第6話
新王国歴7268年4月27日
「潜宙艦隊、全艦攻撃準備完了しました。被発見の報告は無し」
「第1戦略艦隊、全艦全機戦闘準備完了」
「第12統合艦隊、第2軍団、双方ともに戦闘準備全て終了。配置につきました」
「先生、時間です」
「これより帝国工廠星系攻撃作戦を開始する。同時に潜宙艦隊は攻撃開始」
「了解、潜宙艦隊攻撃開始」
「および全艦戦闘態勢、亜空間ワープを始めろ。ワープアウトは例のタイミングだ」
「全艦への戦闘態勢発令が終了しました。亜空間ワープ準備も全て完了しています」
「……亜空間ワープ、開始」
到着から3日後。8ヶ所の工廠星系へ同時に攻撃を開始する第1次攻撃作戦。
事前に決めていた時間となり、それが始まった。
「亜空間ワープ終了。第1戦略艦隊、第12統合艦隊、全艦オールグリーン」
「潜宙艦隊、全艦攻撃に成功。目標となった敵基地全てを破壊しました」
「敵艦隊を正面に確認。距離200万km、総数約7億隻。内、潜宙艦は300万隻」
「機動要塞を確認、合計480隻」
約2億隻を基地と共に殲滅し、両惑星で海軍と対峙するのは合計4億隻、惑星と衛星上の予備兵力は約2億隻。目の前にいる艦隊も含め、これがこの星系における帝国軍の全戦力だ。
「索敵通りだな。全艦攻撃用意。第1目標、敵空母。第2目標、衛星上の機動兵器基地。機動要塞は第3目標だ。敵潜宙艦へは魚雷一斉射。全艦攻撃開始」
「第3惑星、第4惑星の艦隊の一部からも狙われる位置ですが」
「それならむしろ好都合だ。もし撃たれたら、適当に撃ち返すように言え」
そして駆逐艦と巡洋艦は空母を狙い、戦艦群の砲は基地へ向けられ、威力過剰な要塞艦の重力子砲は機動要塞へ放たれた。
数では劣るが、火力で圧倒する王国軍の砲撃、とくと味わえ。
「全弾飛翔中……敵艦隊発砲」
「この距離なら大した効果はない。最高効率で撃ち続けろ。潜宙艦隊は作戦通り移動を開始、敵潜宙艦は数隻までなら秘密裏に処理を、100隻以上の艦隊を新たに発見した場合は報告しろ」
「了解。潜宙艦隊移動開始、次の作戦配置へ」
「航空部隊全機発艦完了、抽出終了」
「最初はこことここだよ。お兄ちゃん」
「高速戦艦500隻の抽出が完了しました」
「分かった。航空攻撃部隊、および高速戦艦部隊、亜空間ワープ開始」
「りょーかい!」
まあ、着弾までまだまだ時間はかかるが。それまではレーダー情報を元に連射しなければならないが……この距離なら、海軍でも命中率は50%を軽く超える。至近距離でなければ、王国軍が有利だ。
そしてそれらの砲撃が着弾する直前に、航空部隊が亜空間ワープを敢行、敵艦隊の左右後方へ現れた。またその直前に500隻の高速戦艦が敵艦隊上方へ出現、数十斉射した後に亜空間ワープで退避する。陽動でしかなかったが、意外と効果は大きいようだ。
「航空攻撃部隊、攻撃開始」
「砲撃第1波、着弾します」
「潜宙艦隊、12%が目標地点へ到着。他は移動中、敵潜宙艦隊の報告は無し」
「砲撃第1波、着弾率86.7%。第2波着弾、着弾率87.3%」
「沈んだ艦はあるか?」
「1500m級空母は1.7%、2500m級空母は1.2%沈みました。大破は合計3.1%です」
「意外と多いな。このまま徹底して空母を殲滅しろ」
「了解」
「敵弾着弾、被害無し」
「今はまだ、だな。少しずつ精度は上がる。艦隊陣形を鈍型8層円盤陣へ変更」
「了解です」
初弾の命中率と結果には圧倒的な差がある。
これは帝国軍の射撃管制装置より王国軍のステルス装置の方が高性能であり、僅かに当たる弾も強固なシールドが防ぐからだ。
しかし、帝国軍艦艇の連射速度は王国軍以上だ。時間が経てば、命中精度は高まる。早いうちに殲滅しなければならない。
「航空攻撃部隊、損耗率0.3%」
「敵空母撃破率、5%を突破」
「敵潜宙艦隊へ魚雷着弾……殲滅完了」
