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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第4章

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第1話

 

 新王国歴7268年2月26日




「やはりいましたね」

「当たっちゃったね」

「予想通りだ。心配することはない」


 帝国本星のあるミレニアス銀河。その外縁部に存在する自由浮遊惑星。

 そこから数光年離れた位置に、俺達はいる。


「……それでも……縁起は、良くない」

「先生、どうされますか?」


 連邦に対する欺瞞、および道中の警戒からゆっくり進んだ俺達第1戦略艦隊だが、目標近くではそうも言ってられない。

 特に……


「8億隻、か。多いな」

「はい。無人艦隊がいなければ、損害は許容できないレベルになっていたと思われます」

「情報が漏れていたようですね」

「……想定通り、です……姫様」

「シェーンの言う通りだ。それに、不可能な数じゃない」


 そこに敵がいるならば。


「作戦目標は敵艦隊の殲滅だ。それに変更はない。敵基地施設の破壊も副次目標に入っている。場合によっては、艦隊全艦の一斉放火で消し飛ばす」

「……ガイル?」

「必要な場合だけだ。その時は更地にする必要はある。違うか?」

「違いませんね」


 まあ、帝国軍がこんな辺境にそんな重装備の前線基地を作るとも思えないが。念のためだな。


「さて……敵艦隊についての誤差を修正しろ。作戦概要に変更は無い。全艦戦闘準備、亜空間ワープ用意」


 戦闘指揮システムとデータリンクをチェックし、戦闘艦と要塞艦に異常が無いか調べ、機動兵器の展開準備を完了し、潜宙艦隊の事前展開を終える。

 そうして戦闘態勢を整えたので亜空間ワープを実施、敵艦隊の前方50万kmの位置に出る。


「攻撃開始。砲撃目標は機動要塞を優先、航空部隊は別命あるまで待機だ。潜宙艦隊、敵潜宙艦を排除しろ」

「全艦攻撃開始。目標、敵艦隊中央部機動要塞群」

「航空部隊、発艦を開始してください。ただし、別命があるまでは制空に努めてください」

「潜宙艦隊、敵潜宙艦への攻撃を開始。潜宙空母(マルフェス級)潜宙揚陸艦(レイメラス級)、航空部隊を発艦させています」

「敵艦隊の砲撃開始を確認、また動きあり……艦隊陣形自動変換の模様」

「陣形の変換は無視しろ。間に合わない」

「敵艦正面に捉えられますが」

「それは許容範囲内だ。航空部隊と同時に巡洋艦以下の水雷攻撃も行う。ポーラ、選抜しろ」

「了解です」


 現在の艦隊陣形は逆三角形に無人艦隊を配置、その中央後方にアーマーディレストがある。

 無人艦隊が敵の砲撃の大半を吸うため第1戦略艦隊の損耗率は少ないが……待ち伏せていただけはあるな。

 帝国艦隊は砲撃をしつつこちらへ艦首を向けるよう回頭を始め、陣形も戦闘用のものに変えようとしている。

 最初から自動反撃の設定をしていたか……わざわざ側面に亜空間ワープをした意味がなくなるが、仕方ない。球形陣のままなだけ良しとしよう。


「航空攻撃部隊、水雷攻撃艦隊、準備完了」

「亜空間ワープ開始」

「了解。航空攻撃部隊、水雷攻撃艦隊、亜空間ワープ開始。攻撃始め」

「亜空間ワープ終了、ミサイル一斉射を確認」

フリゲート(ファルゲン級)各艦、敵機動要塞へ向けて大型対艦ミサイルを発射しました」

「航空攻撃部隊損耗率0.9%、水雷攻撃艦隊損耗率0.5%」

「艦隊損耗率0.1%、無人艦隊は0.3%です」

「両攻撃隊、撤退します。該当エリアに存在する戦闘艦の43%、機動要塞の20%を撃破しました」

