第10話
新王国歴7267年11月1日
「さて、本題に入ってもいいか?」
「はい、どうぞ。シュルトハイン元帥閣下」
「分かっているとは思うが、俺達戦略艦隊が陸海軍の力を必要とするのは、星系や要塞などを攻略する時だ」
「そして、その時は数を生かして広範囲に広げる必要があります」
「そうだ。それと、昨日は陸軍に行ってきた。彼らを輸送する揚陸艦も、海軍は用意する必要がある」
「はい。ですが閣下もご存知の通り、海軍は陸軍全軍を輸送できるだけの揚陸艦を所有しております」
「そうだな。だが、実際にやってみると予想外の事態が出る場合もある。特に今回は揚陸艦の護衛だな。今のうちに演習を繰り返しておくと良い」
「了解しました」
昨日とは打って変わって、俺達は海軍の第1-1宇宙港に来ていた。
ここは王都を挟んで第1-1基地の反対側にある王都防衛の要の1つで、海軍最大の宇宙港でもある。
そして対面しているのは海軍総長、アッシュ-セルファルト=ニティレアランド上級元帥。
「動員規模は統合艦隊単位になるだろう。だが、1つの統合艦隊全てを送り出すわけにはいかない」
「はい。全軍から艦隊や艦群を選抜し、統合艦隊クラスの艦隊を編成する予定です」
「その選抜は?」
「既に候補は。来月には1ヶ統合艦隊分、3ヶ月後までには5ヶ統合艦隊分の編成を行う予定です」
高いカリスマ性を持ち、多くの部下から慕われる人物だが……彼も俺の前だとこんな感じだ。
「流石だな。だが、少し要求を聞いて欲しいが、良いか?」
「もちろんです。どのような内容でしょうか?」
「強襲揚陸艦群と隠密偵察艦群、および揚陸艦群は当然として、護衛艦群、および護衛系の通常師団もある程度入れて欲しい」
「空母艦群や砲撃艦群ではなく護衛艦群を……彼らは民間護衛用なのですが」
確かに、護衛艦群はシールド艦や大型戦艦を中心とした、船団護衛に長けた部隊だ。1度も使われていないとはいえ、万が一の時に備えているとも言う。
そして、だからこそ使い道がある。
「もちろん空母艦群と砲撃艦群、それに偵察艦群や潜宙艦群も必要だ。だが、揚陸部隊がやられたら元も子もない。数が少ないから、配置には気をつける必要があるけどな」
「なるほど……水雷艦群はどういたしますか?」
「水雷艦群は主に対空迎撃だ。突撃の多用は被害が大きすぎる。ここぞという時だけだな。それと、潜宙空母艦群と潜宙設営艦群も用意はさせておいてくれ。恐らく2,3回は使うことになる」
「分かりました。その程度であれば問題はありません」
「それと……第999はいつでも動かせるようにしてほしい」
「……それほど、ですか」
「ああ。陸軍でも言ったが、少数精鋭が必要となった時、俺達以外には彼らしかいない」
「了解しました。すぐさま即応体制へ移行させます」
順調だな。話が早くて助かる。
「助かる。それで……っ⁉」
だが続きを言おうと時、警報が鳴り響いた。
この音は……敵襲か。
「ポーラ」
「何事だ!」
「アルストバーン星系に仕掛けられたレーダーが帝国軍と思わしき艦影を確認しました。恐らくそれだと思われます」
「そうか。セルファルト上級元帥、司令室まで行きたいが、良いか?」
「なっ……もちろんです。どうぞこちらへ」
一瞬で動揺を抑えたか。流石だな。
その彼に先導され、俺達は総長室にあった専用の転送装置に乗り、司令部へ跳んだ。
「状況は!」
「そ、総長、それが、か、閣下!?」
「落ち着いて報告しろ。あの警報なら、攻撃はまだ受けていないな?」
「は、はい!アルストバーン星系外縁部に帝国軍の出現を第16統合艦隊司令部が確認、その知らせを受け全軍へ警報を発しました」
「そうか……シュルトハイン元帥閣下」
「ああ。俺も第3戦略艦隊と第8戦略艦隊へ確認を取る。まったく、祭りの前なのに何で来るんだか……」
