第3話
新王国歴7267年4月3日
「うわ……」
艦橋に入ると、レイがシェミルで何かを見ていた。というか、あの写真は……
「レイ?」
「あ、お兄ちゃん……」
「さっきの写真、俺だよな?負傷した時の」
「……うん。わたし、見たことなかったから、お兄ちゃんの任務記録から探したんだ。ごめん……」
「謝らなくていい。それにしても話はしたけど、見せたことはなかったか。見せたいものでも無いんだが……それにしても、急にどうしたんだ?」
「メルナお姉ちゃんからリーリアお姉ちゃんとの話を聞いて、その後にポーラお姉ちゃんと話してて……」
「なるほど。あいつにとっても、あれは嫌だったらしいからな」
「ポーラお姉ちゃんは悪くないよ!わたしが聞いたんだから……」
「責めてるわけじゃない。そんなに慌てるな」
まあ、興味を持つのは仕方ないだろうな。むしろ遅いくらいか。
「ガイル、何でこんな所に立っているんですか?」
「っと、すまない」
「……あれのせい?」
「シェーン?……そう、レイちゃんの写真ですね」
「ああ、メルナが話したんだろ?」
「触りだけですね。あとはポーラが話していましたよ」
「聞いてる。興味があるのか?」
「ええ。レイちゃんのためにも、お話ししていただけますか?」
メルナやシェーンには話したと思うが……いや、そこまで詳しくはなかったか?
まあ、時間を潰すにはちょうどいい。
「あの時は……まあ、思いっきり戦争をしてたからな。ああなっても仕方がない部分はあった」
「それでも、最悪の誕生日でした。今までそんなことがなかった先生が、行方不明になったんですから」
「ポーラ、まだ非番だろ?」
「私達は寝なくても大丈夫ですから、早く来てもいいはずです」
「まったく……仕事はまわさないからな」
「分かっています」
休み時間くらいはしっかり休めよ……少しだけなら無理をする癖、昔から変わってないな。
「聞いてると思うが、任務に失敗してああなった。漂ってる時は死んでしまいたいとも思ったな」
「私の100歳の誕生日だからと、任務から帰ったらリーリア先生と一緒に祝おうって言っていたのは、先生でした。忘れたんですか?」
「それは……仕方ないだろ。それに、結果的には生きてたんだから」
「駄目ですね、ガイル」
「……酷い」
「ぐっ……」
「お兄ちゃん……それで、なんであんなに怪我しちゃったの?」
レイ、気を使わせてすまない。
「戦いに劣勢になって、俺が殿を引き受けたからだ。艦が中破した段階で脱出しようとしたんだが、間に合わなくてな」
「それであんなに?」
「いくら頑丈に作られてても、艦の爆発に巻き込まれたらただじゃすまない。右手も右足も右翼も全部もげていて、右の脇腹から内臓が出ていたか」
「それだけではありません。左翼も半分無かった上に、全身に酷い火傷がありました。それに内臓も、3分の1は無くなっていましたから」
「今ほど頑丈じゃないというのもあるが、その状態で3日間宇宙を漂っていた。その時だけは、簡単に死ねない体を悔やんだな」
「連絡は取れなかったの?」
「シュミルの原形をはめていたのは右手だ。ビーコンの信号が弱くて、来る保証は無かったからな」
痛みはシャットアウトされていたが、恐怖が無くなるわけではない。
その時に出ていたのはリーリアとポーラのことだったが……恐れていたことに変わりはないか。
「だが偶然通りかかった味方に回収されて、気付いたら半年も経っていた。そして起きた瞬間に、ポーラに泣きつかれたな」
「そ、それだけ心配したからです!」
「分かってる。だから、あの後から無茶はしなくなっただろ?」
「先生からしたら無茶は無いかもしれませんが、私からしたら無茶ばかりです」
「厳しいな」
話をしながらもいくつか仕事を終わらせつつ、時間を待つ。
「さて……演習まであと15分か」
「そうだね。今日はどこだっけ?」
「第2、第3、第5、第7、第8、第9戦術艦隊と、第11、第12、第13、第15、第17、第18戦術艦隊の仮想戦闘です。合っていますか?」
「ああ。いつも通り、俺達は評価要員だ」
メインモニターには、2つに分かれて艦隊が展開されている様子が出ていた。まだ時間ではないから見た目に動きは無いが、作戦会議で忙しいはずだ。というか、潜宙艦は既に有利な位置を取ろうと、静かな争いを繰り広げている。
