表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/85

第4話

 

 新王国歴7268年4月18日




「……亜空間ワープ終了。問題無し」

「潜宙艦隊と偵察機を展開、工作艦隊にレーダーを設置させろ」

「了解。偵察機発艦開始、散開」

「潜宙艦隊潜行、分散します。一部は亜空間ワープ開始」

「工作艦隊の編成完了。発艦開始」

「第13偵察艦隊より報告。星系番号1000001043051、帝国名シュツルム星系の探索終了。敵艦影は認めず」

「分かった。そこにも工作艦(オルファン級)を派遣しろ」

「第2戦略艦隊より報告。敵艦隊7500万隻を捕捉、30分後に攻撃開始予定」

「了解したと伝えろ。他の戦略艦隊からは?」

「ありません」

「偵察機、全機配置につきました」


 索敵とレーダー設置を繰り返しつつ、俺達は星の海を進む。だがかなり進んでいて、目標星系へは後数日で到着する予定だ。

 攻勢作戦の準備はある程度終わっている。残りは到着してからやるしかないが。


「レーダー設置完了。工作艦隊、撤収します」

「偵察機稼働率100%、空母(ネーラルド級)も問題ありません」

「潜宙艦隊展開率78%」

潜宙空母(マルフェス級)、航空部隊展開率平均89%。潜宙艦隊哨戒ライン形成率83%」

「問題はなさそうか……これから1時間交替、合計4時間の休息を取る。偵察機、潜宙艦隊、工作艦隊も操縦を交代しながらだ。偵察艦隊は任務続行、星系探査を続けろ」

「了解です。シフトは既に決定しているので、送信します」


 それでも、と言うべきか。だからこそ、と言うべきか。休息はしっかり取る。

 普段から交代で休息を取らせているが、陸海軍のような3交代制ではない。生体義鎧だからだが、時間はかなり短いものだ。そのうち、どこかで数日休息させるべきかもな。


「最初はレイとメリーアだな。大丈夫か?」

「うん。引き継ぎはちゃんとやったよ」

「まー、これくらいならさっさとねー」

「そうか。それなら行ってこい」

「うん。お兄ちゃんも頑張ってね」

「頼んだよー」


 そう言って、2人は艦橋を出た。仕事の引き継ぎと言ったが、やることに普段と何ら変わりはない。楽なものだ。

 それと……あの2人、案外一緒にいるかもしれないな。年の差はあるが、レイとメリーアにもプライベートの交流はある。


「ポーラ、レーダーとソナーの監視を頼む。人数が減った分、注意してくれ。それとメルナ、あの小惑星群の追加調査を任せても良いか?」

「はい、先生。分かりました」

「あのトロヤ群をでしょうか?」

「ああ。レーダー設置場所以外も調べて欲しい」

「何かあると考えているんですか?」

「分からないから頼んだ。大丈夫か?」

「ええ、良いですよ」


 ああいった場所には何かが隠れている可能性がある。帝国軍が放棄した施設だったらなお良いな。古くても情報になる。

 だがその結果が出る前に、俺は気になるものを見つけていた。


「これは、そうだな……第5惑星方面の偵察隊隊へ命令。第5惑星の全衛星を細かく調べろ」

「先生?」

「レーダーに何かが引っかかった。微弱な反応だが気になる」

「偵察では何も見つからなかったのですよね?」

「だからだ。もしも偵察艦隊から隠れ切っていたとしたら……」

「……心配」

「ああ。まあ、この反応の小ささなら杞憂かもしれないが」

「杞憂であってほしいですね」

「当然だ」


 守り手より攻め手の方が圧倒的に楽だ。被害も少ない。要塞ならともかく、艦隊なら特に、な。


「まあ、そう心配はいらない。少し気になっただけだ」

「それでは、私は管制に戻ります」

「頼む。そうだ、シェーン」

「……なに?」

「アーマーディレストの直掩艦を増やせ。3倍だ」

「……調べ終わるまで?」

「そう……いや、俺が別命を出すまでだ」

「……了解……嫌な予感?」

「ああ」


 限りなく薄いが、勘が囁いている。一応、対処は必要だろう。

 悪い予感に従って損はないからな。


