第18話
新王国歴7268年7月3日
「既存の戦術は上手いが、新しい物を取り入れるのは苦手なようだ。優秀寄りの凡将だな。まあ、これだけの使い捨ての駒を集めた政治的手腕は評価するべきかもしれないが」
軍事的才覚を生かせていないとも言う。長所と短所は敵だけでなく、自身についても知るべきだ。奴はそれが出来ていない。
とはいえ、何らかのキッカケで化ける可能性もあるため、油断はできないが。
「それはガイルからしたら、ではありませんか?」
「まあ……それはそうかもしれないが、間違いでもない。奴に優れた点があるのは事実だが、1度負けた程度でそれをメインから外すのは愚策だ」
「でも、凄いところもあるんだよね?」
「ああ、奴の才能は高い方だ。一部はさらに高い。それを上手く使えば、今回も俺達は苦労しただろう」
新たに亜空間ワープで飛び出してきた艦隊は予想通り、戦艦を中心とした編成だった。数は5億隻だったが、既に潜宙艦隊の魚雷によって荒らされ、残りも砲撃で蹴散らされるのを待つだけでしかない。
人型機動兵器も100億機を切り、一部は掃討戦へ移行している。総数はまだ敵の方が多いが、既に終わりかけだ。
「奴が最も得意とするのは恐らく、敵艦隊を正面に捉えた上での読み合いだ。分野が少し違うが、その才能はおれと競り合える程度には高い。前回の戦いはそれを上手く使った結果だ。だが、今回は違う。付け焼き刃のワープ戦術ではこんなものだ」
「どこが駄目だったの?」
「自分の得意分野ではなく、俺達の得意分野を中心に据えたことだ。そして先に手を読み終えてしまえば、読み合いをする必要はない。お膳立てしてくれた通りに俺の得意分野へ引き込んでしまえば、そのまま勝てる」
今回は無理矢理引き摺り込む必要が無く、楽な戦いだった。だがこれは、奴が無能ということを意味しない。
奴は本隊が持久戦を展開している時に強襲させるつもりだったのだろう。それが決まればこの戦法は恐ろしく有用となる。しかし、比率を間違えた結果がこれだ。
とはいえ、俺やリーリア以外では引っかかっていた可能性も否定できない。まあ、食い破れないとも思わないが。
それに俺も、偵察と解析には本気だった。ギリギリな戦いは少ない方が良いからな。
「敵砲撃艦隊、残存数34%。加速を確認、逃亡を開始する模様」
「逃亡しない艦をメインに攻撃しつつ、加速初期の艦も狙え。それ以降は間に合わない。無視しろ」
「了解。攻撃目標設定変更開始」
「艦隊損耗率0.8%、航空部隊は3.2%」
「敵機動兵器群に動きあり。半数が航空部隊を抑えつつ、もう半数が艦隊へ突っ込んできます」
「同時に敵砲撃艦隊が全艦こちらへ指向、突撃してきます」
「……今さら?」
「動くか。ポーラ、潜宙艦隊からの報告はないか?」
「いえ、今はまだ……あ」
考えられる罠はもう1つある。しかし、既に手は打った。
そして、どうやら今来たらしい。
「潜宙艦隊航空部隊より報告が来ました。敵潜宙艦隊を発見、数1億。30秒後から航空攻撃を開始するとのことです」
「分かった、そのまま殲滅しろ。それと、軽巡洋艦と重巡洋艦から対艦魚雷を発射させろ」
「了解しました」
「お兄ちゃん、さっきのってこれ?」
「ああ。俺達が機動兵器と戦艦に翻弄されている間に衛星背後へワープし、異次元を最大深度で進んできたようだが、この程度なら見え透いた手だ。もう1つ囮を用意するべきだったな」
意味のある水雷攻撃部隊を用意できない帝国軍では、ワープで投入できる戦力は空母か戦艦に限られる。多少変形させても潜宙艦までだ。俺達と比べると手札は少ない。
そして慣れていない手段を多用したせいか、単調になりすぎている。俺より長いワープ戦法の研鑽の歴史と比べることは酷かもしれないが。
歴史の差は、耐えられる差にもなる。
「敵人型機動兵器、残数40億以下」
「敵砲撃艦隊は残存12%に減少。突撃は停止、後退しています」
「敵潜宙艦隊、航空攻撃により約37%を喪失。なおも攻撃継続中」
「ガイルー、本隊はどうするー?」
「いや、そろそろ……」
「敵旗艦、ワープしました。敵本隊も同様です」
「やっぱりか」
「ありゃー」
「砲撃艦隊の残存艦も加速を開始。敵機動兵器および潜宙艦隊の半数は突っ込んできます」
「逃げる敵は無視しろ。攻撃してくる相手を最優先で叩け」
「りょうかーい。砲撃目標再設定ー」
「了解。砲撃優先目標変更、攻撃再開」
「航空部隊も同じだよ。これとこっちの群から狙って」
「了解しました」
「シェーン、重力子砲と重粒子砲は前方に集中させろ。陽電子砲は航空部隊の援護に回せ。細かな照準は任せる」
「……了解」
最後の最後は戦力の温存に走ったようだ。とはいえ、残存艦は10億隻に少し足りない程度だろう。すぐに補充できる帝国軍にとってみれば、水泡のような数でしかない。
しかし、奴にとっては違うはずだ。やられ過ぎれば見放され、故郷が焼かれる。そのことを恐れているのかもしれない。
俺とは違う立場。だからこそ思惑までは読みきれない。だが、そう間違ってはいないだろう。
「敵艦、全艦の撃沈か逃走を確認しました。また、敵機も全て撃墜しました」
「損耗率は0.9%、航空部隊は3.8%」
「第1戦略艦隊全艦戦闘態勢解除、航空部隊と潜宙艦隊は直掩を除いて着艦しろ。偵察艦隊、活動再開だ。また、工作艦と輸送艦をデブリ回収に回せ」
