第9話
新王国歴7267年8月5日
「はぁ……」
「憂鬱なのね?」
「面倒だ」
「その面倒を自分から引き受けておいて、何言ってるのよ」
そんなことを言っても始まらないことは知ってる。だが、愚痴を言うくらいはいいだろ。
そんなことをしているうちに、格納庫に輸送艇が入り、扉が開いたが……出迎えはミュルバーン大佐ではなかった。
「お待ちしておりました、元帥閣下」
「貴官は?」
「失礼しました。私は本日閣下のご案内をさせていただきます、ザーハロッパ連邦外務議会議長第3補佐官、アンリーナ-ユクスと申します」
彼女の顔は王国人とほぼ同じ、首元に水色の鱗があるくらいだ。種族としても、おそらく美人なんだろう。昨日は……昼食会の終盤あたりに少しだけいたな。
だが、なるほど。
「そうか、よろしく頼む」
「はい。ではこちらへ」
その彼女に案内された場所は昨日と同じだが、様子は少し違った。
「シュルトハイン閣下、早速本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます。では……バーディスランド王国への入国をご許可願いたい」
やっぱり来たな。
「それは連邦政府からの正式な要請と取ってよろしいのですか?」
「はい。連邦の国家元首である、最高評議会議長閣下からの要請です」
「そうですか」
流れだけ考えれば、随分と急な話……だが
「ですが、自分に決定権はありません。国王陛下、及び総帥閣下の認可がなければ、何があろうと我々は排除いたします」
「っ……はい、ご許可がいただけなければ、私達はザーハロッパ連邦へ帰還いたします」
「そうですか」
予想できていたことだ。だからこそ、対応できる。
(先生、打ち合わせ通りにお願いします)
「では、連邦政府は王国に対し、どのような提案をいたしますか?」
「まず本国が決めたのは、シルベルディ銀河への派兵です。先鋒として、2ヶ軍が予定されています」
(2ヶ軍……貴方、数を聞いて)
(ああ)
「それはどれほどの艦艇数ですか?」
「合計で約100億隻となります」
(多いですね)
(そうね。対処できないとは言わないけど……)
(敵に回すのは愚策だな)
「なるほど、それは心強いですね」
(それよりガイル、あのユクスさんはどう思いましたか?)
(は?)
「そうですか」
(そうね、私達からしても美人だものね)
(先生の好みですか?)
(ちょっと待て)
(ガイル、どうなんです?)
「ええ」
(おいこら、関係ないことを話しすぎだ……)
昨日もだいたいこんな感じで、他者には不可視のウィンドウで会話していた。ただ、必要なことも話すが雑談も多い。
俺にはこれが必要なんだけどなぁ……
「それで帝国軍を抑えるというわけですね」
(先生、それで抑えきれるとお思いですか?)
「はい。お任せください」
(無理だろうな。帝国本土を攻めている間、ファルトス銀河に基地を作られるのは間違いない)
(100億隻で埋められるほど狭くはないものね)
「いえ、任せきりにするつもりはありません。我が王国も対処は続けるでしょう」
(後で俺達が対処する必要があるか……まあ、帝国を潰せば難しくはなくなるだろう)
(油断はいけませんよ?)
「そうですか。心強いです」
(分かってる)
「我が王国を守るため、当然のことです」
連邦に任せきりにするということは、王国の立場を下げることになる。
それは避けなければならない。
「他には、交易の提案もあります」
(これもあるのね)
「交易ですか?」
(来ましたね)
「はい。連邦と王国の交易を最高評議会議長は求めておられています」
(先生、これは?)
(前に言った通り必要ない。だよな、リーリア?)
(ええ。ずっと1国だけで暮らしていたんだから必要性が無いって言えばいいわ)
「そうですか……ですが、自分は交易の必要性を感じられません」
「それは……何故でしょうか?」
(分かった)
「我が王国は何千年もの間、1国だけで存続しておりました。それゆえに、交易をする必要が無いのです」
(その調子ですね)
「それはそうですが……」
(もうひと押しよ)
「それ以上こだわるのであれば、自分はそう報告するしかありませんが?」
「……分かりました。この話はこれ以上といたします」
(上手です、先生)
打ち合わせをやったから、これくらいはできる。
それより、打ち合わせに出なかった内容を警戒するべきだ。
「他に何かありませんか?」
「その、もう1つ……共同事業の提案もあります」
(え?)
やっぱりあったか。
「それは?」
(どういう内容でしょうか?)