「先生、必要なら私も動かします」

「いや、それほどじゃない。ただ、な……」

「心配性ですね、ガイルは」

「仕方ないだろ。そうじゃなければ生き残れなかった」

「……姫様」

「ええ、分かっていますよ。言ってみただけですから」

「それで良い」


 対策をし、報告を待つ。だが何事もなく、1時間はすぐに過ぎた。


「ガイルー、戻ったよー」

「お兄ちゃん、ただいま」

「交代だな。次は……俺だけか」

「そうですね。私がシェーンとですから」

「私はハーヴェさんとです」

「……寂しい?」

「まあ、否定はしない。単独行動もある程度慣れてるけどな」

「あれ?お兄ちゃん、行かないの?」

「少し待ってくれ。今調べさせて……いや、今届いた」


 ただこれは……勘は外れたか?


「どうでしたか?」

「どうやら、衛星表面の谷間に古い帝国軍の艦艇があったらしい。損傷が酷く戦傷があるかは不明。この型は……1500から1200年前のものだな」

「古いですね。大きさからして戦艦でしょうか?」

「あれくらいだったっけ?」

「はい。あの時代の帝国軍戦艦は全長1200m程度でした」

「……レイは生まれてない……だから、仕方ない」

「そうだな。さて、しばらく頼む」

「ええ」

「任せてください」


 そう見送られ、俺は艦橋を出た。

 とはいえ、1人だと……ちょうど良い時間だ、食堂にするか。


「さてと……」


 そういえば、シェーンに言うのを忘れてたが……いや、後で良いな。

 まだ続けた方が良い気もする。


「やあ、そんな辛気臭い顔をしてどうしたんだい?」

「何か悩み事ですか?司令。珍しいですね」

「会って早々散々な言い方だな」


 しかし、ラグニルとアッシュ……意外な組み合わせを見たな。


「そうかい?暇つぶしと気分転換を兼ねて、声をかけてみただけだよ?」

「まったく。技官と揚陸部隊はシフトが違うとはいえ、気を抜きすぎじゃないか?」

「そんなわけがないのは、君が1番よく知っているだろう?」

「否定はしない。だが、気になっただけだ」

「問題ないよ。訓練はいつも以上にやってるし」

「それなら安心か。心配はしていなかったが」

「ならどうして聞いたんだい?」

「勘だ」

「え、勘?」

「ほんの少しだが、未だに嫌な予感がする。理由は分からないが……」


 ここまで薄いとあるかどうかも不安になるが、こう考えておく。

 理屈も何もないが、経験則だ。


「それ、信じるのかい?」

「ああ。これに従っても損はしない」

「そうそう。従わなくて当たってた時が最悪なんだし」

「理論的じゃないけど……前線で戦ってるとそうなるのかい?」

「かもしれない。意外とバカにできないからな」

「そのおかげで助かったことも何回かあるし」

「そういうことは知ってるよ。けど、僕には分からない感覚だね」


 確かに、技官にとっては分からないかもしれない。必要なことだけどな。

 そんなことを話しつつ食事をしていたが、唐突にラグニルが話題を変えた。


「そうだ。キミ達に1つ相談してもいいかい?」

「ん?ああ、まだ時間はある」

「自分も問題ないよ」

「じゃあ聞くけど、君達に国は必要かい?」

「は?」

「え?」


 ちょっと待て、今お前は何を言った?


「僕はね、こう考えてるんだよ。生体義鎧は人を辞めて兵器になった者達であり、国に所属する意味があるのかってね」

「前半は否定しない。事実だからな。だが、国を否定する意味は無いぞ」

「そうかな?僕達は完全に自立して行動できるよ?数十年どころか、数百年ね。一般人に頼る必要なんて無いんだよ?」

「いやー、それは流石に暴論だと……」

「そうでもないよ。僕達は自由だ。居場所を1つに固定する意味なんて無いんじゃないかな?」

「いや、誰に何と言われたとしても、俺達の居場所はバーディスランド王国以外にない。これは事実だ。帝国への怨みは当然あるが……王国を、俺達の居場所を守りたいという思いも強い」

「なるほどなるほど、良い表情だよ」


 ん?どうした?