「遅いな……航空攻撃部隊第2陣と同時に水雷攻撃を行う。ポーラ、フリゲートから重巡洋艦までの中から12万隻を抽出しろ」
「了解です。すぐに始めます」
「レイ、航空攻撃部隊第2陣の作戦を変更、この6方位から攻めさせろ。メルナは継続して砲撃を指示、敵空母を周辺ごと殲滅するように集中砲火だ」
「はーい」
「ええ、良いですよ」
「シェーン、アーマーディレストの砲撃は半分を衛星上の基地に、4分の1ずつを左右の惑星に分けろ。惑星は両方とも、エネルギー制御力場で覆ったからな」
「……了解」
「メリーア、また敵が突っ込んで来る可能性が高い。防空戦闘も含め、艦隊前衛の指揮は任せる。ハーヴェは揚陸部隊を用意しておけ。隙が出来次第すぐに投入する」
「りょうかーい」
「任せとけ」
「戦艦および要塞艦は惑星上基地へ向けて重力子弾頭巡航ミサイルを発射しろ。牽制射だ、効果は薄くても良い」
このミサイルに陽動以上の意味はない。ステルス性の高い巡航ミサイルだが、距離がありすぎる。少なくとも99%は撃ち落とされるだろう。
しかし、今のメインは艦隊戦だ。ここまで空母を優先して狙った結果、敵空母の撃破率は早期に30%を超えた。
「砲撃目標を空母から少しずつ戦艦へ変更しろ。敵基地および機動要塞への攻撃は継続、素早く打ち破れ」
「艦隊損耗率1.5%、航空部隊は1.9%」
「敵艦隊撃破率14.3%」
「敵機動要塞は?」
「103隻、21.5%です。しかし、旗艦は撃沈していない模様です」
「基地が統率してる可能性もあるな……レイ」
「できたよー」
「ポーラは?」
「既に終了しています」
「良し。航空攻撃部隊第2陣、水雷攻撃部隊、亜空間ワープ開始」
「了解。航空攻撃部隊、水雷攻撃部隊、亜空間ワープ開始」
「潜宙艦隊、42%が目標地点へ到達。潜宙艦隊所属の航空部隊は展開率72%」
「敵潜宙艦隊は確認できず」
「分かった。潜宙艦隊はそのまま行動を継続、目標地点へ展開しろ。ただし、作戦前に100%になったとしても待機させておけ」
「はっ!」
亜空間ワープを行った航空攻撃部隊第2陣と水雷攻撃部隊は6つに分かれ、敵艦隊の上下左右と後方、および衛星の基地上空に出現した。
そして航空攻撃部隊の制空戦闘機と戦闘攻撃機が人型機動兵器を排除し、攻撃機、爆撃機、重爆撃機がミサイル攻撃を開始する。
水雷攻撃部隊も負けておらず、フリゲートや軽駆逐艦は本領発揮とばかりに突撃、敵艦隊へ大量のミサイルを浴びせかけた。
また、敵基地に対しては砲撃も行なっており、特に軽巡洋艦や重巡洋艦は盛んに砲塔を動かしている。
「敵空母撃破率68%、敵機動要塞は150隻撃沈」
「航空攻撃部隊損耗率1.4%」
「水雷攻撃部隊、損耗率が1%を超えました」
「艦隊損耗率2.1%、航空部隊は2.6%」
「艦隊陣形を天型砲撃方陣へ変更、敵艦隊中央部への火力を強める。その後……ちっ、陣形変更、防空8重楕円陣へ移行」
「え、防空陣?」
「敵の予備兵力が出てきた。衛星からは8000万、空母が合計600万隻だ。恐らくワープで攻めてくる。この数の空母を相手にするなら、防空陣の方が良い。第12統合艦隊にも……」
「え?せ、先生……敵艦隊から平文で映像音声複合データが届きました。ウイルスは確認されていません」
「は?……まあいい、とりあえず流してくれ」
「了解です」
映し出されたのはシュベールの、恐らく男。年齢は……王国人換算で15から18か。俺達には分からないが、AIはしっかり違いを認識して答えを出せる。
そいつが口を開いて言った言葉は……
『やあやあ、ボクはアルスタード氏族軍シュタイン爵艦隊のベガルタ-フォン-スルトエ-シュタイン、これからキミ達へ攻撃をする者だ。バーディスランド王国、だったかな?キミ達の鳥脳じゃ覚えられないかもしれないけど、あの世へのお土産くらいにはなるだろう?せいぜい、最後の時を楽しみに待っていれば良いよ』
……は?
