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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

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第20話

 

 新王国歴7268年8月3日




「潜宙艦隊より通信。敵要塞周囲に敵機動兵器を確認。巡洋艦および駆逐艦は確認できたものの、戦艦と空母は未確認。異次元潜行不可能領域内部に存在するため、ソナー精度は低下中。これ以上は判別不能」

「敵要塞、表面に確認できる武装は警戒状態。戦闘態勢にない模様」

「航空部隊、待機位置まで移動完了。作戦開始までステルス装置最大出力で待機」

潜宙戦艦(ゼルファン級)潜宙空母(マルフェス級)潜宙揚陸艦(レイメラス級)小型潜宙艦(ゲルマスロ級)および大型潜宙艦(ドーランテ級)と合流完了」

工作艦(オルファン級)は2隻ごとに集合、作戦準備開始」

輸送艦(ガッザレス級)各艦、工作艦(オルファン級)と接続。エネルギー供給準備」

「戦艦および要塞艦、各艦重力子砲(主砲)オンライン。戦闘用意良し」

「艦隊進路このまま、亜空間ワープ準備完了。作戦開始時刻まで残り1時間」


 惑星規模要塞攻略作開始目前となり、準備は着実に進んでいる。帝国軍が気づいた様子も無いため、上手く奇襲できるだろう。

 また既に戦闘準備態勢は発令しており、一部の例外を除いて全員配置についている。まあ、その例外の1人が隣にいるが。


「貴方、こっちは準備終わったわ」

「こっちもだ。作戦の修正は必要無いな?」

「ええ。敵の態勢は予想範囲内でしょ?むしろ少ない方よ」

「ああ。内部にはいるだろうが、作戦初期の展開からすると……この方が楽だな」

「そうね。それと、航空部隊はこっちから管制して良い?」

「そこは任せる。そうなると、こっちが艦隊管制か」

「ええ、任せるわ」


 リーリアは俺の隣に席を作り、同じように各種作業をしていた。

 もちろん作戦開始前には戻らせるが、それまでは責めたりしない。似たような者は他にも何人かいる。


「リーリア先生、ここの値はこれで良いですか?」

「それで良いわよ。まあ、細かい設定はラグニルとかがやってくれるわ」

「そうだな。俺達は大まかな方針を決めるだけで良い」

「分かりました」

「お兄ちゃん、この部隊ってこのコースで良いかな?」

「それで大丈夫……いや、少し変えるか。そこを少し外側に変えろ」

「こう?」

「ああ。航路の密度も平均的な方が良いからな」

「あ、そっか」

「ガイル、根を詰めすぎていませんか?」

「大丈夫よ。こんな程度で疲れたりしないわ」

「お前が言うな。俺への質問だ」

「良いじゃない。結局、答えは同じなんでしょ?」

「まあそうだが……」

「リーリアー、第4艦隊の指揮ってどうするのー?」

「そこは全部ガイルに任せてあるわよ、メリーア。オルトと協力してくれたら嬉しいわね」

「りょうかーい」

「……ガイル」

「ん?」

「……これ、いる?」

「ああ、貰う。ありがとな」

「私も欲しいわ」

「わたしも!」

「……良いよ」


 作戦がいつもより特殊とはいえ、準備自体は毎回やっていることだ。手間取るようなものは少ない。

 しかしこのような時、時間はすぐに経つ。作戦開始時刻だ。


「時間だな、作戦開始だ。全部隊亜空間ワープ開始」

「了解。全部隊亜空間ワープ開始」

「戦闘艦、要塞艦、全艦亜空間ワープ開始」

「……アーマーディレスト、亜空間ワープ」


 艦隊が飛び出した場所は惑星規模要塞から5000万kmの位置。戦艦や要塞艦の重力子砲(主砲)くらいしか届かない場所だが、これで良い。

 敵要塞主砲すら届かないここからなら、牽制だろうと一方的に攻撃できる。


「全要塞艦および戦艦、重力子砲(主砲)での砲撃を開始しろ。同時に各工作艦(オルファン級)部隊は作戦実行用意」

『航空部隊も行動開始よ。指定のコースで、ね』

「了解。要塞艦および戦艦、全艦砲撃開始」

「航空部隊、巡航速度で移動を開始。ステルス装置は出力維持」

「直掩戦闘艦、全艦戦闘準備良し」

工作艦(オルファン級)部隊、全隊斥力力場形成完了」

「ミサイル造成確認、次弾以降も造成完了。全て射出可能」

「ミサイル射出開始」

「了解。射出開始」

「全工作艦(オルファン級)部隊、射出開始。エラー反応無し」


 そして作戦の第1段階をスタートさせるのにも、この距離の方が都合は良い。

 上下に並んだ工作艦(オルファン級)によって作られた斥力力場はミサイルを加速させ、秒速1万kmで打ち出し始めた。

 工作艦(オルファン級)部隊の数は6000だ。そして1つの部隊は同時に10発、1秒ごとに放てる。

