第15話
新王国歴7267年12月30日
「まだかなー?」
「そんなに待っても早くはならないぞ」
「あと5分よ。少しなんだからちゃんと待ちなさい」
「はーい」
夜中、テレビを見ながら時間を待つ。
といっても特別な用事があるわけじゃないから、食べたり飲んだりしながら気ままに、だ。
「……レイちゃん、はしゃぎすぎ」
「そうですね。毎年のことではありますけど」
「もう少し大人しくなった方が良いと思います」
「まあ、こんな感じでも良いと思うぞ。無理矢理変えても仕方がない」
「それ、貴方が変わらなかったから言っただけでしょ?」
「否定はしないな」
「えー?何それ酷いよー」
そしてこんなやりとりもしながら。
「さて、年末恒例のやりとりはここまでにして。もう少しだな」
「そうですね。ワインの準備はできていますから、いつでも大丈夫ですよ」
「来年は……忘れられない年になりそうね」
「ああ。色々と、な」
「……生きてれば、だけど」
「不吉なことを言うな、シェーン。誰も欠けることなく再来年を迎える、そう考えろ」
「1番欠けやすいのは私よね……貴方、ちゃんと守りなさいよ?」
「自分のやってきたことを見直してから言え。俺が何回突撃の前準備とサポートと後処理をしたと思ってるんだ?」
「よくあったことでしょ?」
「よくあったことだけどな……」
「相変わらずですね」
「仲良しだねー」
「昔と同じです」
「……いつも通り」
「おい、それは何か別の意味に聞こえるぞ?」
「いいじゃない。そっちでも合ってるわよ」
話のターゲットを変えたりもしつつ、暇を潰し、時間は過ぎていく。
そしてようやく、カウントダウンが残り10秒を切り……
「新たな年に」
「「「「「乾杯!」」」」」
0になったタイミングで、俺達はグラスを鳴らした。
新王国歴7268年1月1日
「この形式も500回を超えちゃうと、ありがたみも無くなるわね。王国解放祭はまだ感慨があるんだけど」
「そう言うな。俺達にとってはそうでも、他の連中にとっては違う。それに、多少儀式的な意味合いもあるからな」
「分かってるわよ。ただ、そう思っただけ、他意は無いわ」
「リーリア、そんな風に文句ばっかり言ってはいけませんよ?」
「なに?ねえメルナ、挑発なら受けて立つわよ?」
「あら、何のことでしょう」
「……姫様、加勢します」
「じゃあ、わたしはリーリアお姉ちゃんの方かな」
「ええと……先生?」
「無視しておけ」
真夜中だが、一般市民達は王国解放祭と同じようにお祭り騒ぎだ。実際、元日は0時になった瞬間から自然食品の配布が始まるからな。
「わっ!見て見て!」
「……大きい」
「今年も上がったか」
「毎年じゃない」
「そうですけどね」
「いつも通りできることが幸せです」
それに花火も上がった。高さの関係で横か下で開くものが大半だが、綺麗なものは綺麗だ。各所で見ている者達の歓声と活気も聞こえてくる。
だが、そこへ混ざることはできない。俺達には別の用事がある。
「さて、そろそろ準備をしないと間に合わないぞ」
「そうですね。始めましょうか」
「はーい」
「……分かりました」
「はい。では先生」
「ああ、待ってる」
王城で開かれる新年祝賀会へ呼ばれているからだ。毎年、だけどな。
ただ、普段なら服を選ぶ必要は無く、いつも軍服だ。それ以外の選択肢があるのはメルナだけで、貴族令嬢だったシェーンも軍服しか着られない。
ただし、新年祝賀会では着飾れという命が毎年出ている。つまり……
「どうでしょうか?」
「貴方、どう?」
「似合ってる。ああ、全員だからな?」
「……当然」
「ありがとうございます」
「お兄ちゃんも似合ってるよ!」
「ありがとな、レイ」
リーリア達5人は美しくドレスアップをし、薄く化粧をした格好で戻ってきた。
また、俺も普段の軍服ではなく、各所に装飾が施されたモーニングコート風の王国軍戦略艦隊元帥号最上位儀礼服を着て、そこへ見栄えの良いように各種勲章を付けている。
付け方については最初に呼ばれた時、リーリアやメルナを主体に全員で考えた。というか、俺を使って遊んでたよな。
「では先生、行きますか?」
「ああ。遅れると面倒なことになるからな」
「……分かった」
「そうね。しばらく待つけど、近衛に迷惑をかけるのも悪いわ」
