第14話
新王国歴7268年5月24日
「これより第2次攻撃作戦を開始する。レックス元帥、計画書通りに頼む」
『了解しました。シュルトハイン元帥、ご武運を』
「そっちにも武運長久を祈る。第1戦略艦隊全艦、亜空間ワープを開始しろ」
「了解。全艦亜空間ワープ用意、アイドリングからアクティブへ」
「出力正常。順調上昇中」
「亜空間ワープ装置、全艦稼動出力へ」
「……亜空間ワープ」
既に準備万端だった亜空間ワープ装置が全力で稼動し、ワームホールを作り上げていく。
そしてそれが艦体を通り抜けると、レーダー上に惑星が現れた。
「亜空間ワープ終了。惑星、当艦正面100万kmの位置。敵性反応は認められず」
「戦闘態勢を継続しつつ、惑星へ接近する。航空部隊は全機発艦、防空態勢を取れ。潜宙艦隊も異次元で警戒態勢だ。全艦、第3戦速」
「了解。第1戦略艦隊、全艦第3戦速」
「航空部隊順次発艦。防空態勢の構築が始まります」
「潜宙艦隊潜行開始。潜宙艦隊航空部隊も発艦準備完了」
「戦艦部隊、半数を外周配置へ」
「巡洋艦、駆逐艦、五重の防空網を構築開始」
「空母と揚陸艦は後方へ移動、機動兵器発艦後も位置そのまま」
少しずつ接近する間も、こんな近くで艦隊陣形を整えている間も、惑星に動きは一切無い。
ここまで静かだと、逆に不気味だな……
「防空態勢構築完了。潜宙艦隊、警戒態勢構築完了しました」
「惑星、99万9300kmに接近。依然、表面近傍に変化無し」
「レーダー、ソナー、共に反応無し。装置に異常は認められず」
「第5艦隊より報告。第5統合艦隊においても敵性反応は確認できず」
「出てこないか……ひとまずこのまま進め。敵が出てきた場合、対応は改めて指示する」
「了解」
……本当にいるのか?流石に心配になってきたぞ。
まあ、攻撃してきた地点まではまだまだあるから、待ち続けるしかなさそうだが。
「ガイル、敵はいそうですか?」
「程度はまだ分からないが、いるはずだ。攻撃を受けた報告は聞いているな?」
「はい。ですけど、あの見た目ではいるように感じられませんからね。説明にも必要でしょうし」
「そっちか。まあ、それもそうだな。頼んでも良いか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「任せる」
メルナの言うことにも一理ある。そしてこういう時のフォローも上手いから、任せる他に方法はない。そして実際に、油断する可能性はある。
偵察艦隊はあそこまで近寄っておらず、攻撃を受けたのは俺達3人だけだ。気を抜くなという方が難しいかもしれない。
それに、今は亜空間ワープを使っていないからな。
「現在位置、惑星まで99万8000km。反応変化は確認できず」
「お兄ちゃん、変化が小さすぎるんじゃないの?」
「かもしれないな。動くか?」
「……その方が、良い」
「派手に動かすとすると……無人戦略艦隊から2ヶ戦術艦隊ずつ抽出、亜空間ワープで20万km前進させる。その後第1戦速で前進、必要に応じて再度亜空間ワープを行う」
「了解です。抽出を開始します」
亜空間ワープを使わず空間起動だけで移動しているため、非常に時間がかかる。
既に体感時間で6時間以上だ。戦闘中ならまだしも、経験の浅い連中は気が抜けかねない。
そして、時間をかけ過ぎるのは戦術的にも戦略的にもマズい。一気に動かしてみるのも1つの手だ。
「6ヶ無人戦術艦隊の抽出が完了しました」
「戦闘艦は要塞艦直掩と遊撃に分離、全艦配置完了」
