第1話
新王国歴7267年8月19日
「っ〜!やったー!!」
目の前に広がる水平線目指して、レイは頭から海に飛び込んだ。
ちゃんと深い所まで飛んでいるから、頭を打つ心配はない。まあ、打ったところで岩の方が砕けるんだが。
「レイ、はしゃぎすぎるなよ」
「はーい!」
「分かってるんでしょうか?」
「さあな。だが、レイらしい」
「そうね、あの子らしいわ」
「……元気、だから」
「少し注意してきます」
ポーラだけは行ってしまったが、俺を含め他4人はただ見てるだけだ。
俺達は海鳥系の渡り鳥から進化したと言われており、翼は油を分泌している。だから海から上がってもすぐに飛べるし、水中でも速く泳げる。
さらに言えば……
「こっちこっちー!」
レイはいっそう速い。空を飛ぶのと海を泳ぐは感覚が違うんだが、レイの泳ぎの速さはかなりのものだ。
ポーラは完全に遊ばれてるな。
「ねえ貴方、これ塗って?」
「サンオイル?おいおい、俺達はもう焼けないぞ」
「別に良いじゃない。気分よ」
「分かった。準備は?」
「もう良いわ」
そう言うと、近くに置いたビーチチェアの上でリーリアはうつ伏せになった。ビキニの上の紐ももう取ったらしい。
俺は隣の椅子に座り、ボトルを手に取った。
「何、見とれてるの?」
「見慣れた背中だ。見とれることは無い」
「へぇ、だったら手が止まってる理由は?」
ニヤニヤしながら聞くな。そのままやると冷たいから……いや、仕返ししてやるか。
「そう言うか、なら……」
「え?ひゃっ⁉︎」
ボトルからそのまま流してやる。
「やめっ、ひぃ!」
「ん?どうした?俺達はこの程度の温度変化で動じたりしないだろ?」
「リミッター外れてなかったら同じでしょ‼」
まあ、そうなんだけどな。
ただ少しやりすぎたようで、リーリアの背中は翼まで油まみれになっている。
「まったくもう……多すぎよ、貴方」
「そうだな……全身分くらいはあるか」
「え?」
「メルナ、少し専念するが良いか?」
「分かりました。しばらく時間を潰しておきますね」
「ありがとな」
「ちょっ、まさか……ひぃ⁉︎」
というわけで、背中に溜まったサンオイルを全身に延ばしてやった。
リーリアは逃げようとしていたが、上手く回り込んで逃がさない。
「はぁ、はぁ……貴方、覚えてなさい」
「からかったお前が悪い」
「そんなこと言ってたら……そう」
「ん?っと」
「おにーちゃん!」
そうしてリーリアで遊び終えた頃、不意に背中へ抱きつかれた。というか飛びつかれた。
一瞬吹っ飛びかけたな。
「っと。レイ、楽しかったか?」
「うん!今度はアレやろっ!」
「それは少し後だ。メルナとジェーンは……いや、先にポーラを迎えに行ってくる」
「はーい」
どうやら追いかけるのを途中で諦めたらしく、沖合に浮かんでる。
さっさと回収してなぐさめるとしよう。
「大丈夫か?」
「え?あ、先生……レイちゃん速いです」
「知ってただろ?それより、それで飛ぶか泳ぐか、どっちにする?」
「それは……泳ぎたいかな、と」
「分かった。もう少し向こうが深くなっているが、そこまで行くか?」
「はい」
そして翼を使い、深く潜る。体の密度が水より低いから、生体義鎧でも大変だが……赤道近くだけあって、周囲にはカラフルな魚が無数に泳いでいた。
ポーラもさっきまでの疲れた顔は見せず、楽しんでいる。
(楽しんでるか?)