昔は模擬弾を使っていたらしいが、今はいらない。仮想空間の中だからこそ、本気の戦いができるわけだ。
当然、思考加速装置も使っている。
「今回の旗艦は……第7と第12だったな」
「はい、今は軍議中です」
「……まさか直接集まってるのか?」
「はい。第7戦術艦隊旗艦《シュン-フェルデン》と第12戦術艦隊旗艦《ヘックス-アルカント》、双方に全要塞艦の艦長が集まっています」
「盗聴は無いし、ハッキングは禁止してるだろ……意気込みすぎだ」
戦術艦隊を率いているのは、ラファレンスト級要塞艦。全長174kmもある巨艦だが、この程度の大きさでは戦略兵器は積めない。
だから戦術クラスとして運用されている。まあ20隻もあるから、分派艦隊にはちょうどいい。
それと、今回の演習は久しぶりに6対6、要塞艦だけで636隻ずつという豪勢さだ。いくら転送装置で簡単に集まれるとはいえ、軍議の為にこれだけの人数を集めるとは物好きだな。
「他の人員は既に待機しています。過ごし方は思い思いですが」
「分かった。さて、どんな指揮をするか楽しみだな」
「でも、戦術艦隊が6つって多すぎないかな?」
「問題無い。前にも何度かやっただろ?」
「うん、だけど……」
「それに、艦長達は指揮の経験も豊富ですよ。私より前から戦っている方もいらっしゃいますからね」
「オペレーターがいなくても、あいつらなら大丈夫だ。俺と席を争ったやつもいるしな」
「そっか、そうだよね」
艦隊運用のためのオペレーターを乗せているのは旗艦だけだが、今の技術力ではそんなもの関係ない。自分の艦を操りながらの指揮もAIがあればできるし、必要ならオペレーターも派遣される。
というか、これができないとラファレンスト級の艦長に選出されることはない。得手不得手はあるけどな。
「先生、時間です」
「第2、第3、第5、第7、第8、第9戦術艦隊を演習第1艦隊、第11、第12、第13、第15、第17、第18戦術艦隊を演習第2艦隊と呼称。演習開始」
今回はオペレーターも、警戒担当以外は評価要員になっている。まあ、ほぼ俺達幹部に状況の推移を伝えるだけだが。
そして俺の合図とともに演習は始まった。仮想空間の中では重力子砲、重粒子砲、陽電子砲が飛び交い、ミサイルが軌道を描いて飛ぶ。艦隊の間は数千km離れているが、時間がかかるだけで問題は無い。
また異次元でも、潜宙空母や潜宙揚陸艦から偵察装備の機動兵器が発進し、索敵を始めていた。
「両艦隊、重巡洋艦以下の艦を下げ始めました」
「……やっぱり」
「被害が多すぎます。これなら、高速戦艦も下げて良いくらいです」
「確かにそうだが、それは指揮官の判断次第だ。フリゲートがやられると、ラファレンスト級を沈めるのが厳しくなる。互いにどれだけ温存できるかだな」
「航空部隊と潜宙戦艦もどうするか気になりますね」
「でも、これでも遅いよ。もっと早くしないと」
「航空部隊担当からすればそうだろうな。だが、俺達の艦隊はこれでも良い」
「たったアレだけで、相手の情報を得られます。演習は別ですが、現実では有用です」
小型の戦闘艦は最初から後ろの方にいたが、さらに下げられている。
まあ戦艦クラスの重力子砲を複数くらっては、いくら個艦防御以上の厚いシールドを持っていても駆逐艦では耐えられない。要塞艦の大口径砲をくらって沈む戦艦もいるくらいなんだからな。
若干犠牲が多い気もするが……まだ許容範囲内か。
「双方の艦隊が後退を始めました。これは……戦艦や要塞艦による砲撃戦にするつもりでしょうか?」
「いや、そのつもりは無いだろう。頃合いを見て航空部隊を出すはずだ」
「今なの?」
「この距離なら駆逐艦や巡洋艦をそのまま出してもいいはずだが、それをしていない。つまり、雷撃戦をするつもりは無いということだ。その証拠に、要塞艦以外は空母や揚陸艦の直掩にまわっているだろ?」
「あ、本当だ」
「つまり、次の見所は互いの航空部隊の戦闘ですね?その編成次第で戦況も大きく変わりますから」
「指揮官が何を考えているかは分からないが、その可能性は高い。あとは潜宙艦隊だが……」
「後少し……多分もうすぐ」