「例え話になりますが……シルベルディ銀河辺境、貴国に近い位置の星系を開発し、両国の共有地にするという計画です」
(えっと……どういうことですか?)
(多分、王国と常に接していられる場所を作りたいんだと思うわ)
(そうでしょうね。外交でも、交易が可能となればそちらでも、そういった場所があれば連邦には有利になるでしょうから)
(というより、連邦の基地を造るための口実じゃないか?王国に先制攻撃を仕掛ける可能性も否定できない)
(あり得るわね……)
「それは……難しいですね」
「何故でしょうか?貴国にも利のある提案だと思いますが」
(どうする?断るか?)
(でも、勝手に開発されたら介入もできないわ。ある程度は噛んでいた方が良いと思うわよ)
(勝手に開発してしまいそうですからね)
(少し遠慮がちに、断ることは無いように話を持っていく方が良いかと思います)
(分かった)
「我が王国はただ一つの星系に住んでいます。そのため、他の星系を開発する利点が無いのです」
「そう、ですか……」
俺の言った通り、王国に外へ出る利点は無い。
シュリベルンクの傘を捨て、むき出しの場所に住むことはまず無いだろう。
「ですが、我が王国に有益となる提案であることは確かだと自分は考えます。連邦政府の提案とは違う形になるでしょうし、難しいかとは思いますが、陛下へと上奏してみましょう」
「そうですか!良かった……!」
(厳命されていたみたいですね)
(だな。後はこれをどう持っていけるかか……)
(ガイル、頑張ってくださいね)
(わたし達もサポートします)
(ああ)
この様子だと、予想通りの可能性も高そうだ。
だが、やめるわけにはいかない。
「それでは、もう少し詳細を詰めましょう。細かい話は他にもあるでしょうし、陛下や総帥閣下の判断材料を増やすためにも必要です」
「ええ、私達としても助かります」
上手くやるとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それではシュルトハイン閣下、よろしくお伝えください」
「ええ。一言一句違わず、国王陛下へ上奏いたします」
数時間かけてこの日の会談も終わり、俺達の役割も終わる……はずだった。
だが、どうやらそう簡単には終われないらしい。
「元帥閣下、少しよろしいでしょうか」
「どうした?ユクス殿」
「この後の夕食にご一緒していただけませんか?外務議会議長の代理として、お話したいことがございますが」
「ふむ……」
「ガ……長官?」
「そうだな……彼女達はどうすれば?」
「できれば、1対1でお願いさせていただけませんか?」
「そうか……分かった。メルナ、先に戻っていてくれ」
「了解しました」
「ありがとうございます。では、こちらです」
そう言われ、格納庫、ひいてはメルナ達と反対方向の通路へ案内される。
だが、通信は繋いだままだ。
(何の用でしょうか?)
(さあな。だが、言葉通りじゃないだろう)
「どこに行くつもりだ?」
「高位外交官の居住エリアになります。あの場所には外交用の高級食堂もありますので」
(……怪しいわね)
(はい)
「そうか。なら任せる」
「はい、ありがとうございます」
食堂というが、応接室のようなものらしい。内装は木材を基調にしたような感じで、豪勢というわけではないが、とても綺麗だ。
そして2人で向かい合って食事をするためのものだろう。長方形の机も、長辺に1つずつ置かれた椅子も、どちらも部屋の雰囲気に合ってる。
「こちらです」
「ふむ、良い内観だな」
(綺麗な感じね)
(華美すぎません)
(デザインの基調は違いますが、王城にも迫りますね)
「料理はもう少しお待ちください。間も無くだと思いますので」
「分かった」
俺達は向かい合って座る。
すると料理はまだだが、酒が運ばれてきた。
「よろしいでしょうか、閣下」
「ああ、良いぞ」
「では、乾杯を」
「乾杯」
ワイングラスに似たものを持ち、打ち合わせた。
「良い酒だな」
「……ありがとうございます。連邦の中でも特に酒造で有名な惑星で作られたものです」
「なるほど、素晴らしい」
ユクスは多少動揺しているようだが……まあ、当然か。
「もう料理が来たのか。早いな」
「事前に用意しておりましたので。仕上げだけだと聞いております」
「なるほど。用意周到だ」
「お断りになられるとは思っておりませんでしたので」