「はーい」
「分かりました。それでは、オートビークルを動かしましょう」
「いや、それは俺がやる。少し待っててくれ」
登城は午前1時から、新年祝賀会は12時まで続く。といっても、俺達の入場は3時くらいだが……ある程度早く行く必要があるのはいつもと同じだ。
生体義鎧だから寝る必要は無いが、多少予定がアレなことは否定しない。とはいえ儀式だとか何だとかで、国王達は昨日の6時くらいから寝ずに色々とやってるらしいから、それよりはマシだが。
まあそれはどうでもいい。シュミルを使って高級車タイプのオートビークルを起動させ、玄関前で待機するようコマンドを送る。
「特に苦労することじゃないからな」
「それでは、私でも同じでしょう?自分がやりたいだけではありませんか?ガイル」
「否定はしない。まあ今日に限れば、メルナにやらせるのはよくないからな」
「確かにそうだと思います。王女殿下として招待されていますから」
「……姫様、そういうこと」
「そうですね。それでは、乗りましょうか」
「ここでは良いけど、向こうに着いたらちゃんと順番になりなさいよ?」
「分かっていますよ」
こんな風に言っているが、俺達の中では順番なんて形式以上の意味しか持たない。というか俺達6人はセット扱いだから、実際は気にしなくても良かったりする。
だがまあ、形式を破るのも気分が悪いから、ちゃんと守るけどな。
そんなことを考えたり、適当なことを喋っている間に、オートビークルは王城へ着く。そして控え室までほぼ素通りで通された。ここからしばらくは待機時間だ。
「えっと、あ、やってるね!」
「……レイちゃん、毎年見てる」
「うん。だって好きなんだもん」
「それは問題ありませんけれど、時間は忘れないようにしてくださいね」
「大丈夫だよ、メルナお姉ちゃん。タイマーをセットしたもん」
「用意周到だな」
それで案の定、レイがテレビの前を占拠して色々と弄っていたが。そして、レイが好きな番組を勝手に見ているが。
まあいつも通りだし、控え室の中だ。会場での礼儀はしっかりしているから、誰も気にしない。
「あれ?あの子達も出てるのね」
「スナッチーズか?まあ、売れっ子だからな」
「視聴率もかなり高いようです」
「流石ですね」
「メルナお姉ちゃんも出ればよかったのに。逆転できるよ?」
「……そんなの無理」
「これは生放送だぞ?」
「でも、録画のところなら大丈夫だよね?」
「そうかもしれませんけれど……元日に王族がテレビに出るのはあまりよろしくないのですよ。陛下の新年参賀までは自重することが、王族内での暗黙の決定ですので」
「そうなの?」
「そうらしいぞ。それにならって、卿や高官も元日はあまり出ない。一部例外はあるけどな」
「というかレイ、100年くらい前にも同じことを聞いてるわよ?」
「あ……そうだった、ごめんなさい」
「構いませんよ。家族ですからね」
そうして待ち時間を過ごし、約2時間後。近衛の、それも特務白翼護衛大隊の迎えが来たので、案内に従って会場へ向かった。
メルナを先頭に、次が俺とリーリア、その後ろにポーラ、シェーン、レイが続く。
『メルナ-ファルトルム=ティア-バーディスランド殿下、ガイル-シュルトハイン元帥閣下 、リーリア-メティスレイン元帥閣下、ポーラ-ミュルティス大将閣下、シェーン-ハイシェス=メランシーアス中将閣下、レイ-シュルトハイン中将閣下、御入来!』
少し人数が多いが、いつも通り入場する。この会場は王城の中程にあるホールで、礼儀もまだそこまで厳しくない。
ただし、入場は俺達が最後だった。
この新年祝賀会だけは、国王陛下と王妃殿下が最初からいる。形式として、国王陛下へ臣下が新年の挨拶を行う、というものだからだ。
「陛下、王妃殿下、新年明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとうございます、メルナ様。わざわざご足労いただき、恐縮です」
「メルナ様、今年も来ていただいてありがとうございます」
「いけませんよ、陛下、王妃殿下。今宵は全て、私が従ですので」
「そうですが……いえ、そうさせていただきます」
王族の関係が複雑怪奇なのは大昔だけだが、メルナに関してだけは例外としか言いようがない。けどまあ、それも慣れたことだ。
