第17話
新王国歴7268年7月3日
「第31偵察艦隊より報告。星系番号1000003701003、帝国名ハルパー星系の探索終了。敵艦影は認めず」
「第6偵察艦隊より報告。星系番号1000003682020、帝国名カリオストラ星系の探索終了。敵の反応は無し」
「第12偵察艦隊、発艦完了。亜空間ワープ開始」
「第27偵察艦隊、収容完了」
現在は工廠星系を追加で2つ落とし、次の場所へ向かっている所だ。ある意味、1番暇な時間かもしれない。もっとも、思考を止めることはできないが。
他の戦略艦隊からの情報を総合すると、要塞化途中の工廠星系は少ない。諜報部の情報も合わせると、どうやら特定の氏族軍が管理する場所のみが要塞化しているようだ。
どうして全てでないのかは分からないが、俺達にとっては好都合。3つ目からはそこを優先して狙うようになった。
「第13偵察艦隊より報告、白い旗艦を発見とのことです」
「場所は?」
「星系番号1000003701014、帝国名ニルゲルンド星系の第3惑星周辺、第2衛星の軌道上に存在する小惑星群の中です。確認した敵艦数は約3000万、総数は推定3億から5億」
「敵潜宙艦の反応も確認。現在8、いえ27、約100隻」
「第2、第18、第36偵察艦隊を増援に出せ。ただし、メインは潜宙艦にしろ。通常空間でやればバレると思え」
「了解。3ヶ偵察艦隊、発艦用意」
奴が出てきたか……だが、目的は何だ?
場所的には何かを守っているような感じはしないが、目的が別の可能性もある。調べないわけにはいかない。
「ここで出てくるんですね」
「理由は分からないぞ。もしかしたら、雇い主の後が無くなったのかもしれないな。やったのは俺達だが」
「それは分かったけど、じゃあどうするの?」
「……突撃?」
「いや、まだ様子を見る。何を企んでいるか分からなければ、こっちがやられる可能性もあるからな。だが、戦闘準備態勢は発令しろ」
「分かりました。それでは、潜宙艦隊を追加投入しますか?」
「そうだな。偵察艦隊以外の潜宙艦を2000隻投入しろ」
「了解です」
そして奴に対して、情報収集を怠ることはできない。情報収集をしても罠が見つからない可能性もあるが、それは理由にならない。
というより、得られた情報から罠を推測していく。その程度のことは日常茶飯事であり、俺の得意分野だ。問題は無い。
潜宙艦を投入してからしばらくすると、ある程度の情報が集まった。
「敵艦総数は約4億6000万隻、編成は巡洋艦中心。戦艦と空母は少数。敵潜宙艦も確認、数は約160万隻」
「分かった。引き続き、監視と調査に務めるよう伝えろ」
「了解」
「少ないよねー」
「ああ、少ない。前より増やすと思ったんだが……」
「……気になる?」
「当然だ。あいつは頭が切れる。無策なわけがない。これ以上の情報を得るには一当てするしかない、が……敵の目的はそれの可能性もあるな」
「どういうことですか?」
「一当てしようとやってきた少数の艦隊を殲滅し、すぐに逃げる。そういう手を取る可能性がある」
「でも、それって意味ないよね?」
「俺達には、だ。帝国軍の常識で考えるとかなり有用な手になるぞ」
「そっか」
「それでは、どうしましょうか?」
「決まってる。全力で攻めるぞ」
すると全員、いやメリーア以外は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。数瞬後にはメルナとハーヴェも気づいたようだが、残りは変わらない。
答え合わせは必要か。俺が言った罠という言葉に警戒しすぎている感じもあるな。
「え?」
「……罠、でしょ?」
「もちろん、準備はする。罠の種類はいくつか考えられるが、対処はできる。まず、防空多重円柱陣を敷け」