「砲撃を強める。突型5重円盤陣へ移行しろ」

「了解。突型5重円盤陣へ移行設定、完了」

「全艦、順次亜空間ワープ開始」


 帝国艦隊中央部への集中砲火、それでもって陣形に綻びを作る。突き崩せればそれで良し、そうでなくとも隙ができればそれで良い。

 だが……


「予想以上に頑強だな。戦艦が多いか」

「はい。外周部に展開されている戦艦の数は全体の65%です。艦隊内の戦艦の割合も通常より70%増えています」

「待ち伏せとしては次善だな。これを砕くとなると機動兵器か潜宙艦か……潜宙艦隊の状況は?」

「優勢です。損耗率1.0%、敵潜宙艦隊は24.3%」

「敵潜宙艦隊発見。方位137.83,264.45、距離1万5000km、数は250を確認」

「近いな。第14戦術艦隊は対艦魚雷60%斉射、一撃で殲滅しろ」

「第14戦術艦隊へ命令……魚雷60%斉射。異次元への潜行を確認」

「敵潜宙艦からの魚雷発射を確認しました。迎撃弾の模様です」

「魚雷81%命中。敵潜宙艦隊、全滅しました」

「当然だ。それより、航空部隊と潜宙艦隊の同時攻撃を行う。ポーラ、レイ、選抜しろ」

「もう?早くない?」

「いつもよりは早いがこの規模だ。主導権を取られることだけは避けたい」


 帝国銀河侵攻の初戦だ。勝つのは当然だが、圧倒的な方がより良い。それにどんな状況であろうと数で勝る帝国軍に主導権を握られては、挽回は難しい。

 特にこの数なら、多少性急すぎても攻め続けるべきだ。


「航空部隊単体は無理か……戦艦中心の砲撃艦隊2万隻を4つ編成、敵艦隊から10万kmの地点に配置する。目標は後方の空母艦隊だ」

「航空部隊の準備ー?」

「そうだ。それに、もう1つの準備も要る」

「もう1つって?」


 牽制目的で、小規模な航空部隊が攻撃を仕掛けているが、人型機動兵器の数が多く満足な打撃を与えられていない。

 戦艦と空母が多い編成。巡洋艦以下が少ない以上、一度崩せばこっちのものだが……やはり、この手を打つ必要もあるか。


「ポーラ、ウォルツ、各無人艦隊から戦術艦隊を1個ずつ、潜宙艦以外を抽出しろ。敵艦隊中央へ向けて特攻させる」

「は、はい、分かりました」

「もう使うつもりですか?ガイル」

「もう少し後だが、使う。機動兵器も込みだ。撃破される寸前に自爆するよう弾頭を設定しておけ」

「了解です」

「お兄ちゃん、良いの?」

「王国軍は特攻してでも殲滅する、そう思わせることが重要だ」

「……そういうこと」


 ジュベールどものことだ。これを知っても変わらない方が多いだろう。

 だが、自動制御に手を加える者がいるかもしれない。攻撃を躊躇する者がいるかもしれない。戦略を変えるかもしれない。そういう可能性だけで十分だ。

 そうして出来た隙を、俺達が突く。


「艦隊損耗率0.7%、無人艦隊は1.2%」

「敵艦隊撃破率、3.5%を突破」

「潜宙艦隊損耗率1.3%」

「メリーア。敵艦隊の右側、このポイントに集中砲火を加えろ。この内のどれかが旗艦の可能性が高い」

「りょうかーい。ここ、特に機動要塞へ火力を集中してー、それでー」

「シェーン、アーマーディレストは敵艦隊中央への砲撃を継続しろ。この機動要塞群を叩く」

「……了解」


 火力を集中させる場所をいくつかに分け、さらにそれを随時変更していく。王国軍内での演習なら必須の指揮だが、帝国軍に対してもある程度の意味はある。

 機動要塞を全て潰せば後は簡単だからな。


「航空部隊、砲撃艦隊、共に選抜完了しました。潜宙艦隊は半数が敵潜宙艦隊を攻撃しつつ、もう半数が攻撃配置についています」

「砲撃の準備も終わっていますよ」

「無人艦隊の方ももう少しで終了します」

「それなら……」

「いえ、待ってください」


 ん?


