第18話
新王国歴7268年2月5日
「ウォルツ-フラーケン准将以下60名、ただ今をもって第1戦略艦隊に着任します」
「ご苦労。久しぶりだな、ウォルツ」
「はい。お久しぶりです、ガイルさん」
出発を翌日に控えたこの日、無人戦略艦隊のオペレーター達が正式に着任した。
なお、人選も配慮されてる。全員同じエリアの秘匿要塞出身だ。
「席はそこに用意してある。ポーラ、シェーン」
「……プログラム、セット済み」
「各種テストも済ませてあります」
「ありがとうございます。では早速」
そしてウォルツを始めとした60人は追加で用意された席に座り、何か作業を始めた。
あれは……確認テストか?相変わらず律儀だな。
「どうだ?」
「問題ありません。追加テストを行いましたが、現在進行中のものも含め全てグリーンです」
「それは良かったですね」
「はい、メルナ様。ミュルティス大将を疑ったわけではありませんが」
「構いません。他意が無いことは知っています」
同じ秘匿要塞出身の生体義鎧なので、互いに顔見知りで仲は良い。敬語だとか呼称だとかの違いはあるが、その程度だ。
それと、どうやら時間がかかったテストも全て問題なく終了したようだな。
「お兄ちゃん、そろそろだよね?」
「ん?ああ、そうだな」
「そうですね」
「ガイルさん?」
「いつもよりは少し遅いですが、問題ありません」
「ウォルツ、来てもらうぞ」
「え、どこへですか?」
「戦略艦隊総会議だ。向こうで接続する」
「なっ……」
「逃げるなよ?」
「りょ、了解!」
今日、この後行われる戦略艦隊総会議の議題は対帝国全体戦略、その最終確認だ。
そして他の出席者数名の承認があれば、資格を持たない者も戦略艦隊総会議へ出席できる。俺は無人艦隊の説明のためにウォルツを連れて行くことにしていて、父さんやリーリアの承認も貰っていた。ウォルツへの説明は忘れてたが……
ちなみに同時に陸海軍も会議をしているらしく、第11戦略艦隊のティレシア元帥はそっちへ行っている。気を遣ってくれたらしい。
「来たか」
「遅いわよ」
「父さん、リーリア、すまない。少し処理することがあった」
「処理……ああ、そういうことね」
「分かったような口を利くな」
「分かってるのよ」
まあ確かに……だがここではやめろ。他の連中も苦笑してるだろ。
「ガイル、リーリア、そこまでだ。始めるぞ。フラーケン准将、説明を」
「は、はい!」
ウォルツ、緊張しすぎだ。父さんとは面識どころか……って、他の連中か。
「無人戦略艦隊はご存知の通り、帝国銀河侵攻作戦において足りない数を補うために建造されました。要塞艦も含め全艦の無人運用が可能ですが、ソフトの性能的は劣っています。上手く運用を行い、高く見積もっても、戦力的には半分程度と考えた方が良いでしょう」
「はい、そのような感じでした」
「上手くやっちゃうだけだけど」
「だな」
「運用法そのものは単純で、直接操作する機体や艦艇に追従させる方法と、無人艦隊単体で動かす方法の2つが存在します。前者は既存の戦闘シミュレーション用AIを拡大発展させたもの、後者も同様に戦闘シミュレーション用AIですが、こちらは帝国軍と似た方法です。とはいえ性能は段違い、単独でも十分に戦闘可能です。また設定を変更すれば、直接操作をすることも可能になります」
「様々な状況を想定し、切り替えの訓練は数多くとっています」
「えっとー、君達の仕事はあの通りで良いんだったっけ?」
「はい。僕達の仕事は艦隊陣形変更時のサポート、戦闘時のレーダー管制および機動指示補助、偵察行動指示など多岐に渡ります。確かにいなくても使用は可能ですが、スピードと正確性は大きく違います」
