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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

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第12話

 

 新王国歴7268年5月11日




「無様ね」

「言い訳はしない」

「事実なんだから、出来るわけないわ」

「その通りだ」


 あの戦いの後、第1戦略艦隊はそのまま行動を続ける予定だったが、リーリアからの連絡があり、急遽第4戦略艦隊と合流した。

 そしてこれだ。全て俺が悪いとはいえ、な……


「まあ、貴方を責めても仕方がないわ。それより、その指揮官の話を聞かせて」

「事前に送った通りだ。相手の指揮官の思考を読むことが上手い。正面からの戦いなら、俺ともしばらく張り合えるくらいだ。まあ俺やリーリアなら奇策を使わなくても、消耗戦に持ち込めば確実に勝てる。他の戦略艦隊でも勝てるだろうが、厳しい戦いになる。あの倍の艦隊を指揮してきた場合、2ヶ戦略艦隊でも勝てない可能性もある」

「貴方が言うなら信じるわ。それで、対応策には?」

「難しいことじゃない。火力で圧殺するだけだ。例え敵の指揮が上手くとも、圧倒的な火力を投射すれば負ける理由はない」


 策が意味を無くすような数、もしくは火力。それがあれば確実に勝てる。王国軍の場合、それが火力なだけだ。

 もっとも、その火力の差を作るのが難しいんだが。元々の数が違いすぎるからな。


「同じね。私達以外が確実に勝つなら、それしかないわ。ただ、帝国と似た手になるのは気にくわないわね」

「見た目だけだ。中身は違う」

「それでもよ。まあ、それでも数は劣るんだけど」

「王国軍は火力とシールドを伸ばしたからな。数を増やした帝国と違うのは当然だ。負ける気はないが。とはいえ……」

「ん?」


 これはただの妄想に過ぎないが……


「あいつとはまた俺が戦う、そんな気がするな」

「なに、また勘?」

「いや、勘ですらない。何となくそう感じているだけだ」

「そう。まあ、貴方がやる気なら良いわ。それに、必要な時は手助けもするわよ?」

「助かる」


 リーリアが手伝ってくれるなら心強い。援軍が不可能な距離でも、指揮を執ってくれるだけで勝ちの目は増える。

 まあ、それはその時になってから考えるとしよう。

 ここで俺達は話を止め、予定通り父さんと通信を繋いだ。


『報告は見たぞ、ガイル。自分で制限を提案しておいて、自分で破るか』

「すまない、父さん。だが、あいつ相手に手加減は難しい」

『それは理解した。しかし、これでは模範にならないだろう』

「それは……ごめん」

『だが、全て終わったことだ。今後を気にするべきだろう』

「了解。それで、今後の予定は?」

「総会議は必要?」

『不要だ。この程度で戦略の大綱を変える必要はない。だがガイル、注意喚起はお前が作れ』

「了解。対策もいくつか載せておく」

『そのあたりは任せる。だが、メルナ殿下にあまり負担をかけるなよ』

「分かってる。これくらいなら1人でも出来るから大丈夫だ」

「私も手伝うわ。あまり遅くなっても悪いでしょ?」

「助かる」


 情報提供だけでも他の司令長官達は上手く動くし、対策を与えればなおさらだ。

 遭遇しても大丈夫だろう。しかし……


『しかし……ガイルに負けた以上、そこに残る可能性は低いだろう。帝国軍はそういう組織だ』

「でも、規模が大きい戦いに投入される可能性は高いわね」

「分かってる。反対側の作戦に6ヶ戦略艦隊を投入してくれ。こっちは俺とリーリアでどうにかする」

『了解した。数はもう一方の作戦に投入する。だがガイル、代わりに海軍から第5と第9をつけよう』

「レックス元帥とミーシャ元帥を?良いのか?」

『問題無い。むしろ少数精鋭にはうってつけだろう?』

「そうだな。それなら、ありがたく受け取る」


 そしていくつかの連絡事項を伝え合い、簡略軍議は終了した。

 この後は注意喚起書類の作成と細々とした事務仕事をする予定だったのだが……


「さて貴方、デートに行くわよ」

「おいこら、まだ仕事中だ。第一、これはどうする?」

「そんなもの後でもできるでしょ?勤務時間なんて後で調節できるわ。余裕があるうちに行きたいもの」

「はあ……分かった。モールで良いんだな?」

「ええ。貴方もよく知ってるでしょ?」

「中身は第4と同じだ」


 モールの中身は第11を除いた全ての戦略艦隊で同じ、定期的な交換も同時だ。