「随伴航空部隊、半数は即応態勢を維持しつつ着艦済み。もう半数は亜空間ワープ準備完了」
「要塞艦各艦、戦闘用意良し。亜空間ワープ準備完了」
「潜宙艦隊より2万隻、第4戦速で前進中。ソナーに敵影は確認できず」
「了解だ。無人戦術艦隊、亜空間ワープを開始しろ」
「了解。亜空間ワープ開始」
これで動きがあるか否かで色々と変える必要があるが……
「亜空間ワープ完了。6ヶ無人戦術艦隊全艦オールグリーン」
「惑星表面に変化あり。エネルギーの収束を確認、反重粒子砲が発射された模様」
「惑星表面形状に変化を確認。局所的ステルス場が形成されているため正確な探知は不可能なものの、敵機もしくは敵艦発進の可能性大」
「動いたか」
予想通り、だな。近いのが難点だが、この程度ならどうにかできる。
敵の詳しい正体は分からないが、今考えるべきはそれじゃない。撃退が先だ。
「艦隊の残りも亜空間ワープ用意、命令と同時に指定座標へ亜空間ワープを実施しろ」
「了解。潜宙艦隊を除く残存全艦、亜空間ワープ準備開始」
「潜宙艦隊より報告。惑星からのソナー反応は無し。未発見と推定。敵総数は推定3億」
「潜宙艦隊はそのまま待機、別命あるまで監視に努めろ。航空部隊は防空に努め、艦隊陣形を維持。第5艦隊へ通信、亜空間ワープの用意をさせろ」
「潜宙艦隊は別命あるまで潜伏、および監視を継続」
「航空部隊、艦隊陣形が破壊されないよう、防空任務に専念」
「第5艦隊へ、こちら第1戦略艦隊。接敵を確認、まもなく戦闘開始。亜空間ワープの用意を要請」
第1戦略艦隊が囮、第5統合艦隊が火力的主力となり、合同で敵戦力および惑星を攻撃する。それが作戦の概略だ。
まあ、俺達よりさらに突出している無人戦術艦隊が集中砲火を受けることになるが、この程度なら問題無い。
「6ヶ無人戦術艦隊への敵反重粒子砲着弾推定時刻まで、5、4、3、2、1、今」
「着弾は3発確認、被害無し。着弾率は推定0.0013%」
「敵反重粒子砲の推定出力は陽電子砲相当。しかし……」
「連射能力は帝国軍艦艇並み、か……」
命中率は帝国軍艦艇のものより低いが、砲の総数は多そうだ。威力が高いことも考えると、総合的な性能はレーザー推進プラズマ砲と同等か少し上だろう。
だが、本当に帝国軍がこれを作ったのか?レーザーを使っていない時点で考えづらかったが……これだけの数があるにも関わらず、今までの戦闘で見なかった理由が分からない。
まさか、とは思うが……
「今はそれを考える時間じゃない。敵のワープは?」
「未だにその反応は……待ってください」
「空間変位増大、大規模なワープの兆候らしき反応を確認。位置、6ヶ無人戦術艦隊の前方1万km」
「ワープ反応増加。現時点で大型5728万、小型2億6342万」
「多いな。だがいけるか」
「照準は整っていますから、大丈夫だと思いますよ」
「敵、第1陣のワープアウトを確認」
「撃て」
そしてワープアウトした敵、および現在ワープ中の敵も目標にし、砲撃の雨を降らせる。
敵の姿形は……魚類を金属製にしたような感じか。表面は液体金属のような光沢を持ち、各所に武装があるらしい。
こいつらの攻撃目標は6ヶ無人戦術艦隊に固まっているようだ。これなら、合計の被害は少なくて済みそうだな。囮には悪いが。
「着弾まで、3、2、1、着弾。命中率84%……え?敵にダメージらしきものはほとんど認められず!」
「……うそ……」
「何で⁉︎」
「正確な情報を全て送れ。ポーラ」
「はい!」
着弾したのにダメージが入っていない?どういうことだ……?
