表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/85

第22話

 

 新王国歴7268年8月4日




「貴方、進捗状況は?」

「37%だな。半日でこれなら良い方だ」

「でも明日のよるまで動けないのは少しマズいわよ?」

「そこは祈るしかないな。一応、最低限の戦力はあるが」

「まあ、そうね」


 現在、第1戦略艦隊と第4戦略艦隊は安全が確認された星系に駐留し、大量の元素をかき集めている。惑星規模要塞攻略戦で航空部隊の大半と戦闘艦の多くを失ったためだ。

 1機1隻はすぐに造成できるが、あの数となると……どうしても時間がかかってしまう。材料も、な。


「それにしても……改めて見ると凄い被害ね」

「これでもまだマシな方だけどな。あの要塞に正面から勝つには……王国軍全軍でも負ける可能性すらある」

「正直言って、他の方法はアレくらいしか無いわね」

「だが、アレはできれば使いたくない」

「分かってるわ。言ってみただけよ」

「なら良いが……近いな」

「悪い?」

「そうとは言ってない」

「それなら無視して甘えさせなさい。久しぶりなのよ?」

「命令形か?だがまあ、良いぞ」

「だったら文句言わないの」


 なお、今のリーリアは俺に寄り添い、右肩に頭を乗せていた。

 彼女の顔が紅潮しているのは、風呂上がりという理由だけではないだろう。


「寂しいか?」

「寂しいわね。どれだけ頑張っても、近くに貴方がいないもの……独り身の辛さがよく分かるわ」

「それなら、こっちに来るか?オペレーターの席くらいはすぐに用意できるぞ」

「馬鹿なことを言うのはやめなさい。メリーアと交代する方がまだ現実的よ」

「交代して欲しい、とは言わないんだな」

「当然、私はあの子より強いもの。私に勝てるのは貴方だけよ」

「国を守る、か」

「厄介なことに、ね。でも、もう私のアイデンティティの1つよ。捨てられないわ」

「それは俺もだ。すまないな」

「謝ることじゃないわ。まったくもう、相変わらず律儀なのね」

「ここまでする相手は少ないけどな。というより、しないと後が怖い相手か」

「ええ。しばらく召使いにするくらいはやるわよ?」


 無茶振りされるな、これは。注意するとしよう。

 ご機嫌取りに失敗したらマズそうだ。


「それで、貴方。この後の計画は立ててる?」

「一応な。父さんの考え次第だが……だいたい同じだろう」

「まあ、やることなんて決まってるもの。同じになるわ」

「リーリアはどうだ?」

「やってないわよ?同じなら立てる意味が無いもの」

「それなら手伝え。もう少し詰める」

「了解」


 まあ、失敗しなければ問題無い。それより、先の策を決めるべきだろう。

 純戦略的なことは父さんが決める。だが、戦術的なことを合わせるのは俺の担当だ。そして、これから先に取れる方法は多くない。


「首都星、か……」

「攻略は必要でしょうね。本当は全部壊したいんだけど」

「政治的に無理だな。連邦の要求に身柄の確保がある。共闘関係にある以上、無視するわけにはいかない」

「分かってるわ。でも……」

「気持ちは分かる。だから、他の場所では言うな」

「過激派の子達が聞いたらどうなるか分からない、ってこと」

「ああ。悪く言うつもりはないが、感情的になられると抑えるのが難しい。今回の戦争では程々で我慢してほしいな」

「今回の、ね」

「次はどうなるか分からないからな。連邦が敵になる可能性も高い」


 帝国と連邦の双方を同時に敵に回すと、王国に勝ち目はない。それだけは避けたいところだ。

 それと、アルストバーン星系の更なる要塞化も必要だな。これは戦後で良いが、万が一に備えないわけにはいかない。


「連邦が敵になるとすると……やっぱり帝国と共倒れさせた方が良いわよね?」

「この戦争だけだと無理だろうがな。これまででもかなり削られているが……まだ足りない。帝国の首都星で大幅に削る必要がありそうだ」