(はい、ありがとうございます)
(気にするな。俺が好きでやってることだ)
(それでも、です)
そんな感じで、浜に戻るまでは遊ぶことにした。海流に乗って気ままに流されてみたり、逆に逆らって泳いでみたり。はたまた100m以上一気に潜ってみたり。
そうしてしばらく楽しんでから、2人で砂浜へと戻った。
すると……
「おかえりなさい。ポーラも大変でしたね」
「先生が来てくれましたから。楽しかったです」
「レイに振り回されてたが……良しとするか。それでシェーン、どうした?」
「……昼食、準備できた」
「分かった。それなら……レイ!」
「ここだよー!」
「まったく……まだ1日目だ。そんなにはしゃぐな」
「そうよ。貴方で遊び倒さないといけないんだから」
「おいこら」
レイはさっき泳いだばかりだというのに、今度は飛んでいた。
その機会も作ってやったってのに。まったく。
「さて、シェーン。どこだ?」
「……こっちに準備した……バーベキュー、だけど」
「いや、それで大丈夫だ。というか、色々工夫したんだろ?」
「……少しだけど、そう。楽しみにしてて」
「ああ」
だが俺の目に入ってきた風景は、それとは異なるものだ。
砂浜近くの小さな庭の上に広げられたコンロと、その近くで皿に乗る食材達。そこには肉・野菜・魚介などの串焼きだけでなく、半有機密閉型薄膜に包まれたものもある。
あんな風に言っていたが、相当準備したらしい。
「さて、始めるとするか……その前に、レイ」
「何?」
「焼かないで食べるものではありませんよ。確かにそれらはサラダでも食べますが」
「……ちゃんと、焼いてから」
「はーい。あれ?ポーラお姉ちゃん?」
ポーラは野菜が占めた串を次々とコンロに乗せている。間に時折挟まっているのは魚介類……肉が無い
「レイへの当てつけのつもりか?」
「いえ。レイは野菜をあまり食べませんから」
「えっと……生体義鎧だから大丈夫だよね?」
「ダメです」
「だ、そうだ。レイ、ちゃんと食べろよ」
「はーい……」
まあ多分、当てつけも入ってるんだろうな。口には出さないし、出せないが。
それを見ていると、リーリアが近寄ってきたのだが……
「さてと、貴方」
「ん?……何だそれは?」
「ただの串焼きよ」
そんな饅頭みたいなものが刺さった串焼きなんてあるか⁉……無い、よな?
「そうか。で、本当は?」
「ランダムバレット、貴方も好きでしょ?」
「娯楽レベルならな」
「娯楽よ」
「……中身は?」
「アルアドラにフェルバー、ラゲッストと|ファルベルゲーロ《シュールストレミングに近似》ね」
「どれも危険物だろうが!」
どれも食えないことは無いが、辛さや苦さが尋常じゃないものばかりだ。大昔には兵器としても使われていたらしい。
こんなのを好きで食う連中の気が知れない……
「1つだけ肉が入ってるわ。当たりよ?」
「どこがだ⁉」
「ランダムバレットってそういうものでしょ」
「ああそうか、まったく……やってやる」
リミッターを解除すれば、これくらいならどうにかできる。
だから問題ない。問題ない、はずだったんだが……
「うげぇ……」
「お、お兄ちゃん……」
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない……ぐぇ」
「あんなことした罰よ」
「あの、先生、お水を……」
「助かる」
リーリアが当たりといったやつ、それに生体義鎧の感覚を正常化させる薬が混ざっていた。
つまり、その前に食ったやつまで合わさって……酷すぎだろ……
「ガイル、部屋まで運びましょうか?」
「いや、そこまでは良い……しばらくすれば戻る。それに、まだマトモに食べれてないからな」
「はい、分かりました」
「それなら、私が食べさせてあげるわ」
「今度は普通のやつなんだろうな?」
「ええ。仕返しは終わったもの」
「なら、頼む」
疎らな木々の奥にある大きめの家を見つつ、俺は意識を昼食の方に向ける。ここは王都の南東にある第3惑星唯一の大洋、そこに浮かぶ孤島だ。
といっても、どこにでもあるわけじゃない。島の数は数百程度しか無いし、人が住める場所は半分以下だ。だからこういった場所に別荘を持てるのは王侯貴族や高位軍人、一般人の中でも特に著名な者達だけになる。それもこんな最高のロケーションを持つ絶海の孤島に自分達だけの家を建てるのは、相当な実力と運が無いと難しい。
俺達も、戦略艦隊司令長官2人分と高官4人でギリギリだった。おかげで、休暇を取れた時は最高のバカンスができるんだけどな。
「美味い、美味いな」
