第5話
新王国歴7267年4月7日
「先生!」
「ポーラ、こっちだ」
約束した時間の10分前、モールで1番大きく派手な噴水の前で待っていた所へ、ポーラが手を振ってやってくる。
今日は非番なので、俺もポーラも私服だ。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いや、俺も来たばかりだ」
「それはよかったです」
気合を入れてメイクをしてきたらしく、いつもの2割り増しくらいで可愛いな。
そしてそんな彼女は俺の腕に自分の腕を絡ませ、胸を押し当ててくる。
「……そんなに顔を赤くするなら、無理にしなくてもいいんだが」
「だ、大丈夫です!」
「そうか」
頭を撫でると面白いくらい赤くなった。そんなに恥ずかしいんだったら無理はしなくても……いや、それなら少しからかってやろう。
「それにしても、良い服だな。似合ってる」
「そ、そうですか?」
「メイクにも気合を入れたか?いいな」
「それは、その……」
「それに頭を撫でると喜ぶ」
「わ、私は子どもじゃないです!」
「すまない。可愛くてつい、な」
「やめてください!」
口ではそう言っているが、離れようとしない。顔は赤いままだし、反応が面白いからからかいたくなるんだぞ。
ここだけなら2番目とは思えないな。
「時間を取りすぎたな。行くか」
「はい!」
こんな性格だから、いつもは1歩引いたりすることの多いポーラ。だが今日、こんなに積極的になっているのは、恐らく昨日のアレが原因なんだろう。
恐らくじゃないな。確実に、か。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新王国歴7267年4月6日
「そう言えば、明日ってお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんが一緒に休みなんだよね?」
「ああ、そうだ。3人には悪いけどな」
「……順番だから」
「私は一緒に寝たばかりですよ」
「わたしももうすぐだもん。でもお兄ちゃん、ポーラお姉ちゃんと何するの?」
「そういえばそうだな……よし、ポーラ」
「はい。何でしょうか、先生?」
「久しぶりにデートでもするか」
「はい、分かりまし……え?」
ポーラは返答したと思ったら固まり、顔が一気に赤くなる。まるで茹でたオリウートみたいだ。
「……デ、デデデ、デート⁉」
「ああ。そういえばポーラとだけ、かなり長い間行ってないからな」
「そ、そんな、私なんかじゃなくていいです!そ、そそ、それよりメルナさんとかレイちゃんとか!」
「後輩相手に遠慮しすぎだ……お前より先輩なんて、そんなにいないんだぞ?」
「で、ですけど……」
「異論は無いな。じゃあ、決まりだ」
「せ、先生!」
「……ポーラ、抗議はダメ」
「楽しんできてくださいね」
「いってらっしゃーい」
「おいおい、今日の仕事はまだ残ってるぞ」
これだけだと、レイより初々しいからな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「これとかどうだ?ポーラには似合うだろ?」
「えっと……私には可愛すぎると思います」
「大丈夫だ」
「はい……」
昔から、ポーラは一歩引いたような立ち位置にいようとする。大人数でいる時だけでなく、2人きりの時でもだ。そういう性格だから、いつまで経っても敬語が抜けないのかもしれない。
というか、可愛くて何が悪い。似合うはずだ。
「まったく、俺が似合うと思ってるから勧めてるんだ。早く着替えて見せてくれ」
「……見たいんですか?」
「当然だな。だから、早く行ってこい」
「はい、分かりました」
そしてポーラは遮光フィールドと遮音フィールドが張られた試着室へ入っていく。
「さて、楽しませないとな。幸い、新しい店もいくつかあったはずだ」
いくら俺達の任務が厳しくても、非番の度に本国へ帰っていたら非常時に間に合わない。だから、ここは艦の中だ。
戦略艦隊の旗艦、アーマーディレスト級要塞艦の中にはモールと呼ばれるエリアがあり、今日も非番の連中で賑わっている。無駄に広い艦内空間を馬鹿かと言いたいくらい利用しているから、下手な陸軍の演習場より広い。
店は定期的に変わるんだが、大半が王都や主要大都市にあるような店ばかりだ。