「残りは次に、ってこと?……簡単にはいかなさそうだけど」

「ああ。だが、やるしかない」


 俺達が生き残った意味は、これ以外に無い。


「俺達は王国を守る。それだけだ」


 出来なければ、俺達の戦いは全て無意味となってしまう。

 それだけは願い下げだ。


「そうね、不器用な貴方には」

「それはお互い様だ。好き好んで地獄の道を選んだことに変わりはない」

「まあ、否定はしないわ。最初がどうであれ、今こうなったことは変えられないもの」

「そうだな。どの道、俺達に最後があるとすれば破滅だけか」

「そういうことよ」


 俺達が最後を迎える時は王国が滅びる時と同義だ。その前に壊れてしまえば楽かもしれないが、本当に壊れるかどうかすら定かではない。

 死への(そんな)希望は持つべきではないだろう。


「さて、ラグニルに連絡するぞ。そろそろ結果が出た頃だ」

「あ、もうそんな時間なのね」

「ああ。さてラグニル、あの惑星規模要塞の主砲について何か分かったか?」

『やあ司令、ちょうど今終わったところだよ。意外と複雑でシミュレートが難しくてさ』

「御託はいらないわ。早く話しなさい」

『はいはい。まず最初、重粒子プラズマをレーザーで加速して放出するのは良いよ。これくらいは簡単に予想できた。問題は次だね。あの主砲は拡散してたから、そのままだとすぐに無意味になるんだけど……アレはエネルギーを維持するために空間振動波みたいな空間波を使っていたんだ』

「具体的には?」

『その空間波は大量のエネルギーを持って重粒子プラズマに追随してる。重粒子プラズマの密度が一定以下になると量子テレポーテーションの応用でコピーを作り出して、密度を保つ。空間波のエネルギーが無くなれば終わり。分かりやすく言ったらこんな感じかな?本当はもっと複雑だけど』

「それで良いわ。詳しく聞いても分からなさそうだし」

「だが、自然界で物質のコピーができるのか?」

『理論だけなら、かな……まあ、否定だけはされてなかったね。誰もそんなこと考えてなかったけど。それに、正確にはコピーじゃないんだよ』

「どういうことだ?」

『正確には、空間波が自発的かつ局所的にエネルギーを与えることで粒子を作り出したら、それが量子テレポーテーションを使って情報を得るって感じかな。虚像空間の負エネルギーを重力を介して正に戻して、位相を2回反転させつつ通常空間に投入して、そのエネルギーをコピー元の粒子に集束させた後に、元の粒子とエネルギーから対の関係の粒子を2つ生み出しているんだ。元の粒子と出来た対の粒子は違うものだけど、対の粒子は量子テレポーテーションの条件を満たしているんだよね』

「分かるか?」

「全然」

『まあ、しばらくはエネルギーを保つことだけ覚えていればいいよ。まあ距離が増えるとコピーの回数が減るから、威力は少しずつ下がってくけど』

「そうか、分かった」


 理解はできなかったが、予想より厄介なものだったようだ。俺達は集束モードを警戒して距離を取っていたのだが、それは別の理由で正解だった。

 まともに砲撃戦をしていたら要塞艦が沈んでいたかもしれない。まあ、その前に装甲にも問題があるのだが。


『でもそんなことより、あの高密度流体の方が画期的だよ。流体なのにシールドが練り込まれてて、エネルギーを吸収すると同時に発散しているんだからね。しかも重力に対して斥力まで発生させるんだ。こんなに面白い素材は久しぶりに見たよ』

「そうか。厄介だったが、撃破した甲斐はあったようだな」

「あんまり興味は無いけど」

『まあ、艦艇には使えないけどね。一定の形に保持するエネルギーが多すぎて、実質的に球形にしかできないんだよ。それにシミュレートしただけでも精製には高重力環境が必要だし、蒸発するから定期的に補充しないといけない。貴金属が大量に必要なことはどうにかできるけど、他のせいでシールドの方が使いやすいよ』

