第12話
新王国歴7267年11月12日
「時間は……これなら大丈夫か」
「少し遅れただけよ。時間まではまだまだあるわ」
「だが、予想はできるぞ。多分待たれてる」
「そうでしょうね。けど、その程度で苦情は出ないわ」
「だとしても、だ」
リーリアと一緒に夜の街を歩く。祭りの翌日で働く者が多い日だが、逆に打ち上げで騒いでいる者達もいる。
それを見ながら2人で歩き、待ち合わせ場所へ向かう。
「お、来たの」
「やっほー」
「待たせたか?」
「やっぱり最後になったわね」
そしてそこでメリーアとミーンの2人と合流し、ある場所へ足を進めた。
第1、第4戦略艦隊には他にも第1世代生体義鎧が数人いるが、将官なのは俺達だけだ。機密レベルなどの問題があり、気にせず愚痴を言えるのは3人だけだった。そしてミーンは第1世代じゃないが、第3世代で付き合いの長い戦友だから、一緒に呑むことも多い。
ちなみにポーラを呼ばないのは、下戸だからだ。あいつ、すぐに酔い潰れて寝るんだよな。俺達が強すぎると非難されることもあるが。
薬を使わなければいいって?ここには酔うために来てるんだから、そんなことはありえない。
「ここかの?」
「ああ。マスター、奥借りるぞ」
「はい閣下。用意は終えております」
「感謝する」
「ありがとう」
奥の個室を借りて入り、変装を解く。
ここでの造成は自由にやっていいようだから、山ほど種類がある酒とツマミから好きに選ぶとしよう。
薬も用意して、と。
「じゃーあー、始めるー?」
「そうね。前置きなんていらないわ」
「そうじゃの。ではガイル、頼めるかの?」
「まったく。ならとりあえず……防衛戦の勝利に」
「「「乾杯!」」」
で、グラスを打ち鳴らした。
「でもー、関わったのガイルだけだよねー」
「私もメリーアも命令は待機だったわね」
「そもそも妾は戦闘には関わらぬしの」
「おい、何だその目は」
「別にー?」
「理由は分かってるわ」
「お主、何故妾にまでその目を向ける?」
「鏡を見ろ」
俺はただ向け返しているだけだ。
「まあ、別にいいわ。貴方が不利になるだけだから」
「おい、何でそんな……」
「女は3人、男はお主1人じゃからの」
「ガイルはいじる対象だよねー」
「お前らな……リーリア」
「え?」
「レイにリーリア用の罰ゲームを3つ位考えさせるぞ」
「ごめんなさい、それだけは許して」
そんなにコスプレが嫌か。
ん?……そうか、それなら……
「そうだ、メリーア、ミーン。これ見るか?」
「何じゃ?」
「何なにー?」
「実はこの間……リーリア、手を離せ」
「嫌よ」
「まだ何も……」
「絶対に嫌」
「そうか。せっかく良い物を2人にも見せてやろうって思ったんだが」
「絶対にダメよ」
「別に手が使えなくても送れるから問題ないな」
「ちょっとやめて!」
残念だったな。
温泉の時のコスプレ画像ならもう送ったぞ。
「おー、これー、面白いねー。可愛いー」
「これはまた良い物を持っておるのう」
「だろ?まだ他にもあるぞ」
くっくっく、こっちにはまだまだある……
「ガーイールー?」
「……何だ?」
「貴方がそうするなら、私にも考えがあるわよ?」
「というと?」
「メルナとポーラに言いつけるわ」
「っ!?」
ちょっと待て、それだと家でも3対1……いや、シェーンも加わって4対1か……
「すまない、俺が悪かった」
「分かればいいのよ」
「勝てないねー」
「ガイルはいつもそうじゃな」
「立場低いからな……どうにかしてくれないか?」
「無理じゃ」
「できないよー」
「ちっ」
「勝ったわね」
雑談だから、まだダメージは少ないけどな……頭が痛いのは事実だが。
そんな風に雑談をしながら、そしてツマミを食べながら、4人で呑む。蒸留酒だろうと関係ない。
「それにしても、帝国も暇な連中だよな。自分の銀河を調べ終えてないのに、わざわざ数百万光年も旅をするなんて」
「だよねー。自分達の所の方が近いのにー」
「そうじゃのう。無理して出る必要は無いはずじゃのう」
「おかげで、こっちはいい迷惑よ」
「ああそうだ。見つけたらタダじゃ済まさない」
「のうお主ら、もし生きている帝国人を見つけたら、どうしてやるつもりかの?」
「そうだな……生きたまま心臓を引き抜いてやるか。頭を握りつぶすのも良いよな」
「手足を引きちぎってやるのも良いわね」
