第5話
新王国歴7267年8月2日
「面倒な……」
「基地と言うより、要塞ね。艦の数も多いし……」
「普通にやったら厳しいな。先行偵察の結果は?」
「もう少しで纏まるわ。ヘルガ待ちよ」
「そうか」
この2ヶ月と少しの間、ファルトス銀河中で帝国軍の反応を確認、各戦略艦隊による迎撃・殲滅が続いていた。
父さんはこの任務に7ヶ戦略艦隊を投入、さらに帝国軍への独断での攻撃も許可した。
2ヶ戦略艦隊はアルストバーン星系から1万光年までしか動けないが、残りの5ヶ戦略艦隊はファルトス銀河内を自由に動くことができる。それぞれが効率的に動き、戦闘を行った結果……約2ヶ月間に総計で50億近い帝国軍艦艇を沈めることができた。
そして海軍も回廊から出て数十光年内を哨戒をするようになったし、陸軍がアルストバーン星系に複数の基地を造ったことで防衛能力は上がっている。
「来たな」
「できた」
「待ってたわ。数はどう?」
ただ、全ての帝国艦隊をすぐさま殲滅できたわけじゃない。レーダーが無い星系だと反応が遅れて、艦隊規模での補給が可能な仮設基地を造られたことも何度かあった。
そして、仮設の段階で潰せなかった場所も当然出てくる。
「数だけなら10億。警戒に動いてるのは5000万から7000万」
「それでも多いな。範囲は?」
「衛星軌道が中心。時々外にも出るけど、小惑星帯より外には出ない」
「なるほど……」
だから今、俺は第1だけじゃなく、第4も率いて帝国軍基地への攻撃に取り掛かるところだ。
とある星系にある、生命体のいない比較的小型な岩石惑星に造られたその基地は、膨大な数の帝国軍艦艇を収容している。
帝国艦隊との艦艇数比は初期の戦いより悪いが、まあこれくらいなら大丈夫だろう。正面からだと難しいのなら、裏手を使えば良い。
それにしても、この基地は規模がデカい。もしかしたら、わりと初期のうちに建造が始まっていたのかもしれない。
「さて、作戦だが……リーリア、エースを全員出せるか?」
「ええ、大丈夫よ」
「先生?」
「リーリア?」
「真正面から戦う必要は無いからな」
「当然ね」
使っている部屋は以前と同じ第1戦術会議室、集まっているメンバーは4人だけ。司令長官と総参謀長なのは、ほとんど決まりみたいなものだ。
それで、具体的には……
「編成は、そうだな。ステルス装置を最大出力で使うとして……攻撃機以下か」
「航路は、そうね……この247通りが候補になるわよ」
「使うとして、最大で60通りだな。それ以上だと、確実に警戒網に引っかかる」
「なら、この46通りはどう?」
「それとこの3つを加える。タイミングもズラしつつ、だな」
「そうね。波状攻撃を3波に分けて、一気に基地を叩きましょう」
「その後は戦艦を亜空間ワープさせれば終わりだ」
「そんなに上手くいくと思う?」
「上手くいかせる。それだけだ」
「それでこそ貴方ね」
さてと、じゃあこのまま……
「あの、先生?何が……?」
「リーリア、ガイル、よく分からない。説明して」
「あ……すまない」
「今からするわ」
ここまで意思疎通できるのはリーリアだけなのだから、当然か。
「作戦の説明なら他の参謀長も……副司令もいた方がいいか?」
「そうね。呼びましょう」
というわけで、4×2の8人が来るのを待つ。
引き継ぎなどで多少の時間はかかるはずだが、すぐに全員やってきた。
「お待たせてしまいましたね」
「呼んだー?」
「おう、来たぜ」
「お兄ちゃん、決まったの?」
「司令、お待たせしました」
「ガッハッハ。懐かしいなぁ、ここもよぉ!」
「うるさいからやめてよ。迷惑だから」
「そうだねぇ。あんたはいっつもうるさいからねぇ」
先に来たのが第1戦略艦隊の面々、後に来たのが第4戦略艦隊の面々。順に、副司令のキュエル-ハルバーディン、艦隊参謀長のオルト-シュヴァルツ、航空参謀長のライ-アルスタン=ファンデレント、揚陸参謀長のテュエ-フロスティ。
同じ秘匿要塞で戦った仲間達だ。
「相変わらず暑苦しいな、オルト」
「おう、そうか?いつも通りだぞ、ガッハッハ」
「リーリア、いつも大変だな」
「ライとテュエがいてくれるから、まだマシよ」
「そうか。なら良かった」
「よくないねぇ、あたし達への負担が大きすぎるんじゃないかい?」