 秒間で6万発、それを2000秒。合計1億2000万発は工作艦(オルファン級)だけだと難しいが、輸送艦(ガッザレス級)と組み合わせることで解決した。

 第3惑星(シュルトヘインズ)サイズの岩石型惑星であれば、これだけで数個破壊できるほどの威力になる。


「全部隊、順調にミサイルを射出中。着弾まで5000秒」

「……1時間23分」

「長いね」

「この距離だ。仕方ない」

『そういう作戦だもの。仕方ないわ』

「だから戦闘準備態勢のままなのですね?」

「ああ。この程度のことは全てオートでも問題無いのもあるが、その通りだ」

『というより、思考加速をこんな長時間してたら、流石に疲れすぎるわ』


 なおメルナの言う通り、この作戦には時間がかかるためまだ戦闘態勢には入っておらず、思考加速装置は使っていない。重力子砲(主砲)も牽制兼囮だ。

 もちろん、本格的に動く時は戦闘態勢にするが、それはまだまだ先になる。


工作艦(オルファン級)輸送艦(ガッザレス級)、作戦続行中。システムエラーは確認できず。未射出のミサイルも無し」

「ミサイル、99.999%は敵惑星規模要塞の直撃コース上」

「未発見の重力偏差などの影響により0.001%ほどは外れますが、どうしますか?」

「エネルギーパルスで修正できるならやれ。不可能なら放置しろ」

「了解です。修正軌道の設定を開始します」

「……重力子砲(主砲)、あと250秒」

「命中率は推定93.7%のようですね。要塞に対してだけなら100%ですよ」

「あれだけ大きいからな。外す方が難しい」

『大して効かないでしょうけど』

「牽制だからな。本命は別だ」

『でも、敵はそう思わないわ』

「そうだろうな。だが、ここまで遠ければ連中の反撃は届かない」

『やるなら艦隊をワープさせるしかないけど、そんな数は無いわね』

「要塞の規模と比べれば、確実に少ないだろう。要塞の戦力が高いからかもしれないが」

『まあ、そこまで織り込み済みなんだけどね』

「計画の段階から、な。想定外がある可能性が高いのは機動兵器の方だが」


 要塞駐留艦隊は推定で5億から10億隻と、要塞の規模に比べて非常に少ない。俺なら50億隻は置いておくだろう。

 しかし今は好都合。だからこそこの作戦が取れた。


重力子砲(主砲)着弾まで5、4、3、2、1、着弾」

重力子砲(主砲)命中率92.4%、要塞に対しては99.9%。しかし要塞への損害無し」

「次弾以降も命中するも、損害は認められず」

「想定通りです。しかし、高密度流体は着弾するたびに減少しているため、いずれ破れます」

「分かった。だが、そこまで待つ必要は無い」

『まあ、ポーラも分かってるでしょうけど』

「はい。そのための作戦です」

「それにしても、ガイルにしては悠長な作戦ではありませんか?」

『そうでも無いわ。メルナと会う前は似たようなことも良くやってたわね』

「大きな戦いでは使っていなかったからな。知らないのも無理はない」

「そうでしたか」

「……姫様、これ」

「ありがとう、シェーン。これが……なるほど、面白いですね」

「昔、そのあたりを纏めた物を作ったが、要るか?」

「ええ」


 戦闘中とはいえ、暇なものは暇だ。今回のように気を張り続ける必要がない場合は特にそうなる。

 そのため、これくらいの雑談は許されている。もちろん、許可されているのは全員だ。モチベーションの維持も必要だからな。


「敵要塞の表面に揺らぎあり、多数の対艦砲が出現。発砲確認」

「敵対艦砲、3000万kmで最低レベル以下まで減衰予想。届きません」

「分かった。ミサイルは大丈夫か?」

「既にコース変更指示済みです。対艦砲の動きに応じ、常に変化させます」

「それなら良い」

『ポーラも準備してたもの。予想していたんでしょ?』

「はい。これはどうにかできました」

「流石だな」

「ねえお兄ちゃん、ここってちょっと動かした方が良いかな?」

「大丈夫だと思うが……リーリア?」

『必要ないわ。そのままで十分よ』

「はーい」

「先生、敵要塞にさらに動きがあります。敵機動兵器が多数発進し、要塞周囲に留まっています」

『少し厳しくなるわね。貴方はどう見る?』

「まだ想定の範囲内だが、ミサイルを迎撃されるとマズいな……敵機に照準を合わせることはできるか?」

「……群れごと、なら……でも、外れも多い」

「構わない。狙い続けることで迎撃できなくなれば大丈夫だ。外れても要塞に当たるならなお良いが……」

「それであれば要塞艦を移動させた方が良いと思います」

「そうしよう。メルナ、頼めるか?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 これだけ距離が離れていると、艦隊配置の変更は簡単だ。