「そう、それは良かったわね」
「誰のせいだと思ってる?」
「さあ?誰かしらね」
「……ねえ、リーリア」
「ん?シェーン、どうしたの?」
「……あれ、どうやったの?」
「あれ?……ああ、ガイルに渡したやつ?私が準備したのよ」
「……わたしが準備したのに、似たのがある」
「え?」
「……それが、5個減ってた」
「そ、それは……」
「シェーン、正直に言ってやれ」
「シェーン、遠慮はしなくて良いんですよ」
「……はい、姫様……リーリア、盗ったでしょ?」
「えっと……ごめん」
「……遊んでたし……夕食抜き」
「ごめんなさい!それだけは許して!!」
「……駄目」
「そんな……」
普段から弄られてる分の反撃なのか、シェーンは普段と比べてかなり強気に出てる。
……そのうち俺にも来そうだ。
「シェーン、もうそれくらいにしてくれないか?」
「……じゃあ、ガイルも抜き?」
「それだけは勘弁してくれ!」
やぶ蛇だった……リーリアだけで済むならそれで頼む。
「……反省した?」
「もちろんよ!」
「……ガイルは?」
「いつもすまなかった」
「……じゃあ、許す」
た、助かった。
「シェーンにいいように扱われていましたね、ガイル」
「珍しい先生の姿を見られました」
「お兄ちゃん、リーリアお姉ちゃん、残念だったね」
「レイ、何がだ?」
「だって怒られちゃってたじゃん」
「それは違うわ。アレも含めての私達よ」
「ふーん。じゃあ、今度何か奢って?」
「……レイちゃん、下手すぎ」
「それでは駄目です」
「誰でも分かってしまいますよ」
「ああ、メルナから聞いておけ」
「まだまだね」
「う……はーい」
こんな風ににふざけたり、普通に話したりしつつ、昼食は進んでいく。
とはいえシェーンに怒られたのだからあれ以上騒いだりはしないで、いつも通りの食事だった。
「ふぅ……シェーン、美味しかったですよ」
「……ありがとう、姫様」
「やっぱり上手ね。私もできれば良かったけど……」
「あの時はそんな時間も無かっただろ。それで……」
「ねえ、お兄ちゃん!アレお願い!」
「ああ、分かった。取ってくるから待ってろ」
「うん!」
まあ、約束したことだ。車庫からソレを担いで持ってくる。
サイズは大きいが重さは50kg程度、軽いものだ。
「早く早く!」
「まったく」
「ちゃんと待ってたんだからね!」
レイに急かされつつ、まずはこいつを海に浮かべる。
そして後ろにレイが乗ったのを確認して……出力レバーを思いっきり引いた。
「ヤッホー!」
そして急加速。専用にカスタマイズされたこいつが出す速度は一般品の比じゃない。
あまり感じることの無い慣性と風を存分に浴びれる。自前の翼も良いんだが、こういうのも悪くないな。
「凄い凄い!」
「もっと飛ばすぞ。ちゃんと掴まってろよ」
「うん!」
こいつの原理は単純だ。取り込んだ海水を斥力装置で加速させて、後ろから噴き出す。軍事用に使われることのない、レジャー専用の乗り物。
大昔に水上バイクって呼ばれてたものの系譜らしい。
「楽しかったー!」
「お帰りなさい」
「楽しんでいるのがよく分かりましたよ」
「随分とスピードを出してたわね。他に誰もいないんだから良いけど」
「第2惑星だと、人が多すぎてここまで出せないからな。良い特権だ」
「……やりたい」
「珍しいな、シェーン」
「……ダメ?」
「むしろやれ。遠慮はするな」
「それでは、私も良いでしょうか?」
「私も頼むわ」
「分かった。それで、ポーラはどうする?」
「私は……」
「ならやるぞ。命令だ」
「えぇ⁉︎」
「分からないって思った?」
「かもな」
1週間あるとはいえ、時間は有限だ。必要以上の我慢はさせないからな。
・第3惑星
直径12300km。陸地8割・海2割で、地球と異なり陸地が多い。
大洋は1つのみだが、代わりに河川や湿地帯が多く、水の総量は地球とあまり変わらない。そのため、陸地面積の割に乾燥地帯は少ない。その大洋には数百程度の島々があり、王族や超有名人などの別荘地となっている。
また山脈も多く、1万m級の山もいくつもある。火山も多い。これらも観光地、及び別荘地となっている。
また、重力は地球の80%ほどで、その影響で風が強く、だからこそ王国人は空を飛べる。テラフォーミングもこの重力で行われる。
また、2つの衛星はテラフォーミングされている。
・第2惑星
テラフォーミングされた惑星。直径9600km。
陸と海が半分ずつとシュルトバーン星系の中では珍しく海が広い惑星で、観光も盛ん。一般国民が海でレジャーをするとすれば、この惑星。