「先生、私達も手伝います」
「分かった。セルファルト上級元帥、メルナ、シェーン、ポーラ、レイの席を用意して欲しい。アーマーディレストに回線を繋げる許可もくれ」
「了解しました。おい、すぐに用意しろ!」
参謀用の予備席があったので、4人はそこに座った。そしてアーマーディレストへ回線を繋ぎ、アレの処理能力をここで使う。
「それと……戦略艦隊総司令部司令室、陸軍本部司令室への通信を繋げて欲しい」
「構いませんが……」
「俺がこの防衛戦の指揮を取る。良いか?」
「もちろんです。部下達をお預けします」
断られる心配はしてなかったが、了承されれば安堵とする。残り2人も大丈夫だろう。
『どうした?セルファルト上級元帥』
『今のタイミングだと……シュルトハイン元帥閣下?』
「単刀直入に言う。父さん、ヤヌアルメル上級元帥、俺にこの防衛戦における全軍の指揮権をくれ」
『良いぞ。むしろ、お前がそこにいてくれて助かった』
『構いません。どうぞ自由にお使いください』
「ありがとう」
それなら……この手でいくか。
「父さん、シュルトバーン星系内に今すぐ動ける戦略艦隊はいくつある?」
『1つだ。第2は動ける。お前達の第1と第4はまだだ。第6、第9、第10は完熟訓練とその後の評価および点検中、すぐには動けないぞ』
「第1は集合命令を出した。リーリアも同じはずだ。ただ、残りの3つは間に合うかは分からないな」
『それはどの意味だ?』
「当然、俺達が奴らを殲滅するのに、だ。メルナ、第8に第3の近くへ亜空間ワープをするよう伝えてくれ。敵の規模次第だが、第2は予備兵力にする。亜空間ワープの準備をさせておけ」
「ええ、分かりました」
「ポーラ、敵艦隊の総数は確認できるか?」
「まだです。陣形から見て、20から30%だと思われます」
「それなら、第3の潜宙艦隊に偵察させろ」
「了解です」
第3戦略艦隊と第8戦略艦隊は言うに及ばず、第10軍団と第16統合艦隊も既に9割以上が戦闘準備態勢になっている。
第3と第8、それに第10軍団と第16統合艦隊の司令部への通信も繋いだ。
残りも恐らく問題ない……それに、
「帝国の事前偵察が外縁部で助かったな……レイ」
「何?お兄ちゃん」
「第10軍団の飛行型機動兵器から6割を抽出しろ。シェーンは超重戦車を始めとした戦車部隊だ。火力を含めて……これくらいだな」
「……了解」
「それで……ん?」
リーリアから通信が来たので繋いだ。どうやら艦橋にいるらしい。
『貴方、そこにいたのね』
「リーリアか、ちょうど良い。第4が集結し終わったら連絡をくれ」
『9割方終わったから繋げてるわ。それで?』
「それなら、第4戦略艦隊旗艦を使ってアルストバーン星系の情報解析をしてくれ。多分あの要塞のやつだけで足りるだろうが、万が一に備える。第4そのものは予備兵力だ。だが一応、亜空間ワープの準備はしておけ」
『了解よ。そのつもりで準備してたわ』
第1も俺達以外で82%か。半分近くは休暇のはずなのに、かなり早いな……同じ指示を出しておこう。
「ポーラ、各種揚陸艦と揚陸艇に抽出した部隊を載せる。護衛も含めて、上手く調整してくれ」
「了解しました」
「それで……第3戦略艦隊と第8戦略艦隊の亜空間ワープ先は指定する。ミルティシュル元帥、ユーンクリブ元帥、こちらの指示に合わせて跳んでほしい」
『了解しました』
『お任せください』
どこに出るかで対応は変わるからな……重要度で言えばある程度限られるとはいえ、それでも多い。
やっぱり、好き勝手攻められる方がいいな。
「前準備はこれで終わり……後は、連中が直接こっちに来ないことを願うだけ、か」
「それらしきものは見つかりませんでしたが?」
「だが、油断はできない。巧妙に隠されている可能性はゼロじゃないからな。それに、まだ調べきれてはいないんだろ?」
