第21話
新王国歴7268年8月3日
「航空部隊、最大戦速で飛行中」
「敵からの攻撃は無し。気づかれていない模様」
「プラズマ弾頭最終弾、炸裂確認」
「ジャミングエリア減衰開始。50%減衰まで約1万5000秒」
敵要塞から1万kmの位置。プラズマに隠れて接近した航空部隊は今現在、そこに展開している。
「敵惑星規模要塞表面の敵機動兵器、総数100億を突破」
「ジャミングエリアを抜けるまで、5、4、3、2、1、今!」
「全機攻撃開始」
作戦はこうだ。
まず、軽空母と空母を要塞から10億光年の位置に亜空間ワープさせ、機動兵器を全艦発艦させる。これを繰り返すことで、要塞艦搭載の機動兵器も送り込んだ。
そこから潜宙戦艦、潜宙空母、潜宙揚陸艦を使って異次元へ輸送、通常空間へ戻る時も同様で、要塞から2000万kmの位置まで移動させる。
さらに通常空間を進ませ、要塞から300万kmの位置に待機させた。ステルス装置全開ならば、この位置で長時間待機しても探知されないことは確認済みだ。
そして作戦開始と同時に要塞へ向かって進ませ、プラズマの雲に隠れ、今に至る。
「全機、マイクロミサイルでの攻撃を開始。敵機動兵器、突撃開始」
「広域展開していた敵艦隊、敵要塞周囲へ集結開始。航空部隊への攻撃も確認」
「戦艦以下の抽出戦闘艦部隊は亜空間ワープ用意。ワープ不可能領域外縁部ギリギリに跳べ」
『航空部隊はそのままよ。突っ込みなさい』
展開した機動兵器の数は定数の90%、あの要塞を落とすには十分な数だ。
1000万kmを超えておりタイムラグが生じてしまうが、この距離ならまだ致命的なほどではない。
「戦闘艦部隊、亜空間ワープ終了。敵艦隊へ攻撃を開始」
「敵要塞より対艦砲出現、砲撃確認。戦闘艦部隊へ向かいます」
「敵機動兵器、二手に分かれます。片方は戦闘艦部隊へ」
「戦闘艦部隊、陽電子砲対空モードへ、発射開始。対空レーザー砲スタンバイ」
「航空部隊、敵機動兵器の最終群と交戦開始」
「戦闘艦部隊、長距離対空ミサイル斉射。クラスターミサイルも発射準備完了」
「敵要塞表面の対艦砲および対空砲、出現の9.2%を破壊。しかし、6.8%は最出現」
「航空部隊、敵機動兵器最終群を突破」
「航空部隊、高密度流体中への突入に成功」
戦闘艦部隊からの砲撃により、要塞の対空砲や敵機動兵器は航空部隊の迎撃に全力を注げない。
またジャミングエリア外とはいえ、プラズマとナノマシンは多少ながら存在する。完全遮断はできないが、レーダー精度はどうしても甘くなる。
そういった状況の中で、航空部隊は多少の損耗を出しつつも敵人型機動兵器を突破した。そして、高密度流体の中へ飛び込んでいく。
「航空部隊損耗率0.3%。突入成功率6.1%」
「高密度流体中でも機動は問題無し。しかし、非実体兵器は使用不可能」
「問題無い。高密度流体が覆っているのは表面から500kmまでだ。その下には100kmの大気がある」
『目標は要塞のジェネレーターよ。この規模なら全部纏めて爆発してくれるわ。補修用の通用口があるはずだから、そこを探しなさい。司令室を狙うのもありだけど、複数あるかもしれないからおススメはしないわね』
「大気中では要塞内部に残る砲からの攻撃を受ける可能性が高い。だが100kmだ。粉砕して進め」
『内部構造体は爆発しまくっても大丈夫よ。通用口を見つけるまでは暴れなさい』
高密度流体中はレーダーの効きが悪く、航空部隊でも要塞内部構造は分からない。分かるのは諜報部が得た情報もしくは至近距離だけであり、時折敵を見つけてはマイクロミサイルで排除しているが、一斉攻撃には程遠い。
最初の山場は突破後だ。すぐに始まることではあるが。
「航空部隊、先頭集団が高密度流体を突破。マイクロミサイル発射開始」
「敵要塞内部にて砲撃確認。高密度流体内部構造体表面に対空砲多数存在」
「要塞内部構造体表面にも対空砲および対艦砲を確認。マイクロミサイル誘導対象変更」