「だとしても、メリーアと交換する気はないぞ」
「えー?そんな風に言われてもー」
「むさ苦しいのはお断りだ」
「だよねー……」
そんなお約束のやりとりも終え、ヘルガに再度説明してもらう。
そして……
「さて、状況は説明の通りだ。そして、俺達が取る作戦は……これだ」
「そうするんですね」
「え、これ本当?」
「ガッハッハ、良いじゃねえか!」
「これなら僕達か……」
映し出したのは、基地となった惑星へと続く、敵警戒ラインの隙をついた49通りの道。そこが今回の攻撃経路になる。
「飛行型機動兵器での奇襲、それがこの作戦のメインね」
「潜宙艦隊もある程度使うけどな。航空部隊はステルス装置を最大出力にして、限界ギリギリまで接近する。その後亜空間ワープで惑星直上まで移動、そして一斉攻撃だ」
「警戒の艦隊と基地のドック入り口を破壊したら残りの全艦を投入、惑星表面ごと消し飛ばすわ」
「原始惑星に戻したら作戦終了だ。両艦隊とも規定の行動に戻る。質問は?」
確認できた生命体はシュベールどもだけ。微生物はいるかもしれないが、気にする必要はない。
「この計画だと、機動兵器が1000万kmを超えちゃうけど?」
「ん?……ああすまない、書いてなかったな。航空部隊と同時に艦隊は惑星から300万kmの位置に亜空間ワープをする。そこは問題ない」
「ならいっか」
「数はどうしますか?」
「エースを全員出しただけだと少ないから……だいたい5億機ずつね」
「分かりました。選出しておきます」
「こっちもやる」
「お願いね」
「注意点とかってある?」
「出てくる前に潰せ」
「はーい」
「あたし達は何もやることが無いねぇ」
「だな。また暇だ」
「お前達は雑用係だ」
「サボるのは良くないわ」
実際、演習みたいな無茶をしない限り、揚陸部隊は暇なんだよな。
まあ、取り除くことなんてできないんだが。
「作戦開始は約1時間後、13:30だ。航空部隊パイロットの選出は13:10までに済ませておいてくれ。できるか?」
「はい」
「当然」
「大丈夫だよ」
「もちろん」
「では、皆の健闘を期待する。解散」
さて、どこまで順調に行かせられるか……いや、順調にするのが俺の役目だな。
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「奇襲航空部隊全飛行型機動兵器、作戦配置につきました」
「全艦、亜空間ワープ準備完了」
「飛行型機動兵器用亜空間ワープ、現在演算中」
「偵察の潜宙艦からのデータ受信良好。座標精度、99.999%以上」
「潜宙艦隊攻撃部隊、配置につきました」
「重力値計測。推定より誤差修正、平均-0.00013%」
「演算終了まで残り23%」
そして作戦開始から約5時間後、今が最も重要な時だ。
飛行型機動兵器が待機している惑星まで50万kmの位置から地表1000kmの地点へ跳ぶワームホールを、第1戦略艦隊旗艦と第4戦略艦隊旗艦の量子コンピューターも使って素早く開く。
重力偏差の問題などは演算力のゴリ押しで解決していく。
「先生、演算終了しました」
『こっちも準備完了よ』
「それじゃあ……攻撃開始」
そして、一斉に亜空間ワープを開始した。同時に仮想空間も展開し、全ての武装にエネルギーを充填させる。
後は敵の対応次第だが……時間はかかったが偵察はバレていないから、奇襲できるだろう。
「第1、第4、全艦亜空間ワープ完了」
「奇襲航空部隊亜空間ワープ完了。座標誤差は許容範囲内」
「奇襲航空部隊、攻撃開始。第1陣、全機対艦ミサイル発射」
「第2陣、第3陣も続きます」
「敵、迎撃部隊を展開。第1陣の一部が交戦を開始」
「潜宙艦隊攻撃部隊、敵潜宙艦隊との戦闘を開始。一部は惑星への魚雷攻撃を敢行中」
「第1陣対艦ミサイル被迎撃率、14.3%」
「第2陣、全機対艦ミサイル発射」
「敵基地より艦隊発進。数、現在約12万」
「奇襲航空部隊第1陣、損耗率0.1%」
「第3陣、全機対艦ミサイル発射」
「第2陣対艦ミサイル被迎撃率、7.9%」
「敵潜宙艦隊の20%を撃沈。潜宙艦隊攻撃部隊の損耗率は0.05%以下」
「第1陣、対艦ミサイルを再度全機発射」
「第1陣対艦ミサイル、着弾」
