回は私が担当します。すぐに行いますか?」

「必要なことでしょう。お願いします」


 許可は得たためリーリアが腕に専用の検査機を当て、調べ始めた。

 まあ、それ自体は10秒もせずに終わる。結果は……


「貴方」

「どうだ?」

「予想通りよ」

「分かった。メルナ殿下」

「ええ」


 良い方だったか。


「アレウス-ファルバレト」

「はい」

「あなたをバーディスランド王国王族帰還特別法に則り、アレウス-ファルバレト=テスラ-バーディスランド王子と認めます。王族として、国民の為に努めなさい」

「よくぞご無事で、アレウス殿下」

「私達バーディスランド王国国民一同、殿下のご帰還を心よりお祝いします」


 とはいえ、特別法での認定は1代限り、その地において王に相当する位に着いていた者に限られる。

 例外規定はいくつかあるが、その説明も後で必要だろう。


「して、この後はどうする予定だ?」

「全ての民の検疫と必要な治療を終わらせた後、ワープゲートを用いて王国へ帰還していただきます。数時間の辛抱です。そして、帰還後は盛大に祝うと連絡が来ております」

「良いのか?」

「構いません。同胞の帰還を祝うのは当然のこと。戦勝にはまだ早いですが、多少の息抜きにはなります」

「なるほど。では甘えるとしよう。しかし……やはり、帝国に抗っているのか」

「抗うという言葉は適切ではありません。現在、王国軍は連邦軍と共同で帝国に対し攻勢をしかけています。戦況は当方の優勢、半年もせずに完全な戦勝をご報告できるかと」


 この会話の間にも戦略艦隊および海軍の輸送艦(ガッザレス級)が降りてきて、輸送艇(ババール)を次々と発艦させている。

 地上では揚陸部隊と陸軍の歩兵が住民達を誘導し、家族単位で輸送艇(ババール)に乗れるよう調整している。

 アレウス殿下もそれを優先したのか、部下らしき者達へ次々と指示を出していった。代表者にさせられていただけはあり、中々適切な判断だ。


「上手くいきましたね、ガイル」

「ああ。これで誘導も楽になるだろう。あとは生活指導だが……これは総帥府に任せるしかないな」

「私達のやることじゃないわ。それに、そんな指導はできないもの」

「不甲斐ない、と思う人がいる可能性は高いと思いますけれど」

「悪かったな」

「あ、貴方はそうね」

「仕方ありませんね」


 アレウス殿下の遺伝子検査結果によると、行方不明となっていた当時の第2王女殿下の子孫のようだ。

 多少の遺伝子の損傷は見られるが、遺伝子病のような重篤なものではないらしい。この程度ならナノマシンで治せるはずだ。

 他の住民も検査する必要があるが、同じようなものであれば問題はない。

 それよりも……


「ポーラ」

『はい、先生』

「陸海軍に通達はしたか?」

『しました。表向きの方ですが、全軍が了承済みです』

「裏は?」

『指示の通り、生体義鎧10万人に限りました』

「それで良い。管制は任せる」

『了解です』

「貴方、アレね?」

「ああ、リーリアも手伝え。メルナはアレウス殿下の方を頼めるか?」

「良いですよ。私が適任でしょう」

「すまないな」

「後で埋め合わせをしてくれれば大丈夫ですから」

「私も忘れないでよ?」

「もちろんですよ、リーリア。2人一緒はどうでしょうか?」

「良いわね、それ」

「おい、2人で勝手に決めるな」


 それも悪くない、が……今は先にやることがある。

 その後で、だな。












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