「お腹をかっさばいてー、苦しめながら殺すー?」
「お主ら、暴力的じゃのう……苦しめるなら毒が良かろうて」
酒が回ってきた?まあ、自覚はある。酒に強くても、酔わないわけじゃないからな。
そもそも酔うために呑んでるんだから、これで良いんだよ。
「いや、肉体的に痛めつけないと面白くないだろう。毒だと苦しみが足りない」
「知らぬのか?帝国人の細胞の自死を数千倍に促進するような毒もあるのじゃぞ」
「うわ、エゲツないわね」
「よく作れたねー」
「ふふふ、奴らの細胞サンプルなど培養すればいくらでも増えるからの」
「ん?……それ、ナノマシンじゃダメなのか?」
「まあ、それでも良いがの。ただ、毒なら王国人に効かないものを簡単に作れるのじゃ。ナノマシンや生物兵器は対象外の設定が難しいのじゃよ」
「なるほど」
そんな感じで有効活用できるのか……けどな。
「でもまあ、それをするには占領する必要があるな。面倒だ」
「そうよ。惑星ごと消した方が簡単ね」
「上から毒を込めたミサイルを打ち込めばよかろう?」
「迎撃される。それに、無人兵器には効かない。」
「あー、でもー」
「ん?」
「捕まってる人達がいたらー?占領された星とかー」
「あ……」
あの時の王国と同じ状況になっていないとも限らない、か……そういえばそうだな。メモしておこう。
「それは……占領が必要か。そいつらまで殺したら王国の敵が増えすぎる」
「確かに、連邦に口実を与えるわね。同時はないだろうけど、終わった後なら……」
「敵になるとしても、時間が欲しいな。今の戦力だと防衛で手一杯だ」
「ラグニルがどうにかしてくれたら良いけど……」
「あいつだけに任せてもいられない。無人機を戦術的に使えるようにすれば、すぐに用意できる。最低でも、時間稼ぎにはなる」
「だよねー。できればー、艦隊戦力にしたいけどー」
「そんなこと、簡単にはできないわ」
「のう、お主ら」
「ん?」
「なに?」
「えー?」
「その話題には妾は参加できぬのじゃがのう」
「そうだな」
「そうね」
「そだねー」
「話題を変えたりはせぬのか?」
「無理だな」
「無理ね」
「無理かなー」
「こやつら……!」
流石に、後で俺に八つ当たりが来るよな、これ……止めるか。
「まあ冗談はここまでにして」
「お主も大概じゃの……」
「別にいいだろ。それで、この後はどうする?」
「この後って……帝国銀河に攻めるまで、ってこと?」
「ああ。俺とリーリアは仕事をしつつ休暇を楽しむ予定だ」
「休暇を同時に取れるとは限らないけど?」
「できる限りになるか。もし無理だったら、また埋め合わせはする」
「そう」
「同じかなー。今のうちに休んどくー」
「妾にも人付き合いはあるからのう。それに、研究も進めねばならぬ」
「戦場で呑気に研究なんてしてられないってことか」
「そうじゃのう……そういえばお主、妾を自分の女にするとか言ってなかったかの?誘ってはくれぬのか?」
「あ、な、た?」
「大昔の仮定の話だ。今は戦友、それ以上でも以下でもない。というかミーン、これもちゃんと言っただろ」
「そうじゃったかのー?」
「ついにボケたか、このロリババア」
「何じゃと?若作りジジイが」
互いに冗談なのは分かりきってる。これは酒の席で時々やるやつだ。
まあ、今回は少し違う終わり方だったが。
「ああ、それなら無理よ」
「どうしてだ?」
「私が認めないわ。あの時なら半殺しにしてるわね」
「うっ……手を出さなくて良かったのう」
「いや、ポーラもほとんど同じくらいの時期だぞ?」
「あの子は良いのよ。可愛いから」
「差別じゃ!」
「冗談よ」
「なあリーリア、それはどっちの……いや、どの意味だ?」
「さあ?」
どの意味かによって、反応する相手が変わるぞ?具体的にはミーンとポーラ、そして俺だが。
「ねー、リーリアー。それくらいにしたらー?」
「まあそうね。十分からかえたし」
「のうリーリア、解剖の実験体が必要なのじゃが、お主でいいかの?」
「ミーンの部屋が消滅してもいいんだったら、話だけは聞くわよ?」
「おいこら。2人とも、そんな喧嘩腰で話すな」
「無理よ」
「無理じゃな」
「おいおい……」
「大変だねー」
「そんな他人事……他人事だな」
「そうだよー?」
仲裁に入らないと立場がマズくなるのは俺だけだ。
