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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第2章
28/85

第6話

 

 新王国歴7267年8月2日




「これは、何というか……」

『もどかしいわね……貴方はどう見る?』

「そう言われてもな……」


 星系外縁部から戦場へ、潜宙艦を送り込むことには成功した。というか、双方共に互いしか見ていないようで簡単だった。

 それよりも……


「1時間も戦い続けて、まだ決着がつかないなんて考えもしなかった」

『遅すぎるわね。やる気がないというか……』

「いや……もしかしたらドクトリンが違うのかもしれない。一概には言えないか」

『そうだけど……』

「それにこれが正しいなら、あいつらが不利な時でもワープしない理由が分かったな」

「え?」

『それは……ああ、確かにそうね』

「……どうして?」

「逃げなかったんじゃない。逃げられなかったんだ。どうやら、俺達みたいな思考加速装置を帝国は持っていないらしい」

『持ってたら、逃げるそぶりくらいはもうちょっと上手く見せそうなものよね』


 高速戦闘には反応できているが……無人だからだろうな。重要な指揮だけはジュベールどもがしている弊害か。


「ポーラ、双方の数はどうだ?」

「現在、帝国艦隊は2億2000万隻、不明艦隊は1億7000万隻です」

『開戦時は確か……』

『複数のレーダー情報の統合だけど……帝国艦隊が約3億、不明艦隊が約2億』

「今のところ、不明艦隊が優勢か。ただ……」

「機動要塞の残骸は確認されていません。破壊できていないものと思われます」

『戦いにくそうね。砲撃は強いみたいだけど』

「あいつらには、あのシールドの突破は難しい……だが、これなら使えるか?」

『決断するには早いわ。機動要塞を落とせるかどうかね』


 確かに、それを全て俺達任せにされたら面倒だな。

 ……それだと、囮程度にしか使えないか。


「不明艦隊に動きがあります。一部の艦艇と機動兵器が艦隊から分離しています」

『数は?』

『艦艇が1500万、機動兵器は2億』

「進路は分かるか?」

「それはまだ分かりません。ですが、帝国艦隊へ向かっている模様です」

『機動要塞へ向かってくれるなら、良いデータ取りになるんだけど……』

「どうだろうな。帝国艦隊を混乱させるためだけに行動させる可能性もある」

「そんなことやるの?」

「それはねー、帝国艦隊の後ろに行くとかだねー」

『進路予想。帝国艦隊の後ろの機動要塞へ向かうのが29%、少し外のこの艦隊へ向かうのが24%、大きく回ってこっちの艦隊へ行くのが12%。残り35%』

『低い精度ね』

「推進機関が分かってないからな。空間機動に近い動きだが……違うんだよな?」

「はい、半亜空間奔流がほとんど確認されていません。代わりに空間波を含む空間の歪みが見つかっているので、その類いのものではないかと考えられます」

「今、ラグニルが解析中ですね。難しいようですが……」

『いくらラグニルでも、簡単にはできないわ。データが少なすぎるもの』

「どっちにしろ、待つしかないな」


 不明艦隊の行動でも、ラグニルの解析でも、だ。

 それにしても、戦闘に変化が無さすぎる。


『暇ね』

「移動が長いからな。何でワープを使わない……いや、使えないのか?」

「そうかもしれませんね。帝国軍のワープは前準備が必要なものですし、不明艦隊も可能性はありますから」

「……機動兵器は?」

「そっちも全然動いてないよ。できないのかな?」

『かもしれないわね。でも、油断は禁物よ』

「ああ。それで……不明艦隊に関して、情報を整理するか。ポーラ、頼む」

「はい」


 この1時間で収集できた情報、それをまとめたものが出る。

 まず楕円に近い丸みを帯びた艦体が複数、各人のモニターに映し出された。


「不明艦隊……名前は安直に付けただけですが、確認された艦艇は8種類、300m級駆逐艦、650m級駆逐艦、1100m級巡洋艦、1500m級巡洋艦、2500m級戦艦、3000m級空母、3500m級戦艦、4000m級空母です。潜宙艦は帝国艦隊のものしか確認されていませんが、不明艦隊が対潜攻撃をしたことは確認されています」

「……ソナーは、あるみたい」

「機動兵器の方は持ってるかまだ分かんないよ」

「また、機動要塞に相当する艦艇は存在しません」


 帝国軍が200m級駆逐艦、500m級巡洋艦、750m級巡洋艦、1000m級戦艦、1500m級空母、2000m級戦艦、2500m級空母・250m級潜宙艦・500m級潜宙艦の9種類だから、だいたい1.5〜2倍の大きさだな。