「みたいだな」
互いの機動兵器が相手の潜宙艦隊に近付いていっており、潜宙艦隊同士も進路が重なっている。まだステルス装置で隠れているようだが、発見は時間の問題だろう。
と思っていたら、ミサイルが発射された。
「潜宙艦隊が交戦に入りました」
「遅かったですね。攻撃も控え目ですし」
「両方とも、今は防御優先かもしれないな。さて、小型潜宙艦と大型潜宙艦で潜宙戦艦を守るか、それとも潜宙戦艦で殲滅するか……どの手を選ぶ?」
「……わたしは……航空部隊でやると思う」
「それもありだな。だが偵察を出していた分、集合は遅れるぞ?」
「……でも……全方位から、攻撃できる……きっと有効……」
「さて、どうかな。ん?……なるほど、分けるか」
「先生、予想ルートを算出しますか?」
「ああ、頼む」
演習第1艦隊は潜宙空母と潜宙揚陸艦を艦隊から分離し、別行動を取らせる。迂回して演習第2艦隊の背後へ向かうコースだ。
潜宙戦艦がいないから本命では無いだろうが、陽動にしては規模が大きい。目的は同時攻撃か?
それに対して第2艦隊は……
「ん?これは……良い手だな」
「どうしたのですか?」
「ここを見てくれ。第2がやった手だ」
「これって、巡航ミサイル?」
「……それもわざわざ大回り。第1は気付いてない……」
「しかもこれは迂回するだけじゃなく、ワザと時間をかけて到達するようにされている。何かとタイミングを合わせるつもりかもしれない」
「合わせるとしたら、航空部隊か砲撃、それとも潜宙艦隊ですか?」
「まだ絞り込めない。だがこの様子だと、他にも幾つか企んでそうだな」
まさか同じことを考えているとは思わなかった。だがあいつなら……と、動くか。
「両艦隊、航空部隊の約50%を発艦させました」
「ようやくですね」
「潜宙艦隊は膠着状態だ。恐らく、このままにしておくんだろう」
「じゃあ、今度はこっちなんだね」
あの砲火の中を飛ばしたら大半が巻き込まれるから、落ち着いた今が狙い目なのは当然だ。かなりの出力でステルス装置を使用しているから確証は得ていないようだが、勘付いてはいるだろう。
それよりも……面白い編成だな。
「第2艦隊の編成、通常と違いますね」
「はい、爆撃機や重爆撃機の数が少ないです。何故でしょうか?」
「攻撃機は多いよね」
「…作戦、のはずだけど……」
「どちらかは取る戦法だと思ってたが、第2だけか。レイはどう考える?」
「お兄ちゃんみたいに確信が持ててるわけじゃないけど、予想ならできてるよ」
「それで良い。言ってみてくれ」
「制空戦闘機と戦闘攻撃機が迎撃、攻撃機が火力支援だと思うよ。爆撃機や重爆撃機は温存してるんじゃないかな?一気にやっちゃうから」
「俺と同じだ。多分、あいつもな」
他3人は気付いていないようだが……まあ、仕方ない。これには勘も必要だ。
レイが気付いたのは、パイロット上がりだからだろう。
「どういうことでしょうか?」
メルナは正統派の采配が得意だから、奇策への対処はできても、奇策を考えるのは昔から苦手だった。
そういう役割は俺とリーリアのものだ。
「……難しい……」
シェーンは艦長としては非常に優秀だが、艦隊指揮官としては平均程度。悪くはないが、良いわけでもない。
「予測するにはデータが足りません……」
オペレーター上がりのポーラは、立案よりもサポートの方が得意だ。指揮はできるが、俺やメルナと共にいた方が活躍できる。
「さてと……待ちか」
「仕方ないですね。思考加速装置を使ってますから」
「……暇」
「ですが、外すことはできません」
艦隊間の距離は1万に少し届かない程度、これなら接触まで10秒もかからない。だが500倍に思考が加速されている今では、約1時間半の待機になる。これがまた長い。
見逃すのはヤバイから、これを切ることはできない。
それに全体で一律に起動してるため、途中で倍率を変えるのも面倒だ。
「ポーラ、何をやってるんだ?」
「リズムゲームです。この曲、最近のものですが好きですから」
「確かに、好きそうな感じだな」
俺達は見守ってるだけなので、こういった息抜きは許可している。状況が固まった時限定だが……まあ、大抵シュミルで何かやってるな。
それにしても、あれはリズムが速すぎないか?