「これは……前方1000kmの位置より先に空間変位を確認、敵艦のワープです」

「先手を取られたか。選抜されていない航空部隊は全機攻撃準備」


 現実時間で1分は経っている。生身であろうと指示を出してもおかしくない時間だが……決断が早いな。

 しかも至近距離、賭けにしては上手すぎる。


「全艦砲撃準備、ワープアウトの瞬間を狙え。艦隊陣形そのまま、対空戦闘用意」

「対空戦闘、ですか?」

「お兄ちゃん?」

「あの数なら、多少の空母を使い捨てる可能性は否定できない。敵艦隊攻撃のために選抜されていた部隊は全艦全機亜空間ワープ用意。座標はこちらで指定する」

「ガイル、砲撃の目標設定をやりましょうか?」

「頼む」


 そうして準備を終えた直後、帝国艦隊が飛び出してくる。


「撃て」

「発射ー」

「……射撃開始」


 それと同時に全艦斉射、攻撃準備が終わっていない先頭の艦をまとめて吹き飛ばした。

 帝国艦隊も反撃を始めるが、火力の差で勝てるな。


「航空部隊は攻撃を開始しろ。選抜部隊、亜空間ワープ開始」

「展開済みの航空部隊、攻撃を開始します」

「潜宙艦隊は待機中。発見した敵潜宙艦隊は殲滅済み」

「航空攻撃部隊、砲撃艦隊、亜空間ワープ開始」


 さらに攻撃部隊は予定を少し変え、帝国艦隊本隊の後方へ出現した。砲撃艦隊の援護を受け、航空攻撃部隊は帝国空母へ次々とミサイルを放つ。

 ポーラのおかげで十分に対策を立てられ、どこも優勢だ。これなら……ちょうど良いか。


「無人特攻艦隊、亜空間ワープ用意。目標座標、敵艦隊中央部」

「了解。無人特攻艦隊、亜空間ワープ用意」

「目標座標設定、敵艦隊中央部」

「全無人艦自動戦闘セット。システムチェック、異常なし」

「自爆装置、オールグリーン。条件設定問題なし」

「分かった。無人特攻艦隊、全艦亜空間ワープ開始」


 俺の合図と同時にこちらの3点でワームホール群が開き、無人艦隊は帝国艦隊中央部へ飛び出した。

 そして攻撃を開始、付近にいた機動兵器や戦闘艦を軒並み沈める。というか人型機動兵器や小型の戦闘艦は、亜空間ワープに巻き込まれただけで爆沈していたりする。

 だが、帝国軍がやられる一方なわけがない。


「無人特攻艦隊への対処をしている隙に戦果を広げるぞ。砲撃密度を上げろ」

「敵攻撃艦隊撃破率72%」

「敵空母の80%を撃沈、敵機動兵器も数は50%に減りました」

「無人特攻艦隊、集中砲火を受けています。現在のシールドは平均57.2%」

「特に要塞艦へ集中」

「予定通りだ」


 いくら頑丈極まりない要塞艦とはいえ、これだけの集中砲火を浴びれば耐えられない。

 シールドを抜かれ、装甲を穿たれ、そして……


「ラファレンスト級207番艦、自爆しました。戦闘艦数千隻、機動要塞4隻を巻き込みました」

「スティアレグラ級、ニーランレント級、フォルスティン級、各要塞艦共に自爆装置は正常に作動。戦闘艦も問題ありません」

「無人機動兵器各機、戦闘を継続中。自爆機は12.3%、被撃破機は7.8%」

「そのまま続けろ。機動兵器は敵艦へ体当たりさせても構わない」


 重力子弾頭。ある程度広い加害範囲が欲しい時に使うミサイルの弾頭だが、無人艦隊の各艦はそれの巨大版を仕込まれている。

 もちろん、加害範囲を広げるほど必要エネルギーは指数関数的に上昇するが、それは緊急用高出力ジェネレーターを数基追加するだけで良い。実際それで解決した。


「敵艦隊撃破率、30%を突破」

「艦隊損耗率6.9%、無人艦隊は8.5%」

「無人特攻艦隊残存数24.7%」

「分かった。潜宙艦隊、一斉攻撃開始。同時に選抜済みの航空攻撃部隊も亜空間ワープ開始」

「潜宙艦隊攻撃開始。全艦対艦魚雷一斉射」

「航空攻撃部隊は亜空間ワープを開始してください」

「潜宙艦隊、魚雷第2波斉射」

「魚雷被迎撃率は2.1%」

「航空攻撃部隊亜空間ワープ終了、全機攻撃開始」

「魚雷着弾まで、5、4、3、2、1、命中」

「敵艦隊撃破率40%に上昇」


 帝国艦隊の戦艦と空母の多くを叩き、機動要塞も数を減らした。指揮官が何か仕掛けようとしても、既に戦力がない。

 後は……消化試合か。


「ねえお兄ちゃん、ここ怪しくない?」

「ん?ああこれは……そうだな、メルナ」

「攻撃ですね。分かりました」

「助かる。ポーラ、シェーン、敵艦隊を解析して脆弱部を突け」

「了解です。解析を開始します」

「……了解」

「メリーアとハーヴェは……」