あの言い方だと、俺の立場では断れないからな。とりあえず、料理を食べるとしよう。
「コースではなく定食風となってしまいましたが、よろしかったでしょうか?」
「大丈夫だ。ふむ……これも美味いな」
「ありがとうございます。そちらは魚類の一種でして、肉のような食感と風味が好まれております」
「そうか。面白いな」
「はい。それで、どうされますか?」
「まずはいただくとしよう。話は終わってからだ」
「かしこまりました」
大皿や小皿に入った料理を食べ、酒を呑む。
僅かながら驚いた顔も見えたが、食事はつつがなく終わった。
「それで、自分と交渉したいこととは何だ?」
「はい、元帥閣下。議長閣下は共同事業に関して、少し異なる提案をされました」
「それは?」
「共同軍港……いえ、共同要塞にするという提案です」
「直接的になったな。元々そういう予定もあったのでは?」
「それは否定しません。ですが、そちらの方が貴国としてもよろしいでしょう。それに、元帥閣下としても」
「何故そう思う?」
「お若くして元帥となられた閣下は、妬まれることも多いでしょう。バーディスランド王国国王陛下へ忠義を尽くすにも、功績が必要なのでは?」
「それに対し、連邦政府の外務議会議長は自分の手助けをすると?」
「はい。そのように伺っています」
なるほど、そう来たか。情報を封鎖しておいて良かったな。
「ふむ、それは心強い」
「そう評価していただけるだけでもありがたいです」
「それで、具体的にはどう動かすつもりだ?」
「議長閣下は最高評議会にて、帝国軍に対する王国軍と合同での要塞基地建造を提案する予定です。軍の一部も、これに同調することに決まっていると」
「では、自分にはどうしてほしい?」
「元帥閣下には同様のことを、王国内にてしていただきたく思っております。方法に関しては元帥閣下にお任せします」
というより、王国のことは知らないだろ?結局、他人任せなだけだ。
「それで良い。方法に関しては心当たりがある」
「それでは、よろしくお願いします」
その後も軽食をつまみつつ、いくつかの話をしていく。
ただまあ、なぁ……
「さて、これで終わりだな」
「はい。ありがとう……あっ⁉」
「っと、大丈夫か?」
「すみません……酔ってしまったようで……」
「そうか。休める場所はあるのか?」
「そちらの扉の先にベッドがあるので、スタッフを……」
「いや、俺が連れていこう。その方が早い」
「え、いえ、ですが……」
「気にするな」
「……ありがとうございます」
肩を貸し、案内通りに連れていく。
部屋の中には1人分にしては大きなベッドがあり、利用法は何となく予想できる。
「良い部屋だな」
「外交用、ですので……あ、そこに」
「ああ。休んでろ」
「はい……あの、閣下?」
「どうした?」
「……今のこと、どう思ってますか?」
「どう、とは?」
「それは、その……」
「まったく」
覆いかぶさるように、上半身を倒していく。
「覚悟はできているな?」
「閣下……」
そして顔を近づけ……
「……え?」
スカートの下に隠されていたナイフを、こいつの首に当てる。
このナイフ、刀身は細いがスイッチを入れると分厚い鉄板も容易く切り裂けそうだ。流石に装甲板は無理だろうが。
「気づかないとでも思ったのか?」
「な、何が、でしょうか?」
「最初の酒がアルコール度数96.7%、酩酊系の薬が入っていたな。その後の料理にも、意識混濁系、思考力低下系、静止思考停止系の薬が入っていた」
「それは……」
「随分と強引なハニートラップだな。だが、生体義鎧には効かない」
「……」
「酔ったフリをしても無駄だ。最初から薬を飲んでいたんだろ?」
左手で右肩を押さえ込み、固定する。
骨を折らないようにするのは大変だが……逃げられるようなヘマはしない。
「……私をどうするつもりですか?」
「表立ってどうこうできる関係じゃない。それに、裏でも難しいな。お前、諜報系だろ?」
リーリア達と相談して、アーマーディレストで解析に当てて得た結果だ。
話し方、立ち姿、そして隠し武器。証拠は山ほどある。
「外務は関係ないな。連邦軍の系統だ。提案も軍に寄りすぎている」
「……こんなことを話して、無事でいられるとでも?」
「残念だが、この部屋にある監視装置は全て乗っ取らせてもらった。たわいのない会話しか記録できてないぞ」
「そんな、どうやって……」
「秘密、と言いたいが、すぐに分かる」
必要な行程だからな。
「アッシュ、出てこい」