 もっとも、十分な角度を付けるには広がりを大きくしなければならないが……そのあたりのバランスを決めるのはそう難しくない。


「要塞艦、戦艦、全艦亜空間ワープ終了」

「敵機動兵器群行動パターン計測。推定ルート作成」

「照準調整……完了。砲撃準備良し」

重力子砲(主砲)砲撃再開。第1目標、敵機動兵器群。第2目標、敵要塞」

「第1波着弾まで約330秒。第1目標推定命中率10.4%」

「流石に低いな」

『仕方ないわ。むしろ2ケタあるだけマシね』

「実際はこの半分になりそうだが」

「……だから、足りない」

『気にすることじゃないわ、シェーン。十分高いわよ』

「その通りだ。当たらなくても問題無いものを当てる方が凄いからな」

「だそうですよ、シェーン」

「……ん」


 そう言うと、シェーンの顔が少し和らぐ。もしかすると頭では理解していたとはいえ、感情的には不満があったのかもしれない。

 口にされるまで気づいていなかったが、上手く対応することができたようだ。不満が溜まったら後が大変になる。


重力子砲(主砲)修正砲撃、第1波着弾まで、5、4、3、2、1、着弾」

「敵機動兵器群への命中率8.4%。平均して該当群の2.1%を撃墜。外れた弾の約80%は敵要塞へ向かいます」

「第2波以降も着弾。平均命中率8.8%」

「意外と高いな」

『ええ、流石ね』

「……ふふん」

「シェーン、油断はいけませんよ」

「……分かっています、姫様」

「敵要塞へ向かった重力子砲(主砲)弾は全て命中。しかし、効果は認められず」

「敵要塞表面の高密度流体、体積変化は0.1%以下」

「シェーンお姉ちゃん、こっちのコンピューター使っても良い?」

「……良い、けど?」

「やった!」

「無理はさせるなよ、レイ。作戦はこれからだ」

「はーい」


 そう、作戦はこれからだ。今不満を溜め込まれるのも困るし、疲れすぎても困る。

 まだまだ長くかかるからな。


工作艦(オルファン級)部隊、ミサイル全弾発射終了」

工作艦(オルファン級)および輸送艦(ガッザレス級)は全艦帰投開始」

戦艦(ギロスィア級)以下抽出艦艇、亜空間ワープの予備準備を実行。各部システムチェック開始」

「潜宙艦隊、移動を開始。潜行不可能領域外縁部へ」

「敵機動兵器、推定で5.2%を撃破。86.4%は回避行動を継続」

重力子砲(主砲)砲撃、敵機動兵器に対する命中率18.5%。敵の回避パターン変化により若干下降気味」

「敵対艦砲、砲撃頻度微弱。また、到達前に全て減衰」


 戦況は順調と言っていいだろう。敵要塞の動きは微弱、ミサイルは順調に飛行中だ。

 心配が無い、とも言えないが……


「大丈夫なようですね」

「ああ。予想外のことは起きていない。機動兵器の対処はアドリブだが、上手くいっている」

「……頑張った」

『航空部隊も良い感じだし、悪くないと思うわ』

「私もやったよ」

「ミサイルも上手に管制されています」

「問題は敵が何を考えているか、だが……」

「何か策があるのでしょうか?」

『あんなのは効かないって(たか)(くく)っているかもしれないわね』

「え?でも……」