「先生、分かりました」
「早いな」
「隠されていませんでした。敵は表面にワームホールを展開、さらに重力場し、ブラックホールのように周囲の物質を吸い込ませています」
「吸い込まれるとどうなる?」
「どこか別の場所、恐らく別次元に飛ばされていると思います。これでは攻撃が効きません」
「それは……ラグニルには伝えたか?」
「最初から見ていたそうです」
「分かった」
まったくあいつは……だが好都合だ。俺はすぐにラグニルを呼び出した。
『お呼びかい?司令』
「単刀直入に聞く。アレの対処法はあるか?」
『重粒子砲と陽電子砲はダメだね。吸い込まれて終わるだけだよ。飽和攻撃ならどうにかできるかもしれないけど、そんな時間的余裕はないんだろう?』
「重力子砲はどうだ?」
『多分、効くと思うよ。ただ、ワームホールの重力場と干渉するだろうから、期待通りの結果になるかは分からないね。これはミサイルも同じかな』
「そうか……」
『ねえ司令、最初から分かってたんだろう?』
「まあ、そうだな。なあラグニル」
『僕は技官、指揮は君の仕事だ。頑張れ』
「ああ」
どうやら、俺の推測が当たっていそうだな。
となると……仕方ない。
「6ヶ戦術艦隊に亜空間ワープを命令、本隊後方に退避させろ」
「了解。緊急亜空間ワープ開始」
「6ヶ戦術艦隊、残存戦力89.6%。後退します」
「第5艦隊へ通信。アーマーディレスト後方10万kmの位置を中心とした半球殻陣形を形成、敵への重砲撃を開始しろ。それと同時に……」
これしかないか。
「全艦、戦術兵器の使用自由。撃ちまくれ」
「えっ?」
「先生?」
「お兄ちゃん?」
「……良いの?」
戦術兵器、空間振動兵器は王国軍の切り札の1つ。使用には准将以上の許可が必要な兵器だ。
しかし、今切ることのできるカードはこれだけだった。
「戦略艦隊司令長官の権限で許可する。空間振動砲、および空間振動弾頭を各個の判断で好きに使え。同時に、重力子砲も全力斉射だ。重粒子砲と陽電子砲は近接防空のみに使用。過剰火力をぶつけろ」
『了解しました。シュルトハイン元帥』
「レックス元帥、想定とは違うが作戦を開始する。火力支援は任せた」
『は!』
「第1戦略艦隊、全砲門開け。全力攻撃開始」
「了解。空間振動砲、全門起動。砲撃開始」
「駆逐艦および巡洋艦はミサイル用意。30%が空間振動弾頭、残りは重力子弾頭」
「航空部隊の30%に亜空間ワープの用意をさせろ。予定より早いが、1度叩く」
「航空部隊、抽出された各機は亜空間ワープ用意」
ならばそれを最大限活用するのが指揮官の仕事だ。
例え攻撃の手札が減らされようと、打てる手ならまだまだある。1つくらい切り札を切っても問題ない。
「潜宙艦隊は惑星を包囲するように展開、命令と同時に惑星近傍に展開する敵へ空間振動弾頭搭載魚雷の飽和攻撃を開始しろ。これは第5統合艦隊の潜宙艦隊も同様だ」
「了解。潜宙艦隊へ移動命令」
「第5統合艦隊潜宙艦隊、移動開始」
「戦艦を前衛に配置、その後方に空母と揚陸艦を置け。駆逐艦と巡洋艦は護衛以外を外周に展開、フリゲートは要塞艦の周囲に集まれ」
「了解。艦隊陣形変更」
「シェーン、アーマーディレストの砲撃は任せる。好きなだけ撃て」
「……了解」
幸い、防御力はこちらが上だ。そして対応するシールドを持たないならば、空間振動兵器を当てると100%落ちる。
正面からの殴り合いで負けたりはしない。
「空間振動砲、第1陣着弾。命中率61.4%。敵、約7万機を撃破」
「敵、小型機を中心に突撃を実行。ただし、陣形らしきものは無し」
「陣形無し?確かに……好都合だが、気になるな」
「調べたい?お兄ちゃん」
「まあ、終わったらな。今は後回しだ。航空攻撃部隊は亜空間ワープを開始、敵艦隊へ航空攻撃を仕掛けろ。同時に潜宙艦隊全力攻撃開始」