「了解しました」
「もしシュルトバーン星系へ来るなら、第2と第4、それと第1を前に出す。海軍の中で即応可能な部隊のデータも送ってくれ」
「は!」
「先生、第3戦略艦隊の潜宙艦が偵察に成功しました。敵艦総数はおよそ30億隻です。機動要塞は4000隻を確認しました」
「分かった。その数ならどうにかできるか……」
この間の要塞攻略時より少ないが、今回は30億隻全てと対峙することになる。
さて、どうするか……
「敵艦隊からワープの前兆を確認!加速に入りました!」
「詳しく報告しろ!」
「データをこちらに回せ。ポーラ」
「このエネルギー量……先生、目標は恐らくアルストバーン星系内です。エネルギー量から推測すると、第4惑星か第5惑星の軌道上だと思われます」
「小惑星帯に出る可能性は?」
「ありますが、あれだけの艦隊がそのままワープできる地点はありません。どうしても陣形が崩れます。すぐ近くに出る可能性はありますが……」
「分かった。アルストバーン星系の第4惑星および第5惑星公転軌道近隣の要塞に警戒情報を流せ。第1惑星、第2惑星、第3惑星の駐留艦隊は全艦亜空間ワープの用意もしろ」
「は?ですが……」
「別に全てを出すわけじゃない。だが、残す部隊にも即応性を持たせる必要がある」
「了解しました」
「それで、揚陸艦隊の準備は?」
「既に終わっている模様です」
「分かった」
今できる準備は全て終わっている。残りはワープ先と配置と……
っと、そろそろか。
「敵艦隊ワープアウト!」
「位置は……第4惑星軌道上、第4小惑星帯と第5小惑星帯の最接近点近くです」
「これでほぼ確定か。助かったな」
「そうですね。そうなると、要塞のどれかを狙うでしょうけど?」
「まずは潜宙艦を狩る。第3と第8は俺の指定するエリアで……第16統合艦隊の水雷系と潜宙系の艦群は、それぞれこのエリアまでを重点的に探査しろ。恐らく、これでどこを狙うつもりか分かるはずだ」
ソナーに引っかかっている艦もあるが、周囲にはこの数倍以上の潜宙艦がいるはずだ。敵の目は潰しておくに限る。
「はい、通達します」
「それと、潜宙空母も上手く使わせろ。帝国軍が潜宙艦に機動兵器を載せたという情報はない。ソナー範囲も含め、こっちが有利だ」
「先生、潜宙揚陸艦はとうしますか?」
「そっちは別だ。まあ、単独に近くなるが」
「了解です」
そして予想通り、各惑星・衛星に相当数の潜宙艦が潜んでいた。小惑星帯にあまりいなかったのは、侵攻対象として見ていないからかもしれない。
それで、最も多かったのは第3惑星だった。やっぱりここを狙うか……だが、今の位置ならちょうどいい。
「それでこいつらは……このエリアに広がって布陣させろ。ミルティシュル元帥、第3戦略艦隊をここへ亜空間ワープしろ。ただし、戦闘準備態勢のままだ」
『よろしいのですか?』
「この後も時間がかかる。人も、必要以上に消耗することはない」
『了解しました』
「それと……こっちもか」
俺の命令に従って小規模な艦隊がバラけながら移動を始め、指定した場所に潜伏した。同行する潜宙艦はその近くの異次元で。
そしてほぼ同時に、第3戦略艦隊の各艦が第4小惑星帯の中心部付近へワープアウト、陣形を整える。
「ミルティシュル元帥、第3戦略艦隊旗艦とラファレンスト級のステルス装置を解除、砲撃を開始しろ。牽制で良い」
『了解しました』
「ユーンクリブ元帥、第8戦略艦隊は第3戦略艦隊の後方へ亜空間ワープ、同様にステルス装置を解除して砲撃を始めろ」
『はい。ですが、これで良いのですか?あまりにも……』
「この程度だから良い。これくらい罠らしくすれば、逆に動きを読みやすい」
普通に考えてここで取る手は2つほどあるが、帝国軍の性格を考えれば1択に絞られる。