「帝国はAIばかりですが……?」

『指揮官はシュベールよ。その場限りじゃないわ』

「……何かある、かも?」

「だが、やるだけだ。対処はできる」


 これだけの戦力がある。やれなくは無いだろう。

 そして時間が経ち、第1段階の終わりが見えてきた。


「ミサイル、先頭は現在敵要塞まで20万kmの位置」

「敵要塞、表面への対空砲展開を確認。気づかれました」

「敵艦隊、敵機動兵器行動変化確認。ミサイルへ向かいます」

「被迎撃率0.6%」

「5、4、3、2、1、先頭着弾」

「重力子弾頭起爆……効果無し」

「予想通りだ。問題無い」

「敵対空砲、ミサイルへ集中」

「被迎撃率、平均して1.7%」

「第2陣、到達間も無く」


 重力子弾頭が無意味なのは想定通り、本命はこっちだ。


「近接信管作動良し。第2陣起爆まであと5秒」

「3、2、1、近接信管作動。起爆開始」

「プラズマ弾頭炸裂。ナノマシン正常に作動中」

「空間波撹乱確認。レーダー無力化確認」

「敵情報は潜宙艦隊より確保。ただし異次元潜航不可能領域のため、精度は低下」

「次弾以降も炸裂継続。ジャミングエリア形成確認」

「敵要塞の対空砲および対艦砲が止みました。敵砲撃停止」


 プラズマ弾頭。それははその名の通りプラズマを封入した弾頭で、威力は最も低い。帝国軍の人型機動兵器ですら、直撃で1機落とせる程度だ。しかし、その本領は空間波の阻害にある。

 プラズマ弾頭にはナノマシンも搭載されており、プラズマと同時に拡散される。それらはプラズマからエネルギーを受け取り、局所的な重力変位や空間歪曲を生み出す。

 電波などと同じ方法ではジャミングが出来ない空間波に対し、1800年前にラグニル達がどうにか出した答えがこれだった。俺達のレーダーにも被害はあるが、被害は帝国軍の方が大きい。


「ジャミングエリア内の敵部隊、全て反応性低下。通信阻害にも成功」

「ジャミングエリア外の敵部隊、要塞から広がるよう展開。偵察目的の模様」

「好都合だな。潜宙艦隊はジャミングエリア外の敵部隊に対し、魚雷攻撃を敢行。牽制程度で良いが、沈めても構わない。だがジャミングエリア内の敵には手を出すな。ジャミングが消えると厄介だ。リーリア、そっちはどうなっている?」

『大丈夫よ。見つかっている様子は無いわ』

「分かった。管制は任せる」

『ええ。でも、レイはこっちを手伝ってるわね』

「専門家だからな。了承済みだ」


 ミサイルの総数は1億2000万発、着弾は2000秒続く。

 そして……


「先生、もう間も無くになります」

「そうか。戦闘態勢の準備は良いな?」

「はい、大丈夫です」

「航空部隊、配置につきました」

「全機戦闘準備良し」

「ミサイル最終弾、起爆まで50秒」

「敵部隊の行動に変化無し。未発見の模様」

「作戦の第2段階を開始する。全艦戦闘態勢。攻撃開始!」

「了解、全機攻撃開始」

「航空部隊、最大戦速!」


 最後の手を、今、動かす。












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