「それだと……何かに使えるか?」

『新型装甲の研究用かな。実用性は低いよ。流石の僕でもアレを無理して使えとは言わないし。あ、でも実験はやっても大丈夫かい?』

「好きなようにやれ。規定範囲内なら物資も好きに使って良い」

『ありがとう。助かるよ』


 許可しなくても好きに使っているだろう。これに公認以外の意味は無い。

 もっとも、ラグニルは益になることしかやらないが。だから見逃されているとも言う。


『っと。司令、ワープゲートの開通実験は成功したみたいだよ。第7戦略艦隊から連絡が来た。もう第3統合艦隊は来てるみたいだね』

「へえ、ワープ不可能領域も越えられるのね。でも、ラグニルにとっては予想通りの結果なんでしょ?」

「ん?俺の方には何も来てないが」

『予想しても、実験しないと分からないことは多いよ。今回は技官中心だし、司令達への報告は後になるんじゃないかな?』

「おいこら。事前連絡はどうした」

『総司令にはしたようだよ』


 まあ……確かにこれは戦略の話か。確かに俺への連絡は必須ではない。

 必須ではないが……一応、俺が侵攻作戦の指揮官なんだが。


『僕からはこんなところだね。司令達の方に何かあるかい?』

「俺は無いな。リーリア?」

「私も無いわ」

『じゃあ切るよ。まだまだやることがあるからね』

「ああ、頼む」


 そう言って通信を切ると、リーリアがまた枝垂れかかってきた。

 どうやら、一応自重はしていたらしい。


「楽しそうだったわね。あんなに上機嫌なラグニル、久しぶりに見たわ」

「予想以上に有用だったみたいだな。もっとも、完全解析にはまだ時間がかかりそうだが」

「それは仕方ないは。でも、10年後の新型艦は凄くなるかもしれないわよ?」

「そこまで簡単に世代が変われば苦労はしない。まあ、多少の変化はあるかもしれないが」

「あるわよ、絶対」

「何故そこまで自身が、っと?」

『……ガイル……今、良い?』

「シェーンか。俺は良いぞ。リーリアはどうだ?」

「シェーンなら許すわ。キュエルとかだったら叩いてるけど」

「おいこら、流石にそれはただの八つ当たりだ。もう少し自分の副官に優しくしろ」

「貴方は良いわよね。副官も参謀も、どっちも貴方の女なんだから」

「そういう話じゃない」

『……えっと……大丈夫、だよね?』

「ええ」

『……じゃあ、部屋に、行く』


 そんなわけで、シェーンも部屋にやって来た……若干、呆れた顔をしつつ。


「……来たよ……待った?」

「いや、そこまで……」

「イチャイチャしてたらすぐに過ぎたわ」

「おい」

「……ずるい」

「それは悪い。だが、片側は空いてるぞ」

「私も左側まで占領できないもの。大丈夫よ」

「……うん」


 ただし、自分は例外にするらしい。左側にはシェーンが陣取る。

 不満が込められているのか、力は若干強い。可愛らしい程度だが。


「それで、何の用だ?わざわざアポを取るほどのことなのか?」

「……うん……連邦軍から」

「それって通信?後で繋ぐ必要があるものなら……」

「……ううん、メッセージだけ……読む?」

「ああ。見せてくれ」


 シェーンがそのメッセージを送ってきたが、解錠のパスワードを要求された。これは連邦軍との間で決められたもので、いくつかの段階に分かれている。これはその最上位だ。

 とはいえ、シェーンにもその権限はあるのだが、どうやら開封していないらしい。律儀なことだな。

 生体認証を通してパスワードを入力し、メッセージを開く。内容は……ちっ、あまり良くないな。


「貴方、悪い情報ね?」

「……そう、なの?」

「良くはないな。バルジ内の帝国軍の戦力配備情報だ。諜報部は掴んでいなかったようだが、連邦軍は帝国中枢の近くにもスパイを送り込んでいるらしい。数に関しての正確性は低いようだが、中々参考になる」