好き勝手に使われてるって言われても、実際その通りなんだよな……
「それくらいにしとけ。どうせ俺もターゲットに入ってるんだろ?」
「よく分かったわね」
「何回目だと思ってる。どうせ俺に飛び火するなら、先に潰した方が楽だ」
「つまらんのう」
「何だ?酔い潰れたいのか?」
「ほう、妾と飲み比べるつもりかの?」
「おおいいぞやってやる」
「ふん、返り討ちにしてくれるわ」
売り言葉に買い言葉と言うべきなのか、そんなこんなで決まった飲み比べ。俺達はアルコール度数40〜60度の酒を大量に造成し、特に合図もなく開始する。
で、結果的には。
「のじゃー……」
「ふん、俺に勝負を挑むなんて1万年早い」
俺の圧勝だった。
「わー、ミーン大丈夫ー?」
「んぁ?メリーアのう、のう……」
「大丈夫じゃなさそうね。それより貴方?」
「ん?……おいリーリア、何でそんなものを出してる。というか、かなり酔ってないか?」
「大丈夫よ。まだ呑めるわ」
「それを酔ってるって言うんだよ」
俺も付き合うが、俺の倍近いペースで次々と呑んでいくリーリア。
いや、俺としては嬉しいぞ?けどな……
「ふふふ、あなたぁ」
「おい、リーリア?」
「なーにぃ?」
「酔ったな」
「酔ってないわよぉ。まだまだ呑めるからぁ」
「いや酔ってるだろ」
やっぱりこうなった。
リーリアは酔うともの凄く甘えてくる。普段の態度からは考えられないくらい。だが記憶は残るので翌朝悶絶し、別の意味で甘えてくるまでがテンプレだったりする。
「あーあー、リーリアまで酔っちゃってー」
「メリーア、これ呑まないか?」
「なにー?あたしも酔わせて連れ込むのー?」
「誰がするか。そろそろこれを片付けて、帰り支度をする時間だ」
「そっかー、でもー」
「代わりに、ミーンを連れて行っていいぞ」
「じゃあ呑むよー。ふふー、どうしちゃおっかなー?」
こんな発言をしているが、別にメリーアに百合の気があるわけじゃない。こいつも共有だが彼氏がいるし、仲が悪くなったという話は聞いてない。
ミーンはせいぜい着せ替え人形にされて、知り合いに画像を回される程度だろう……多分。もしかしたらイタズラでそういうことになるかもしれないが。
「ねーえぇ、あなたぁ」
「まったく、仕方ないな」
「ほらーミーンー?これはー?」
「んぁー……?」
「こいつも……メリーア、そろそろお開きにするか?」
「そーだねー。2人も潰れちゃったしー」
「流石に3人になると、俺1人だとどうしようもないからな」
「えー?あたしの方が先に潰れるってー?」
「いつもそうだろうが」
「そうだけどー。それでー?」
「さっきの通り、ミーンは任せる。好きにしろ」
「やったー」
……やりすぎるなよ?
そんなことを言いつつ、俺達2人は造成した食器やグラスを消した後、1人ずつ介護をして個室から出た。
「マスター、また次も頼む」
「はい。お任せください、閣下」
ここは雰囲気がいいし気分もいいから、何度も使ってる。マスターとも顔馴染みだ。
とはいえ、礼儀は忘れないが。
「じゃあねー。ほらー、ミーンー?」
「あぁー……」
「もーうー、好き勝手やっちゃうよー?」
「まったく。また後でな」
「またねぇ〜」
そしてメリーア、および彼女に背負われたミーンと別れ、腕に抱きついたリーリアと共に帰路についた。
「あ、な、たぁ、楽しかったぁ?」
「ああ。ところでリーリア、そろそろ演技はやめないか?」
「……やっぱり、分かってたのね」
そんな気はしていたが、予想通りか。
リーリア、こんな感じで時々酔ったフリをして甘えるんだよな。
「まあな。けど甘えたいんだったら、家で素直に言え」
「嫌よ。見せつけないと面白くないじゃない」
「性格悪いな」
「それを見て楽しむ貴方もよ」
「そうか?」
「そうに決まってるわ」
「まったく」
そんな掛け合いをしつつ2人で夜の街、行きよりも活気の増えた街を歩く。
人は多いが、最も近い人は変わらない。繋いだ手に伝わる体温が、嫌でも隣の存在を強調する。
「ねえ貴方、少し寄りたい場所があるんだけど」
「リーリア、家にはまだ早いぞ。それに……」
「いいでしょ?私も酔ったのよ」
「まったく。それだと、帰りは明日の朝になるかもな」
「私はそれでいいわ」
「俺が責められるんだからな?」
「ちゃんとフォローしてあげるわよ。だから、ね?」
「頼むぞ?」
本当に頼むぞ?