「実は心理学研究の一環でね。色々な仮定に対する反応から長寿命の影響を調べているんだよ。あ、できればこの話は広めないでくれるかい?」

「そんなことまで……」

「僕は天才だよ?」

「自分で言うか」


 こいつは……まあ、そういうことなら納得だ。ラグニルはとても役に立っている。


「それにしてもラグニル、いつも苦労をかけるな」

「気にしないでよ。僕達も好きでやってるんだ。それに、結構楽しんでるからね」

「え、楽しんでる?いつもより?」

「そうそう。いつもより好き放題させてもらってるんだよ」

「だからか、まったく……っ⁉︎」


 そんなたわいのない会話を続けられると思っていた。だがこの瞬間、戦闘態勢が発令される。

 まさか奇襲?勘がここで当たるのか?


「どうした!ちっ!」


 シュミルで連絡を取ろうとするが、通信は繋がらない。

 戦闘態勢どころか、戦闘状態か……繋ぐことも不可能じゃないが、先にやることがある。


「配置につけ!」

「了解!」

「分かったよ」


 しかし俺が声をかけるまでもなく、ラグニルとアッシュも駆け出した。艦隊戦でも、彼らにはやることがある。

 同様に俺も走り、転送装置を使って艦橋へ飛び込む。そこでは、ほぼ全員が思考操作に入っていた。いないのは休憩中の面々だろう。

 もちろん俺も思考操作装置を起動し、仮想空間へ入った。


「先生!」

「遅くなった。状況は?」

「敵艦隊の奇襲です。艦隊陣形内部に無理矢理突入されました。ワープの兆候は察知したものの、こちらの対応前に攻撃を受け、重巡洋艦(ヤーミスト級)以下21隻が撃沈しました。現在の敵艦数は約6000万ですが、今もなおワープが続いています」

「対応前に奇襲か……星系各所のレーダーに反応は?」

「1つも反応は無かったですね。ワープの反応からワープアウトまでの時間から考えると、この星系内のどこかにいたはずなんですけれど」

「どこから……いや、今は反撃が先だ。全艦各個に照準、射撃自由。航空部隊は準備出来次第すぐに発艦、戦闘艦も同様に行動しろ。損耗は気にするな、敵艦隊の排除が最優先だ」


 原因は後で調べられるが、対処は今しかできない。奇襲された以上、迅速に迎撃態勢を整える必要がある。


「各基幹艦隊はフォルスティン級を中心にスティアレグラ級とニーランレント級を展開、その周囲に戦闘艦と機動兵器を配置しろ。ラファレンスト級は指定する地点に布陣、火力で敵を押し返せ。ゲラスリンディ級は艦内から動かず、機動兵器だけ発艦させろ。アーマーディレストは機動兵器と戦闘艦を全て展開、敵の多い場所へ集中攻撃をかける」

「……了解」

「りょうかーい」

「それと……潜宙艦隊はさらに散開、星系内部を徹底的に探査しろ。どこかに原因か痕跡があるはずだ。それに、第2陣がいないとも限らない。偵察機隊も同じように動け!」

「了解しました。それでは潜宙艦隊は私が管制をしましょう」

「頼む。レイ、偵察機隊は任せた」

「はーい。でも、こっちに関わっても良いよね?」

「余裕があれば、な」

「あるもん」

「それなら任せる。シェーン」

「……目標、機動要塞……発射」


 アーマーディレストの重力子砲(主砲)が砲弾を放ち、35km級の機動要塞を爆散させる。

 重粒子砲(副砲)は帝国軍戦闘艦群を、さらに集中砲火で20km級機動要塞も貫いた。

 陽電子砲(両用砲)群は人型機動兵器を薙ぎ払い、駆逐艦クラスを沈めたりもしている。

 そしてこの程度の散発的な攻撃では、アーマーディレストやラファレンスト級のシールドは破れない。他の要塞艦もほぼ同様、おかげで奇襲から立ち直り始めている。


「敵艦隊なおも増加、現在8500万隻」

「艦隊損耗率5%を突破!」

「第74基幹艦隊被害甚大、戦闘艦損耗率20%です!」

「第8戦術艦隊周囲に多数の敵機動兵器……救援要請を確認!」

「落ち着け。第13、第45基幹艦隊を第74基幹艦隊の援護に向かわせろ。アーマーディレスト航空部隊の17%を第8戦術艦隊の援護に投入だ」

「了解!」

「ポーラ、レーダーを鋭敏に、ワープアウト地点の事前察知を早めろ」

「はい!」


 しかし戦闘艦は違う。要塞艦よりシールドが薄いため、集中砲火を受ければ簡単に沈んでしまう。

 戦艦(ギロスィア級)大型戦艦(ザックバッハ級)ならある程度耐えられるが……アーマーディレスト直掩艦はともかく、基幹艦隊の戦闘艦に被害が多い。人的損耗は無いが、戦力的には痛いな……