「航空攻撃部隊、亜空間ワープ開始。航空攻撃を実施せよ」
「潜宙艦隊、全艦攻撃開始」
空間振動波は重力波と強く繋がった空間波であり、それそのものが空間変位を引き起こすことすら可能だ。
そして物質と接するまでは空間波とほぼ同じで、ブラックホールに遠く及ばない重力場など簡単に超えられる。
そして当たれば、全てのものを陽子と中性子と電子のプラズマに分解する。威力は申し分無い。
「敵損耗率、推定2%を突破」
「艦隊損耗率0.3%、航空部隊は0.4%」
「潜宙艦隊より報告。敵からのソナー反応無し。敵はソナーを所有していないと推定」
「敵がソナーを持っているかどうかは技術的調査が終わらなければ判明しない。今は持っているものと仮定して行動させろ」
「了解」
「当艦前方1万2000kmの位置に大規模な空間変位群を確認。各個の反応サイズは微小、敵小型機がワープする模様」
「来たか。全艦空間振動弾頭対艦ミサイル40%斉射。ワープアウト後に目標を定める。空間振動砲も各個に目標を定めろ。それ以外の迎撃は各個に任せるが、防空態勢は崩すな。航空攻撃部隊と潜宙艦隊は敵本隊への攻撃を続行しろ」
「了解。全艦ミサイル斉射、誘導用意良し」
「艦隊は防空態勢のまんまだけどー、迎撃は自由だよー」
「航空攻撃部隊は攻撃を続けて」
「潜宙艦隊は現状の攻撃を継続してくださいね。敵の反撃に注意して、ですが」
問題は、空間振動砲の数が少ないことか。戦艦の艦首砲や要塞艦の大型砲塔でしか実現できなかったから仕方ないが、この数の差が問題となる可能性はゼロじゃない。
空間振動弾頭を搭載するミサイルならいくらでも作れるが、速度の問題がある。次世代艦のために要望を出さないといけないか。
「敵損耗率、推定3%を突破。しかし惑星から大規模増援の出現を確認。総数推定8億」
「艦隊損耗率0.6%、航空部隊は0.8%」
「第5統合艦隊へ命令。指定した124点へ各1から3ヶ艦群による集中砲撃を実行。使用兵装は重力子砲および空間振動砲、戦艦系艦群を中心に選べ」
「了解しました。第5統合艦隊へ通達します」
「第3から第8戦術艦隊はそれぞれ1ヶ無人戦術艦隊を連れ、左右に展開しろ。第12戦術艦隊は2ヶ戦術艦隊を率いて前進、前衛の交代だ」
「第3から第8戦術艦隊、現在位置から左右へ展開。無人戦術艦隊が1個ずつ同行」
「第12戦術艦隊、前進します。第17戦術艦隊と前衛を交代」
敵の行動は単純、集団での突撃のみだ。戦術と呼べる代物じゃないが、数が揃えば脅威になる。
やられる前に火力を集中させて落とすしかないな。
「大型の空間変位を多数確認。敵大型機、艦艇サイズの可能性大。数、小型も含めおよそ6億。中心群は方位1.34,-1.17、距離1万5000km」
「全力で迎撃だ。空間振動砲は掃射モードで使用、最低でも30%を薙ぎ払え。継続効率低下には目をつむる。瞬間効率を高めろ。ミサイルも発射用意」
「りょうかーい。迎撃よーい」
「敵損耗率、推定5%を突破」
「惑星より増援を確認。約17億4000万」
「まだ来るか。逐次投入だから何とかなっているが……」
「ガイル、考え込む時間は無いようですよ」
「分かっている。だが、少し様子を見る必要はありそうだ」
「第5統合艦隊の外周部に空間変位群を確認。1億2000万から1億8000万が8群に分かれています」
「レックス元帥へ通信。該当座標へ事前に空間振動弾頭搭載ミサイルを放て。被害を可能な限り抑えろ」
「了解しました。第5統合艦隊へ通信」
「正面1万3000kmの位置に空間変位発生。数、およそ5億」
第5艦隊にも手を出されるとなると、マズいな。まだ行動パターンを読み切れていない。