「艦隊は任せてー」

「ま、オレができるのはサポートだけだぜ」

「任せる」


 総火力は帝国の方が上だが、精度も合わさればこっちの方が上だ。

 多少気をつける必要はあるものの、勝てる。


「第102を少し下げろ。代わりに第2、第5、第17戦術艦隊は前進、火力増強だ」

「了解。艦隊陣形変更、第102無人戦略艦隊、後退します」

「敵艦隊、約半数の反応性が低下。旗艦半減の模様」

「残存の敵旗艦を殲滅する。全艦、機動要塞へ砲撃を集中させろ」

「了解、機動要塞へ砲撃を集中」

「残存機動要塞、全艦ロックオン完了」

重力子砲(主砲)重粒子砲(副砲)、対機動要塞砲撃へ、全艦連動」

陽電子砲(両用砲)は対空警戒まま、対戦闘艦砲撃を継続中。いつでも行けます」

「撃て」


 宇宙(ソラ)を切り裂くように放たれた弾丸は数千秒かけて敵艦隊へ到達、残る機動要塞の全てを消し飛ばした。


「全敵艦の反応性低下を確認しました。旗艦を全て撃沈した模様です」

「艦隊損耗率は9.4%、無人艦隊は12.7%」

「ふう……油断なく敵艦隊を殲滅しろ。メルナ、砲撃管制は任せる」

「いつも通りですね。分かっていますよ」

「シェーン、レイ、メリーア、ハーヴェはメルナのサポートをしろポーラは工作艦(オルファン級)輸送艦(ガッザレス級)の護衛を選べ。ラグニル、例の通りに頼む」

『もちろん分かっているよ。まあ、計画通りなら1日もかからないから、護衛をちゃんとしてほしいね』

「そこは任せておけ。1機たりとも近づかせない」

『頼むよ。じゃ、僕も陣頭指揮かな』

「任せる」

『キミにもね』


 そう言うと、工作艦(オルファン級)輸送艦(ガッザレス級)の群れは基地設置のため、惑星へと向かっていった。護衛艦隊が敵基地施設を全て吹き飛ばしたら、すぐに作業に入るのだろう。

 それにしても……ハンデレンティス級を使わないにも関わらず、惑星規模の作業が1日で終わる、というのは大したことだ。流石はラグニルだな。


「敵艦隊の殲滅を終了しました。損耗率に変化はありません」

「分かった。次はデブリの回収と周辺警戒だ。特に警戒は怠るな」

「……ガイル……基地に秘密って、ある?」

「秘密?」

「……設計見たけど、変な隙間あった……あれ、何?」

「気づいたのか」

「……技官の講義受けてた……それで?」

「それは気になりますね」

「機密なの?お兄ちゃん」

「一応機密だが、俺とラグニルが決めただけだ。問題無い」


 王国は連邦より帝国の情報を得る。連邦は王国から火力支援を受ける。

 他にも色々とあり、基地設営はその政治的な取り引きの一環だ。軍事的に利益が無いわけではないが、諸手を挙げて賛成できるものではなかった。

 だが、それ以外に何をするなとは言われていない。


「全て連邦基準で作るのは伝えたが、それだけじゃない。壁の中の盗聴器、監視用の超小型レーダー、鎮圧用ナノマシン散布装置、全て隠して設置してある。当然、エネルギー経路もだ」

「……多い」

「ですが、必要でしょう」


 なので徹底的にやらせた。万が一敵対した場合、また帝国に奪われた場合を想定すると、これくらいは必要だ。

 連邦がこれを知れば裏切りと考えるかもしれないが、バレなければ何の問題もない。


「それと惑星地下、核の辺りに巨大重力子弾頭を100発設置予定だ。敵対するなら吹き飛ばす」

「保険ならいるよね」

「先生、それについて……」

「父さんには許可をもらった。ザル……陛下と総帥閣下にも話は通してある。設計はラグニルに任せた」

「それなら安心です」

「俺の話だけだと信じられないのか?」

「そうですね」

「……当たり前」

「だってお兄ちゃん、書類だって全然できないじゃん」

「専門家に任せた方が安心できます」

「そうだけどな……」


 誰にだって得意不得意はあるだろ。俺は得意に偏りすぎてるだけだ。

 ……言ってて悲しくなるな、これ。


「さて、異次元に監視網を敷く。手伝ってくれ」

「あれ、逃げた?」

「……逃げた」

「逃げてない。仕事だ」

「ふふ、仕方ありませんね」

「分かりました。設置場所の選定を始めます」

「頼む。レイ、シェーン」

「はーい」

「……姫様のため」

「そこは俺のためって言ってくれ」

「……やだ」


 まったく、少しくらい素直に褒めてくれ。












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