「……バカ?」
「バカですね」
「はい」
「うんうん」
「ウイルスを仕込んでいるならまだしも……だが好都合だ。第13戦術艦隊へ連絡、配置をこれに変更させろ。恐らく食いつく。第101と第102も移動だ」
「了解。第13戦術艦隊旗艦へ通達」
「第101無人戦略艦隊、第102無人戦略艦隊、艦隊陣形変更開始」
「潜宙艦隊全艦目標地点へ到達、航空部隊も展開完了」
「分かった。潜宙艦隊はそのまま待機しろ」
「了解しました」
自己顕示欲の大きいバカの相手は疲れる。まあ、味方じゃなく敵なだけかなりマシだが。
無能な敵は有能な味方より有り難いものだ。
「他の艦は砲撃方陣に戻れ。ただし、指定通り偏りを持たせろ」
「了解、第13戦術艦隊以外へ通達……」
「お兄ちゃん、航空部隊は?」
「そっちもそのままだ。ただし、第2陣の帰還を少し伸ばす。第3陣はアレの処理が終わってからだ」
「はーい」
とはいえ、対処に時間がかかることに違いはない。
多少予定を変更し、しばらく待った後。
「敵艦隊出現。先ほどの予備兵力だと思われます。先頭は第13戦術艦隊の側面500km、数およそ1億2000万」
「かかったな。第13戦術艦隊は作戦通りに動け。他は敵主力艦隊への攻撃を継続、作戦発動に備えろ」
「了解です」
「予想より多いが、問題無い。2億隻全てが来ても殲滅できる作戦だ。他の敵予備兵力がどこにいるか分かるか?」
「2000万隻は前方の敵艦隊に合流しました。残りは4000万隻は第4惑星側の海軍へ奇襲を仕掛けたようですが……第12統合艦隊は十分な防御を敷いています。殲滅は時間の問題だと考えられます」
「分かった。それなら、俺達はこいつらを殲滅するとしよう」
ようやく出てきて、予想通り艦隊側面への突撃を始めた連中は、空母800万隻と戦艦300万隻を主力に、多数の駆逐艦と巡洋艦で構成されていた。機動要塞は68隻と少ない。
人型機動兵器による近接戦闘と駆逐艦および巡洋艦の水雷攻撃を意図した編成だろう。
「敵突撃艦隊、艦隊陣形内部へ侵攻を開始。重駆逐艦と軽巡洋艦が主力として応戦中」
「至近距離戦闘のため、双方とも被害甚大」
「迎撃部隊、対艦ミサイル連続斉射。敵突撃艦隊前衛へ集中的に攻撃を行っています」
「制空戦闘機中心の制空航空部隊、敵機動兵器との戦闘を開始。一部は対艦攻撃を開始」
「第13戦術艦隊旗艦、護衛の戦艦および大型戦艦、阻止砲撃を始めました」
なお、攻撃自体は本気で行わせる。といっても数に限りはあるが。艦隊の本気を出すと、罠に嵌められないからな。
だが向こうはそんなことも知らず、こっちの努力を嘲笑っているつもりなのだろう。敵艦隊は細長くなりつつも、少しずつ陣形の内部へ入り込んでいった。駆逐艦や巡洋艦で構成され、第13戦術艦隊旗艦がゴールとなる、その通路を。
かかった時間は……現実で20秒ほどか。長かったな。
「今だ、攻撃開始」
「了解、全艦攻撃開始」
「水雷攻撃艦隊、全艦突撃開始。ミサイル斉射」
「対艦航空部隊、全機亜空間ワープ終了。敵艦の至近距離に出現しました」
「敵突撃艦隊の外周に展開する高速戦艦、戦艦、大型戦艦、および各種要塞艦が砲撃開始」
第13戦術艦隊を構成する艦艇のうち、空母と揚陸艦は離脱済み、戦艦と要塞艦および護衛艦艇は通路の外側で待ち構えていた。もちろん、その周囲には他の戦術艦隊が展開している。
それらの火力が一斉に投射され、内部に侵入した敵艦隊は見る見るうちにか細く、弱々しくなっていった。