「全スティアレグラ級は艦隊外縁部に展開、敵機動兵器と駆逐艦を優先して狙え。フォルスティン級は艦隊内側に布陣しつつ、敵空母を1隻ずつ正確に沈めろ。ニーランレント級は敵戦艦と機動要塞を重点的に狙え」

「陣形変換開始」

「迎撃行動指示、砲撃目標設定」

「航空部隊は指示に従い迎撃行動を継続、敵艦への波状攻撃も続けろ。軽巡洋艦(シェルラン級)以下は敵艦への水雷攻撃、特にフリゲート(ファルゲン級)は機動要塞を狙え」

「先生、それでは……」

高速戦艦(アルドレア級)以上は水雷攻撃隊と連携し、攻撃目標周辺へ砲火を集中させろ。艦隊全艦敵艦隊の排除を優先、火力で粉砕しろ」

「了解です。攻撃目標の指示を開始します」

「水雷攻撃隊、砲戦隊編成完了。連携攻撃準備完了」

「航空部隊、対艦波状攻撃用意」

「攻撃開始」

「水雷攻撃隊、砲戦隊、航空部隊、攻撃開始します」


 第1戦略艦隊(俺達)と帝国艦隊が歪に組み合わさり、混ざり合ったような現状。指揮統制をしっかりしなければ、マトモに戦うことすらできない。

 自動でロックがかかるため友軍誤射は起こらないが、それが邪魔になるからな。毎回毎回解除するのは面倒だ。

 航空部隊の波状攻撃は海軍のドクトリンとは違うが、現状はこれしかできない。全力の航空攻撃ができる状況じゃないと……


「機動要塞5隻撃沈。しかし敵艦の反応性は変わらず」

「艦隊損耗率9.8%、機動兵器損耗率12.7%」

「敵艦隊のワープアウト数が減少し始めました。現在1億2000万隻です」

「総数は……1億5000万前後だろうな。メルナ、レイ、何か分かったか?」

「いえ、まだですね。怪しい場所はいくつかありますが……」

「全然見つからないよ」

「そうか……ワープアウトの速度からすると、この星系内にあるはずだが」

「ですけど、もう少しで見つかると思いますよ。レイちゃん、手伝ってくれますか?」

「うん。お兄ちゃん、頑張るからね」

「任せる」


 ようやく立ち直りきり、艦隊陣形内部から帝国軍を殲滅することに成功した。まだ周囲を囲まれているが、ここまで来ればどうにかできる。

 それにしても、こいつらは今までどこにいた?こんな数、見逃すわけがないはずだが……


「艦隊全艦、砲撃を前方へ集中。機動要塞群を排除しろ」

「了解……目標分配、射撃準備完了」

「……発射」

「斉射ー」

「航空部隊の状況は?」

「現在波状攻撃第24波、損耗率は17.5%になります」

「流石に多いな。艦隊損耗率は?」

「15.3%です」

「そうか……仕方ない。空母と揚陸艦以外の戦闘艦を全て艦隊外縁部に配置、要塞艦の盾にしろ。消耗戦になるが、人的損耗を防ぐためだ」

「了解です」


 こうなると、至近距離でのノーガード乱打戦といった感じだな。しかし、厳しい。

 王国軍艦艇は火力とシールドに優れるが、帝国軍の数には敵わない。そして今は至近距離、練度の差は出にくい。耐えるしかないか……


「艦隊損耗率19.5%、しかし要塞艦は小破まで。航空部隊損耗率23.8%」

重駆逐艦(メルフェス級)以下の損耗率が35%を超えました」

「砲戦隊と水雷攻撃隊は解体する。高速戦艦(アルドレア級)戦艦(ギロスィア級)大型戦艦(ザックバッハ級)は前に出ろ。全砲全力斉射開始。重巡洋艦(ヤーミスト級)以下はミサイルを連続斉射、弾幕を張れ。航空部隊は波状攻撃を継続、機動要塞を重点的に狙え」