そもそも、この意味不明な敵の行動データはまだ溜まりきっていないか。予測するには不十分すぎる。
だが、いくつか分かることもある。
「第5統合艦隊より通信。射撃で出現した敵の68%の迎撃に成功。残敵の掃討も順調とのこと」
「分かった。第5統合艦隊の損耗率は?」
「現在0.04%です。増援を送りますか?」
「不要だ。それより、第12艦隊に第20戦術艦隊を合流させろ。無人戦術艦隊を2個付けてだ。予想通りなら正面攻勢が激しくなる」
「了解です」
「司令、第5統合艦隊潜宙艦隊より通信です。敵本隊へのを求めています」
「増援として出た敵集団への攻撃は許可する。だが、惑星から離れることは許可できない」
「了解しました」
連中に戦術は無い。数と勢いで押すだけだ。連携もほとんど取れていない。少数だけなら勝つことは簡単だ。
だが恐らく、敵の最終的な総数は俺達を大きく超えることになる。戦力比が同等になるかは分からないが、それまでに決着を付けなければ被害が大きくなりすぎる。
そして推定通りであれば、潜宙艦隊の役割は非常に重要なものとなるだろう。問題はそれを生かせるか、だが。
「大規模な敵増援を確認。数、およそ18億2000万」
「ちっ、まだ来るか。潜宙艦隊に攻撃させろ。最優先だ。大型機の数は?」
「了解。潜宙艦隊、攻撃目標変更」
「この増援の大型機は約2億3000万です」
「……狙う?」
「いや、大型機を目標に航空攻撃部隊を送り込む。第1戦略艦隊のみだ。抽出しろ。完了次第亜空間ワープを行え。俺の命令を待つ必要は無い」
「はーい。わたしが選ぶね」
「第12戦術艦隊と第20戦術艦隊は広域へ広がれ。その前方に第1戦術艦隊と第2戦術艦隊を展開させる。無人戦術艦隊を2個ずつ付けろ」
「了解。各戦術艦隊へ通達」
「無人戦術艦隊の移動準備完了。各戦術艦隊へリンクさせました」
「お兄ちゃん、終わったよ」
「第2次航空攻撃部隊、亜空間ワープ開始」
予測を完了して殲滅するか、勢いに押し切られるか。俺達が取れる手は二つに一つだ。
勝手が違いすぎる相手にこれは部が悪すぎる賭けかもしれない。だが……
「艦隊損耗率1.7%、航空部隊は2.1%。敵損耗率は推定6.2%で停滞。敵増援の影響です」
「正面、大規模な空間変位をさらに確認。数約8億、また第5艦隊の左右にも3億ずつの空間変位を確認」
「……正面は、優勢……でも左右は」
「数が増え続けるとジリ貧か……よし」
データは溜まった。予測も十分可能だ。そして、敵の正体もかなり予想できた。
やるか。
「第1戦略艦隊および第5統合艦隊、全艦空間振動弾頭搭載巡航ミサイルを10%斉射、潜宙艦隊は空間振動弾頭搭載巡航魚雷を100%だ。用意しろ」
「先生?」
「お兄ちゃん?」
『シュルトハイン元帥、それはつまり……』
「ああ、惑星表面のハニカム構造体を全て破壊する。恐らく、アレが残っている限り無限に出てくるぞ。一時敵部隊への火力投射量が減るが、気にするな。第1戦略艦隊の航空部隊も20%を亜空間ワープで送り込む。準備させておけ。ただし、第5統合艦隊の航空部隊には左右両翼の敵を早く排除するように言え。それと、本命は潜宙艦隊だ。着弾直前に通常空間へ浮上するよう調整しろ」
『了解しました』
「第1戦略艦隊、全艦ミサイル発射準備」
「敵、ワープアウトを確認。第5艦隊左右両翼で戦闘開始」
「航空攻撃部隊抽出開始。同時に亜空間ワープも準備開始」
「わたしにも回して」
「レイちゃん、私も手伝います」
「ありがと、ポーラお姉ちゃん」
「敵の出現予想地点はハニカム構造の中心部分だ。それ以外の破壊は避けるよう、加害範囲を狭めろ。また、全艦の着弾時間を合わせる。コース設定完了の30秒後に最初のミサイルを発射、その後順次だ」