「それは俺も確認した。予想だが、単独で帝国軍の同クラス艦艇数隻を相手にしても勝てるだろう」
「けど、私達には敵わないわよ。ウォルツも言ったし知ってると思うけど、ソフトの反応性は低いわ。流石に陸海軍の一般人よりは早いけど、ターゲット選択には柔軟さがないわね。トントンってところかしら?」
「そこは仕方ありません……その部分は今後の改善点だと技官の方、シェイブァン技術少将からも言われておりました」
「そのようですが、大丈夫でしょう」
「今使えるから問題ないかな」
「何事もやり方次第ですから」
「まあそうだな。そして……」
そしてこの無人艦隊の価値、敵にとっても俺達にとっても最大の驚異となるものが1つ。
「そして、無人戦略艦隊にもアレが搭載されている」
「へぇー、それだったら……」
「それならば使う場面も多く……」
「やれなくはねぇな」
「そこまでよ。アレを容易く使うものじゃないわ」
「そうだな。だがご苦労だった、ウォルツ。下がっていいぞ」
「はい、失礼しました」
その言葉を受けてウォルツはこの場から消え、会議は本来の人数に戻る。
「前座は終わりだ。ガイル」
「戦術と一緒に、だな」
「ああ」
「ならリーリア」
「ええ、良いわよ」
そしてホログラフ、と言えるかはアレだが画面を用意し、説明を始める。
「対帝国侵攻作戦において要となるものは、帝国の生産力を破壊することだ。帝国には元素操作装置がないため、艦艇の建造には工廠が必要となる。そこで帝国の工廠となっている星系を攻略し、使用不可能にすることが我々の目的だ。幸い、連邦のデータベースから主だった工廠星系の場所は把握できている」
「そしてその方法としては、軌道上に機雷、ミサイル、魚雷を無数に配置し、億単位の艦艇を殲滅できるほどの罠を仕掛けることを考えている。材料は星系内から調達する。戦略艦隊か海軍が張り付いて防衛するなんてバカらしい真似はできないし、連邦に任せるなんて以ての外だからな」
「星を丸ごと破壊すれば封鎖の必要はないけど。それならそれで偵察に来た艦隊を罠に嵌められるから、有効ね。ただし、帝国に支配された現地人がいるなら保護しろとのお達しよ。皆殺しにしたら連邦が敵になるし、私達と同じ立場の連中には利用価値があるわ。まあその場合、揚陸作戦になるわね」
この戦略と戦術は俺達が決めた。
と言っても、メルナ達や他の司令長官達、陸海軍の上級元帥や元帥、および王族の方々からの意見も数多く聞いている。
それをすり合わせ、調節して、1つの形に纏めたのが俺達なだけだ。
「細かな戦術はそれぞれに任せる。だが、戦略的に守ってほしいルールがある。父さん」
「その通りだ。工廠星系には多数の帝国軍が展開している可能性が高いため、陸海軍との共同作戦となる。その際、陸海軍への被害は最小限としろ」
「それは当然です。人的損耗は王国の国力を下げるのみですから」
けどまあ、俺達の意見が通りやすいのも事実。色々と好き勝手やった部分もなくはない。
「ならばよい。また他に、落とした工廠星系周辺、および攻略目標とは異なる星系への攻撃命令を出す時もあるが、必ず応じろ」
「何でだよ」
「俺達の戦争は点の集合体だ。だが、帝国と連邦は違うらしい。連中にとっての戦争は星系を結ぶ線と線の戦い、補給線の問題みたいだな。つまり……」
「陽動になる、ってこと。だよね?」
「そうよ。少しすれば気づくでしょうけど、それまでは使えるわ」
王国軍にとって戦争とは星系の取り合いであり、この広い宇宙では点と点の争いにすぎない。
だが帝国と連邦にとっては違う。俺達と違って補給を絶やすことができないことから、星系同士を結んだ線が重要なようだ。迂回路はいくらでもあるが、それでも自陣の勢力圏か否かは大きく関わっているらしい。
