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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第3章

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第5話

 

 新王国歴7267年9月27日




「先生、第1偵察隊からの報告です。異常は見当たらない、と」

「それは連邦も含めてか?」

「はい」

「分かった。なら予定通り5分後に亜空間ワープを行う。第2〜第5偵察隊に第1偵察隊との集結命令を出せ。ワープ後に合流だ」

「了解です」


 王国から約8万光年離れた場所、今そこに俺達はいた。

 何故かというと、現在の第1戦略艦隊は2週間の外部探索任務中、ちょうど日程の中程だからだ。明日の亜空間ワープで最遠点に到達し、そこから別ルートで帰ることになっている。

 まあ連邦軍は同行していないから、亜空間ワープ距離に制限をかける必要はない。気ままに銀河の反対側まで来て、また気ままに帰るだけだ。

 気楽でいい。


「ジェネレーター出力正常」

「シールド安定確認」

「各偵察隊の集結を確認しました。座標入力」

「重力変位に問題なし」

「準備完了しました。いつでも行けます」

「亜空間ワープ開始」

「……了解……亜空間ワープ、開始」


 だがもちろん、移動だけが任務じゃない。第1の目的は帝国軍の捜索だ。

 そして、連邦軍が造る仮設基地の監視も仕事に含まれる。


「亜空間ワープ、終了しました。艦体チェック、異常ありません」

「了解だ。メルナ、ポーラを手伝ってやってくれ。仕事が増えるからな」

「分かりました」

「先生、私は……」

「無理はするな。いいか?」

「はい」

「あ、お兄ちゃん、見えたよ」

「他と同じ形……やっぱり規定で決まってるみたいだな。ブロック工法とか言うやつか?」

「そうなんでしょうね。新しく作るよりはそちらの方が良いのでしょうし」

「でもさー、これを攻め落とすってなると大変だよねー」

「うん。あれってもう要塞だよね。こんなの、考えるだけで頭が痛いもん」

「こっちの方が頭が痛いぜ。陸戦部隊も多いんだろうなぁ。ガイル、あんなの制圧しろなんて言うんじゃねぇぞ?」

「言うわけないだろ。多分できるけどな、あんなのの攻略なんて面倒にも程がある……」


 現状でも1億隻近い艦隊の基地であり、最大数は5倍以上だと予想されている。王国から離れていようと、脅威であることに変わりはない。

 というか、1ヶ戦略艦隊には厳しい相手だ。艦隊だけなら圧倒も可能だが、要塞と連携を取られるとキツい、というか面倒だろう。このまま拡張される可能性も……

 まあ、できなくはないんだけどな。


「さて、雑談だけじゃなくて手を動かせ。ポーラとメルナは場所の決定、メリーアが監督だ。バレるなよ」

「分かりました」

「はい」

「りょうかーい」

「ハーヴェは次の偵察部隊の準備と指揮、他は連邦軍の警戒だ。バレないようにデータ収集もしろ」


 幸いと言えるのは、半分以上がアルストバーン星系から3万光年以内、特にレーダー網を整備したエリアにあることか。レーダー網のある星系に造られる基地も多いから、監視は楽だ。

 ここみたいに新しく作る場合は面倒だが、不可能じゃない。


「それにしても、これと同じものが確認されただけで50……連中の1ヶ軍と同じか」

「……倍でも、変じゃない」

「うん。というより、多分いるよ」

「いない方がおかしいか……ん?」

「司令、あの基地より空間波通信が入っています」

「分かった。こっちへ送ってくれ」


 とはいえ、安心してばかりもいられない。

 連邦軍の総戦力は50ヶ軍、約2500億隻に登る。帝国軍艦艇に換算すると約5000億隻分らしい。内40ヶ軍は防衛部隊とはいえ、遊撃部隊の10ヶ軍だけでも十分な脅威だ。10ヶ軍だけで王国総戦力を質的にも上回ると予想されている。