「戦闘艦部隊、ワープ不可能領域へ突入。敵機動兵器および敵艦隊への攻撃密度上昇」
「戦闘艦部隊、中距離対空ミサイルおよび対艦ミサイル斉射。目標、敵機動兵器および敵艦隊」
「航空部隊、54.9%が要塞へ突入、8.6%が高密度流体を突破。損耗率1.1%」
「敵要塞内部の対空砲および対艦砲、7.2%を破壊」
「敵要塞内部構造体より敵機動兵器および敵艦隊出現。航空部隊、交戦開始」
「敵要塞表面の対艦砲および対空砲、13.8%を破壊。しかし内部からの出現により総数変わらず」
「要塞外部の敵機動兵器は12.5%、敵艦隊は9.7%を撃破」
「戦闘艦部隊、損耗率0.8%」
要塞内部には航空部隊が攻め込み、砲台や敵機を次々と破壊している。7000万を超える損害こそ出ているが、この程度の数で止まる奴はいない。
また要塞外部では戦闘艦部隊が敵艦隊および要塞と打ち合っていた。距離が近いため損害は大きいが、その分敵に与えた被害も大きい。
とはいえ、現実では1分にも満たない時間でこれだ。最終的にはかなり高くなるだろう。
しかしこれも予想通り、出し惜しみはしない。
「見る限り、通用口らしきものは無いな。情報が間違っているとは思えないが」
『まだ半分しか見てないけど、通用口は9個あるはずよね?十分精査したし……ポーラ、何か分かる?』
「レーダーを精査していますが、それらしい反応はありません。捜索範囲内に無い可能性の他に、隠されている可能性もあります」
「そうか……あぶり出すぞ」
『そうしましょう。航空部隊全機、対艦ミサイル斉射』
「構造体表面を完全に破壊しろ。装甲も隔壁も容赦なくだ」
こういった戦場では細かい戦術など役に立たない。
火力で圧倒し、物量を押さえ込むだけだ。
「航空部隊全機、対艦ミサイル斉射」
「敵対空砲、対艦ミサイルへ集中」
『今のうちに対空砲を破壊しなさい。対艦ミサイルは第2波も撃てるわ』
「了解。各種射撃兵器、敵対空砲へ向け斉射開始」
「対艦ミサイル被迎撃率7.2%」
「要塞内部の敵機動兵器、総数100億を突破」
「航空部隊損耗率1.8%」
「敵要塞内部の対空砲および対艦砲、16.5%を破壊」
「対艦ミサイル第1波、着弾率72.4%」
「対艦ミサイル第2波、発射開始」
「敵艦隊、戦闘艦部隊へ突撃を開始」
「戦闘艦部隊は要塞への攻撃を一時停止、敵艦隊を全力で攻撃しろ」
「了解。戦闘艦部隊、全砲門敵艦隊へ」
「対艦ミサイル第2波、着弾率97.5%」
「敵要塞内部構造体に裂け目を確認……通用口を発見」
どうやら、5重の隔壁で通用口を隠していたようだ。
直径が1kmを超えるとはいえ、ステルス系の機構も組み合わされていたとすれば、発見は容易ではない。あぶり出して正解だった。
「突入しろ。最も近くにいるのは誰だ?」
「ラミエスさんとエリサさんです」
『なら安心ね。他には援護させながら、少しずつ追うよう言いなさい』
「了解。航空部隊、最も近い者より突入開始」
「敵要塞内部の対艦砲および対空砲、31.2%を破壊」
「通用口周辺に対空砲出現。数およそ160万、高密度流体より降下してきました」
「あの中にはまだまだありそうだな……注意するように言え。それと、可能な限り降下開始時に破壊させろ」
「了解で……また降下してきました。数は200万以上です」
「航空部隊損耗率2.6%」
『爆撃機と重爆撃機はマイクロミサイルで弾幕を張りなさい』
「了解。マイクロミサイル斉射五連用意、実行」
「戦闘艦部隊、損耗率1.8%」
「要塞内部の敵機動兵器、10.8%を撃墜」
だが見つかった今、気にすることではない。エースパイロットを筆頭に、万単位の機動兵器が次々と通用口へ飛び込んでいく。
とはいえ、そう簡単に通れる場所ではないようだ。
「通路内に敵機動兵器および対空砲を確認。先頭集団に損害発生」
「待ち伏せか」
『やっぱり居たわね』
「効果的だからな。排除しながら進むしかない」
『ええ。崩れることも無いでしょうから、好きなだけ暴れて良いわよ』