あの性格の指揮官ならこの罠に引っかかると思ったが、上手くいきすぎて笑いそうだ。
「第101、第102無人戦略艦隊、敵突撃艦隊への攻撃を開始します」
「各無人要塞艦、砲撃開始。命中率74.2%」
また上下には第101無人戦略艦隊と第102無人戦略艦隊、アーマーディレスト級2隻とラファレンスト級40隻が存在した。
向きの関係で半分しか投射できず、また無人艦隊故に砲撃精度は甘いものの、その圧倒的な数と火力を用い、敵艦を次々と沈めていく。
「……発射」
「シェーン、機動要塞を優先して狙え。時間をかける必要は無い」
「……了解」
そしてあの位置は、アーマーディレストの火砲の3割が届く位置だ。つまり、シェーンから逃れる術が無い。
そんな彼女の放った一撃が、最後の機動要塞を貫いた。その数秒後には、残りの戦闘艦もこの世から消える。
本気での攻撃開始から殲滅まで、現実では1秒もかかっていない。
「これで終わりだな。現在の戦況は?」
「艦隊損耗率5.8%、航空部隊は7.2%」
「敵艦隊撃破率43.2%」
「順調な方だな。レイ、航空攻撃部隊第3陣亜空間ワープ開始」
「うん!」
延期させていた航空攻撃部隊第3陣を投入し、敵艦隊へさらなる打撃を与えた。
今までの戦果も考えると、そろそろ良いだろう。
「さて……第12統合艦隊の状況は?」
「優勢を保っています。第3惑星側は損耗率1.2%に対し撃破率34.5%、第4惑星側は損耗率1.4%に対し撃破率37.9%です」
「分かった。控えめな攻撃のようだが……今回はそれで正解だ。敵艦隊に穴を開ける。戦艦と要塞艦はこの100隻の機動要塞へ向け重力子砲斉射30連、同時に第3惑星と第4惑星に展開する機動要塞へ重粒子砲斉射20連」
「了解しました」
「……了解」
「そして砲撃終了後、第101、第102、第103無人戦略艦隊揚陸艦部隊は亜空間ワープ、および惑星への揚陸を開始しろ。同時に潜宙艦隊は作戦開始、惑星および衛星上の基地へ飽和魚雷攻撃を始めろ」
「了解です」
艦隊から亜空間ワープで離脱したのは、重装揚陸艇を過積載した各種揚陸艦群と、その2倍存在する護衛艦群。流石にアーマーディレスト級を向こうに投入するのは不可能なので、この手を取った。
そうして第101は第3惑星の衛星側に存在する山岳地帯へ、第102は第3惑星の衛星とは反対側にある内海へ、そして第103は第4惑星の巨大大陸中央部の荒野へ、重装揚陸艇が降下を開始する。
「無人戦略艦隊揚陸部隊、護衛航空部隊、降下開始」
「魚雷着弾、降下地点周辺の掃討を完了しました。目標を他地点の基地へ変更します」
「対空、対宙攻撃を確認しました」
「ターゲット補足。護衛艦群、攻撃を開始します」
護衛艦群の対地砲撃とミサイル攻撃をバックに、重装揚陸艇と護衛の飛行型機動兵器が地表へ向けて飛ぶ。
地表は前段階として潜宙艦隊から放たれた魚雷によって、降下地点周辺の小規模基地は掃討された。
しかし、大規模基地はシールド出力も迎撃能力も高いようで、あまり効果的な攻撃はできていない。本格的な揚陸を開始するまでは、抑え込むことで手一杯か。
「無人戦略艦隊揚陸部隊は降下後、周囲の敵部隊への攻撃を開始しろ。以降はハーヴェに任せる」
「おうよ。任せとけ」
「他は敵艦隊への攻撃を続行。航空攻撃部隊第4陣、および水雷攻撃部隊第2陣、出撃準備」
「準備はできてるよ、お兄ちゃん」
「いつでもねー」