 だからどちらでやろうと違いは無いが……リーリアが求めているのはそういうことじゃないからな。


「さて、まずは……確かパンケーキの店が新しくできてたな。行くか?」

「良いわね。そこにはまだ行ってないのよ」

「なら決まりだな」


 良し、第1段階は成功だ。リーリアが知らないところなら文句は出ない。俺だけ知らない方も多いから、そこに不満はないだろう。

 だから2人でモールまで移動し、その店に入った。

 そして迷った。


「デザートだけじゃないのね」

「軽食の類いもあるか……悩むな」

「ええ。甘いものも種類が多いし、どれにしようか……」


 意外と、というか予想以上に種類が多かった。デザートだけでなく軽食系もあり、美味そうなものばかりだ。

 リーリアも悩んでいるが、本当にどうしようか……


「よし、これにするか」

「貴方はソーセージ付きの軽食?じゃあ、私はこれね」

「生クリームばかりだな……」

「それが良いのよ?」

「流石に多くないか?俺も甘いものは好きだが……」

「なら良いじゃない」


 まあ、悪いわけじゃない。胸焼けはしそうだが。


「それにしても、変わったわね」

「この状況が、か?」

「ええ。今でも、時々夢じゃないかって思うことがあるわ」

「確かに。まあ、変わらないものもあるけどな」

「私達の関係は同じね。そこはいつまでも変えないわよ?」

「分かってる。だが……」


 その通りだ。俺達にとって、予想から大きく離れたことに変わりはない。


「本当に変わった……ほんの500年前なのにな」

「今ではこんな、あの星から遠く離れた銀河まで来てるのよね」

「少し前まで、ここまで遠いとは思ってなかったから、余計にそう感じるのかもしれないが……」

「シャルハート双銀河が候補筆頭だったもの。仕方ないわ」

「それならどれほど良かったか。30%とはいえ、流石に銀河1つを相手にするのは負担が大きすぎる」

「それでもやるしかないわね。王国の安寧のためには、敵を全て無くさないといけないもの」

「ああ、それも変わらないことだ」


 王国を守るためには、全ての敵を駆逐するほかない。それが俺達の出した結論だ。

 そして、変わったのはこれだけでなく……


「変わったな、俺達も……」

「それは、そうね……変わらないとやっていけなかったわ」

「生き残るためには、か。何故俺達が生き残ったのか、運命を恨んだ時もあったが」

「私もあったわね、そういうこと。でも、生きてることには感謝してるわ。貴方とこうしていられるんだもの」

「そうだな」


 間違いなく、俺が戦ってこられたのはリーリア達のおかげだ。支えがいなければ、心は確実に折れていた。

 まあ、リーリアも同じことを言うだろうが。


「言うわよ」

「心を読むな。それにしても、遅いな」

「毎回作ってるみたいね。出来るだけ店主と同じ作り方になるように、キッチンを改造したらしいわ」

「なるほど……ああ、チェーン店のためか」

「このタイプのチェーン店は珍しいわよね。無いわけじゃないけど」


 そんなことを話しているうちに、出来上がったらしい。席に届いたパンケーキはどちらも見た目から綺麗で、美味そうだ。

 というか実際に美味い。


「これはまた……」

「美味しいわね。貴方、食べる?」

「混ぜろと?」

「そんなことは言ってないわよ?」

「目が言ってるな」

「面白いことを言うわね」

「分からないか?」

「貴方が面白がってることは分かるわ。それと、少し焦ってることね」

「それは言うな」

「理不尽よ」


 何が理不尽だ。人の心を勝手に読む方が理不尽だろ。まあ、俺が分かりやすいだけなんだろうが。

 そして、この手の会話は店を出てからも続く。


「次は……どうした?」

「服が見たいわね」

「俺がエスコートするんじゃなかったのか?」

「そんなこと一言も言ってないわ」

「ちっ」

「マナーがなってないわね」

「俺達の間に細かいマナーが必要か?」

「無いようで有るものよ」

「了解」


 まあそうだな。親しき仲にも礼儀あり、だ。

 俺とリーリアの間に礼儀というものが存在するかどうかはさておき。


「仕事詰めでしばらく来れてなかったから、新しい物が欲しいわね。貴方が選んでくれるなら尚更よ」

「分かった。どの店が良い?」

「そうね……ドレス風の服が良いわ」

「アレか?珍しいな」

「今はそういう気分なのよ。貴方も見たいでしょ?」

「分かりました、お姫様」

「やめなさい」


 リーリアは嫌がっているが……冗談のつもりじゃないんだぞ?