「じゃあ、マイクロミサイルの斉射をやるね」
「射撃兵器も同時に着弾するように使え。邪魔にはもってこいだ」
「はーい」
「……ガイル」
「どうした?」
「……これ、何?」
「これは……?」
要塞表面に対空砲や対艦砲とは違う何かが浮かび上がってくる。1つだけでは無い。合計12個の円柱状物体だ。
表面には謎の紋様らしきものかあり、そこからは光と共にエネルギーが漏れている。
無意味な行動ではないと思うが……まさか。
「敵要塞表面に高エネルギー反応。この柱状構造物を中心に展開」
「内部構造体も一部が形状変化、高密度流体も局所的に厚さが変化」
「新たな構造物が浮上を完了しました。これは……主砲発射態勢だと思われます!」
「ちっ、射線上の戦闘艦部隊はすぐに退避、要塞内部の航空部隊も可能な限り離れろ」
『その前に置き土産を残しなさい。マイクロミサイルよ』
「了解。範囲内の全艦全機、撤退」
「航空部隊、マイクロミサイル発射」
「戦闘艦部隊、敵柱状構造物へ砲撃するも、強固なシールドにより無力化」
「敵要塞内部主砲周辺にマイクロミサイル第1波着弾……ダメです。シールド破壊失敗」
「レーダー情報解析より、2つ目の通用口を発見」
「高エネルギー反応集束開始……発射まで推定30秒」
「エネルギー反応増大。現在、当初推定の180%」
「航空部隊退避完了」
「敵要塞、主砲発射!」
そしてその瞬間、膨大な光とエネルギーが宇宙を薙ぎ払った。
もちろんレーダー情報から合成された映像であり、光学情報ではない。しかし、目で見ても同じようなものだろう。
「マイクロミサイル、残存全弾消滅」
「戦闘艦部隊、一部が飲み込まれます!」
「空間に歪曲が発生。敵要塞主砲による影響だと思われます」
このような光景は初めて見た。正確な情報が分からなければ、レーダーで粒子は捉えられないからだ。
しかし、これだけ大量かつ高密度に発せられれば嫌でも捕捉できる。巻き込まれれば戦闘艦がゴッソリ消え去るほどの威力だ、それも当然なのかもしれない。
「敵主砲、照射終息。柱状構造物、高密度流体内へ潜行」
「敵主砲は当艦周辺に到達する模様。要塞艦および戦闘艦に被害は無いものの、機動兵器であれば破壊可能なエネルギーを保持していると推測」
「戦闘艦部隊は12.1%が撃沈。包囲に穴が空きました」
「敵要塞内部の航空部隊に被害無し」
『なら良いわね。航空部隊はそのまま攻撃を続けなさい』
「直掩機は一時艦内収納。だが、即応態勢を維持しろ」
「了解。敵主砲通過まて直掩機収容、護衛の戦闘艦も要塞艦の背後へ」
「航空部隊、攻撃再開。2つ目の通用口へ突入開始。以後、第2突入口と呼称」
「先の通用口は第1突入口と呼称。第1突入口、3つ目の敵陣地を発見」
「粉砕しろ。前進が最優先だ」
「了解」
だが、要塞内部での戦闘に問題は無い。そもそも、航空部隊と戦闘艦部隊は全損すること前提だ。
要塞艦に効いていない以上、嫌がらせ以外の意味はなかった。
「第1突入口第3陣地を突破。現在、侵攻率48%」
「第2突入口、敵陣地を発見。攻撃開始」
「航空部隊損耗率、5.0%を突破」
「要塞内部の敵機動兵器、18.4%を撃墜」
「戦闘艦部隊、艦隊陣形再編成。損耗率15.7%」
「第1突入口に第4陣地を発見」
航空部隊は損耗を出しつつも、確実に前進していた。
狭い場所なため、機動力は生かせない。しかし、火力で圧倒することは可能だ。
例え陣地を作ろうと、例え不意を突こうと、彼らを止めることは出来ない。
『そろそろね』
「ああ。位置的にはこれくらいだな。要塞ならジェネレーターは大きいはずだ」
『小さい物だと効率が悪いもの。大きすぎるのもアレみたいだけど』
「らしいな。ラグニルの予想通りなら、だが」
『大丈夫、安心しなさい』
「第1突入口の航空部隊より報告。敵要塞の超大型ジェネレーターを複数確認。しかし、その全面に大規模な敵陣地を発見」
「敵機動兵器、200万以上。対空砲5万以上」
「分かった。突破出来るか?」