「了解。戦闘態勢解除」
「航空部隊着艦開始。また、損失機の造成も開始」
「損失艦の造成開始。艦隊はこのまましばらく待機」
「潜宙艦隊、反転して戻ってきます。潜行エリアは表層付近、着艦開始は12分後からの予定」
「第17、第28偵察艦隊、活動再開。第2、第13、第18、第36偵察艦隊、当星系の探索を開始。第15偵察艦隊帰還開始、第32偵察艦隊発艦」
「工作艦および輸送艦発艦。デブリ回収開始」
「護衛部隊抽出完了。行動開始」
しかし、今現在は関係の無い話だ。そして戦闘が終われば、いつも通りの後始末がある。
それと同時に、気になることの確認もした。
「ポーラ、敵艦がどこに行ったか分かるか?」
「一応解析はしましたが、分かりませんでした。まず当星系外縁部にワープアウトした後、再度ワープしました。方向と加速量から、向かった先はこの星系だと思われます。しかし、さらに数回のワープを行った可能性もあります」
「逃げは徹底したか。まあいい」
「お兄ちゃん、やっぱり気になっちゃう?」
「……ライバル?」
「そんな仲じゃない。敵の情報を集めているだけだ。確実に、最低でも後1回は戦うことになるからな。そこで仕留められれば良いが……」
「場所次第、ということですね」
「ああ。今回のように何も守っていなければ、奴はまた逃げられる。そしてその経験を生かすだろう。戦う回数は少ない方が良い」
今回のワープ戦法の間違いについて、どこまで気づいたかは分からない。具体的には分かっていないかもしれない。
しかし、戦うことだけは確定だ。そして奴は修正してくる。戦った回数だけ、だ。
楽に勝てる相手でない以上、戦う回数は少ない方が良い。
「仕方ありませんね。シェーン、レイちゃん、ガイルを連れ出してもらえませんか?」
「……分かりました、姫様」
「はーい」
「おいこら、待て。メルナ、何のつもりだ?」
「ガイルに休んでほしいだけですよ?私とポーラがいれば後処理はできますからね。むしろ邪魔かもしれませんよ」
「大丈夫です、先生。任せてください」
「酷いな。まあ、2人で出来ることは知っているが……流石に俺もやった方が早いぞ」
「それはそれ、これはこれ、というものですよ」
「……そういうこと」
「だから、遊びに行こうよ。お兄ちゃん」
「分かった……行ってくる」
流石に口では勝てない。だから、流されるしかないな。
……言い訳じゃないぞ?
「それでお兄ちゃん、どこに行こっか」
「決めてないのか?」
「……急、だったし」
「確かに、メルナの思いつきだったな。希望があれば聞くが、どうする?」
「うーんと……どうしようかな?」
「……公園、とか」
「公園か……今は確か、第2惑星の自然公園とリンクさせた場所があるはずだ。特徴的で、物珍しさがあるらしい」
「……じゃあ、そこ」
「あ、わたしも!」
「分かった。こっちだな」
そういうわけで、モール内にある専用の部屋でソファに座り、思考を仮想空間に飛ばした。
その先は既に自然公園の中だを
「うわぁー!」
「……蝶の、楽園?」
「そうらしい。メインは違うようだが、そうとは思えないな。バーティアも多いか」
「こういうの、神話にもあったよね」
「バーティアが集まる泉の話だな。確かにあるが、どこの神話だったか……」
「……確か、ハスフェルトル……ケトスの泉」
「あ、それ!」
人口が50兆を超えるバーディスランド王国には、こういったテーマパークが大量に存在している。同じ内容では面白みが無いため、創意工夫を凝らす所も多い。
とはいえ軍人に与えられる休暇は多くなく、特に戦略艦隊に所属する面々が訪れたことのあるテーマパークは多くない。そのため、時々こういった設備がモール内に作られる。
陸海軍にも似たような設備はあるそうだ。基地内や艦内で待機する時のためらしい。
そういった関係で、元々は大昔の入院型病院で使われていた技術だそうだが、今は軍の娯楽用だ。今の病院は入院がほぼ無いからな。
「……コース、いくつもあるみたい」
「大まかに分けると3つだな」
「どれから行くの?」
「……ここは?」
「まあ、構わないが……何か理由があるのか?」
「……吊り橋がある、から」
「なるほど。面白そうだな」
ちなみにこの機能を使うと、現実の施設の方にはホログラフが投影される。おかげで一般観光客との会話も可能だ。
今の俺達も変装した姿が映っているだろう。海軍の軍服姿にしているため、知り合い以外に気づかれることはないはずだ。
「あ、果物売ってるよ」
「……同じもの?」
「種類は同じだが、流石に造成物だろう。どちらにしても、俺達は食えないが」
「データもらえば良いじゃん」
「まあ確かに……それに、土産にはちょうど良いか」
「……姫様、喜ぶ」
「ポーラもだ。好きだからな」
「じゃあお兄ちゃん、早く行こ」
そういうわけで職員と交渉、というか元からそういった要望には答えているらしく、データはすぐに貰えた。
これで問題無い。
「これで食べられるね」
「そうだな。怒られなくて済む」
「……でも、姫様が言ったこと」
「怒ると言うより、八つ当たりだろう。どこかで補填する必要がありそうだ」
「無いと怒られちゃう?」
「俺がな。っと?」
今、向こうに人影が……ん?