『そうなのですか……分かりました』
「さて、フロスティ元帥。猟犬の役目は君達に任せる」
『はい、お任せを』
彼女はアルマ-フロスティ、第16統合艦隊司令だ。
第16統合艦隊は海軍の精鋭としてこのアルストバーン星系を任され、そしてこの戦場では、彼女達に任せる役目が1番重要になる。
「敵艦隊、移動を開始しました。第3戦略艦隊、および第8戦略艦隊の方角へ向かっています」
「かかったな。第3と第8は広域へ広がりつつ後退、第10軍団、第16統合艦隊、準備は?」
『十分です』
『いつでも開始できます』
「分かった。第16の出番は……もうしばらく後だな。第10はさらに後だ」
作戦開始にはまだ距離がある。次善策も用意しているが、こっちはあまり使いたくない。
だが幸いにしてそんな考えは伝わらなかったのか、その後帝国軍はワープも使いながら時間をかけて予想した位置へ移動したので……
「第16統合艦隊、亜空間ワープ開始」
『了解。全艦、亜空間ワープ開始!』
こちらも行動に移すことができる。
第16統合艦隊の艦艇が帝国軍の後方100万kmの位置へ亜空間ワープを行い、艦隊前衛が激しい砲火を放ち始めた。
もちろん、全艦と言っても1億隻全てじゃない。作戦に参加する全ての艦って意味だが……指摘する必要はなかったか。
「第16統合艦隊、攻撃を開始しました!」
「第3戦略艦隊、第8戦略艦隊が前進します!」
「敵艦隊、60km/sへ増速しました!」
「落ち着け。別に負け戦じゃない」
「「「は、はい!」」」
まったく……いや、初陣ならこんなものか。もう少し緊張をほぐさせるか……
と、そんなことを考えて実行していたが、その間も戦闘は続いていた。
第16統合艦隊は順番に先頭を交代しつつ、交互に休息を取りながら、帝国艦隊を小惑星帯の方へ追いやっている。これだと火力は低くなるが、今はこれでいい。
そして第3、第8戦略艦隊は砲撃を続けたまま、後退から前進へ変えた。
「ポーラ、残りは?」
「約3万kmです」
「500秒……長いな。損耗率はどうだ?」
「第3、第8戦略艦隊を合わせると約0.3%です。海軍は中破が100隻程度、大破は5隻、沈没艦はありません」
「距離があるからか。命中率を下方修正して……帝国軍は?」
「現在、0.2%ほどと思われます」
帝国軍艦艇の火力は前方に集中している。そのおかげで、後方にいる海軍への被害は少ない。そして帝国軍にとって射程外に近い位置にいるためだろう。第3と第8の被害もほとんど無い。
この状況を打破するために前進しているんだろうが……生半可な罠なら食い破ろうとしているのか?
だが残念ながら、俺が用意したのはそんな生易しいものじゃない。
「ポイントに着いたら総員戦闘態勢、攻撃開始だ。こちらの合図は待たなくて良い。徹底的に殲滅しろ」
『『は!』』
『はい』
『了解いたしました』
衝突を恐れているかのどうなのか、どうやら帝国艦隊はこの距離でも小惑星帯内部へワープすることはできないようで、俺達にとっては順調だった。
小惑星帯の後ろに出ることもしないからな。こちらの予想以上にワープ条件が厳しいのかもしれない。
そして……
「敵艦隊がポイントへ到達、作戦が開始されました」
帝国艦隊の7割が小惑星帯の中へ入った時、彼らは動き始める。
全方位、連中の四方八方から砲撃とミサイルが放たれた。
「……口出しの必要は無いな。任せるか」
「そのようですね」
「うん、ちゃんと動けてるよ」
「……大丈夫そう」
「問題は無いようです。イレギュラーも存在しません」
その源は周囲に潜伏していた戦車隊と陸海軍の飛行型機動兵器、および駆逐艦を始めとした戦闘艦群だ。機動兵器は揚陸艦に載せていた分で、戦闘艦はその護衛。全て小惑星の陰でステルス装置を全開にして隠れていた。
