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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第3章

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第7話

 

 新王国歴7267年10月8日




「ようこそお越しくださいました、メルナ王女殿下、シュルトハイン元帥閣下、メティスレイン元帥閣下。自分は本日案内役を務めさせていただきます、海軍第16統合艦隊所属、アリス-ストックホルム少佐です」

「ご苦労。だが、ここに来たのは3人だけじゃないぞ」

「し、失礼しました!」

「気にしないで良いわ。全員言うと長いもの。貴方?」

「ああ、すまない。意地の悪い言葉だった」


 無人戦略艦隊はついこの間受領したばかりだが、慣熟訓練は順調だ。正式配属前とはいえ、もう既にかなり扱えている者もいる。他の戦略艦隊も同じような感じらしい。

 ただし、濃い訓練が必要なのは直接操縦している者達で……司令部要員は暇だ。数や戦闘特性を頭に入れる必要があるが、それに必要な訓練は少なくていい。問題がないわけじゃないけどな。

 だから現在シュルトバーン星系にいる第1と第4の幹部クラス……有り体に言えば旗艦艦長+参謀以上は、要塞化が完了したアルストバーン星系にやってきていた。

 そして自由行動となると、いわゆるいつものメンツになるらしい。当然と言えば当然なんだが。


「さて、案内はどこからだ?」

「は!まずは当惑星要塞司令部、及び星系要塞総司令部へご案内いたします」

「確か、アーマーディレスト級以上の司令部になっているんでしたね」

「そう聞いています。10万人単位だとか」

「その通りです。最大で5ヶ統合艦隊分の席があります。格納数は半分もありませんが」


 というわけで6人に案内役も付けてもらい、中心地の第3惑星マルタンヘインズの見学をしている。前にラグニルから資料を貰って読んだこともあったが、実際に見るとまた違うからな。

 それで、星系全体で1.5ヶ軍団と2ヶ統合艦隊分だったか。展開だけなら何倍でもできるから、こうしたんだろうな。


「うわ、おっきい!」

「……広い」

「予想以上ね」


 それで、その司令部へとやってくる。どうやら、惑星要塞司令部と星系要塞総司令部を背中合わせにしたらしい。

 確かに、この広さなら20万人は軽く入りそうだ。


「武装についてはどうなっている?ここだけでなく、小惑星と準惑星も。大型小惑星は完全に無人、準惑星も要塞そのものは無人だったはずだが」

「ここから動かすこともできます。ですが、普段はオートモードです」

「なるほど。まあ、当然だな」

「そうね。でも発見後すぐ攻撃っていうのは、対策を立てられないから遠慮したいけど?」

「そちらも問題ありません。オートモードですが、こちらからの命令が無ければ攻撃しないようになっています」

「それなら扱いやすい。了解だ」


 指揮をする時、安全圏にも関わらず勝手に動かれるのはマズいからな。

 その辺りの調節は……戦略艦隊の技官の誰かか、それとも陸海軍の方か。まあ、調べる意味はないな。


「それでは次に陸海軍合同格納庫へご案内いたします。よろしいですか?」

「ああ、構わない」

「あ、その前に少しシステム周りを見せてもらえませんか?」

「はい、もちろんです、ミュルティス大将閣下」

「ポーラ、何か気になるのか?」

「気になる、というほどではありません。ですが、担当としては一通り見ておかないといけないと思いました」

「分かった。それなら好きにしろ」


 ハッキングも含めて、ポーラに任せてるからな。それくらいなら問題ない。

 そしてポーラが満足したところで、転送装置に乗って次に向かった。


「広いな」

「ここには1ヶ歩兵系師団、1ヶ戦車系師団、1ヶ飛行系師団、1ヶ水雷系艦群が格納されています。惑星、衛星にある他の格納庫も基本同様です」

「……位置は?確か……」

「機動兵器用だけではなく戦闘艦、要塞艦用も含め、全ての格納庫は地下20〜60kmの範囲に存在しています。機動兵器の発進時にはあちらのように転送装置を用い、地表近くの発進口へ転送されます。戦闘艦および要塞艦は専用の通路を使い、地上まで移動します」