 要塞も使って防衛に専念すれば撃退はできるだろうが……こっちも死屍累々だろうな。アレ(・・)を使えるのも数回が限度だろう。


『そちらはバーディスランド王国軍だな?自分はザーハロッパ連邦軍第5軍所属、シルベルディ銀河派遣軍アストロ04基地司令、ガルム-ダイト准将だ』

「バーディスランド王国軍第1戦略艦隊司令長官、ガイル-シュルトハイン元帥だ。お騒がせして申し訳ない」

『失礼しました、シュルトハイン元帥閣下。それで、どのような要件でこちらの星系へ参られたのでしょうか?』

「なに、帝国軍探索の任務の途中で寄った星系に貴官らがいただけだ。別に何かの意図があるわけじゃない」

『そうでしたか。それで、いつ頃発たれる予定で?』

「他星系の偵察結果次第だが、5時間後を予定している」

『分かりました。では、ごゆっくりどうぞ』


 それくらいになればここでの作業も終わっているはずだ。もっとも、こんな口約束を守る必要なんてないが。


「ごゆっくり、か。なら、ゆっくりさせてもらうとしよう。シェーン」

「……解析、一部で終了……同じ」

「まあ、見た目が同じなのに中身が大きく違う方がおかしいか」

「……そう」

「こちらも解析が60%終わりました。1765ヶ所を設定済みです」

「ではメリーア、お願いしますね」

「任せてー」

「ガイル、偵察隊の編成完了したぜ。このまま行かせるけどよ、問題ねぇよな?」

「ああ、頼む」

「あ、お兄ちゃん。潜宙空母(マルフェス級)を使っても良い?機動兵器でもっと広い範囲を調べてみたいんだけど」

「そうだな……2000隻までなら大丈夫だ。好きにやれ」

「ありがと!じゃあ800隻もらうね」

「護衛もつけろよ」


 そう言ってレイが動かしたのは潜宙空母(マルフェス級)が800隻に加え、護衛兼偵察補助が潜宙戦艦(ゼルファン級)を含めて3200隻。

 まあ、偵察としては十分だろう。


「それで……ん?ああ、なるほど」

「ガイル?」

「……何?」

「お兄ちゃん?」

「いや、何か変なのを見つけたと思ったんだけどな。連邦軍が仕掛けたレーダーだった」

「それだけですか?」

「ああ、砲塔もミサイルもなさそうだ。ただの早期警戒設備だな」

「そっか、よかった」

「ポーラ、乗っ取れるか?」

「はい先生。任せてください」


 基地のある星系だ。それくらいは普通にやるだろう。

 というか、その程度すらなかったら軍隊として失格だな。


「それでガイル、この任務が終わったらどこに行きましょうか?」

「いやメルナ、気が早いぞ」

「いいと思います、先生。ご褒美がある方が(はかど)りますから」

「うん、行きたい!」

「……いいと思う」

「分かった分かった。まったく」

「いいなー」

「好き勝手やりすぎんじゃねぇぞ?ガイルよぉ」

「大変なんだぞ?これも。というかお前達も勝手に行けばいいだろうが。それで、そうだな……温泉にでも行くか」

「やったー!」


 仕方ない、そう思いつつ、俺は予定を組み立てていた。

 だが……


「……あれ?」


 レイがそう疑問の声を上げ、ソナー画面を見つめる。だから俺は問いかけた。


「どうした?レイ」

「えっと、この潜宙艦のソナーなんだけど……これって、もしかして?」

「反応が微弱すぎるな……その潜宙艦に命令、ソナー出力を上げつつ当該方向へ進ませろ。それと、機動兵器も派遣だ」


 そう指示をして、ここの重要度を上げる。

 当該艦の大型潜宙艦(ドーランテ級)、および制空戦闘機(アーレス)が近づくに従い、少しずつ反応は強くなり……


「何でしょうか?」

「もう少し詳細なデータが欲しいですけれど……」

「……艦艇?」

「帝国軍だ」

「やっぱり?」

「事前偵察の艦か……総員戦闘準備、戦闘艦と要塞艦は全て発艦しろ。航空部隊の即応隊はただちに発艦、直掩につけ。他はいつでも発艦できるように待機、潜宙艦隊は指定の位置に集結しろ。それと、連邦軍にも教えてやれ」