「流石だな。重力子砲は機動要塞と衛星上の敵基地へ集中、重粒子砲は空母と戦艦を狙え。陽電子砲はいつも通りだ。航空攻撃部隊第4陣、水雷攻撃部隊第2陣、最優先目標は敵機動要塞、亜空間ワープ開始」
「了解、亜空間ワープ開始」
だがそれなら、艦隊を手早く片付ければ良い。
要塞艦と戦艦による砲撃、航空攻撃と水雷攻撃。潜宙艦も含めれば4つある矛の3つを艦隊へ向け、敵艦隊の殲滅を図る。
またその途中で、|第6戦術艦隊旗艦《アルター-スランディート》の一斉射によって、かなり大規模な基地を破壊した。それは良い。だが、効果は予想より大きかった。
「先生、敵艦の8.3%の反応性が低下しました。これはもしかすると……」
「基地が旗艦役だったか……全艦、敵基地への攻撃を強化しろ。重粒子砲も投入して構わない。航空攻撃部隊は?」
「まだ戦えるよ」
「なら、亜空間ワープで衛星地表付近へ移し、基地攻撃をさせろ。水雷攻撃部隊もだ」
「りょーかい」
「りょうかーい」
予想自体はしていたけどな。ただ、実際に目にすると驚く。基本的に、俺達が受け身だったから仕方のないことだが。
とはいえ、対処は素早くやる。狙いやすい所はすぐに集中砲火を浴びせ、他の場所も航空攻撃部隊や水雷攻撃部隊などが飽和攻撃を仕掛けた。
「敵艦の53%の反応性低下を確認。惑星上に展開する艦艇も含めると46%」
「頃合いか。第1戦略艦隊と第12統合艦隊の揚陸艦部隊は目標地点上空へ亜空間ワープを実施、第1戦略艦隊揚陸部隊と第2軍団は惑星上への降下を開始しろ」
「了解。亜空間ワープ用意、始め」
「各艦亜空間ワープ終了。揚陸作戦開始」
「各揚陸艦より重装揚陸艇が発艦、目標地点へ向け降下開始」
「第2軍団の小型揚陸艇と特殊揚陸艦も降下を開始しました」
「目標地点周辺に敵機動兵器展開を確認。航空部隊が排除に向かいます」
無人戦略艦隊との戦闘は続いているはずだが、予備兵力がまだ残っていたか。
しかし、この程度の数ならすぐに排除でいる。
「第2軍団第1攻撃隊、順調に降下中」
「小型揚陸艇、重装揚陸艇、特殊揚陸艦、先頭集団が着水します」
「歩兵部隊、地上型機動兵器部隊、潜水開始。ミサイル戦車、砲撃戦車、および護衛部隊は海面付近へ展開」
「攻撃、開始されました」
第2軍団第1攻撃隊は第3惑星に、第102無人戦略艦隊が占拠した内海へ飛び込んだ。そして、陸軍の安全確保のため基地への積極的攻勢をした第102とは異なり、ミサイル戦車や砲撃戦車が帝国軍の手が届かない海中から攻撃を敢行、内海沿岸地帯を火の海にする。
いや、少数だけいる海中戦対応型陸戦兵器からは攻撃を受けているようだが、その多くはマイクロミサイルやレーザーソードで簡単に排除されていた。
海中戦では、減衰の無いこれらが主力だ。エネルギー制御力場内ならミサイルを使っても問題なく、レーザーソードは外向きにも存在する斥力場で海水を押しのけることで水蒸気爆発を防いでいる。
一部の連中は斥力式パイルバンカーも使っているが……あれは障害物排除用だろう。帝国軍の陸戦兵器相手なら使えなくはないが。
「第2軍団第2攻撃隊、間も無く着陸します」
「第2攻撃隊援護の航空部隊、敵機動兵器の排除に成功」
「特殊揚陸艦多数着陸、超重戦車を揚陸開始」
「第811機甲打撃師団、および第243超重師団展開完了。正面攻勢を担当する模様」
「展開率80%を突破」
「第2攻撃隊前進を開始」
第2軍団第2攻撃隊は第4惑星の荒野へ降り立ち、重装戦車や超重戦車を前に押し出した真正面からの戦車戦を開始する。