 機動要塞に相当する艦艇が無いのは……割に合わないとかか?開発できていない可能性もあるか。


「機動兵器は紡錘形、全長は15mと50mの2種類があります」

『ミサイルと……よく分からない粒子を放つみたいね』

「前以外には撃てないみたいだよ」

「航空機形態の飛行型機動兵器と同じだな。可変機構は無しか」

「はい。発艦、着艦の時も変形は確認できていません」

「中破の機体がそのまま着艦してたりしたから、多分できないんじゃないかな?」


 変形機構があるのに、その状況で変形しないのは変だからな。数は多いから、全部故障なんてことはありえない。


「また機動兵器、艦艇ともに、有人か無人かの判別はできていません。ですが、機動要塞のように膨大な通信を行う艦が無いため、有人ではないかと考えられます」

『あれ全部だと……ヘルガ、何人必要?』

『元が2億隻、1隻平均500人とすると1000億人。確認できた機動兵器は300億機、10人に1機とすると3000億人』

「どっちにしろ、凄い数だな。2ヶ統合艦隊と同じ艦数だから当たり前か」

『こんな数を普通に運用できるなんて、どんな国なのよ』

「あの帝国が警戒する相手だ。余程大きいんだろう」


 国力だけなら帝国と同等、もしくは少し低い程度なはずだ。

 そうじゃなかったら物量で押し切られる。3000年前の王国のように。


「……ガイル、これ」

「ん?これは……?」

「……ここだけ、少し違う形……何かある?」

「他の艦にもあるな……空母以外か」


 シェーンが開いていた画面には、不明艦隊から分派した艦隊の艦艇、空母以外の全てにかなり巨大な穴らしきものがあった。蓋をされていて気付かなかったが、砲門とは違う形をしている。