「……それの……どこが?」

「意図的に隠された跡がある」

「……え?」

「あ、本当ね。5つ……いえ、8つかしら?」

「9だ。明らかに重要な星系に戦力が置かれていない。帝国軍が仕掛けたものなら、連邦軍が気づかないわけがないな。十中八九、俺達への罠だろう」


 敵として見ているのは連邦も同じ。いつでも戦力をすり減らすつもりでいる、ということだろう。事実、今まで連邦の公式ルートから得た情報には、罠もかなり含まれていた。

 諜報部がいなければ、2つか3つは引っかかっていたかもしれない。


「だが逆に、罠だと分かっているなら対処は容易だ。押し付けてやればいい」

「敵がいないんだから、遠慮する必要も無いわね」

「……そっか」

「一応、この情報は中将以上の全員に流しておく。推奨作戦と共にな。どこまで開示するかは父さん達が決めることだが、これよりは広いだろう」

「異論はないわ」

「……わたしも」

「分かった。送っておく」


 残りの処理は任せれば良いだろう。俺がやるより早い。


「さて、この件はここまでだな。シェーン、まだあるか?」

「……ううん……これだけ」

「ならシェーン、久しぶりに2人でしましょうか。楽しいわよ」

「……良いの?」

「良いわ。だって家族だもの」

「まったく、予定も聞かずにゴリ押すな。シェーン、大丈夫か?」

「……うん……休憩、6時間くらい」

「大丈夫じゃない」

「そういう意味じゃないからな?」

「そう言うけど、貴方だって嬉しいんでしょ?」

「うるさい」

「……照れてる?」


 顔に出ていたか……まあ、仕方ないな。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 新王国歴7268年8月13日




「第1戦略艦隊全艦、システムオールグリーン。戦闘準備完了」

「第2、第4、第5、第6、第7、第9、第10戦略艦隊、戦闘準備完了」

「第1、第2、第5、第8、第9、第14、第15統合艦隊、全艦終結完了。戦闘準備も良しとのこと」

「第1、第2、第4、第9軍団、戦闘準備良し」

「作戦参加部隊、総員戦闘準備完了」

「偵察中の潜宙艦隊から定時報告。敵艦隊総数、80億から変わらず。機動要塞は約10万隻。惑星表面に敵基地はあるも、要塞構造物は無し。衛星軌道上に小型簡易要塞あり」

「敵艦隊、惑星を5重に覆っています。戦艦および空母は3層目から存在」

「白い旗艦の位置、変わらず。恒星反対方向の4層目に存在」


 この日、いよいよ同胞達の救出作戦が始まる。

 参加戦力は7ヶ統合艦隊と4ヶ軍団。数は当初より増えたが、迅速かつ確実に勝つにはこれだけ必要だ。

 俺達が最も譲れない点である以上、妥協はされなかった。例え奴がいるとしても。


「近隣星系監視部隊より報告。帝国軍および連邦軍の姿無し」

「敵潜宙艦、総数約2億。全てこちらの連合潜宙艦隊の射程圏内」

「連合潜宙艦隊航空部隊、全機潜伏位置に到達。戦闘用意良し」

「分かった。作戦は予定通りに実行する。最終準備に入れ」

「了解。全部隊、最終準備」

「亜空間ワープ準備開始」


 作戦は既に立ててある。敵艦隊の行動予測も行い、最終的な分岐は500を超えた。

 これだけで十分とは言わないが、外れた時は各指揮官に一任する。俺のものはあくまでも目安だ。


「第4戦略艦隊、第7戦略艦隊、第15統合艦隊、第2軍団および第4軍団、亜空間ワープ座標設定。ジェネレーター出力最大」

「第1、第2、第5、第6、第9、第10、計6ヶ戦略艦隊、亜空間ワープ用意良し」

「第1、第2、第5、第8、第9、第14、計6ヶ統合艦隊、亜空間ワープ準備完了」

「第1軍団および第9軍団の全地上部隊、揚陸艇への搭乗を確認」

「連合潜宙艦隊、前進開始」


 それにしても、ここまでの大部隊を指揮するのは初めてだ。

 とはいえ、指揮に不備はない。各部隊には必要十分なだけのオペレーターがいるため、1度それを繋げれば後は楽な話。

 残りの問題は俺の方だが……この程度のことができないほど、俺は耄碌していない。


「ガイル、全部隊の準備が終わったようですね」

「亜空間ワープ座標は確定済みです。いつでも開始できます」

『こっちも大丈夫よ。呼ばれればいつでも行けるわ』

「分かった。シェーン、良いか?」

「……大丈夫」

「わたしも大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「良し……始めるぞ」


 全ての準備は整った。

 始めるとしよう。


「戦闘態勢発令。全軍、作戦開始」


 最後の過去と決別するための戦いを。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