それなら、利用しない手はない。
「そして目標となる星系は……この80ヶ所だ」
帝国銀河の外周部、各地に点在する工廠星系が、俺達の最初の目標となる。
俺達の利点を最大限生かす方法だ。
「特にこの11ヶ所は規模が大きい。第1次、第2次攻撃作戦で全て攻略する予定になっている。連邦軍と分担して実施することとなっているが、半数程度は我々が担当することになるだろう」
「でも、バルジの中については分かってないわ。他にもある可能性は高いわね」
「そして、そのバルジ内部へ侵入するための障害が見つかった。これだ」
だが帝国に完全に打ち勝つには、この超の付くほど巨大な球形の人工構造物が邪魔になる。
「詳しい情報は分かっていないが、この惑星規模要塞が9ヶ所あるバルジの通路に1つずつ存在する。デルミッシ回廊を塞ぐアルストバーン星系のようなものだが、迂回路が一切存在しないためより厄介な存在となっている」
「これは……難しそうですね」
「連邦には何か情報がありませんか?」
「連邦は過去に3回攻めたことがあるようだが、近づくこともできずに殲滅されたためロクな情報を持っていない。帝国側からもまだ情報は得られていない。分かっているのは、直径が約1万kmということくらいだ」
向こうの情報を調べていくと、どうやら連邦は数回帝国へ大攻勢を仕掛けたことがあるらしいが、全て失敗している。
帝国でもようやく氏族軍高官クラスに協力者を数名得た程度だから、この要塞みたいな重要機密の詳細は分からない。
「これについては今は放置する。情報がなさすぎて何もできないからな。攻略法を考えるためのデータと時間は必要だ」
「それに、外のものを放置するのは無理ね。順番に大きめの基地を全て破壊するくらいじゃないと、すぐに数に押されて負けるわ」
「少しずつ、ってことだね」
「そうだ。また数日前に決まったことだが、連邦へ前線基地を提供することとなった」
今まで言葉を発しつつも粛々と進んでいた会議だが、父さんのこの発言には少しざわついた。
検討など色々なことがあり、俺とリーリアまでしか知らなかったからな。
「当然、中身は連邦基準だ。元素操作装置は建造にしか使わず、ジェネレーターは連邦の艦艇から移す形にする。連邦にもこの条件を飲ませた」
「そしてそのために、俺達第1戦略艦隊が先行する。明日の出発は予定通りだが、目的が変わった形だな」
「場所はどこになりますか?」
「最初の目的地はここ、帝国銀河外縁部の自由浮遊惑星だ。王国や連邦の側にあるため、立地としては十分。ただし、小規模ながら帝国軍の基地があるという情報もある。恐らく、ここで戦端を開くだろうな」
「オレらはどうすんだ?予定を変えんのか?」
「ええ、合流もここでするわ。連邦への引き渡しと同じような頃ね。その後、各地へ向かうことになるわよ」
「了解だ」
「承知しました」
残る問題は数多い。
だが、それはここでは解決できない。
解決するためには、進むしかない。
「この戦いで全てを決める。いや、終わらせる。その信念を持って進め」
「「「「「「「「「「「全ては王国のために」」」」」」」」」」」
これで解散……のはずだったが、その前にリーリアが近寄ってきた。
「貴方、この後空いてるわよね?」
「まあ、邪魔だから追い出されたって感じだが……何で知ってるんだ?」
「ポーラが教えてくれたのよ。それで、ちょっと私の部屋まで来ない?」
「今からか?」
「最後、だからよ。ある意味ではね」
「そうだな……分かった」
というわけで、俺はリーリアの部屋へ向かう。
だがそれは第3惑星の自宅にある部屋ではない。第4戦略艦隊旗艦の中にある部屋のことだ。