そして挨拶を終えてメルナが道を譲ったため、ザルツは俺達へ向き直る。
「シュルトハイン元帥、メティスレイン元帥、新年の祝賀を伝えさせてもらおう」
「は。陛下におかれましては、ご健勝のこととお慶び申し上げます。また、祝賀への感謝を述べさせていただきますとともに、新年の御祝辞を申し上げます」
「そして、我々戦略艦隊の陛下への変わらぬ忠誠と、国民および国家への永久の奉仕を改めて誓わさせていただきます」
昨日の午後6時からほぼ休みなしの公務のためか、ザルツの顔に浮かぶ疲労の色は濃い。限界には程遠いが、かなり辛いだろう。
なお、王族でも未成年者には公務の義務が無いため、シュン殿下やルルア殿下、マリナ殿下はいない。というか、こんな過酷な公務に子どもを巻き込ませる大人はいない。
「それは心強い。これからも頼りにしているぞ」
「「は!」」
ポーラ、シェーン、レイの分も俺達が代表して答えた。
挨拶はこれで終わり。俺達は再度礼の形を取った後、御前から下がる。
「ふぅ」
「お疲れ様、貴方」
「上もそうだが、年始の挨拶も慣れないな。あんな風にかたっ苦しいのは」
「そうかもしれませんけど、まだ続きますよ?」
「そうだったな……」
だが、俺達にとってはむしろこれからが本番だ。
他の王族の方々と同じく挨拶を受ける側、というか王族の方々もメルナ目当てで来るのが例年の流れ。そのついでになっていて、俺達は逃げられない。
新年祝賀会であり政治話はタブーというのが暗黙の了解だが、今年は特別な年だ。ある程度はあるだろう。
「メルナ殿下、新年のご祝辞を申し上げます」
「ありがとうございます、ウェンディス総帥閣下。本年も王国への功労をお願いします」
「新年の慶びを申し上げます、シュルトハイン元帥閣下」
「感謝する、アインシュタッド卿。こちらも新年の祝辞を送らせてもらう」
「メティスレイン元帥閣下。新年祝賀会への参加、感謝する」
「ありがとうございます、クルト殿下」
もちろん俺達だけじゃなく、ポーラ、シェーン、レイにも多くの人が来ていた。というかシェーンの所にはメランシーアス卿が来ていて、長話に付き合わせているようだ。
シェーン、押し負けたな……
「大変そうだな、ガイル、リーリア」
「父さん……そう思うんだったら代わってくれ」
「不可能だ」
「あ、お父さん、明けましておめでとう!」
「明けましておめでとう。今年もよろしく、レイ」
だが父さんが来てくれて、ようやく小休止が取れた。
こういったことが苦手な父さんも、この新年祝賀会だけは出席しないといけないんだよな。
「やっぱり、父さんも大変だったのか?」
「例年通りだ。お前達程では無いが、それに次ぐ程度には多かった」
「おじさんもそうよね。私達に来るのは固まってるからって理由もありそうだけど」
「リーリア、それを言ったらメルナが怒るぞ?そうなったら確実に負担が増えるんだからな。それで、連邦の連中は……確か明後日に謁見だったよな?」
「そうだ。要望はあったそうだが、元日は王国民のみだと陛下自らが断られたそうだ。新年参賀の後だとな」
「当然ですね。異星人が優先されるなんて考えはおこがましいですから」
「……変な気を起こす方が悪い」
「ああ、その通りだ。それと父さん」
「ん?」
だから毎年、色々と押し付けてる。俺の苦労も思い知れ。
「そこで何人も待ってるから、お相手よろしく」
「おい待て、それは……」
「戦略は父さん担当だからな。頼んだ」
特に今年はちょうどいい理由がある。
父さんはいつも逃げてるからな。この程度、何の問題もない。
「ふう、ようやく落ち着いたな」
「押し付けただけでしょ?それにしても、今年は上手にやったわね」
「良い理由があったからな。アレ以外は最初にさばいたから、あとはメルナに来る人くらいか」
「それももうほとんど終わっていますよ。残りは……10人くらいでしょう。彼らもすぐには来ないでしょうけれど」
「じゃあ、好きにしても良いよね?」
「そうだな。羽目を外さなければ大丈夫だ」
「やった♪」
「……レイちゃん、一緒に行こう」
「うん!」
そうしてひと心地つけたので、多少の自由行動ができるようになる。
そして早速、レイはシェーンと一緒にデザートのある辺りへ向かっていった。