「防空陣、ですか」
「ああ。それと航空部隊は全機発艦、艦表面に取り付け。共に亜空間ワープをした後、別命あるまで待機しろ」
「了解。艦隊全艦へ通達」
「航空部隊、発艦開始。指示通りの配置へ」
予想している種類の罠であれば、食い破ることは可能だ。そして俺達が食い破れない罠があったとしても、逃げられない罠が用意されている様子は無い。
偽装されている可能性もあるが、これだけ念入りに調べて見つからないことは無いだろう。流石に、奇襲は2回で懲りた。
「大丈夫なんだよね?」
「予想は複数立つが、食い破れないレベルのものは考えづらい。それに、逃げるだけなら難しくない。予測データも送る」
「そっか。ん、分かった」
「……対策は、これだけ?」
「いや、まだある。全艦ミサイル装填、対艦ミサイルとクラスターミサイルを半分ずつだ。全砲門が使用できるか確認しておけ。偵察艦隊は全て活動停止、その星系に待機。潜宙艦隊は偵察艦隊に編入されている艦以外は全てこのエリアに侵入しろ」
そもそも、ワープ装置の能力は王国軍の方が上だ。逃げ足を止められる可能性は低い。退路の心配は要らないだろう。
とはいえ、そんなつまらない真似をするつもりは無いが。
「ミサイル装填完了。いつでも使用可能」
「潜宙艦隊、亜空間ワープ終了。現在位置は敵艦隊まで1億km以上。潜行と移動を開始」
「全砲門アクティブ確認。いつでも発射可能」
「航空部隊、全機発艦完了。トラクタービームでの固定確認」
「戦闘準備、全て完了」
「分かった。全艦戦闘態勢、亜空間ワープを開始しろ」
「了解。亜空間ワープ装置出力上昇、ワームホール発生確認」
「重力変位は想定の範囲内。座標修正完了」
「全艦、亜空間ワープを開始します」
「……亜空間ワープ」
一応警戒はしていたものの……亜空間ワープが終わるまで、敵艦隊に動きはなかった。
予想通りではあるが、確実に罠が張られている場所に飛び込むのは緊張する。
「亜空間ワープ終了。全艦オールグリーン」
「敵艦隊確認。艦隊正面270万kmの位置」
「敵艦隊に動きあり。陣形変換の模様。戦闘態勢へ移行の可能性大」
「全艦砲撃開始。ただし牽制程度に収めろ。航空部隊はそのまま待機」
「了解、全艦砲撃開始」
「敵艦隊の発砲を確認」
まだ本気で相手はしない。というより、本気になると罠への対処ができなくなる。
仕方がないとはいえ、今回も仕留めることはできそうにないな。
「全艦斉射確認。初段命中率、推定63%」
「潜宙艦隊、移動完了率84%。残りも140秒以内に完了する見込み」
「敵艦隊、小惑星群の内部において広域展開。小惑星群から出る動きは無し」
「周囲に大規模な空間変位反応を確認しました。全方位です」
「来たな」
ここまでは予測通りだ。問題は何が出てくるか、だが……
「空間変位、数なおも増大。現在1000万」
「全ての方を反応地点に向けろ。ミサイル発射用意」
「空間変位反応、平均距離は約2500km。最も近いものは1000km、最大で8000km」
「その距離なら敵は空母だ。航空部隊は全機離艦、80%を反応のある場所へ向かわせろ。出現と同時に攻撃開始」
「了解。航空部隊はただちに離艦、敵艦出現と同時に攻撃開始」
「反応数、現在4億」
「対艦ミサイルを全て放て、10連射だ。誘導は敵艦出現後に行え」
「了解しました」
戦艦主体と空母主体、主にこの2つを考えていた。だがこれでは主体どころか、全て空母の可能性すらある。いや、可能性はもう1つあるな。
数は予想の中でもかなり多い方になりそうだが……どうにかするしかない。
「敵艦のワープアウトを確認。1500m級空母および2500m級空母……敵機動兵器発艦確認」