「砲戦部隊、陣形外側で砲撃戦開始。最大出力」

「水雷攻撃隊、砲戦隊の内側で弾幕展開。ミサイル全力、連続斉射」

「航空部隊、波状攻撃を継続。最優先目標は敵機動要塞」

「厳しい状況ですね」

「ああ。1億隻程度だが、ここまで数に差があると……」

「……勝てる、けど……大変」

「はい……」

「あれ?あ……ねえ、お兄ちゃん、ちょっと借りるね」

「ん?まあ良いが……」


 というか、航空部隊の指揮権はレイの下にあるものだ。貸すというより返す方が近い。偵察機部隊も問題ないみたいだからな。

 と、そんなことも考えていると……


「えっと、こっちはこうで……こう動いて」

「上手いな」

「お兄ちゃんから教えてもらったことだもん」

「俺が教えたことからかなり発展してるぞ」

「そんなことないよ?あ、メリーアさん手伝って」

「良いよー」


 そう口を開いた直後、レイは作戦を一気に変更した。

 実施直前だった波状攻撃を取りやめると部隊を招集、10秒とかけずに編成を決めると、残存航空部隊の80%を投入した大規模な航空攻撃を行わせる。帝国軍艦隊の10ヶ所に穴を開けるほどのものだ。

 その影響で艦隊直掩機は減っているが、防空態勢はメリーアと協力して万全にしていたため、人型機動兵器は艦隊に近寄ることすらできていない。

 それにしても、この規模の航空部隊を一瞬で掌握して、効率的な配置を指示するか……直感的な指揮の利点だな。流石にこれは真似できない。


「レイ、良くやった」

「楽になった?」

「ああ、レイのおかげだ。後で何か奢る」

「やった!」

「他に何かあっ……ん?」


 残存の機動要塞は21隻、元々は72隻だった。それらは全て5隻か6隻で艦隊を組み、戦闘艦に囲まれていた。

 だが1つだけ、3隻で集まった艦隊がある。そして妙に位置が遠い。

 もしかすると……


「シェーン、あの3隻を全て消し飛ばせ」

「……了解……旗艦?」

「可能性は高い。やれるな?」

「……もちろん」


 そうシェーンが言うと、アーマーディレストが持つ大量の砲塔の内、重力子砲(主砲)重粒子砲(副砲)の70%、陽電子砲(両用砲)の40%が3隻の機動要塞へ向けられ、一斉に放たれた。

 当然ながら機動要塞は受け止めることができず、完全に消滅する。福音を置いて。


「敵艦隊全艦の反応性が低下しました。旗艦を撃沈した模様です」

「上手くいったな。掃討戦に以降しろ」

「了解!」


 この後はいつも通り、多少は警戒するもののただの作業だ。

 ……苦しい展開が続いたからかもしれないが、嬉々として襲いかかっているようにも見えるのだが。


「終わったな。ポーラ」

「はい。損耗率は23.7%、航空部隊は29.4%です。しかし、要塞艦に小破以上の損害はありません」

「何とかそれで収まったか……修理と建造はラグニル達に任せる。技官に伝達してくれ」

「了解です」


 技官達についてはポーラに頼んだが、ラグニルには俺が直接伝える。通信経由だが自由にやるよう伝え、ついでに工作艦(オルファン級)および輸送艦(ガッザレス級)の指揮権を与えておいた。半日もあれば調整まで終わるはずだ。

 と、ここでメルナが口を開いた。どうやら、福音は続くものらしい。


「ガイル、分かりましたよ」

「本当か」

「ええ。でも、ポーラも見つけたようですね」

「はい。時空変動を解析した結果ですが、

 帝国艦隊は当星系第4惑星内部からワープをしたものと思われます」

「惑星内部からか?」

「その通りです」

「特殊な装置があるらしくて、ワープの反応が小さかったですね。ガス内ということでレーダーもソナーも効きづらく、大変でした」

「なるほど。だからあの中、か……」


 メインモニターに映る巨大なガス状惑星。その中に帝国軍の基地があるようだ。

 しかし……惑星を包囲するように亜空間ワープをしたのだが、敵が1機も出てこないな。品切れか?