また、メルナとポーラはオードブル系のある場所へ、そして俺とリーリアは酒類やツマミのある机へ向かった。
「ん?これは……赤ワインの200年もの?また珍しいものがあるな」
「こっちには白の300年ものもあるわよ」
「久しぶりに充実してるな。自然食品だろ、これ……」
「溜め込んでたものを一気に出したのね。よくやるわ……」
「ええそうです。今年は特別、ですので」
「ティールド准将?護衛はいいのか?」
「自分の任務は護衛の指揮ですので。この場に至れば、優秀な部下に任せれば問題ありません」
彼はニコラ-ティールド准将、近衛軍の中でも最精鋭との呼び声高い、唯一国王陛下の護衛を任されている特務天翼護衛大隊の大隊長だ。
そしてこんなことを口にしているが、彼自身の白兵戦能力は極めて高い。才能に関して言えば、リエルやアッシュと同レベルかもしれない。俺も何度か冷や汗をかかされた。
「そう。それで、特別っていうのはそういうことよね?」
「気が早いな。楽に勝てるとは限らないぞ?」
「負けるとは仰らないのですね」
「「当然だ」」
「失礼。失言でした」
「いや、気にするな。確かに俺達のセリフも、自信過剰に聞こえたかもしれない」
「そうね。貴方、そのあたりは注意してよ?」
「リーリアもだぞ?」
「何よ?」
「事実だ」
「酷いわね」
「くくっ……ああ、失礼しました」
リーリアと適当にやる雑談の1つだが、他人にとっては別の捉え方をされることもある。いきなりすぎて驚いたり、本気だと思って止めようとしたり、急すぎて呆気に取られたり、って感じだ。
だから、笑われることも気にしてない。それに、わざと笑わせるためにやることもあるからな。
「いや、気にしてない。悪ふざけの1つだ」
「悪ふざけというか、漫才みたいな感じよね。出てみる?」
「無理だろ。遊び以外でやったことないんだからな」
「まあそうだけど」
「相変わらず、仲がよろしいようですね」
「お前にも妻はいたよな?かなり睦まじかったはずだが」
「はい。ですが、ここに連れてくることはできないもので」
「そういうことね。仕方ないわ」
「そもそも仕事中だからな」
「ほとんどサボっているようなものですが」
「何を言ってる。俺達の護衛っていう任務があるだろ」
「この中で1番強いのに、よく言うわね」
リーリアもほとんど同じだろ。体格の差で俺の方が相性が良いだけだ。
とまあ、そんなやり取りをしつつ、近くにきた他の人とも話をしつつ、色々と情報を交換しあう。
そしてティールド准将が去った直後、背後から声をかけられた。
「……ガイル?」
「ポーラ、レイ、気に入ったものはあったか?」
「うん。お兄ちゃん、いる?」
「ああ、貰う。美味そうだな」
「……どうしたの?」
「慣れてない相手と少し遊んでただけよ」
「……そっか」
「何か俺達に不都合なことを思い浮かべられた気がするんだが」
「……違う?……姫様に言う?」
「それはやめてくれ」
「これだけだと多分、私達が悪いことにされるわね……」
「……なら、合ってる」
「いや、それもどうか……」
詳しく説明するか?その方が良いような……
「流石に、そんなことはしませんよ。遊んでいたのはガイルとリーリアのやり取りだけですからね」
「……姫様、そうなんですか?」
「はい。先生とリーリア先生で遊ぶことはあっても、他の方に迷惑をかけることはありませんでした」
助かったか。
「ポーラ、ありがとな。それにしてもメルナ、よく見てたな」
「そっちにも結構な人数がいたわよね?」
「ええ。ですけど、これくらいなら簡単ですよ?」
「なあ、リーリア」
「なに?貴方」
「知ってたけど、メルナもヤバいな」
「ええそうよ。ヤバいわよ」
「お兄ちゃん、リーリアお姉ちゃん、何言ってるの?いつもの?」
「いつものことですよ」
「はい、その通りです」
「何か文句でもあるのか?」
「……違う?」
「合ってるわね」
「じゃあ良いじゃん」
「まあ……問題はないな」
失敗したか……素で返されるとこっちが返答に困る。
だが……っと。
「ここまでだ。また人が来るぞ」
「そのようですね。人数は少ないようですけど」
「あれくらいならすぐに終わりそうね」
「あ、ごめんお兄ちゃん、ちょっと向こうに行ってくるね」
「あ、おい……まったく」