今はまだ厳戒態勢ではないが、出発は明日。技官やオペレーターの最終チェックが行われていて、離れすぎるのは良くない。隣にある艦へ移るくらいなら問題は無いが。
「入るぞ」
「いらっしゃい」
リーリアの部屋は性格の割に質素だ。俺と同じように、特に苦しい頃の影響が強い。
まあ全く飾らないわけではなく、小物は色々と置いてるが。あの時代が根にあると言っても、変わらないわけではない。
ベッドに腰掛けていたリーリアを見て、俺もその隣に座る。
「それで、どうした?」
「急ぎすぎよ。いいじゃない、どうだって」
「甘えたいのか?」
「……ズルいわ、そういうのは」
「悪い。だが、こういうのも好きだろ?」
「ええ」
そう言って、リーリアは頭を太ももの上に乗せてきた。俺はそれを受け入れ、ついでに髪を撫でる。
「ねえ、貴方」
「ん?」
「後悔してる?」
「急にどうした?」
「気になっただけよ。最後だから、かもしれないわね。それで?」
「こんな人生を選んで後悔してるのか、ってことか」
「ええ」
「いや、してない。確かに何度も苦しみ、何度も泣いた。だが、それ以上に出会いがあった。たとえあの日に戻ったとしても、たとえ何度生まれ変わったとしても、俺はこの人生を選ぶ。リーリアが思ってる通りに、な」
「やっぱり、貴方はそう言うわよね。でも、あの歌みたいな答えよ?」
「ああ、そういえば確かにそうだな」
父さんが好きで、没後8000年が経っているのに未だに根強いファンが数多くいる、大昔の歌手のバラード。
俺より短い人生なのに、彼の歌からは俺が教わってばかり。そんな名歌手の曲と同じような問答に、思わず笑い声が漏れた。
「私達なら15歳の夏じゃなくて、14歳の春になるけど、選ぶことは変わらないわね」
「父さんだったら多少は違うだろうな。母さんやレイ、おじさんやおばさんも助けて……その後は同じか」
「そんな感じよ。私達には、道は2つしか残ってなかったんだから」
死ぬか、戦うか。俺達に残っていた選択肢はそれだけだった。
父さんが違う道を選ばせようとしたこともあったが、俺達にはそれしかなかった。心理的に、それ以外を作れなかった。
「俺が弱かったからな」
「私もよ。貴方は私のことを強いなんて言うけど、私だって弱いわ。本当に強いならあんな風にはならないわよ」
「そう、だな……多少の向き不向きがある程度か?」
「そんな感じよ。やっぱり私達、似た者同士ね」
確かに、リーリアの言う通りかもしれない。
俺は、俺達は、父さんのようにはなれない。いや、父さんすら俺達が思っている姿とは違うのかもしれない。
だが、それが俺達だ。変えようがないし、変わりようがない。
「でも、だからこそ、これで良かったって思ってるわ。ポーラと、メルナと、シェーンと、レイと、多くの人に会えた。それが何より嬉しいのよ」
「俺もだ。人生は悲しい別れだけじゃない、それを知ることができた」
「だから、ね」
「っと」
そしてそう口に出したリーリアに俺は押し倒される。
いくら柔らかいベッドとはいえ、翼が圧迫されて痛いんだが。
「情熱的だな」
「いつかのをやり返しただけよ」
「つまり、俺はこの後首を切られるのか?」
「まさか。言ってみただけよ。この後のことは……この体勢から察してほしいんだけど?」
「まったく、ほどほどにな。俺の役目は明日からだ」
「ええ、もちろんよ。でもその前に……」
俺達2人の絆、それは絶えることのないものだ。
「貴方、ありがとう。貴方がいてくれたから、私は生きていられるわ。だから、本当にありがとう」
「リーリア……俺もありがとう。苦しい時も、辛い時も、いつも傍にいてくれた。俺の力になってくれた。それが何よりも嬉しかった」
たとえ何者が相手だろうと、絶対に遮らせはしない。