なお、その内側には第3と第8所属の揚陸艦もいるが、これは戦略艦隊の方が数が少ないからで、他の意図はない。
「第10軍団戦車部隊、超重戦車を中心に砲撃を行っています!」
「揚陸艦隊は退避中。小惑星の陰に隠れています!」
「分かってる。もうこの後こちらからやれることはない。必要以上に緊張することはないぞ」
「「りょ、了解!」」
その戦車隊には多砲塔戦車や重装戦車、砲撃戦車だけでなく、超重戦車もいる。相手が戦闘艦でも、生半可な砲撃は効かないような化け物だ。重力子砲の威力も折り紙つき。
実際、戦艦並に大暴れしている。
「ねえお兄ちゃん、言い過ぎじゃない?」
「そうかもな。だが、初陣気分は早々に抜くべきだ」
「それはそうだけど……あ、飽和攻撃をやるみたいだよ」
「もう着弾したぞ。結構当てたな」
「着弾率は74.2%です。迎撃が機能しにくい場所を狙った模様です」
もちろん、飛行型機動兵器や戦闘艦も負けていない。ミサイルの雨あられが帝国艦隊を襲い、少ないながらも戦艦の砲撃が機動要塞を破壊する。
さらに第16統合艦隊が帝国艦隊後方5万kmへ亜空間ワープし、砲撃をより苛烈にしていふ。発艦した飛行型機動兵器も亜空間ワープで帝国艦隊の周囲に現れ、共同でミサイルを叩き込む。
第3と第8も相当数の戦闘艦を帝国艦隊近くへ亜空間ワープをさせていて、被害を出しながらも多数の艦艇を沈めていた。
「潜宙艦隊の効果も大きいようですね」
「ああ。奴らもここまだは想定してなかっただろうな」
「……自分達の作ったものが自分達を苦しめる……ってこと?」
「そういうことだ」
そして潜宙艦隊の的確な魚雷飽和攻撃。前方の第3と第8、後方の第16統合艦隊も含め、濃密な砲火がこの宙域を包んでいる。
思考加速をしていないからでもあるが、帝国艦隊は急速に数を減らしていった。
「機動要塞は……順調みたいだな」
「はい。既に約半数を撃沈し、7割の反応性を低下させています」
「そうか。それなら……」
「あ」
「ん?」
「失礼しました……敵艦全艦の反応性が低下しました。旗艦を全滅させた模様です」
「分かった。それで、被害は?」
「現在のところ、第3戦略艦隊と第8戦略艦隊の損耗率は17.6%です。第10軍団は損失機131万7345機、第16統合艦隊は撃沈艦2万8725隻、戦死者は……968万7352人です」
「そうか……殲滅は?」
「もう間もなく終了します」
罠に嵌めてもこれか……戦略艦隊だけで押し切れないとはいえ、少し辛い。
被害が追加されなかったのがまだ幸いだな。
「感謝いたします、閣下。閣下のおかげで敵を撃退することができました」
「いや、将兵達の被害もかなり出てしまった。もっと減らすべきだっただろうが……」
「いえ、閣下だからこそあれだけで済んだのです。私が指揮した場合、倍では済まなかったでしょう」
『自分も同感です。自分ではこのような作戦を立てることは不可能でした』
「そうか、ありがとう」
……これ以上は冒涜になるか。命をかけ、そして失った彼らへの。
俺達にできるのは彼らの想いを受け継ぎ、次へ繋げることだ。過剰な哀れみはいらない。
「後処理は任せても良いか?陛下、それと総帥府への説明は俺がやる」
「了解しました。話の続きはまた後日ということで」
「ああ。可能な日付を送る。その中から選んでくれ」
「はっ」
「じゃあ行くぞ」
「はーい」
「……了解」
「分かりました」
「後はお願いしますね」
そして俺達は海軍司令部を出て、王城へ向かった。まあ......殿下の食いつきは予想外だったが。
・特殊艦群
陸軍の特殊師団と同様に、各部門の精鋭が集められた艦群のこと。
各統合艦隊に一定数ずつ所属していて、数は第16統合艦隊、次いで第1統合艦隊に多い。
現在、特殊艦群は250個存在する。