 ほぼ間違いなく、95%以上の確率で(帝国軍)だ。

 恐らくは連邦軍の基地を攻撃しに来たんだろうが……見逃す気はないな。


「ハーヴェ、偵察隊は全部お前が預かってその場に待機させろ。万が一だが、敵が来たら逃げろよ?」

「おう。でもよ、揚陸部隊はどうすんだ?」

「今回は使わない。連邦軍の前だぞ」

「了解だ」

「メルナ、ポーラ、派遣した工作艦は護衛と一緒に大人しくさせろ。ただし護衛の半分は戻して、操作人員も減らせ」

「はい」

「ふふ、分かりました」

「シェーン、戦闘準備の具合はどうだ?」

「……この艦は、83%。他は……79%」

「後1分ってところか。非番連中は叩き起こされて機嫌が悪そ……」

「お兄ちゃん、帝国軍がワープしてきたよ!」

「数は?」

「えっと、今が5000万で、まだ増えてるけど……反応通りなら3億かな?」

「機動要塞の方はどうだ?」

「えぇと……」

「現在の予想では最少で500、最大で800です」

「機動要塞が多いな。俺達だけでもギリギリどうにかできなくはないが……面倒だな。連邦軍も使うぞ」


 そういうわけで、俺は連邦軍基地との通信を開く。


『どうされましたか、シュルトハイン元帥閣下。警告とは……』

「帝国軍がワープしてきた。数は約3億隻」

『なんですと!?』

「我々だけで相手をするには少々厳しい数だ。貴官らの力を借りたい」

『で、ですが、命令はこの基地の防衛でして……独断で艦隊を動かすことは……』

「ならばこちらは逃げるとするか。距離は短いが、ワープできないわけではない。勝ち目がなく、逃げ場があるのに戦うのは愚策だ」

『……分かりました。では今回限り、かつ最悪の可能性を考慮した話ではありますが、こちらからはこの基地の防衛をお願いいたします』

「ああ、任せておけ」


 まあ連中としても、できる限り損害は減らしたいんだろう。

 当然だからこそ読みやすく、誘導もしやすい。


「ポーラ、亜空間ワープの準備だ。全艦に準備させろ。それと、この作戦データを連邦軍に送ってくれ」

「はい、先生」

「……全員の戦闘準備、完了」

「分かった、そのまま待機だ」

「……了解」

「ガイル、工作艦の退避と護衛艦の整理が終わりましたよ」

「先生、連邦軍から抗議と質問の通信が……」

「無視しろ。もしくは、この通りにしなかったら死ぬって言ってやれ」

「了解です」

「メルナ、それならこっちに戻ってくれ。ポーラ、すまないがそっちの管理も頼む」


 まあこんな感じで、色々と面倒なことというか、手続きはあるんだけどな。

 だが、それもすぐに終わる。


「……全艦戦闘準備完了」

「連邦軍から承諾との通信が入りました。亜ワープの準備も終わっているそうです」

「帝国軍に動きはないようですね。いつでも大丈夫でしょう」

「航空部隊の緊急発進準備は終わってるよ。直掩機もいつでも戻せるから」

「了解だ。総員戦闘態勢、直掩機はただちに帰還しろ」

「分かりました」

「じゃあ、やっとくねー」

「はーい」

「連邦軍のワープ後、現実時間では5秒後に亜空間ワープを行う。間違えるなよ」

「ええ、大丈夫ですよ」

「……了解」

「こっちもこっちでやっとくぜ」


 そして合図を送りしばらくすると、ワープ後ほとんど動きの無かった帝国軍艦隊の側面3万kmの位置に、連邦軍艦隊8000万隻が現れた。


「って、8000万?」

「少し少ないですね」

「2000万隻は基地に残している模様です。警戒艦もいますが……」

「信用されきってはいない、か。まあ、大半を出してくれただけマシだな」


 仮に出てきた数が半分だけでも成り立つように立てた作戦だ。破綻なんてするわけがない。