 意外とそういうのも似合うと思う、って睨むな。


「着心地はどうだ?」

「そうね……この青いのは気に入ったわ。貴方はどう?」

「俺はこっちの濃緑の方が良いな。肌の色が映える」

「じゃあ、両方にするわ。貴方、私の部屋にお願い」

「分かった。仕方ないな」

「ありがと。お礼はまた今度ね」

「バカ言うな。それがお礼だ」


 気晴らしをさせてくれたこと。それと、気遣ってくれたこと。これはそのお礼だ。

 気にされるとこっちが困る。


「そう?じゃあ、そういうことにしておくわ」

「助かる。それで、次に行きたい所はあるか?」

「貴方が決めて」

「それなら……ゲームセンターはどうだ?」

「却下」

「ぐっ……映画」

「却下よ。もうそんな時間無いじゃない」

「アイスクリーム、パフェ、ケーキ、それと別の服……部屋着か?」

「全然駄目ね」

「全部不可か……」


 ちくしょう。難し過ぎるぞ。


「それで、どこに行く?」

「どこでも良いわ」

「は?」

「貴方と一緒にいられれば良いのよ。ゆっくりできるならなお良いわね」


 そんなことも分からなかったんだな、俺は。

 だがそれなら話は早い。うってつけの場所がある。


「なら自然公園だな。あそこなら要望通りだろ?」

「それで良いわ。本当は気づいて欲しかったんだけど」

「無茶を言うな。俺に心は読めない」

「私達だって違うわよ?」

「似たようなものだろう、あれは」

「全然違うわ」

「じゃあ何だ?」

「経験よ。実際は予想してるだけね」

「同じだろ」

「違うわね」


 そんな言い合いをしつつも移動し、俺達は自然公園の中にある花に囲まれたベンチへ腰かけた。

 ここはアーマーディレスト級の中に自然を再現するためのエリアで、このベンチみたいに見栄えの良い場所が何ヶ所も存在する。

 もっとも、管理体制はコロニーより厳しいけどな。土に見えるものは全てナノマシンで、草木への栄養補給は徹底して管理されており、落葉などはすぐに処理される。

 アーマーディレスト級が求められる役割の一部を考えると、これは仕方がないことだ。


「ねえ、貴方」

「ん?」

「今日はありがとう」

「急にどうした?」

「良いでしょ?これくらい。言いたい気分なのよ」

「それなら、俺も言わせてくれ。ありがとな」

「何それ。両方言ったら意味ないじゃない」

「これくらい良いだろ?」

「もう」


 呆れられたが、仕方ない。

 俺はリーリアの肩に手をかけ、引き寄せた。


「なあ、リーリア」

「なに?」

「ありがとな」

「また?仕方ないわね」

「良いだろ?」

「良いわよ……私も。ありがとう、ガイル」


 ……久しぶりに名前で呼ばれたな。いつぶりだ?


「そうね……確か1200年ぶりよ。その前は確か2000年ね」

「自分勝手だな、リーリア」

「でも、そういう気分なのよ……今はね」


 そんなこともあるか。仕方ないな、リーリアは。

 そうして俺達はしばらくこの体勢で話をしながら、ゆっくりとした時間を過ごす。だいたい1時間くらいか?


「さて、そろそろ行くぞ」

「そうね。仕事も終わらせないといけないし」

「例の注意喚起書類もさっさと終わらせたいからな。予定が狂った」

「大変ね。貴方は書類仕事が遅いもの」

「誰のせいか分かってるのか?」

「さあ?」

「まったく。だが、それで良い」

「いつも通りだから、よね?」

「ああ。変に変わる必要はない。いつも通りでいてくれれば、それで十分だ」

「分かってるわ。だからこうしてるのよ」


 俺達にとって、場所と時間は関係ない。相手がいればそれで成り立つ。それは他の4人にも言えるが……やっぱり、リーリアは特別だ。

 とはいえ、その特別をいつまでも堪能する余裕はない。少し急いで司令長官執務室に戻ると……そこには2つの人影があった。


「あ、来た」

「……遅い」

「レイ?」

「シェーンも?どうしたのよ?」

「……これ、見て」

「ん?ああ、作戦命令書か。修正は終わったんだな。だが、父さんも直通で送れば良いだろうに」

「だってお兄ちゃん、やるの遅いでしょ?」

「……姫様がいないと、終わらない……規則、は、規則」

「だそうよ?」

「つまり、もうメルナの手が入ってるわけか。予定を加えないとな」


 いつまでも借りてばかりはダメだ。いつか帳尻を合わせないといけない。

 メルナの場合、返済は楽だが……数が多い。


「貴方、私の時間を減らすのはダメよ?もちろん、レイ達のもね」

「俺個人の時間を減らすつもりか?」

「ええ」

「うん」

「……そう」

「はぁ……まあ、今までそれでやりくりしてきたからな。特に問題は無い」

「なら、良いわね?」

「ああ」


 その辺りはどうにかするとしよう。幸い、今までもどうにかできていた。

 っと、いつまでも話続けるのは駄目だな。終わらせなければならないことがある。


「さてと、仕事を始めるぞ」

「私は戻るわ。そろそろ動かないと遅れるもの」

「分かった。そっちは任せる」

「ええ、貴方も。レイ、シェーン、元気でね」

「……大丈夫」

「うん。リーリアお姉ちゃんも頑張って」

「もちろん。だけど、ガイルの無茶は見逃しちゃダメよ。メルナとポーラにも言っておいてね」

「はーい」

「……了解」

「お前達……まあ良い」


 このやり取りもいつも通り、か。












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