「了解です。コース設定を開始します」
「航空攻撃部隊の抽出を完了。亜空間ワープ準備も終わっています」
「ミサイル設定完了しました」
「第5統合艦隊も準備完了とのこと」
「各艦、順次ミサイル発射。着弾確認後、第3次航空攻撃部隊は亜空間ワープを開始しろ」
俺の予想通りであれば、アレは巣だ。基地とは違う。製造拠点……いや、繁殖拠点の方が近いか。そんな場所だろう。
女王のような存在がいるかは分からないが、優先して破壊するべきだろう。
「惑星より大規模敵増援……同時に空間変位を多数確認。正面6億、左右1億4000万ずつ。また、ワープしない敵が約3億」
「第5艦隊は左右の敵の排除を優先しろ」
「敵ワープアウト。第5統合艦隊の左右両翼での戦闘が激化します」
「正面の敵、総数約21億へ増加。内、大型機は約4億」
「惑星からさらなる大規模な敵増援を確認。数、およそ14億」
「……アーマーディレスト、ミサイル発射完了」
「通常空間全艦空間振動弾頭搭載巡航ミサイル発射完了。潜宙艦は魚雷発射中」
「艦隊損耗率3.8%、航空部隊は4.5%」
「第5統合艦隊損耗率0.15%を突破」
「潜宙艦隊全艦巡航魚雷発射完了」
もっとも、外れている可能性もかなり高いが。こんな意味不明な相手を短時間で看破できるわけがないからな。
だが、勝つために必要なことを全て行う。それだけだ。
「全艦へ通達。通常空間の全艦全機は元の通り戦闘を続行。潜宙艦隊は空間振動弾頭搭載巡航魚雷を同じ設定で100%斉射五連。ただし、着弾座標は直前に修正しろ。その後、半数は敵本隊を包囲するように移動」
「りょうかーい。全艦空間振動砲砲撃よーい」
「潜宙艦隊は全艦が100%斉射五連を終了しました。移動を開始します」
「航空部隊前衛、敵小型機前衛との近接戦闘を開始しました。前方約6000kmの位置です」
「巡航ミサイル、着弾まで20秒」
「第5統合艦隊左右両翼での戦闘において、敵の84%を排除。残存も順次殲滅可能とのこと。第5統合艦隊損耗率は0.17%」
「惑星より敵大規模増援出現。数およそ17億」
「巡航ミサイル着弾します」
広範囲をプラズマに変貌させ、消し去るその威力は惑星に対しても有効だ。
いや……惑星に対して使うには過剰威力か。こういう時以外は使うべきじゃないな。星そのものに罪は無い。
「巡航ミサイル着弾率53%。また、巡航魚雷第1波も同時着弾。魚雷着弾率98%」
「ハニカム構造体の47%が消滅。21%が半壊」
「先ほど出現した敵増援の18%が消滅。突撃態勢も乱れました。現在、ワープの兆候無し」
「第3次航空攻撃部隊、亜空間ワープ開始」
「正面敵本隊、速度上がりました。代わりに射撃精度低下、焦っているようにも見えます」
「そうかもしれないな。第2波はどうだ?」
「巡航魚雷第2波、着弾まで15秒。設定変更完了済み」
「分かった。そのまま当てろ。第9から第16戦術艦隊は亜空間ワープ、敵本隊の左右に展開しろ。残りの艦は空間振動弾頭搭載対艦ミサイルを30%斉射三連、波状攻撃だ」
とはいえ、今手加減する理由はどこにもないが。
今着弾した第2波の魚雷の数は5倍。弾体総数は劣るものの、被迎撃率は大きく違う。目論見通りに、効率的に破壊することができる。
これでトドメだ。
「巡航魚雷第2波、97%が目標へ命中。惑星表面のハニカム構造体は全て消滅」
「第9から第16戦術艦隊、亜空間ワープ終了。他全艦、空間振動弾頭搭載巡航ミサイル発射完了」
「一部、惑星内部にも構造体を確認。砲撃しますか?」
「いや、機動兵器にやらせる。潜宙空母を一瞬だけ浮上させ、潜宙艦隊航空部隊を発艦させろ。第1戦略艦隊だけで良い」
「了解。潜宙空母、および護衛各艦浮上。航空部隊発艦」