 もし半分未満だったら?その場合は、俺達のワープ先が変わるだけだ。


「連邦軍、帝国軍への攻撃を開始しました」

「戦況は……奇襲になった分、連邦軍が有利か」

「ですけど、このままでは数の差で押し切られますよ」

「分かってる。だが、5秒も耐えられないほど脆くはないはずだ」

「わたし達にとっては2500秒だけどね」

「それは言うな」

「はーい」


 すぐに時間は経つ。気にするな。


「時間だな。亜空間ワープ開始」

「……了解、亜空間ワープ開始」

「ワープ座標確認、問題なし」

「ワームホール展開、異常なし」

「亜空間ワープ、開始します」


 戦況を確かめつつ時間になると、俺達帝国軍艦隊の側面、連邦軍の反対側に半球形の陣を敷いた。


「攻撃開始」


 そしてすぐさま砲撃を開始する。

 こっちの平均距離は1万km、連邦軍より近いが分散しているから、帝国軍がどちらを優先して狙うかは分からない。

 だが、判断が遅いなら何もさせずに殲滅してやる。


「砲撃は機動要塞を優先して狙え。ミサイルは外周の艦への飽和攻撃、潜宙艦隊は敵潜宙艦を殲滅しろ」

「了解です」

「潜宙艦隊、戦闘を開始」

「敵艦撃沈数、現在約60万隻」

「距離が近いから、連邦軍との戦闘でも損耗が速いか。これに俺達が加わると……航空部隊は順次発艦、攻撃態勢へ移れ。急がないと獲物がいなくなるぞ」

「りょーかい!航空部隊、全機発進だよ!」

「了解。航空部隊全機発艦、攻撃態勢へ移行」

「艦隊損耗率、0.02%」

「ミサイル第1波、被迎撃率2.4%」

「敵、人型機動兵器が発艦しています」

「機動要塞、3隻を撃沈」

「ミサイルは迎撃を恐れるな、撃ちまくれ。制空戦闘機(アーレス)戦闘攻撃機(リングス)は敵人型機動兵器の排除を優先、他は戦闘艦を狙え。機動要塞は砲撃で沈める」

「りょうかーい。陣形を変更してー、戦艦を前に出してー」

「航空部隊は言われた通りに動いてね。あ、近くにいるなら機動要塞に攻撃しても大丈夫だよ」

「艦隊損耗率、0.4%」

「航空部隊損耗率、0.3%」

「帝国軍が艦隊の向きを変更し始めています。連邦軍の側です」

「そっちを選ぶか……都合が良い」


 帝国軍艦艇は前方投射火力が高い設計だから、側面はまだしも後方への火力は薄い。

 多少こっちにも残しているようだが……向こうを囮にして、好き勝手撃たせてもらうとしよう。


「敵艦の約3.3%、1000万隻を撃沈しました」

「機動要塞87隻を撃沈、残り742隻」

「旗艦はまだ無しか。そうだな……このエリアの機動要塞へ砲撃を集中しろ。旗艦がいる可能が高い」

「おっけー」

「航空部隊損耗率、1.3%」

「レイ、付近の航空部隊にここの機動要塞群を攻撃させろ。こいつらのせいで砲撃が集中しきれない」

「はーい」

「艦隊損耗率、1.9%」

「潜宙艦隊、敵の排除を完了しました。残敵はありません」

「分かった。潜宙艦隊はしばらく待機、今のうちに移動しておけ。命令を出し次第攻撃開始だ」


 指示を出しつつ、別の意識で戦場を俯瞰し、さらに別の意識で前線を観察しながら、新たな指示を出す。

 慣れた作業だ。だからこの程度しか使わせずに……俺に勝てると思うな。


「敵艦撃沈数、15%を突破」

「機動要塞、193隻を撃沈」

「敵残存艦艇の8%が反応低下」

「そのエリアへの砲撃を他へ回せ。ここだ」

「了解」

「航空部隊損耗率、3.4%」

「艦隊損耗率、3%を突破」

「連邦軍のおかげで被害は少なめか……連邦軍の方はどうだ?」

「艦隊の10%が撃沈、ないし戦闘不能の模様です。詳細を出しますか?」

「いや、いい。それより潜宙艦隊への目標配分を頼む。もう少し後だ」

「了解です」

「ガイル、こちらを見てくださいますか?」