『余裕よ。エースを舐めちゃいけないわ』
「そうだな。突破出来なくても、対艦ミサイルをジェネレーターに当てればいい。飽和攻撃で押し切れ」
「了解。航空部隊先頭集団、対艦ミサイルおよびマイクロミサイル斉射開始」
そして要塞を巡る最期の戦いが始まった。
この中央部は直径1000kmの巨大な空洞で、中には超大型ジェネレーターが13基も備え付けられている。
1基でも破壊できれば盛大な爆発が起きるだろう。
「敵機動兵器および対空砲、攻撃開始確認。航空部隊も射撃開始」
「マイクロミサイル、被迎撃多数。命中率46.2%」
「対艦ミサイル、全弾迎撃されました」
「航空部隊、後続が合流。戦闘開始」
対艦ミサイル、マイクロミサイル、そして各種射撃兵器。ありとあらゆる破壊が飛び交い、双方に破滅をもたらす。
とはいえ火力は俺達の方が上、すぐに破れるだろう。
しかし、しばらく戦闘を続けるものの……一向に陣地が破れる気配は無かった。
「……固い」
「予想以上に強固だな。敵機の数も多い」
『色んな所に隠してたみたいね。総数、1000万を軽く超えそうよ』
「最終的には勝てるだろうが、時間稼ぎをされると何が起こるか分からないからな。早めに落ちる方が良いんだが……」
『ここまで来ると策なんて無意味よ。あとは押し切るだけね』
「まあ、その通りだ」
その通り、焦る必要は無い。敵の数は有限、1億を超えていることは無いだろう。対してこちらはまだ数十億機が残っている。
短時間で到達できるものだけでも1億以上だ。均衡はすぐに破れる。
そして敵が何かの時間稼ぎをしているとしても、それを打ち破れるだけの戦力は残してある。
「陣地内敵機動兵器、34.8%を撃破」
「航空部隊損耗率9.4%」
「第2突入口先頭集団が超大型ジェネレーターを確認。攻撃開始」
「マイクロミサイル群、敵機動兵器群中央部に突入」
「敵機動兵器多数撃破」
「これを逃すな。対艦ミサイル斉射開始」
『第2突入口の部隊も放ちなさい。陽動で良いわ』
「全機対艦ミサイル発射」
「敵機動兵器群中央に開口部を形成」
「敵、ミサイルの迎撃を開始。被迎撃率2.1%」
「敵対空砲へ射撃を集中。47.9%を破壊」
「敵陣地突破!」
「対艦ミサイル、命中します」
だが、警戒する必要は無かったようだ。何かが起きる前に、超大型ジェネレーターへ対艦ミサイルが直撃した。
ミサイルはそのまま外壁を完全に破壊し、中の核融合反応が漏れ出てくる。
そして次の瞬間、ジェネレーターは爆発を起こした。爆発は他のジェネレーターも巻き込み、要塞を吹き飛ばす爆炎と衝撃波が発生する。
「超大型ジェネレーター爆発。他の超大型ジェネレーターも誘爆」
「敵要塞中央部は完全消滅」
「航空部隊、巻き込まれます」
「対空砲および対艦砲、動作停止」
「敵機動兵器および敵艦隊、全て反応性低下」
爆発と衝撃波が収まると……そこには何も無くなっていた。
「敵惑星規模要塞、高密度流体の一部を除き消滅。敵機動兵器および敵艦の反応無し」
「敵惑星規模要塞が存在したエリアに多数の重金属を確認。回収可能です」
「航空部隊損耗率、90.3%。突入部隊は全滅」
「戦闘艦部隊損耗率69.5%。要塞の爆発により23.8%が撃沈」
航空部隊も戦闘艦部隊も壊滅状態。予想通りとはいえ、少し辛いな。
使い捨てにしたことをパイロット達に怒られそうだ。まあ、生きてるだけマシだな。
「全艦戦闘態勢解除。亜空間ワープの用意だ。ワープ不可能領域の目前に跳ぶ」
『亜空間ワープの後はワープ不可能領域を通常航行で超えるけど、その間は工作艦に元素を回収させなさい。時間はあるわ』
「損耗を補填する必要があるからな。手は抜くな」
『そんなことをする人なんていないでしょうけど』
この後数時間以内に、残り6つの戦略艦隊がここを通る。連邦軍も通るに違いない。敵艦隊の排除は任せるしかないが、問題は無いだろう。
それより、問題はこれからだ。戦争の最終段階が始まるのだから。