その報告と同時に、惑星上に見えていた各種ドックの出入り口や機動兵器発進口が吹き飛んでいく。
地上にあった施設を軒並み消しとばす。
装甲とシールドを引きちぎり、内部を蹂躙する。
周囲の地面は多くがマグマへと戻り、それすら介さずプラズマ化したものも多い。
第2陣、第3陣の対艦ミサイルが着弾するにつれて、破壊の跡は加速度的に増えていく。
だが、まだ足りない。
「ここまでは予定通りだな」
『そうね。でも、何が起こるか分からないわよ?』
「分かってる。外縁の警戒部隊にも注意は促してある」
またこれと同時に、艦隊からの砲撃も行なっている。主に敵警戒艦隊へ向けたものだが、一部は敵基地へも向けられている。
まあ、着弾にはまだまだ時間がかかるけどな。
「敵基地上部施設、推定破壊率14%を突破」
「敵警戒艦隊01隊、18%を撃沈」
「敵機動兵器、出現数と撃墜数が釣り合います。現在総数12億」
「敵警戒艦隊02隊、03隊へ初弾着弾、2.4%を撃墜。第2弾、第3弾続きます」
「惑星の影にいる警戒艦隊に動きあり。ワープ準備を確認。惑星上空へワープする模様」
「潜宙艦隊、敵潜宙艦隊を発見。攻撃開始」
「奇襲航空部隊損耗率、0.3%」
状況は非常に有利、このまま行けば完勝できるだろう。
だが……
「方位-592.71,341.59、60万kmの地点に空間の歪みが発生しました!何かがワープしてきます!」
『貴方』
「敵の増援だ。第4と奇襲航空部隊はそのまま攻撃を続けろ。新手は俺達が対処する」
『ええ、任せるわ』
「任された。全艦艦隊陣形変更、敵増援艦隊へ向け、天型砲撃方陣を敷け」
やっぱり別の星系にいたか。俺は艦隊陣形の変更を指示し、新たな敵艦隊へと相対させる。
第4は既に惑星上空まで亜空間ワープをして、一斉砲撃を実施中だ。どれだけの数がいたとしても、向こうへ行かせるわけにはいかない。
「敵増援艦隊、総数6000万隻、機動要塞数は130プラスマイナス15」
「先手必勝だ。全艦全砲門開け、砲撃開始。航空部隊全機発艦」
だからこそ、正面から迎え撃つ。
航空部隊は5億機ほど少なく、潜宙艦隊も過半数が近くにいないが、主力の艦艇は全て手元にいる。蹴散らすには十分だ。
「素早く仕留める。航空部隊は爆撃機と重爆撃機を中心に12億機の集団を編成。それと、フリゲート、戦艦、大型戦艦を中心とした60万隻の艦隊を編成しろ。第1〜第15戦術艦隊から選べよ」
「どうするんですか?」
「3つに分け、タイミングを合わせて亜空間ワープで強襲させる。砲撃が着弾し始めた後だ」
「はーい。選んでおくね」
「まっかせといてー」
「頼む」
着弾までそう時間があるわけじゃないが、これくらいならすぐに終わる。
それより……
「ポーラ、敵基地攻撃はどうなっている?」
「敵基地上部施設の破壊率は推定41%、下部施設は推定19%です。警戒部隊の撃沈率は22%、機動兵器は撃墜数が上回り、現在は総数11億3000万機です」
「そうか。なら、こっちがしっかりやらないとな」
「はい」
仕事の総量は俺達の方が少ない。
さっさと終わらせて向こうに行かないと、リーリアに笑われるな。
「陽電子砲初弾命中まで、5、4、3、2……着弾」
「初弾命中率、89%」
「重粒子砲命中率、87%」
「そんなものか……まあ良い。レイ、メリーア、準備はできたか?」
「うん、大丈夫だよ」
「行くー?」
「ああ。強襲攻撃部隊、亜空間ワープ開始」
「りょうかーい」
「行っちゃって!」
合図とともに、選抜された機動兵器・艦艇が亜空間ワープを始める。
「強襲攻撃部隊、亜空間ワープ完了」
「全艦全機、全システムオンライン」
「異常、認められず」
「攻撃開始だ」
「攻撃、開始します」
「各艦、砲撃開始。ミサイルも順次発射」
「航空部隊、ミサイル一斉射」
そして、敵艦隊の側面3ヶ所に強襲攻撃部隊は出現、一斉攻撃を開始した。その勢いは凄まじく、こちらに触れた敵艦隊の半数は壊滅状態となっている。
特に、フリゲートの大型対艦ミサイルと大型戦艦の各種大口径砲は、敵艦艇を塵芥のように吹き飛ばしていた。
フリゲートの方は多少被害も出ているが、大型戦艦は圧倒的だ。機動要塞の砲撃をくらっても、数発程度ではビクともしない。