 潜宙艦からソナーを集中照射、解析して見付けたらしい。


「どうしたの?」

「これを見れば分かる。ポーラ、もう少し詳しいのはあるか?」

「え?あ、はい。現在精査中のようです」

「途中でも良い。出してくれ」

「分かりました」


 他にも何人か同じことをやっているようで、様々な場所のデータがあった。

 どうやら、この穴は不明艦隊の艦艇全てにあるものらしい。


『これって……?ヘルガ』

『やっておく』

「これ、何かな?」

「何かの兵器、でしょうか?」

「まだ分からない。だが……」

『だが?』

「いや、まとまらないな。すまない」

「……そう」

「先生、精査が終わりました」

『こっちも出た』


 限定的だがステルス装置に相当する何かがあるのか、得られる情報は少ないようだ。それでも対象の数は多いから、重ね合わせで結果を導き出したらしい。

 そうやって2人が出した結果は同じもので……


「これは……」

『ミサイル?』

「はい。全長120m、直径20m、大型対艦ミサイルより一回り大きいです」

『ただ、炸薬の物の反応は少ない。10発分くらい。変な装置はあるけど』

「変な装置って?」

『これ。使い道がよく分からない』

「エネルギー伝導ケーブルのようなものの張り方から見ると、内部にはジェネレーターがあるようです。それだけの出力が必要ということですが……」

「詳しいことは不明か。分かった、ありがとな」


 分からないのは仕方がない。まだ情報が少ないからな。

 そんな風に話している間に、だいぶ時間が経っていたようだ。


『分派艦隊の進路。機動要塞が76%』

「決まったか」

『まだ低いけど』

「ですが、他の可能性は軍事的な意味合いの低い手です。そこも加味すれば、ほぼ100%だと思われます」

『そんな感じね。アレの使い道が分かると良いんだけど』

「あれだけデカいなら、対機動要塞の可能性が1番高い。期待して待つ意味はあると思うぞ」


 あれが有効なものなら、俺達で改造して量産するのも良い。

 結果次第でしかないが。


「帝国艦隊機動要塞、不明艦隊分派艦隊への砲撃を開始します」

『分派艦隊が大型のミサイルを一斉発射。砲撃も開始』

「早いな」

『帝国軍の迎撃能力は低いけど、あの数だと無謀よ』


 確かに、離れすぎている。着弾まで20分はかかるだろう。

 だが自分から仕掛けておいて、無意味なことをしたりはしないはずだ。


「帝国軍の迎撃は直撃していますが、効いていません」

『表面にシールドを確認。まだまだ防げる感じ』

「大型対艦ミサイルと同じなんだね」

『でも、それだけとは考えにくいわ』

「ああ。誘爆を見る限り、炸薬が少なすぎる。他に1つか2つはあるはずだ」

「そうですね。問題はそれが何なのかですけど……」

「機動要塞の主砲が直撃、6発が爆発しました」


 距離が離れているとはいえ、主砲には耐えられないか。また不明艦隊のシールドは帝国軍と同じチャージ式のようで、対空砲でも大量に当たり続けると貫かれてしまう。

 着実に数は減っているが……ミサイルはまだまだ大量にあった。


「残りは?」

「78%です。現在の迎撃効率は1分あたり3.1%になります」

『今のペースなら、最低30%は残る』

『観測はできそうね』

「そうだな」


 着弾すれば、有用かどうかは分かる。

 だから俺達はもうしばらく待ち……


「着弾まで、5、4、3、2、1……」

『え?』

「何だ?これは……すり抜けたのか?」

『そう見えたわ……ヘルガ、どう?』

『その通り。シールドを透過した。それとあのミサイル、シールドの発生器を狙ってる』

「直撃した機動要塞の78%でシールドの大幅な低下を確認しました。3隻では完全に消失しています」

『貴方、良いわね?』

「ああ。第1戦略艦隊、第4戦略艦隊、全艦戦闘準備」


 有用と判断したから、介入する。時間をかける必要はない。


「帝国艦隊の上下、至近交戦距離に亜空間ワープを行う。上が第1、下が第4だ」

『了解。キュエル、艦隊全艦に通達を。ヘルガは亜空間ワープの座標を出して』

『はい』

『了解』

「メルナ、ポーラ、良いな?」

「もちろんですよ」

「大丈夫です」


 初めから戦闘準備態勢に就かせていたから、最初から各種データを取っていたから、準備はすぐに終わる。


「艦隊全艦、用意良いよー」

「揚陸部隊、できたぜ」

「航空部隊も大丈夫だよ」

「……アーマーディレスト、問題なし」

『第4戦略艦隊、戦闘準備完了よ』

「よし。全艦戦闘態勢、亜空間ワープ開始」


 そしてワームホールを抜ければ、あとは牙を閉じるだけだ。


「全艦、一斉攻撃開始。航空部隊全機発進」

『全砲門斉射。ミサイルも山ほど撃って良いわよ』


 至近距離(1万km)、そう言い切れる位置に艦隊を出現させ、帝国艦隊を上下から挟み込む。そして重力子砲(主砲)重粒子砲(副砲)陽電子砲(両用砲)、ミサイルが雨あられと降り注ぎ、飛行型機動兵器が矢のように突き進む。