「他の星も同じだったっけ?」

「はい、その通りです。なお、準惑星配備の部隊は定期的に入れ替えるよう、シフトが組まれています」

「そうでしょうね」


 複数の星がまとまって存在する衛星とは違い、準惑星は単独で要塞として機能しないといけない。そうなると、どうしても娯楽系を抜かざるを得なかったそうだ。

 だがこれは兵士の士気に関わること、そのあたりは上手くいってるらしい。


「転送装置が多いですね」

「この広さなら当然だ」

「歩いたら混雑するし、飛んだら事故になるもの」


 これのデメリットは転送装置のネットワークを組むのが面倒な程度、やらない理由がない。


「それでは次に……」

「地表に行きたいが、頼めるか?武装を見ておきたい」

「了解しました」


 元帥権限で転送装置のロックを解除、俺達は地表近くの歩兵発進ハッチへ出た。テラフォーミングは終わっており、一般人でも問題なく呼吸ができるようになっている。

 この辺りはまだ岩場ばかりだが、所々に水が溜まり、苔や雑草が生えている。ラグニル達は植生が定着するまで数十年から数百年とか言っていたが……いや、別に今は関係ないな。

 で、武装はハッチから少し離れた場所にある。この1セット分だけステルス装置を解いたらしい。


重力子砲(主砲)を中心に、陽電子砲(両用砲)とミサイル発射管が多数揃えられています。そのため、重粒子砲(副砲)は控えめになっていますが……」

「私達の要望通りよ。問題ないわ」

「口径も大きいので、期待できそうです」

「……大丈夫」


 巨大な砲塔を中心に正方形の発射口が並び、対空レーザー砲が無数の砲身を空に向けている。それらの中心にあるのはシールド発生装置、各種武装と地表を覆いきれるような代物だ。一辺は100kmより少し短いくらいか。

 そしてこれが惑星上に数万、小型のものは数百万ある。総合火力はアーマーディレスト級以上、シールドも面積と体積に合わせて高出力。

 動けないという欠点はあるが、それでも十分すぎる。むしろもっと早くやるべきだったか。


「最大口径の砲はアーマーディレスト級と同じく、15000cm30口径五連装重力子砲です。他は様々ですが、陽電子砲(両用砲)は比較的小口径になっています」

「迎撃なら大丈夫だよね?」

「地表からでは威力がかなり落ちますからね」

「運用方法が両用砲というより対空砲になるが、仕方ない」

「……やりやすい?」

「まあそうだな」


 もっとも、ここへ誘き寄せるのは難しいだろうが。

 帝国軍がディルミッシ回廊のデータを持っていないとも限らない。回廊の形は常に変わっているが……発信機が残っている可能性はある。

 ……海軍に指示して探させるか。統合艦隊を3個使えば、1ヶ月もしないうちに終わるはずだ。


「閣下、よろしいでしょうか?」

「ああ。それで、次はどこだ?」

「星系探査監視室です。こちらの見学場所は少し狭いので……」

「え?さっきの総司令部でやるんじゃないの?」

「いえ、違います。星系探査監視室でレーダーやソナーのデータを解析した後、各司令部へ送るはずです」

「……流石に、データが多すぎるから」

「そうなんだ」

「解析のためだけに、アーマーディレスト級並みのコンピューターを使うからな。予備司令部という面も考えると、別々にした方が良い」

「え、予備司令部、ですか?閣下、それは……」

「これくらいの推測は簡単だ。ラグニルなら効率良く1ヶ所にまとめることもできる。ワザワザ別にするとすれば、予備司令部としてだろう。まあ恐らく、予備の予備の予備程度なんだろうが」


 予備司令部、と言っても役割はそう大きくない。艦隊戦ならともかく、要塞内部に司令部を複数作ったところで破壊されたら意味ないからだ。

 総司令部が破壊されれば指揮官やオペレーター数十万人が死に、指揮にかなりの支障が出るのだから。


「その通りのようです。先生、これを」

「予備が最深部の格納艦機制御室、予備の予備が星系探査監視室、ね。一応設計はしたみたいだけど……総司令部が破壊されたら移る暇もないわ。何か故障が起きた時用みたいね」