そしてこんなものが艦内にあるのは、この艦を造る時にやたらと主張した面々がいたからだよな。しかも相当数……特にレイ。
「先生?」
「ああ、すまない。少し考えごとをしてた」
「せっかく先生の希望した物を着たんですから、ちゃんと見てください」
「と言いつつ、顔が赤いぞ」
「言わないでください!」
「ははは」
顔だけ遮光フィールドから出していたポーラだが、意を決して出てきた。
「は、恥ずかしいです……」
「いや、似合ってるぞ。綺麗だな」
「綺麗なんて、そんな……」
この自己評価が低いのも、昔から変わらない。いや、押しが弱い、か……俺も変わってないんだけどな。
「本当のことだ。自信を持っていいぞ」
「……ありがとうございます」
全身青のポーラが着ているのは、白と黄緑を基調としたワンピース。やっぱり似合ってる。笑顔だと特に。
「とりあえず、これを作っておくぞ」
「はい。では端末に……」
「いや、俺がやる。部屋のやつでいいよな?」
「え、ですけど……」
「デートなんだ。奢らせろ」
近くにあった端末にシェミルを当て、ポーラの部屋で作るよう設定する。
今度の休暇にはこれを着てもらうか。
「服は……そうだな、これでいいか?」
「はい。この後はどうしますか?」
「アクセサリーをいくつか買うぞ。この服に似合うやつをな」
「ありがとうございます。ですが先生、私にも払わせてください。私も余っていますから」
「駄目だ。というか、俺の方が使う量は少ない。それに、俺がポーラに払わせたことは無いだろ?」
「そうですね……では、着替えてきます」
「急がなくていい」
こう言ってもポーラは急ぐだろう。まあ、俺は待つだけだ。
「お待たせしました」
「じゃあ、行くか」
「はい」
そして他の店へ行き、似合うものを見繕う。
遠慮しがちとはいえ、ポーラも買い物は好きだ。だんだんノリノリになり、最終的には2人で楽しんでいた。
なお俺の気に入った髪留めについては店で造成し、今も付けさせている。
「これだけ種類があるってことは、王都でそれだけ競われてるってことか。昔と同じくらいかもな」
「はい。聞いた限りでは、年々規模が大きくなっているそうです。昔を知らないので、何も言えませんが」
「今とは違った形で活気があった。俺だってまだ子どもだったけどな……あの時は」
「すみません。辛い記憶でしたか?」
「いや、良い。俺が言い出したんだし、もう終わったことだ。それで、昼はどうする?」
「私が行きたいお店でもいいですか?」
「ああ。もっと我儘を言ってもいいんだぞ?」
「それは先生に悪いです」
「気にするな。叶えられるものは叶えた方が、俺の気分が良くなるからな」
些細なことは置いておき、俺達はレストラン街の方へ向かう。
ポーラが行きたい店というのは、最近できたばかりの所らしい。
「ここです」
「ここは……王都の郷土料理か?」
「はい。特に鮮魚と煮込み料理が美味しいそうです」
「へえ、旨そうだ」
「お祭りの時に行くのもよさそうです」
「確かにな。混雑しすぎないかが心配だが」
「それは仕方がありません」
新店舗ということで、意外と人が入っている。大半が私服の連中だが、中には休暇に入ったばかりなのかこれからなのか、軍服の奴らもいる。
そいつらの挨拶に答えつつ空いていた席に座り、ポーラが机の端末を反応させ、ホログラフのメニュー一覧を呼び出した。
「どれにしますか?」
「そうだな……定食はあるか?」
「はい、こちらです」
「それじゃあ……鮮魚と揚げ物のやつにするか。オリウートの唐揚げもだな」
「では私は、煮魚の定食にします」
メニューを通して注文すると、すぐに給仕ドロイドが料理を持ってくる。席で造成するのも悪くないんだが、このあたりは店主のこだわりなんだろう。
「美味しいですね」
「ああ。これは老舗にも劣らないくらいだ」
「本店ではオーナーが自ら調理しているそうです」
「そうなのか?まあ、趣味人はどこにでもいるからな」
というか、本当の意味での老舗は自らの手による調理にこだわっている。伝統を潰すようなことはしていない。だからこそ、老舗として未だ高い人気を誇るんだろうな。
まあ……あの後にちゃんとした継承がされた店は少ないんだが。