帝国軍の地上戦力は人型機動兵器を除けば、小型の陸戦兵器しかいない。もし超重戦車が大昔の戦車のように履帯を持っていれば、進むだけで敵を粉砕していただろうな。
実際は重力子砲や陽電子砲で粉砕しているが。
「第1戦略艦隊揚陸部隊、全機展開完了」
「防衛線は効果的に機能中。敵陸戦兵器は全て排除に成功」
「重装揚陸艇、対地支援任務に就きます」
「航空部隊は戦闘継続中。敵機動兵器の排除は未了なため、各員注意せよ」
「攻勢部隊の編成が完了。展開開始」
そして第1戦略艦隊揚陸部隊は第101が確保した山岳地帯へ降りる。ここはいくつもの大規模基地に囲まれた場所で、既に大量の敵陸戦兵器がやってきている。
しかし、ハーヴェ達は多砲塔戦車を山の稜線に配し、歩兵を茂みや岩陰に隠して、帝国軍機を一方的に打ち据えていた。
同時に攻勢作戦の準備も整えており、多数の多砲塔戦車が歩兵を満載した機甲装甲車を引き連れ、3方向へ移動していた。
「敵艦隊、分散を開始する模様。艦隊陣形が広がっています」
「機先を制する。戦艦を中心とした砲撃部隊、各2万隻を左右に展開、押さえ込め」
「艦隊損耗率7.8%、航空部隊は8.9%」
「衛星直掩の敵艦隊、反応性が低下した艦艇は70%を超えました」
「分かった……畳み掛けるか」
しかし、宙を無視するわけにはいかない。揚陸部隊と陸軍への指揮はハーヴェに任せ、俺達はこちらへの対処を優先しよう。
そして、手早く終わらせるか。
「第1戦略艦隊全艦に通達。第3、第8、第11、第17戦術艦隊はそれぞれこの地点への亜空間ワープを準備しろ。他の艦はそれを援護、敵基地を一気に破壊する」
「了解です。通達します」
「第12統合艦隊はそのまま攻撃を継続しろ。呼応して攻勢を強めても構わない」
「第3、第8、第11、第17戦術艦隊、亜空間ワープ準備完了」
「亜空間ワープ開始」
4つの戦術艦隊を衛星軌道上の4ヶ所、旗艦機能を持つと思わしき基地の直上に亜空間ワープをさせる。
「一斉射」
一斉攻撃。これにより、衛星上にある旗艦機能を代行する基地全てを破壊した。
これにより、衛星の直掩をしていた艦隊は全て、他を含めても90%以上の反応性が低下した。後処理は簡単なものだ。
そして第1戦略艦隊が自由になったことで、戦況は大きく変わる。
「第2から第9戦術艦隊は第3惑星、第10から第17戦術艦隊は第4惑星の敵艦隊を攻撃しろ。残りは対地支援攻撃を行う」
「了解。16ヶ戦術艦隊、亜空間ワープを実施」
「……亜空間ワープ、開始」
「地上からの目標指示を最優先に、各艦自由攻撃を始める。ハーヴェ、砲撃と同時に突入はできるか?」
「当然だぜ。大規模攻勢3つで良いよな?」
「分かった、それをやってくれ。全艦攻撃開始」
これまでも揚陸艦などからの支援はあった。だがこれは艦隊主力の対地攻撃だ。排除出来ない障害はない。
そして、これを受けて耐えられる地上部隊はいない。
「全弾着弾、命中率97.2%」
「揚陸部隊、侵攻速度は予定の24%増し」
「第2軍団、損耗率は想定の53%」
「敵基地の72%を占拠、もしくは破壊。残存戦力は推定14%」
「ハーヴェ、踏み潰せ」
「おう、叩き潰しちまえ」
「一斉攻勢、開始」
軌道上からの砲撃で基地を破壊し、陸戦兵器を戦車や重装歩兵や機動歩兵が撃破し、生身で抵抗しようとする者は軽装歩兵が殲滅する。タイミングを合わせての大攻勢、帝国軍の残存戦力では防げない。
これとほぼ同じ光景が全ての基地でほぼ同時に起こり、この星系における戦闘は終了した。
「終わったな。ポーラ」