最近のものは脳波で操作する物も多いが、流石に一般人の反応速度を超えている。俺達以外は……覚えるのか?
「……難しい」
「シェーンは……戦術系のゲームか。オンラインもあるやつだったよな?」
「そう……宇宙戦闘なんだけど、どんどん難しいミッションが追加されてるから……」
「俺もやってみるかな」
「……やめて……ランカーが全滅する」
「そんなことは無いだろ」
そんなことは無い。無いだろ。無いはず……無いはず、だ。
「メルナは……何だそれは?」
「恋愛シュミレーションですね」
「……そんなのやってたか?」
「何事も経験ですよ?」
「……そうか」
……俺も始めよう。最近ハマってる1対多のアクションゲーム、難易度は……ヘルだな。これ以下だと弱すぎるため、手軽にやるならこれがちょうど良い。
待っている間は何も動きが無かったが、ようやく時間が来た。
「航空部隊、60秒で短距離対空ミサイルの射程に入ります」
「ステルス装置があるとはいえ、もうレーダーには映っているはずだ。見逃すなよ」
「了解」
遠距離ならばステルス装置で光学的に透明になっていて、レーダーからも消えている。
だが近距離では、ステルスは無力化されてしまう。重爆撃機のレーダーなら、もう見つけているだろう。
「両隊、短距離対空ミサイル発射。同時に中距離も発射しました」
「第2艦隊所属の制空戦闘機、戦闘攻撃機、ともに増速。最高速度です」
「一気に決める気だな。第1艦隊は?」
「編隊を維持したままです。遠距離から仕留める模様」
「だが、制空用の機動兵器の数では負けている。第2の方が有利だろう」
「援軍が来る可能性もありますが」
「間に合うと思うか?」
「無理ですね。今から出しても、殲滅される可能性が高いでしょう」
「うん。制空戦だと、機動性とマイクロミサイルの誘導精度が上の方が勝つもん。重爆撃機の数も良いけど、制空戦闘機が1番だから」
現に、短距離ミサイルの迎撃効率は第2の方が上だ。
所詮艦隊護衛用の牽制弾とはいえ、差がありすぎる。第2は対策をしていたか。
「ですが先生、第1艦隊が静かに見ていることは無いと思います」
「ああ、確実に何か手を打ってくる。だが、その手は恐らく……」
「恐らく?」
「両艦隊、残存航空部隊の発艦を確認」
「これだ」
第1艦隊としては第1陣ができる限り数を減らし、第2陣で第2艦隊の航空部隊を殲滅して、艦隊への直接攻撃に行きたいのだろう。
だが、それも第2の手中の内のはずだ。というか、艦隊運動にまで焦りが現れてる。機動兵器の発艦タイミングが同じなのは、それを察知されたからだろう。この規模の艦隊同士ではステルス装置などほとんど無いようなものだが、機動兵器の発艦を隠すことくらいはできる。
そしてそれが起きたのは、道のりを半分ほど過ぎた時だった。
「あ!第2艦隊航空部隊、亜空間ワープを始めます」
「やっぱりだね」
「……場所は?」
「第1艦隊の周囲。全方位をくまなくだろう」
「その通りです。第7戦術艦隊旗艦を中心とした半径500〜1000kmのエリアに第2艦隊航空部隊が出現、ミサイル攻撃を開始しています」
「同時に潜宙艦艦隊も動くはずだ。潜宙戦艦に注意しろ」
「了解です」
亜空間ワープを使うと、ステルス装置の出力を最大にしても簡単に場所がバレる。だからこの距離では滅多に使われないが……こういった場面では効果的だ。
既に第2の機動兵器が飛び回り、次々と対艦ミサイルを発射していた。全隊一斉射だけでなく部隊単位の斉射もあり、被害は増える一方だ。
すると突然、急に第2の砲撃が強くなる。射線上には……ああ、そういうことか。
「先生、第1艦隊が後続の航空部隊を戻しました。ですが、第2艦隊からの砲撃により被害が出ています」