「これは……逃げてるのか?」

「はい。そう考えられますね」

「なら、逃げられる前に殲滅するとしよう。高速戦艦(アルドレア級)以下10万隻を預ける。メルナ、頼めるな?」

「ええ、了解しました」


 逃すわけにはいかない。例え艦艇をすぐに作れたとしても、例え予備人員が無数にいたとしても、沈められれば損耗はある。

 どれだけ時間がかかったとしても、絶対に削りきってやる。


「機動要塞撃沈数、297隻」

「艦隊損耗率、4.1%」

「砲撃の優先度を変更だ。この3ヶ所の機動要塞を仕留めろ」

「敵艦、28%を撃沈」

「航空部隊損耗率が5%を突破」

「航空部隊はこのエリアの艦艇へ優先的に攻撃しろ。邪魔だ」

「連邦軍艦艇、損耗数は20%を超えた模様」

「そっちは気にするな。使い潰せ」


 メルナに任せて指示を出し続けていたが、どうやらもう殲滅し終えたようだ。


「よくやった、メルナ」

「いいえ。ガイルも頑張っていますから、これくらいはやりませんと」

「そうか。ポーラ、反応が低下した敵艦の数は?」

「残敵のうち31%です。機動要塞の残りは336隻ですが……」

「やっぱり、防備を固めている連中だな……次はここを潰すぞ。レイ、メリーア」

「はーい」

「何なにー?」

「少し無理矢理になるが、ここの連中を潰す。機動要塞107隻だが、やれるな?」

「おー、いいよー」

「うん、分かった」


 帝国軍艦隊の中央近くに固まった連中だ。防備は硬くとも、そこが中枢の可能性は高い。

 やる価値はある。

 それに、帝国軍がこちらに振り返りつつある。早く手を打たないと手遅れになりかねない。


「やっちゃって!」

「いっけー」


 艦隊集中砲撃と航空部隊飽和攻撃の同時全方位攻撃。

 これで被害が出ないはずもなく、70隻以上の機動要塞が次々と沈んでいった。


「敵艦隊の20%、いえ30%が相次いで反応低下しました。旗艦数隻を撃沈した模様です」

「レイ、メリーア、攻撃を続けろ」

「連邦軍次席指揮官より通信。旗艦撃沈、ダイト准将戦死、とのことです」

「連邦軍の損耗数、現在およそ35%」

「そんなことは気にするな。それで、今の損耗率は?」

「艦隊が4.8%、航空部隊が6.1%です」

「マシなレベル……いや、ここまで来たら力押しでもそう損害は出ないな。少し強引にいくぞ」

「やるんですね?」

「ああ、残存の機動要塞への一斉攻撃だ。軽巡洋艦(シェルラン級)以下も前に出す」

「分かりました、先生。選んでおきます」

「頼む」

「じゃあ、こっちも準備しておくね」

「やっちゃおっかー」

「ふふ、指揮は私も手伝いますから」

「……頑張る」

「ありがとな」


 残る機動要塞は200隻程度、数ヶ所に固まっているが、その程度ならどうとでもなる。


「始めろ」

「今です。砲撃の目標を変更してください」

「突撃ー」

「行っちゃえ!」

「……撃って」

「進路変更をお願いしますね。こちらですよ」


 十字砲火(クロスファイア)なんて生温い砲撃の雨が四方八方から機動要塞へ降り注ぎ、ミサイルの嵐がその身(シールド)を削る。

 そして選抜された軽巡洋艦(シェルラン級)以下の戦闘艦は至近距離へ亜空間ワープで跳び、航空部隊を上回る量のミサイルを連射し始めた。

 特にフリゲート(ファルゲン級)は鋭く突っ込んで、大型対艦ミサイルを叩き込んでいる。


「攻撃を続けろ。撃ち負けるなよ」

「撃って撃って撃ちまくれー」

「艦隊損耗率、6%を突破」

「航空部隊損耗率、7.3%」

「機動要塞残存数147隻」

「砲撃目標分配を変更、こっちを20%増加だ」

「はい、分かりました」

「航空部隊損耗率、8.5%を突破」