「それとレイ。アーマーディレスト所属航空部隊から15%抽出、敵本隊へ左右から航空攻撃をさせろ。その後、第1から第5戦術艦隊航空部隊から30%抽出して敵本隊後方から攻撃だ」
「はーい。じゃあ、直掩機から多めに取るから気をつけてね。始めて」
「了解。第4次、および第5次航空攻撃部隊、抽出開始」
「潜宙艦隊、全艦が移動終了。攻撃は継続中」
「潜宙艦隊には大型機を優先して攻撃させろ。惑星近傍に残った部隊には敵残存戦力の掃討と、逃亡する敵がいないか監視するよう命令を通達」
「了解」
俺の予想は当たっていたようで、これ以降敵の増援が現れることはなかった。
そして、増援がいなくなれば何のことはない。時間はかかるが、敵の数は急速に減っていった。
「敵、最後の小型機の撃墜を確認。レーダー、およびソナーに他の反応無し」
「終わったか……」
「疲れたね……」
「……疲れた」
しかし、変に長く感じたな。
正直言って、このまま寝てしまいたい気分だが……
「休めるのはもう少し後ですよ。まだやることがありますから」
「分かってる。ポーラ、損害は?」
「艦隊損耗率5.8%、航空部隊は6.9%です。あの数を相手にしたことに比べれば、少ない損耗になっています」
「まあ、大型機と小型機をまとめていたからな。戦闘評価の時は大型機を戦闘艦扱いにする必要がありそうだが……第5統合艦隊はどうだった?」
「第5統合艦隊の損失艦は19万7628隻、戦死者は5713万2412人になります」
「流石だな。俺達が正面で被害担当になったとはいえ、左右両翼は直接戦闘もした。損耗をこれだけに抑えたのはレックス元帥だからだろう」
『いえ、そんなことはありません。シュルトハイン元帥のおかげです』
「これは謙遜することじゃない。誇れ。お前の実力はよく知ってる」
『は。それでは、誇りとさせていただきます』
「それで良い。では、もうしばらく頼む」
20ヶ艦群程度が無くなっただけであり、再編成が必要な部隊も少なく、第5統合艦隊の戦力は未だ大きい。
いや、5000万人が死んでおいてこの言い方はアレか。定着したものは無くならないとはいえ、良いことじゃない。
「あの惑星へ調査艦隊を派遣する。工作艦と揚陸艦をペアにし、護衛艦として軽巡洋艦から軽駆逐艦を1隻ずつつけろ」
「了解です。調査艦隊抽出開始」
「地上には残存戦力が残っている可能性もある。制宙権は確保しているが、油断するな。ハーヴェ」
「おう」
「調査艦隊の指揮を執れ。陸戦の可能性が残っている以上、適任だ」
「了解、任せとけ」
「任せる。レイ、航空部隊を追加派遣して調査艦隊を守ってやれ」
「りょーかい。アーマーディレストの直掩機から貰っても良い?」
「良いぞ。ポーラ、偵察艦隊はここの他の惑星か、周辺10光年以内の星系にのみ派遣しろ。今は守りを固めたい」
「了解です」
「他は警戒態勢を維持しつつ待機。奇襲される可能性はゼロじゃない。備えろ」
さて、何か分かることがあれば良いが……
・空間振動兵器
王国軍の戦術兵器。使用には准将以上の許可が必要。ただし本当に必要であれば事後報告も可。
重力波と強い関係を持つ空間振動波を陽子・中性子・電子の共振周波数に合わせ、それらの合成波を放つ兵器。直撃すれば問答無用で原子内結合を切断され、プラズマと化す。なお、空間振動波は重力波と同じく速度は光速で一定。
空間振動砲は戦艦の艦首砲、もしくは要塞艦の巨大砲塔で、取り回しが良いとは言えない。しかしエネルギーを継続して投入するこたにより、他の砲では出来ない掃射も使用可能。
ミサイル・魚雷にも空間振動弾頭が存在し、これは全ての艦が使用可能。ただしこちらは速度の問題があるため、運用には色々と制限がある。