『意外と遅かったね、司令』
「え?……は、えぇ!?」
『お、驚いてる驚いてる』
「急に出れば誰でもそうなる。誇ったりすることじゃないぞ?」
『分かってるって』
そこまで広いとは言えない部屋の中に、軽装歩兵が4機も現れる。だが、それらのパイロットは全て1人だ。
ずっと隠れて護衛をしていた。
「時間をかけるな。やれ」
『了解』
「ひっ、なっ……アアアァァァァーー!?!?アッ、アァ……」
そして軽装歩兵が手に持った円盤を彼女の頭に近づけ、スイッチを押す。
苦痛に満ちた声が響くが、予想通りだ。
だから、声をかけるのは音が無くなった後。
「聞こえるか?アンリーナ-ユクス」
「……はい、シュルトハイン元帥閣下」
「本来の所属は?」
「元はザーハロッパ連邦軍統帥本部第1諜報部第3外交諜報課第2室、現在はシルベルディ銀河派遣艦隊出向員外務部外交諜報官課です」
「外交諜報官とは?」
「外交官に扮して諜報活動を行う者達のことです。対帝国ではなく連邦内部、および国交を持つ他国相手に使用されます」
脳波操作装置を応用させた洗脳装置、それが彼女に使用したものだ。といっても、人格を書き換えるようなことはできない。
可能なのは自我の方向性を変える程度だ。だが、むしろこっちの方が使いやすい。
「最初の提案は本物か?」
「はい。外務議会議長と統帥本部第1諜報部は王国に対し、共同で動くことに決めた模様です。提案は外務議会議長から、ハニートラップは諜報部の指令になります」
「なら提案は拒否、ハニートラップは失敗したことにする。いいな?」
「はい」
「ただし、諜報関係に居続けるようにしろ。お前はまだ利用できる」
こいつを利用するにしても、王国内で色々と面倒はあるが……その辺りはどうにかできるだろう。
どう動くにしても、情報は必要だ。
『通信とかはどうする?』
「そうだな……体内に何か無いか?」
『ないね。骨を改造するのはどうかな?』
「許可する。動力源は有機物分解で良いはずだ。自壊機能も忘れるな」
『了解』
というわけで、携帯型の元素操作装置を使ってアッシュが作業をする。設計は技官の誰かに任せているんだろう。
骨格や有機物を材料にしたセラミックス系通信機の研究については読んだことがある。パッシブの偽装も使えば、バレることはないだろう。
「さて、アンリーナ-ユクス。お前は誰に忠誠を誓う?」
「バーディスランド王国国王陛下です」
「よろしい。だが普段は連邦に忠義を誓う形を取れ。王国の諜報員として、国王陛下の役に立て」
「承知いたしました」
「まず、連邦の諜報網の一部を乗っ取る。アッシュを手伝い、この艦隊にいる他の諜報員の洗脳をしろ。連邦に戻った後はそいつらと協力して洗脳を繰り返せ。必要な機器は支給する」
「はい」
「もし帝国軍の諜報員がいるのなら、そいつらも洗脳して手駒に加えろ。帝国の諜報網も乗っ取りたい」
「はい」
「だが、急ぐ必要はない。見つかることなく確実に行動しろ」
「了解しました」
「じゃあ、俺は帰る。代わりの案内人を呼べ」
「かしこまりました」
そしてしばらく後、やってきたのはミュルバーン大佐だった。どうやら、案内役を無理矢理変えられていたらしい。まあ、当然だろうな。
アッシュが再び艦内に散ったことを確認し、俺は歩き始める。
(上手くいきましたね)
(ああ。これで向こうへの足がかりができた)
(全部これからよ。でも、映画みたいに簡単にはいかないわね)
(まあ、それは仕方ない。俺は英雄って呼ばれることはあっても、ヒーローじゃないからな)
(ヒーローよ。少なくとも、私にとっては)
(リーリア)
(リーリア先生)
(ごめん。私達、だったわね)
(分かった。お前達を説得するのは諦めるとしよう)
(他の人達でも無理だと思いますが)
(……結局俺が自分で考えるだけか)
(そうね)
(ええ)
(はい)
(はぁ……)
「では閣下、こちらになります」
「ああ、感謝する」
そして格納庫へたどり着き、新しく呼んでおいた輸送艇に乗った。
これでようやく口に出せる。
「まったく、柄じゃないってのにな」
『認めなさい。貴方は自分からそういう役回りに成ったのよ』
『はい。言い方は悪いですが、先生は逃げられません』
「分かった分かった」
『ガイルにとっては、損な役回りですね』
「まったくだ」
本当に、柄じゃないってのにな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「先ほど、総帥府が正式に決定を下した」