「え、でもそんなことしちゃったら……」
「いや、第2側の動きを見てみろ」
「……え?……あ、避けてる」
「ああ。砲撃の直前に部隊へ穴が開いている。先に時間と場所を伝達してるんだろう」
「追撃だけでなく、こちらの被害も大きいみたいですね」
「でも、一部のパイロットにはバレちゃってるね」
「そりゃあ、アレだけ派手に動けばな。そいつらはエース級だから当然だが」
「確かにそうですね」
エースと呼べる連中とそうでない連中では、根本的な部分で何かが違ったりする。俺みたいな艦隊司令も別にされるが、超高速で動く彼らは別格だ。
それはそうと、オペレーターの1人が何かに気付いたみたいだな。第1が最後の足掻きでもしたのか?
「第2艦隊後方に第1艦隊の潜宙空母と潜宙揚陸艦が浮上、航空部隊と重装揚陸艇を発艦させました」
「本来なら悪い手じゃないんだが……今は悪手だぞ」
いくら大半の機動兵器がいないとはいえ、直掩機は残ってる。それに艦隊のミサイルと対空砲火も。重装揚陸艇は1機残らず叩き落とされた。
また、第2の潜宙艦隊はこの隙に第1の潜宙艦隊を突破、第1の本隊に近付いている。
「第1の指揮官達の様子は?」
「……とても慌ててる……焦ってる?」
「対空砲火に影響は出ていません。ですが、他に何かをしようとする動きはありません」
「機動兵器の対処だけで手一杯なのでしょうね。手札もほぼ使い切ったようですし」
「ラファレンスト級は無理でも、周りの艦なら沈めれちゃうもん。もう厳しいと思うよ」
万策尽きたみたいだな。あとは時間の問題……いや、もうすぐか。
「第2艦隊航空部隊、ミサイル第5波発射態勢」
「巡航ミサイルと大型魚雷も来ますね。同時着弾のようです」
これを狙っていたな。今までの4波で護衛はほぼ壊滅、対空兵器も半減している。
これを抑える力は、もう無い。
「第7戦術艦隊旗艦の撃沈を確認。また、|第3戦術艦隊旗艦《ハルナ-スランディート》と|第5戦術艦隊旗艦《アーシェ-スランディート》も撃沈、第9戦術艦隊旗艦は中破しました」
「決まりだ。演習終了、全演習参加艦隊は勝因と敗因、及び問題点と改善方法を報告書に纏めて提出しろ。いつも通り評価する」
まあ、今回は戦術の選択の違いだけだから、そこまで悪い評価を出すつもりはない。
第1の最後の足掻きもタイミングの問題で、場合によってはトドメの1手になった可能性だってある。
「終わりましたね」
「とはいえ、現実だと1分程度か。まあ、慣れてるが」
「なんか……一方的だった」
「お兄ちゃんなら、どうやったの?」
「俺か?俺なら、最初に全艦からミサイル斉射、全力砲撃とともに前進させる。潜宙艦隊を見つけたら上の艦隊も魚雷を撃って殲滅、その直後に全艦を敵艦隊の周囲に亜空間ワープさせて、包囲だな。そこからは撃ちまくるだけだ」
「……容赦ない」
「相手の全容が分かってるから打てる手だ。普段は使えない」
「リーリア先生なら、どうするんでしょうか?」
「リーリアか?あいつは……最初に直掩以外の機動兵器を全て艦隊にワープさせそうだな。その隙に全艦もワープさせる。速度ごとに3回に分けるかもな」
「……攻撃的」
「それがあいつの得意技だ。間違っていないしな」
俺とは違った意味で攻撃的だからな、あいつは。
・戦略艦隊の構成
大きく分けると、全長100m以下の機動兵器、全長200〜7000mの戦闘艦、全長20km以上の要塞艦に分類される。その要塞艦の中でも、旗艦であるアーマーディレスト級要塞艦は群を抜いて大きい。
・亜空間ワープ
重力や次元を操作し、亜空間を介して目的地へ向かうワームホールを作り出す。ワープ空間内、通常空間内ともに、数秒から数十秒で移動は終わる。