「……多分」

「そんな感じだろうな」


 それで、その星系探査監視室へ案内された。

 総司令部には劣るが広い室内。中央には空間投影でできた巨大な球状モニターがあり、それを中心にオペレーター席が何重にも連なっており、今は数百人程度だが最大で数万人は入るだろう。

 ただ、将官クラスの居場所は少ない。5人分だろうか。立ち見をするスペースも少し狭いな。


「こういう感じなのですか……」

「あの中央のモニターは?」

「全体情報共有用のもので、アルストバーン星系全体が内部に映っています。また概要だけですが、艦隊や機動兵器も投影可能です」


 確かに、よく見れば惑星や衛星がある。それならあの巨大さも納得だ。今は全体的に薄い色だが……有事の時はそのエリアが強調されるんだろう。


「こちらで扱う情報は、敵味方の場所だけではありません。各要塞の機動兵器数や艦艇数、武装やシールドの状態、機動兵器や艦艇の損傷情報、敵艦隊の予想損失情報などを扱います。また正確性は低くなりますが、敵艦隊の機動予測も可能です」

「それはまた……超大型コンピューターの処理能力任せか」

「でも、有用よ。アーマーディレスト級にも欲しいわね」

「リーリアなら自前でどうにかできるだろ?」

「それは貴方もでしょ。そうじゃなくて、シミュレートの時よ。今の個人訓練で出せる敵は味気ないもの」

「なるほど、確かにそれには使える」


 今はほとんど遊びみたいなものだからな、アレは。縛りプレイでもしないと訓練にならない。

 そしてそんな俺達を見て、唖然とする者、呆れる者、笑う者。気持ちは分からなくもないが……できればやめてくれ。


「そ、それでは次に要塞艦用格納庫へご案内いたします」

「分かった。リーリア」

「ええ、行くわよ」

「はい、分かりました」

「仕方ありませんね」

「……いつも通り」

「お兄ちゃんとリーリアお姉ちゃんだもんね」

「おいレイ、それどういう意味だ」


 リーリアも笑うな。同じように言われてるんだぞ。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「やっと終わったわね。長かったわ」

「レイちゃん、はしたないですよ」

「えー?ダメ?」

「……駄目」

「まったく。ポーラ、例のデータはあるか?」

「はい先生、こちらです」


 で、夜。俺達は歓迎会的なパーティーを終え、第3惑星にある宿泊施設の中にいた。

 この部屋の内装は白と金を主軸にした豪華なもので、まるで旧王国暦時代の最高級ホテルのよう……今なら誰でもできるが。とはいえ、ここまで綺麗に揃えることは専門家でないと不可能だ。誰かまた暴走したな。

 とはいえそのままだと使いにくいので、少し模様替えをして特大サイズのベッドを3つ繋げているが。


「貴方?」

「これか?ただのアルストバーン星系の詳細データだ。考えるなら、近くに資料があった方が良いからな」

「あ、戦術ね」

「ああ。色々と考えてみるつもりだ。惑星上に誘き寄せられれば1番良いんだけどな……」


 発信機が残っていなければ簡単だろう。王国を攻めるには、回廊のデータを得るしかない。それには、要塞を落とすのが最も確実な手だ。

 だが……もし残っていれば、アルストバーン星系の回廊側へ入らせることはできない。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「レイ、どうした?」

「わたし達も入って良い?」

「良いが……急にどうした?」

「だってせっかくこんな部屋に来れたんだから、早く終わらせちゃおうよ」

「なるほど」


 まあ確かに、こういう場所に来れることはあまりないからな。王城に行くのは大半が俺とメルナで、レイは滅多に行かない。面倒がるのもあるが。

 自宅をこうするにも、ここまでのデザインセンスはな……新しい別荘でも作るか?