「シェーン、レイ、2人で先に進んでくれ。すぐに追いつく」
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「……ん、分かった……レイちゃん、こっち」
「え、シェーンお姉ちゃん?」
「助かる」
まさかこんな所で会うとは思ってもいなかった。しかし、視線を向けられれば気づかないわけにはいかない。
俺は人影を追い、自然公園の端の辺りで隣り合った。軍服は陸軍のものだが、中身は違う。
「父さん」
「ガイルか。遅かったな」
「何も言われていないからな。それにしても、総司令官様がこんな所で油を売っていて良いのか?」
「お前に合わせてここに来た。他意は無い」
「なるほど。理由は?」
「久々に実の息子との会話を楽しもうと思ってな」
「それも悪くないが、本題は別だろ?早く入ってくれ」
「そうだ。今から送る」
「これは?」
そう父さんが言うと、シュミルに何かのファイルが転送さてきれた。
容量は比較的大きいようだが、中身は……?
「連邦軍から得たデータだ。見ろ」
「了解。だが、わざわざこんな回りくどいことをしてまで……っ⁉︎」
「それが理由になる。直接顔を合わせてとはいかないが、お前の反応を直接見るべきだと考えたからだ」
確かに、これはそうだ。父さん1人で判断するには重すぎるし、現場の声も必要になる。
「父さん、これは……!」
「ようやく見つけられた結果だ。諜報部には最優先で探らせていたが、ようやく得られた」
「なるほど……最優先で行動して良いな?」
「それについては許可する。だが、障害も存在ある」
「アレか。分かってる」
「そうだ。それについてもようやく情報が入った。数は少ないが、役に立つだろう。見るか?」
「当然。アレを排除するのは俺達の仕事だ。ただ、流石に情報無しだと難しい」
「第6と第9に一当てするよう命じておこう。それを生かせ」
「了解」
それなら十分だな。足りなければ自分達でやれば良い。
それと、そうだな……俺だけだと重すぎる。リーリアにも頼むべきか。
「父さん、この情報はリーリアにも伝えてくれ。残りはまだ待ってほしい」
「そうしよう。ところで、何故ここにいる?」
「メルナとポーラに追い出された。まあ、気遣ってくれたんだが」
「なるほど。弱いな、ガイル」
「ああ……ちなみに、父さんはどうだったんだ?」
「お前と変わらない。怒られると頭が上がらなかった」
「それは……母さんらしい」
3000年も昔のことだが、つい昨日のことのように覚えている。懐かしく、美しく、後悔の残る記憶。
だが、そこで立ち止まることは許されない。死者の誰も、そんなことは望んでいないはずだ。
だから歩く。父さんと別れ、シェーンとレイが向かった方へ歩いていく。合流するまでそう時間はかからなかった。
「あ、お兄ちゃん!」
「……やっと来た」
「悪いな、待たせて。遅かったか?」
「うん!」
「……そんなに」
「詫びはする。好きにしてくれ。それと、シェーンも何か欲しかったら言え。それくらいの我儘なら聞くぞ」
「……要らない、のに」
「ここには確か普通の売店もあるはずだ。面白い食材があったらどうする?」
「……それは、要る」
「わたしはどうしよっかな?」
「好きにしろ。大抵の無理は効くからな」
「はーい」
まあ、そんな無理をする必要は無いだろうが。長い付き合いだ、その程度は分かる。
逆に、俺自身も理解されているが。
「ねえお兄ちゃん、お父さんと何してたの?」
「気づいていたのか?」
「ううん。でも、シェーンお姉ちゃんが教えてくれたよ。わたしも気になってたし」
「……気にしてたし」
「そうか。これからに関わることだ。ただ、内容はまだ教えられないな。教えられるほど情報が集まっていない。そのうち教える」
「そっか」
「……じゃあその時、お願い」
「ああ。それより、今は楽しむぞ」
「うん」
やることはまだまだ多い。
しかし……今はこの時を楽しもう。今急いだところで、変わることはほとんど無い。