そして開かれた戦略艦隊総会議。バーディスランド王国の最高意思決定機関は御前会議だが、現在の最前線は戦略艦隊が持っている。
だから、具体的なこともここで話す。
「例の連中……連邦派遣艦隊の入国を許可するとのことだ。その上で、戦略艦隊が接待と警戒の主体となる」
「陸海軍はどうなりますか?」
「向こうはステルス装置で隠れての警戒だ。数が多いからこそ、それを有効活用するらしい」
「つまり、戦略艦隊が姿を晒せってことね?」
「そうだ」
「ステルス装置全開でも、向こうのレーダーに捉えられる可能性があるぞ?」
「それも考えて、最低限の部隊以外は1000万km以上離れるらしい。常時亜空間ワープの準備をして、だそうだ」
「そうか……分かった」
王国の力を示しすぎないためか。確かに、必要以上に警戒させるとこっちに連邦軍が向けられる可能性もある。
三つ巴なら簡単に負けるとは言わないが、二正面作戦をして勝てるような戦力差じゃない。避けれるものは避けるべきだ。
「接待は俺とリーリアでやる。近衛から銀翼か白翼を貸してもらえれば十分だ」
「それで良いのか?」
「銀翼は分からないけど、白翼は簡単ね。今の大隊長とはゲーム仲間よ」
「なら任せよう。だが一応、祭儀局と警護局にも話を通しておけ」
使節だけなら2ヶ戦略艦隊で十分すぎる。
だが、他を抑えるには足りない。
「それで他は……全てアルストバーン星系から1万光年以内に来てほしい。父さん、どうだ?」
「そうだな、外に出ている艦隊の内……第5,第7,第9は7500光年以内、第2,第6は2000光年以内、戦闘準備態勢でそれぞれ待機しろ。第3,第8はそのままアルストバーン星系で待機、第10は第3惑星近くで警戒しておけ」
「は!」
「了解!」
「連邦の艦隊はどれだけ入れるんですか?」
「それは……」
「1隻だけで良いんじゃないですか?あの使節の艦です」
「そうか、それはいいな」
「私もそれでいいと思うわ」
「だがそれなら、第3,第8は連邦艦隊への警戒も追加だ」
「いや、第10と海軍の一部もアルストバーン星系へ向かわせてくれ。そっちの防備が少ないだろ?」
「確かにそうか……分かった、手配しておこう」
「第4からも戦術艦隊をすぐに向かわせられるよう、準備しておくわ。貴方、それで良い?」
「ああ、第1も同じだ」
「助かる」
あの数の対処、不可能ではないが簡単でもない。
ありとあらゆる布石を打つべきだ。
「それと父さん、1ついいか?」
「何だ?」
「連邦に対して、転送装置は見せない方がいいんじゃないか?それと飛行型機動兵器の亜空間ワープも、使用に制限を加えたい。ああ、潜宙艦もだ」
「どういうことですか?」
「転送装置は連邦にとって未知数のものだ。だからこそ、突拍子の無い想像をする可能性がある。例えば……いきなり艦内に揚陸部隊を転送される、とかだな」
「そんな風に考えるか?」
「向こうは知らないから、断言はできない。だが、そう考えても不思議じゃない」
「ですね。それで、もう1つは?」
「飛行型機動兵器の方はもう知られているかもしれない。帝国軍相手に使ったからな。そして恐らく、連邦の機動兵器はワープができないだろう。ジェネレーターの出力が足りないらしい。それなら欠点があったとしても、小さなワープ装置は脅威に感じるはずだ」
「それで?」
「それなら、限定された状況でしか使用できないように思わせれば良い。常に使われるのでなければ、警戒の度合いは下がる。距離は上限300万km、対重力性能は第3惑星なら、地表1万kmまでにするのはどうだ?」
「なるほど」
「潜宙艦も同じだが、こっちはそこまで徹底しなくて良い。帝国も持ってるからな。ただ、保有数は誤魔化せるようにしておいた方が良いだろう」
「そういうことなんだ」
「ガイル、いつの間に心理学者になったんだ?」
「全部軍事的な内容だ、父さん。それに、俺だけじゃない」
「私達も一緒よ、おじさん」
「そうか。リーリア達が考えたのなら安心だな」
「おい父さん、実の息子が信じられないのか?」
父さん、リーリア達には甘いんだよな……レイには特に。
まあ、分からなくはないんだが。
「まあ、ガイルの文句は横に置いて」
「おい」
「続きをやるぞ。他に提案は無いか?」
父さんは、まったく……
という俺の文句は無視され、その後の会議は少し白熱した。