 ちなみにこの部屋、普段は希望者の中から抽選で選ばれた者が順番に使っているらしい。もの凄く律儀で、三等兵から元帥まで同確率だった。


「さて、まず帝国軍の目的は王国の占領、そのためにはシュルトバーン星系へ入る必要がある」

「でも、そのためにはディルミッシ回廊を通る必要があります」

「そのために……要塞、もしくは艦隊を攻撃する可能性がある、ということですね」

「……データを奪う?」

「んー、それだと艦隊の方が簡単じゃないかな?」

「いや、艦隊は逃げることができるが、要塞は動けない。狙う確率は五分(ごぶ)だろう」

「一応、こちらの殲滅を考えてくる可能性もあるわ。まあ、こっちの方がやりやすいんだけど」

「そして最悪の場合は、ディルミッシ回廊内に帝国の発信機がまだ残っていて、アルストバーン星系を素通りされることだ。これだと要塞が意味をなさない」

「それだと……」

「海軍に言うつもりだ。100%とはいかないが、残っているなら見つけてくれるだろう」


 12光年という長い距離だが数はいる。それに設置できる場所は限られる。

 500年間の技術発展も考えれば、調べきることはできるはずだ。


「決戦をするなら……やっぱり小惑星帯が1番誘い込みやすいか。罠も仕掛けやすい」

「そうね……あからさますぎて警戒されやすそうだけど、それが1番だと思うわ」

「それだと、2段階、もしくは3段階に罠を仕込むべきかもな。それなら1つ目はあからさまな方がいいか。もしくは……」

「ですが先生、そんな数をすぐには……」

「大丈夫だ。もう2,3個は思いついてる」

「そうね、やりようはあるわ」

「……流石」

「それで、具体的にはどうするつもりでしょうか?」

「まず大型小惑星の要塞、もしくは艦隊を餌にする。その後潜宙艦と機動兵器で強襲、さらに艦隊と要塞で集中砲火、といった感じだな。具体的なことはその時に決める」


 あとは帝国軍の規模と編成次第だからな。そこまでは流石に決めきれない。


「そっか……じゃあお兄ちゃん、空母が多い時のは考えていい?」

「機動兵器主体の迎撃計画か?」

「うん」

「そうだな……任せる」

「やった」

「ただし、出来る限り損耗を防ぐようにしろ。海軍は生身で乗ってるんだぞ」

「はーい」


 レイも優秀だ。しばらくすれば使える作戦の1つや2つ、簡単に思いつく。

 あとはそれを、俺とリーリアで全体に組み込むだけだ。


「あー、でももうお終いよ。せっかく良い所に泊めさせてもらうんだから、楽しまないと」

「そうだな。これは後でもできる」

「では、どうされますか?」

「ゲーム!」

「いやレイ、ゲームもいつでもできるぞ」

「えー。でも、いつもと違う場所でやるから良いんだよ?」

「そうでしょうか?」

「……そうだと思います、姫様」

「私もそう思います」

「賛成3、ね。なら、賛成してあげるわ」

「やった!」

「分かった分かった。じゃあレイ、好きに決めて良いぞ」

「はーい」


 付き合ってやるのも良いだろう。まあ、その後は、な……











・アルストバーン星系

 対帝国戦を踏まえ、星系そのものが要塞化された。

 第1から第3惑星、及び第4第5惑星の衛星群、そして各小惑星帯内の準惑星や大型小惑星は軒並み改造され、星系全体が高度な軍事施設となる。

 恒星 アルストバーン

 第1惑星 ネグリムヘインズ

 第2惑星 コルトロヘインズ

 第3惑星 マルタンヘインズ (星系要塞総司令部あり)

 第4惑星 ルーミーヘインズ

 第5惑星 カルトロヘインズ

 小惑星帯(内側から)

 -タンロ小惑星帯

 -ヌルカ小惑星帯

 -トーロ小惑星帯

 -フルカ小惑星帯

 -シミキ小惑星帯

 -ホォル小惑星帯

 -マレナ小惑星帯

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