「重力子砲と重粒子砲を敵艦へ向けつつ、防空に全力を注げ。ミサイルは以後全てクラスター、陽電子砲も全て対空に注ぎ込め。防空戦闘はメリーアに任せる」
「りょうかーい。陽電子砲の前にー、クラスターミサイルで散らすよー。キルゾーン作ってー」
「敵機動兵器の発艦続きます。総数3000万を突破」
「空間変位はなおも増加中。現在3億」
「陽電子砲、対空モードに変更」
「航空部隊は全力で攻撃を開始、敵艦を優先して狙え。重力子砲は2500m級空母に集中させろ」
「了解。目標選択変更、砲撃指示再開」
「発艦を中止し、加速を開始する艦を確認。ワープで逃走する模様」
「逃げる艦は無視しろ。発艦させる前の艦、および発艦途中の艦に攻撃を集中、敵を増やすな」
「手前の方が囮だからー、真ん中くらいを狙ってねー」
「了解。攻撃目標再分配」
「対空攻撃、目標空間再セット。攻撃再開」
「航空部隊の対艦攻撃効率低下。敵人型機動兵器に捕まりました」
「制空戦闘機と戦闘攻撃機が機動兵器を押さえ込め。残りは対艦攻撃を優先しつつ、マイクロミサイルをばら撒いて敵機を減らせ。艦隊直掩機は全機制空に専念。レイ、航空部隊の采配は任せる」
「はーい!」
「空間変位の増加が停止。敵艦総数は8億隻の模様」
「敵艦撃沈数、5000万を突破」
「近い分早いな。このまま続けろ」
もっとも、それも織り込み済みのことだろうが。そうでなければこんな位置に空母をワープさせるわけがない。
使い捨てるためだけにこれだけの数を用意できたことには感心するが、簡単に思いつくことだ。
「敵機動兵器、約半数が航空部隊に接近。残りは艦隊へ向かってきます」
「陽電子砲拡散率調整、有効射程調整。キルゾーン再形成開始」
「艦隊損耗率0.2%、航空部隊損耗率0.8%」
「クラスターミサイル連続発射。レーザー対空砲も全力稼動継続」
「航空部隊、敵機動兵器と戦闘続行中。しかし、爆撃機および重爆撃機の半数は対艦攻撃を継続中」
「もっと対艦攻撃に割り振った方が良いかな、お兄ちゃん?」
「いや、無理をして航空部隊が減りすぎる方がマズい。このままで大丈夫だ」
「りょーかい!」
「敵艦隊、最後の艦がワープアウト。追加の空間変位は無し」
「優先順位は変わらず、人型機動兵器の発艦前もしくは発艦途中の艦だ。重力子砲および重粒子砲は敵空母、特に正面と左右の艦を狙え。また重力子弾頭長距離対空ミサイルを20%造成、敵人型機動兵器群中央で炸裂させろ。数を減らせ」
「了解です。抽出を開始します」
「長距離対空ミサイル造成開始、重力子弾頭搭載完了」
「照準は私がやりますね。目標分配を始めなさい」
「艦隊もちょっと動かすよー。円柱陣から楕円陣に変えてー。良いよねー?」
「ああ、任せる」
「了解。艦隊陣形変更設定完了、展開開始」
「目標分配完了、ミサイル用意良し。全弾発射」
「重力子砲および重粒子砲、照準変更完了。射撃開始」
「航空部隊は1回前に出て、すぐに退いて」
「艦隊はそこを狙うよー。キルゾーン形成完了ー」
そして増加が無くなれば、あとは減るだけでしかない。途中で逃げる空母もいるがそれは無視し、踏み止まろうとする艦から潰していく。
そもそも、空母の逃走も恐らく罠だ。ワザと引っかかる必要も無い。減らせるものから確実に減らしていった。
そうすれば自然と、大型の影は全ていなくなる。
「敵空母、全て撃沈もしくは逃走を確認」
「敵機動兵器、なおも戦闘続行」
「予想通りだな。ポーラ、敵艦の情報は?」
「ワープアウトを確認した敵艦は全て空母、数は約8億隻です。2億隻は人型機動兵器発艦前に沈めたものの、5億隻は撃沈前に3%から7%の人型機動兵器を発艦させたと見られています。また、1億隻には逃げられました」