そして俺とポーラは雑談をしつつ、食べ進めた。支払いは注文の時点で終わっていて、店も混雑しているわけではないから、気楽なものだ。
「ふう、ポーラに任せて正解だった」
「いえ、私もこんなに美味しいとは思いませんでした」
「そうだったか。それで、食べ終わったことだし……ポーラ、久しぶりにゲームセンターにでも行くか?」
「行きます!」
そうしてレストランを出た俺達は、遊戯系施設のあるエリアに向かう。
こんな感じでポーラとのデートでは、デートコースにゲームセンターを入れることも多い。ポーラは割とゲーマーのようなな気質があるし、俺もゲーム好きだからな。
……というか、他の4人も大喜びか。他に時間を取られるだけで。
「どれをしますか?」
「そうだな……今日は新しい店にばかり行ったから、ここも新台にするか」
「いいですね」
店だけでなく、ここのゲームも定期的に入れ替わる。選定基準もあるものの、固定されるのは特に人気のあるものだけだ。
だから、気になる物は見逃さない方が良い。
「ん?これは……」
「新しいゲームですか?」
「みたいだな。これにするか?」
「はい。面白そうです」
ゲームセンターにあるにしては巨大なカプセルへ2人で入り、椅子へ座ってスイッチをつける。それだけで現実から離れ去った。
これは思考制御装置の技術を応用した仮想空間でのゲーム、リオルゲーム。家庭用もほぼ全員に広まっているが、巨大な媒体を置けるゲームセンターから無くなることはない。
「第3次世界大戦時の陸戦を模したゲームみたいだな。第4次と第5次は宇宙がメインだし、仕方ないか」
「武器は色々と選べるそうです。戦場も広いですし、楽しそうですね」
「最大で1万人対1万人だしな。ゲームをやって得られるのは階級ポイントだけ、技量次第ってことか」
「これだと、陸軍の人は有利になります」
「俺達は特にチートだな」
一般軍人とは経験が違いすぎる。本業は艦隊戦だが、最前線での白兵戦だってかなりやってきた。
体の性能は落ちるが、無双だってできるかもしれない。ポーラだってそうだ。
「ああ、見た目も変えられるのか」
「先生、どうしますか?私達は有名になっています」
「そうだな……顔の輪郭を変えて……いっそのこと、全身真っ黒にするぞ」
「え?本気ですか?」
「ああ。むしろその方が統一されて良いかもしれないな。ポーラは白一色にするか?」
「……いいかもしれません。そうします」
「ユーザーネームは、そうだな……ディレスだ」
「それでは私はアーマにします。先生、お願いします」
「ああ。それと、ゲーム中に先生は無しだ。ディレスと呼び捨てでな」
「え、それは……」
「上官命令だ」
流石にゲームの中でも先生と呼ばれるわけにはいかない。越権行為かもしれないが、権利は適度に行使してこそだ。
「多いですね」
「そう言えば、今日は休日だったな。俺達には関係ないが」
「それだけ、ゲームをする人が多いということです。あ、先生、始まるようです」
「分かった。それと先生はやめろ」
始まってすぐに俺達2人は銃を持ち、飛び上がる。
近くに敵は見当たらないし、空戦用の障害物もあるから、最初は飛ぶべきだろう。
「さあ、行くぞ」
「はい!」
この後やりすぎて、色々と騒がれることになってしまった。
やっぱり、現役軍人らしき100人組を2人だけで殲滅したのはマズかったか。
・オリウート
地球のタコに似た、9本足の海洋生物。いくつもの種類があり、大きさもバラバラ。大きいものだとバーディスランド王国人を軽々と海の底へ引きずる込める。
タコと同様、昔は食べる地域と食べない地域に分かれていたが、王都のある地域でよく食べられていたので、今はほぼ全員が食べている。
・バーディスランド王国
星系1つを完全に支配する、人口約50兆人の国家。王家の血統は1万2652年前の建国時から途絶えていないと言われているが、女系も認められているため、日本の天皇制とは異なる。
昔は惑星上に様々な国家があったが様々な騒動と交渉の末、新王国歴元年(王国歴5385年)に最も権威のある血統のバーディスランド王国が中心となり、全ての国家が統合した。
なお統合前には5回の世界大戦が起こっており、特に第4次と第5次は宇宙艦隊による大戦争となった。というか、第5次世界大戦の被害が大きすぎたため、統合されたとも言う。