まあ元々、帝国軍は正面から数で押すタイプだからな。火力で負けて包囲されると弱い。その上、機動要塞は要塞艦からの砲撃でボロボロになっている。
優勢なのは当然だ。
「第1強襲攻撃部隊、ミサイル連続斉射開始」
「第2強襲攻撃部隊、機動兵器損耗率1.4%」
「第2を少し第1に寄せろ。逃げられたら厄介だぞ」
「第3強襲攻撃部隊、敵艦隊の13%を撃破」
「第3は艦艇を下げて機動兵器を前に出せ。というか部隊が広がりすぎだ」
「敵艦隊撃破率、35%を突破。強襲攻撃部隊の損耗率は1.7%」
「これくらいか」
特に手強い部隊ではないから、すぐに終わる。それじゃあ、引導を渡すとしよう。
「トドメだ。第16から第20戦術艦隊は敵艦隊後方に亜空間ワープをしろ。自分達の砲撃に当たらないようにな」
「了解です。座標を設定します」
すぐに各戦術艦隊は亜空間ワープを行い、敵艦隊の包囲が完了する。
「殲滅しろ」
多少の隙間があるとはいえ、ほぼ全方位からの攻撃。避けれるものなら避けてみろ。
「第16から第20戦術艦隊、攻撃開始」
「強襲攻撃部隊と共にミサイル一斉射」
「敵艦隊撃破率、52%」
「こちらの損耗率が1.5%を超えました」
「近づいた分、向こうの攻撃精度が上がったか。失敗したな」
「いえ、この程度であれば、こちらがより有利です。問題ありません」
「確かに、数字はそうなってるか。あとは……」
「敵旗艦を撃沈した模様。敵艦隊全艦の反応低下を確認しました」
「掃討戦に移る。徹底的に沈めろ」
「了解!」
残りはただの作業だ。
アルゴリズムの変更のせいで多少面倒にはなったが、戦闘と呼べるレベルでは無いことは同じ。すぐに終わる。
「第4の加勢に行くぞ。全艦亜空間ワー……」
『その必要は無いわ』
「リーリア、終わったのか?」
『ええ、この通りよ』
少し遅かったか。
送られてきた映像を開いてみると……そこには、真っ赤に煮えたぎった惑星が写っている。
「派手にやったな」
『予定通りよ?』
「まあ確かに。それで、敵は?」
『警戒艦隊の6000万隻と、追加で出てきた1億2000万隻、それと機動兵器60億機、逐次展開だったから全て落とせたわ。残りは出る前に溶けたみたいね』
「生き残りも無しか」
『ええ。完全に破壊する前に、基地の主要部らしき所が自爆したわ』
「徹底してるな。相変わらず面倒だ」
『本当、1つくらい残っていて欲しいわね』
まあ、気持ちは分かる。だが、今まで見つからなかったものがそう簡単に手に入るとは思えないぞ。
そして俺達は艦隊の集合や修理工程の指示などを行いつつも、次の準備をしていく。
「まあ、それを言うのはデブリの中を探してからでも遅くはない。そんなに不貞腐れるな」
『そうね……ヘルガ、任せるわ』
『分かった』
「メルナも、頼めるか?」
「はい。それくらいなら大丈夫ですよ」
「あれ?これって……先生!」
「ポーラ?どうしたんだ、そんなに慌てて」
「その……また新たな帝国軍艦隊が見つかりました」
『それくらい、最近は普通でしょ?』
「ですがこれは、普通ではありません……」
「普通じゃない?」
どういうことだ?
「はい。レーダーに映った帝国軍は戦闘を行なっています」
『宇宙まで出れる知的生命体のいる星を襲ったのね』
「まあ、すぐに帝国軍が押し切るだろうな。帝国軍に勝てる文明は他に確認されていない」
「いえ、違います……戦況は互角です」
「『⁉』」
それは……まさか⁉
「リーリア!」
『貴方、良いわね?』
「ああ。第1戦略艦隊、すぐに出撃する。アーマーディレストは艦艇をすぐに収容、亜空間ワープ用意。目標星系外縁部に出る」
『第4も一緒よ。すぐに動きなさい!』
この状況だったら、デブリの回収は後回しだ。他の戦略艦隊にでもやってもらうとしよう。
それよりも……
「間に合うと思うか?」
『間に合わせるわ。結構近いもの』
「そうだな。あとはその帝国の敵がどんな連中かだが……」
『そこは祈るしかないわね』
「先生、終わりました」
「……収容、終わり」
「リーリア、先に行くぞ」
『こっちも終わったわ。行くわよ』
「ああ。亜空間ワープ開始」
対帝国戦で使える相手か、それとも皆殺しにするだけか……できれば情報だけでも欲しいな。