ワームホールは艦の艦首に発生し、ワームホールが移動して艦を飲み込む。その際、艦のコンピューターが自艦だと認識している範囲しかワームホールに入らない。出口側は艦が到着すると同時にワームホールができ、入り口と同じ順で艦が出てくる。
ワームホール内でそのままでは生身に悪影響が出る可能性があるため、中を通るには特殊なシールドが必要。
亜空間ワープを開始すると出口側で微弱な重力異常が起こり、レーダーで出現地点まで察知できる。また、亜空間ワープ準備段階でも非常に小さなワームホールができているのだが、それの発見は非常に困難。
戦闘艦や要塞艦だけでなく、飛行型機動兵器も短距離なら使える。亜空間ワープに時間がかかるため、戦闘艦の近距離亜空間ワープと違って事前に察知されやすい。
大気圏内からの移動、及び大気圏内への移動でも使用可能だが、その時の演算量は多くなる。また、重力が一定以上の強さとなるエリアは通れない。
・重力子砲
バーディスランド王国軍の兵器の中で、通常兵装の中では最も威力が高い兵器。着弾点を中心に巨大な空間を重力で圧縮、ブラックホールにしてしまい、さらにブラックホールの蒸発時に発生する爆発でも攻撃する。
艦においては主砲。ただし弾速は他2つの半分以下。
これより上だと戦術兵器、戦略兵器が存在する。戦術兵器は指揮官クラス、戦略兵器は戦略艦隊司令長官の指示が無いと使えない。
・重粒子砲
重粒子を放つ砲。艦においては副砲。斥力装置によって加速するため、装置の性質上反動は無い。人工重力発生装置の応用機器によって、弾体となる重粒子の密度はとても高くなっている。
弾体が通常の物質なので爆発はしないが、代わりに貫通性能が高い。弾速は陽電子砲に匹敵するほど速い。
重力子砲と陽電子砲の方が有用に見えるが、この2つの間を埋めるのに丁度良いため使われている。
・陽電子砲
陽電子を放つ砲。艦においては両用砲。斥力装置によって加速するため、装置の性質上反動は無い。人工重力発生装置の応用機器によって、弾体となる陽電子の密度はとても高くなっている。
威力は最も低いが、弾速は最も速い。
砲身を4つに開く対空モードもあり、有用な対空攻撃として使える。拡散角度は0〜0.05度。ただし拡散により射程と威力は大きく減衰するため、対機動兵器か対ミサイル、また距離によって角度は変わる。
・ミサイル
艦載用のミサイルで、機動兵器も数は少ないが発射できる。基本的には反物質弾頭で対艦攻撃を行うが、他の弾頭や弾種も存在する。対空ミサイルもあるが、迎撃されることも多く機動兵器にはあまり効かない。
なお魚雷とは、通常空間と異次元の間を1度だけ移動できるミサイルのこと。造成手順が違うだけで、同じ発射管を使える。
・マイクロミサイル
機動兵器用のミサイルで、艦でもクラスターミサイルとして発射できる。基本的には数十発同時に発射し、機動兵器を攻撃する。
艦載ミサイルより小さいからこの名前になっただけで、100万分の1の大きさというわけでは無い。
・シールド
機動兵器や艦の表面を満遍なく覆っている防御フィールド。10種類の異なるシールドを合わせた複合シールドであり、純粋なエネルギーだけでなく空間波系兵器への防御性能も持つ。
約2000分の1秒ごとに更新されており、1度にシールドを破れるほどのエネルギーを与えないといけない。
・レーダー
空間量子波を使用した、広域における量子状態をリアルタイム知覚するタイプ。このため、砲撃に必要な各種修正データも割と簡単に手に入る。
レーダー半径は広く、要塞艦となると1億kmを超えるものもある。