「航空部隊は戦域単位で連動しろ。波状攻撃を繰り返せ」

「はーい。じゃあ……」

「艦隊損耗率、6.8%」

「戦艦をもっと前に出せ。負けるな、撃ち続けろ」


 そしてその攻撃を繰り返す。そうすれば……


「敵全艦の反応低下を確認!」

「分かった。この後は残敵掃討だが、気を抜くな」


 全ての旗艦を沈めることも容易い。こうなれば残りは楽なものだ。

 まあ昔よりは面倒にはなっているが、この程度なら問題ない。


「これで、最後!」

「良くやった。ポーラ、損耗率は?」

「全体では8.2%、戦闘艦は7.6%、航空部隊は9.1%です。また、連邦軍は艦隊の19%が撃沈、28%が戦闘不能となったようです」

「あの数を相手にしたにしては、予想より少ないな。だが……労いの言葉でもかけた方がいいか?」

「そうですね。囮として使ったのですから、それに関する感謝は必要だと思いますよ」

「分かった。それにしても、随分と腹黒くなったな、メルナ」

「ガイルがそれを言いますか?」

「確かに」


 俺も随分と変わった自覚はある。というより、生体義鎧になった者の中で一切変わらなかった者なんていないだろう。

 誰しも、レイのような若者も、それだけのことを経験したのだから。


「ポーラ、連邦軍との通信を繋げ。確か旗艦が沈んだんだったか?」

「はい。なので次席指揮官に……いえ、第3位指揮官に繋ぎます」

「また沈んでたのか……まあ良い、そいつに頼む」


 王国軍(俺達)とも、帝国軍とも戦術や指揮系統が違うから、違和感は拭えないが……慣れるしかないか。


『お初にお目にかかります。自分はアストロ04基地艦隊臨時指揮官のアルフレッド-コーナー大佐であります』

「バーディスランド王国軍第1戦略艦隊司令長官のガイル-シュルトハイン元帥だ。大変だったようだな」

『はい……シュルトハイン元帥閣下』

「どうした?」

『被害はこれ以上抑えられなかったのですか?』

「流石にそちらを狙うとは思っていなかった。後から出たとはいえ、近い方を狙うと思っていたんだがな」


 まあ、連邦軍を攻撃させるためにあえて艦隊を分散させたんだが。


『そうでしたか……ご無礼を』

「いや、気にするな。戦友を失った気持ちはよく分かる」

『はっ……』

「それでこれからどうするつもりだ?必要なら、しばらく護衛に付いても良いが」

『いえ、そちらに関しては問題ありません。他のアストロ管区から増援が来ますので』

「そうか、了解した。それではこちらも予定通り動かさせてもらう」

『は!』


 そして通信を切った。だが……


「この程度で、か」

「……ガイル?」

「この程度の死で動揺を隠しきれないのか、って思っただけだ。戦死者が多いのは初めてか?それとも個人的なこと……まあそれを言ったら、今の連中(王国軍人)も同じなんだろうが」

「お兄ちゃん……わたしも、かな?」

「いや、違う。確かにレイは1番若いが、それでも死を知らなかったわけじゃない。昔よりは少ないとはいっても、戦死者だってかなりの数が出ていた。レイも、嘆いていただろ?」

「そうですよ。私達は全員同じなんですから」

「うん……そっか、ありがと」

「まあ、そんなところだ。それでハーヴェ、偵察隊を再度動かせ。メルナとポーラ、それとメリーアは工作艦の指揮を続行だ」

「おう」

「分かりました」

「了解です」

「良いよー」

「レイは……俺と残りの工作艦を使って資源を集める。シェーンは損害艦の修理と補充の監督を頼む」

「はーい」

「……了解」


 さてと、次の準備をするとしようか。











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