「……でも、良い……まだ話してない人達」
「レイちゃんの知り合いだったはずです。話もしやすいと思うので、良い判断だと思います」
「それなら良いか」
空の暗い内から始まった新年祝賀会、この時間になっても初日の出はまだ来ていない。そして、祝賀会はまだまだ続く。
気合いを入れるとしよう。
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「疲れた〜」
「レイちゃん、脱がないとシワになりますよ」
「はーい……」
「まったく」
「仕方ないわね」
あれから色々とあり、家に戻った時には13時を過ぎていた。
だが精神的疲労はあっても、肉体的疲労はない。生体義鎧の利点だな。
「……ねえ、何か食べる?」
「うん、食べる!」
「そうね。場所が場所で、好きなだけ食べるってわけにはいかなかったから」
「軽くつまめるものだな。ジャンク系が良い。だが、無理はするなよ?」
「……大丈夫」
「私も手伝ってきます」
「ガイル、飲み物を用意してもらえますか?」
「ドルで良いなら。シェーン、どれくらいかかる?」
「……ん……30分、くらい」
「それなら……濃いめに淹れて、ミルクで調整するか。ブレンドは……」
シェーンとポーラがキッチンへ行ったのとほぼ同時に、俺も専用スペースへ向かう。
そして葉の種類や時間を決めて……これで良いな。
「よし、終わりだ」
「お兄ちゃん、できた?」
「ああ。これで良いか?」
「うん、美味しい!」
「ええ、美味しいですよ」
「……こっちも、できた」
「揚げ物のミックスね。良い感じでできてるじゃない」
「鳥と、魚と、芋と……これも芋か」
「はい。切り方は3種類にしました」
「こっちも美味しい!」
「もう食べてるのか……確かに美味いな」
「そうですね。流石はシェーンです」
「……姫様、ありがとう」
「これは期待するなって方が無理よね。ん、美味しい」
確かに。見た目からして美味そうだからな。シェーンが作ったってことを除いても、期待せずにはいられない。
「それで……テレビはまたレイが占拠してるのか」
「お兄ちゃん、見たいのあるの?」
「いや、無い」
「あるわけないわ。この時間はいつも流し見だけだもの」
「俺が見たいのは夕方から夜の番組だからな。今の時間のはそんなに好みじゃない」
「私達がいるのにそんなものを見たいのね、魅力がないって……」
「おいリーリア、洒落にならないからそれだけはやめろ」
「みんな分かってるわよ。ただその顔が見たいだけね」
「それでもな……」
流石に、あんなことを言われて動じないわけがないだろ。もし本気でそう思われたら発狂する自信もある。
冗談でしか言わないっていう自信もあるが……それでもあまり聞きたくないな。
「でも、その時間に見たいのは貴方と同じよ。というより、貴方が見てるから私達も見るんだけど」
「影響されたか?」
「そうですね。好みがかなりガイルと同じになっていますから」
「……調教?」
「シェーン、人がいる所では絶対に言うなよ?」
「お兄ちゃん、体だけが目的だったんだね……」
「レイ!?」
いやちょっと待て。
「いや、そのセリフは……」
「さて、弄るのはこれくらいにするわよ。流石にこれ以上は色々とマズいわ」
「リーリア、自分が言ったことを忘れたのか?」
「さあ?何を言ってるか分からないわ」
「そうか、それなら思い出すまで部屋に監禁してやろう」
「私の魅力を再認識してくれたのね」
「やっぱり覚えてたな」
まったく……
「先生、冗談はここまでにしませんか?」
「ターゲットにされてたのは俺だけどな。だが、不毛な争いはもうやめたい」
「ガイルとしてはそうでしょうね」
「……やめる?」
「そうしましょ。もう無意味よ」
「はーい」
色々と、無意味だな。まあこの程度の冗談で関係が悪くなるほど、俺達の仲は浅くない。
そして痛みの記憶は誰よりも強い。
「それで……って、無くなったか」
「本当ね。いつの間に」
「みんな食べてたもんね」
「……もっと作ってくる」
「私も行きます」
「ガイル、ドルもほとんどありませんよ」
「分かった。俺も行ってくる」
「お願いね」
再び戦争の中へ身を置く前の最後の元日、俺達はいつもと変わらない日を過ごしていた。