 異次元では潜宙艦隊が帝国艦隊の潜宙艦へミサイル飽和攻撃を行い、余力で通常空間へも魚雷を放っている。

 不明艦隊との拮抗が夢幻(ゆめまぼろし)となったかのような蹂躙劇が始まった。


「航空部隊全機発艦。先頭部隊は既に攻撃を開始しています」

「反応の低下した領域を確認。敵旗艦を複数撃沈した模様」

「そこは今は無視しろ。機動要塞を重点的に狙え」

「敵艦隊、23%を撃破」

「損耗率0.4%」


 正面からやり合えば辛い数だが、奇襲で包囲できたからどうとでもできる。

 火力は俺達が圧倒しているからな。


「敵艦隊、半数の艦艇が反応低下」

「敵機動要塞、撃破率46%」

「撃って撃ってー。撃ち続けてー」

「ここからこう行って……一斉攻撃!」

「リーリア、この3つのエリアに集中砲火を頼む。旗艦がいる可能性が高い」

『ええ、良いわよ。代わりにそこの4つはお願いね』


 もちろん、反対側の味方に当たるような愚は犯さない。多少射角に制限が出るがそれはいつものこと、問題なく目標は分配されている。


「敵艦隊全艦の反応低下を確認。全ての旗艦を撃破した模様」

「敵艦隊撃破率79%」

「敵機動兵器、残存4億6000万機」

「殲滅しろ」

「了解」


 そして旗艦が全滅すれば、後は作業になる。ここまでにかかった時間は、現実に直して30秒程度。不明艦隊からしたら今までの苦労が嘘のようだろう。

 だが、本番はここからだ。


「敵艦隊の殲滅を完了しました。こちらの損耗率は2.4%です」

「戦闘態勢解除。戦闘準備態勢のまま待機だ。ステルス装置は可視光のみ解除。損傷の修理と損失の補填を進めろ。各砲はロックオンはせず、稼働状態を維持」


 交渉になるか、戦闘になるか、それはまだ分からない。

 だが、備えて困ることは無い。


「さて、どう出てくるか……」

『難しいわね。私達のことを少しくらい知っていてくれれば楽なんだけど……』

「そこも分からないな。メルナ、どう思う?」

「私も同じですよ。2人の推察通りの相手なら、対話はできると思いますけど」

『問題がそこなのよね……』

「先生、不明艦隊より空間波通信が入っています。約1800年前に帝国軍が使用していたコードです」

「1800年前……コード0213-0131か?」

「はい、解読したそのままです」


 暗号強度が弱いくせに、すぐに対応されて使われなくなったやつか。


「分かった。隔離領域を作って、そこからこっちに回してくれ」

「了解です」


 つまり、王国の情報をある程度知っているんだな。いや……帝国側から知った可能性もあるか。

 だがそれは、今考えることじゃない。


「繋がります」


 そうしてシュミルの画面に映った顔は……虫?バーティア……いや、蝶か?昆虫から進化したらしい人型種族だ。

 昆虫系にしてはデフォルメされた顔で、結構可愛らしい。アニメや映画の見すぎかもしれないが。


『ようやく繋がりましたね。バーディスランド王国の方々で合っていますか?』


 王国の言語を話せる、翻訳装置があるってことは、詳しく知っているのかもな。ルートはどこからか……帝国から情報を引き抜いたか?

 もしくは、帝国に連れていかれた同胞(王国人)から知ったという可能性もある。


「ああ、合ってるぞ」

『名前を聞いても?』

「バーディスランド王国軍第1戦略艦隊司令長官、ガイル-シュルトハイン。階級は元帥だ」

『失礼しました、シュルトハイン元帥閣下。私はザーハロッパ連邦軍第1軍シルベルディ銀河派遣艦隊第3先遣隊司令官のアルスデルト-ハイデン少将です』

「では、ハイデン少将。貴官の目的を教えてくれ」

『第1に、シルベルディ銀河へ進出したフィルド帝国軍の状況調査。第2に、フィルド帝国軍の大規模な部隊を確認した際の撃滅。そして第3に、バーディスランド王国の捜索。この3つになります』

「俺達の優先度は3番目と?」

『それはバーディスランド王国星系の正確な場所が分かっていなかったためです。決して、バーディスランド王国を軽視しているわけではありません』

「分かった。納得しよう」

『ありがとうございます』

「それで、貴官らは何を求める?」

『私達は何も』

「何故だ?」

『私達は軍人であり、外交は外交官の仕事です。職務外のことは行いません』

「それで?」

『ですので、外交官を乗せた派遣艦隊本隊が来るのを待っていただきたいのです。長くはかかりません』

「そうか……分かった、待とう」

『ありがとうございます』

「ただし、先に貴国の情報が欲しい。それと翻訳データもだ」

『その程度でしたら、私の権限でもお送りできます』

「では、ここに送っておいてくれ」

『了解しました』


 礼儀正しい相手だな。彼女(恐らく)くらいなら、交渉相手としても妥当なところだろう。

 とはいえ……


「ポーラ、ファイアウォール全展開、アンチウイルスプログラム全起動」

「了解です。全防護プログラム、起動します」


 油断はしない。

 だが、罠の類いは一切無かったようで、プログラムは一切作動せずにデータが届いた。


「さて、どんな所だ?」

『貴方、こっちにも送ってくれる?』

「良いぞ……まあ、最初はこれだけか」

「……少ない」

『まだ交渉すら始まっていない相手に送ったデータとしては多い方だと思うわ。長所だけじゃなくて欠点も分かるもの』

「解析した結果だけどな」

『それで良いじゃない』


 問題はその交渉だな。上手くいかせないと……












・バーティア

 バーディスランド王国(シュルトヘインズ)に住む蝶のような昆虫のこと。蝶から分かれた種とされていて、数は非常に少ない。

 蝶は、3対6本の足、2対4枚の翅、1対の複眼と単眼を持っている。それに対しバーティアは、2対4本の足、3対6枚の翅、2対の複眼を持つ。

 そしてバーティアは非常に美しく、幻想的で、バーティアが数百匹住んでいる森はこの世のものとは思えない光景を見せる。

 神話においては神鳥に次ぐ神聖な地位を誇っており、王や人々を導く役目を持つ。

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