「第1戦略艦隊の艦隊損耗率は8.7%、航空部隊は9.4%、揚陸部隊は3.3%です」
「揚陸部隊の損耗が予想より大きいな。いくらあの場所とはいえ、戦術を変える必要があるか……陸海軍は?」
「第2軍の損失機は6425万1625機、第12統合艦隊の沈没艦は94万5492隻です。陸海軍合計の戦死者は……3億9152万8462名になります」
「億を超えたか。多いな……」
「はい……また、無人戦略艦隊の損耗率は25.3%です」
「それは問題無い。被害担当として十分な働きをした」
しかし、被害は大きい。1度の会戦で1億人を超える戦死者が出たのは本当に久しぶりだ。
いや、昔そうなった時の大半が敗北時だということを考えると、今回はさらに珍しい。
戦略艦隊のみで守りきることができない戦場だった以上、仕方のないことだが……辛いな。
「悲しむことは後でも出来る。今は今しかできない仕事をするぞ。陸軍、および揚陸部隊は残敵を捜索、発見した場合は速やかに殲滅しろ。その後、ハーヴェの判断で保護所と強制収容所を建設、住民とシュベールを移動させろ。第1戦略艦隊の残りと第12統合艦隊は未発見の残敵、特に潜宙艦に注意しつつ、星系全域へ展開、レーダー施設、機雷、自立型ミサイルおよび魚雷の敷設を開始しろ」
「了解です。部隊の配置は……」
「それは自由に配分してくれ。ただし、工作艦と輸送艦はセットで使え」
「もちろんです」
この後にやることは仕事量が多い。しかし、常に俺やポーラが張り付いていないといけないわけではない。
なので、少しするとポーラから管轄が移った。
「さて……ポーラ、来てくれるか?」
「地上ですね、分かりました」
「お兄ちゃん?」
「収容が終わったら行く。メルナ、少し任せた」
「仕方ないですね。早く戻ってきてくださいよ」
「努力はする。すまないな」
「……姫様、良いの?」
「良いのです。ガイルですから」
いつも迷惑をかけて、本当にすまない。しかし、これが俺だ。
さて、同じく行くのは……動き早いな、あいつらも。同行はしないようだが、全て許可しておこう。
・エネルギー制御力場
バーディスランド王国軍の所有する、無指向性エネルギーを抑え込む力場、およびそれを発生させる装置のこと。
惑星上における戦闘の余波を防ぐためのもので、居住惑星・衛星は地下に発生装置を何基も設置しており、コロニーもこれで覆われている。
戦闘艦や要塞艦にも載せられており、攻撃先の惑星や衛星を力場で覆うことが可能。
・機雷
輸送ミサイルによって運搬された後散布される、母機によらない兵器。必要なので作られたが、使用方法の問題で滅多に使われない。
マイクロミサイル10発分程度の大きさで、内部には弾頭兼用の反物質電池、小型のレーダーおよびステルス装置、エネルギーパルス推進器が搭載されており、敵艦もしくは敵機を見つけると自立して動き、自爆する。
今回の対帝国戦ではこれを星系内の惑星・衛星・小惑星の周囲などに無数に敷設し、帝国軍を締め出す。帝国軍の数に対応できるだけの機雷をばら撒けば問題ない。
なお、連邦軍が触雷しても知らぬ存ぜぬ。
・自立型ミサイル(魚雷)
機雷のように自立して動き、敵艦および敵機への攻撃を行うミサイル。不要となれば自爆させることも可能。
弾頭は反物質弾頭のみだが、これは反物質電池としても使用するため。そのため非常に長期間にわたって活用可能だが、待機期間が長いと威力が低下する。
これも機雷と同様に、星系封鎖のため大量に使用される。