「そうか。となると、残りは……」
「現在の敵人型機動兵器の数は約400億機です。概ね1000万機から5000万機の集団に分かれています」
「その数なら問題は無い。囲まれているが、火力で押し切れる範囲内だ。航空部隊から制空戦闘機と戦闘攻撃機および攻撃機で編成された100万機の部隊を24個抽出、このルートで敵編隊へ突撃させろ。また潜宙艦隊は移動、このエリアに最大深度で潜伏しろ。移動完了後、潜宙艦隊航空部隊はこの通りに散開しろ」
「先生?」
「保険だ。防空戦闘なら潜宙艦無しでもできる」
ちなみに、一部の面々は抑えきれなかったと意気消沈しているらしい。まあ、気持ちは分からなくもない。
だが全ての人型機動兵器が発艦していれば、敵機は推定だが1兆機を超えたはずだ。3%程度に抑えられたのだから、上出来以外の何物でもない。
「全艦、重力子弾頭の長距離対空ミサイルを再度セット、敵機に接近したら起爆しろ。数を減らすことが優先だ」
「了解。重力子弾頭長距離対空ミサイル造成開始」
「目標設定、2000群選択完了」
「全弾用意良し、発射開始」
「航空部隊、敵機動兵器群への波状攻撃を開始」
「敵人型機動兵器、97群が航空部隊との戦闘へ追加参入。また56群がこちらへ来る模様」
「艦隊損耗率0.5%、航空部隊は1.9%」
「近い敵から順に片付けろ。この数なら火力はこちらが優位だ」
「了解。ターゲット再設定、攻撃開始」
しかし、侮れる敵でもない。どうやら、これらの機体の多くが敵旗艦の精密統制下にあるらしい。連携の無駄がほとんどない。
恐らく、群ごとに1人か1グループのオペレーターがいる。流石に遠隔操作ではないだろうが……最低でも数千人規模か。
連携を崩せば半分以上が食われる可能性もある。もっとも、1万機を同時に操作できる生体義鎧の連携を崩すことは俺にも無理な相談だが。
「敵機動兵器群、1群が突っ込んできます。数800万」
「撃ち落とせ。重力子砲を使っても構わない」
「了解。陽電子砲指向開始、重力子砲発射準備……発射」
「直掩航空部隊、迎撃に向かいます」
「クラスターミサイル発射。着弾まで360秒」
「敵機動兵器群に動きあり。4つに分離する模様」
「重力子砲着弾。18%を撃墜」
「航空部隊、近接戦闘開始。敵機の5%を撃墜」
「陽電子砲キルゾーン内に敵機侵入。対空砲撃開始」
「敵機、さらに分散。一部はレーザー対空砲で迎撃を」
「クラスターミサイルよりマイクロミサイル分離、最終誘導開始」
「艦隊周囲に大規模な空間変位を確認……再度の敵艦ワープです」
「かかったか」
このタイミングで来るとすれば戦艦中心の艦隊か、巡洋艦中心の艦隊だろう。正面の主力艦隊の編成、および帝国軍はミサイルをほとんど使っていないことから、前者の確率の方が高い。
そして、その場所は……予想通り、潜宙艦隊が潜んだエリアのど真ん中だ。
「潜宙艦隊へ命令。敵のワープ反応に対して魚雷十六斉射。ワープアウトと同時に命中するよう調整しろ」
このために動かしておいた潜宙艦隊へ命令、対艦魚雷が大量に連射される。戦艦すら艦隊ごと消し飛ばせる量だ。
普通こんなことをすれば敵潜宙艦に見つかるものだが、近くの敵潜宙艦は全て沈めた後だ。他の潜宙艦が来る頃には移動済み、問題は無い。
「潜宙艦隊全艦魚雷発射開始。誘導準備用意良し」
「空間変位よりワープアウト座標推定。魚雷の初期誘導を開始します」
「敵人型機動兵器群、一部がワープアウト推定座標へ接近。魚雷の一部をそちらへ進路変更」
「敵潜宙艦に動きなし。潜宙艦隊付近に潜伏している艦も無し」
「敵艦隊ワープアウト確認」
「魚雷、着弾します」
罠はあと1つか2つだろう。そして、残りも手の内は読めている。
さて、どうする?