「精査をしますか?」

「頼む」

「了解です。レーダー情報の精査を開始します……惑星内部に人工物、帝国軍基地を確認しました」

「詳しい場所は?」

「惑星のガスが邪魔をしていて……まだ解析中です」

「お兄ちゃん、どうするの?」

「正確に破壊する必要はないな……惑星ごと粉砕しろ」


 そう言った瞬間、星を滅ぼす数百万の破滅の光が(きら)めいた。


「惑星核に着弾した模様……爆発、および核融合反応を確認しました」

「まあ、起こるのも当然か。アレだけのエネルギーだからな」


 アーマーディレストの各種砲門、特に15000cm30口径重力子砲(主砲)の威力は絶大だ。

 1000発以上の重力子砲弾が飛び込むと惑星を構成するガスを重力で圧縮、そして次の瞬間、ガス状惑星は内側から消し飛んだ。帝国軍基地を巻き込んで。残ったのは焼け付いた核の破片とその周辺、奇跡的に燃えなかったガスだけだ。

 ……というかよく核が残ったな。太陽フレア数百万発分、いやそれ以上の爆発だぞ。


「それでポーラ、敵基地の反応はあるか?」

「現在はまだ精査中ですが……いえ、ありません。完全に消滅しました」

「分かった。偵察機部隊はそのまま活動を継続、潜宙艦隊は元の配置に戻れ」

「了解。命令を伝達します」

「それと艦隊全艦亜空間ワープ用意。第2惑星公転軌道と第3惑星公転軌道の間に移動する」

「艦隊全艦へ伝達……完了」

「……亜空間ワープ、開始」


 戦闘は終了したが、万が一ということもある。可能性が低いとしても、しばらく警戒は必要だ。

 亜空間ワープで場所を移るのも、それの一環だった。


「ここで警戒態勢を維持、艦隊再編まで待機する」

「了解です」

「それと……休息を取らせるか。2番目、それと3番目の面々に連絡。警戒態勢の恒常化が完了次第、休息を許可する」

「了解しました。ではガイル、一緒に行きませんか?」

「いや、残る。奇襲を受けた後だ、流石に3人も抜けるのはマズい」

「……わたしは、ポーラと一緒」

「ですので行きましょう」

「だが俺は……」

「行ってください、先生。ここは大丈夫です」

「お兄ちゃんは途中で呼び出されたんだもん。そんなに休めてないよね?」

「良いですね?」

「はあ……分かった。少し任せる」


 そんなわけで、俺はメルナを伴い艦橋を出る。

 その時、どこに行くのかはまだ考えていなかったが……決める前に声をかけられた。


「あの、ガイルさん……」

「ん?ああ、リッツか。どうした?」

「ごめんなさい!」

「はい?」

「急にどうした?」

「僕がしっかり調べなかったから、あんなことに……」


 リッツ-マーリエント、アーマーディレスト所属の戦闘艦操作要員。彼は第17偵察艦隊、この星系の偵察を担当していた。

 リッツはレイより200歳程度年上なだけで、生体義鎧の中では若い方だ。後期にしては珍しく、若いうちに施術を受けており、見た目の年齢はレイに近い。

 そのためか、精神年齢も見た目に近く……責任を感じるのも仕方ないか。


「気にするな。お前はしっかり仕事を果たした」

「でも……」

「むしろ責任は俺にある。偵察データを再解析した結果だが、僅かだが帝国軍基地の反応があった。それを見逃した以上、リッツの努力を無駄にしたのは俺だ」

「私もですよ。申し訳はありませんね」

「けど僕は……」

「だから、気にするな。誰も死んでいないから、損耗は回復させられる。次からも頼むぞ」

「うん……はい」

「声が小さい」

「は、はい!」

「良い返事だな」


 部下が責任を感じ過ぎるのは好きじゃない。元気な方がちょうど良い。

 あれだと半分脅し?そんなこと気にするな。


「悪い人ですね」

「いや、流石にそれは……」

「ありますよ?」

「……すまない」


 流石にメルナには勝てないけどな……














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