表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/85

第1話

 

 新王国歴7267年5月22日




「走れ!止まるな!」

「でも……ガイル!」


 これは夢だ。


「行くんだ、早く!」

「でも!レイちゃんが!」


 何度も見た夢だ。あの日の、あの時の。


「レイに頼まれただろ!」

「っ⁉」

「レイは優しいんだ。俺達の方が頭はいい、レイだってそんなことは知ってた。だけど、レイは俺達の負担にならないよう、頑張ってたんだ!嫉妬しないで、いつまでもお兄ぃお姉ぇって……!」

「ガイル……」

「そして最後まで、レイは俺達を気遣ってたんだ……それを無駄にするな!リーリア!」

「うん……うん!」


 そうして幼い2人……俺とリーリアは崩壊する街を走った。右手には、軌道エレベーターが砕けて地上へ落ちていくのが見える。左手には、廃墟と化した街が見える。

 右の街?途中から廃墟を通り越して消滅してる。


「あと少し、あと少しで……」

「あ、ガイル!」

「……助かった」


 その後も俺達は瓦礫の山を抜け、何度も襲ってくる爆炎を避け、敵から身を隠しながら、なんとか海軍の基地にたどり着いた。

 そしてそこには……


「お父さん!」

「ガイルか!リーリアも!よく無事だったな。レイとお母さんはどこだ?」

「おじさん……それで、その……」

「……お父さん」

「ガイル?」

「その時は外にいて、お母さんは分からないけど……レイは死んだ」

「何だって?」

「目の前で、吹き飛ばされて……足が……」

「……そうか」


 そう言って震えている俺を、父さんは抱きしめる。


「辛かったろ、悔しかったろ」

「うん……」

「だが、もう大丈夫だ。ガイル、お前は生きている。だから、レイの分まで生きろ」

「……うん、お父さん……!」

「リーリアも、よく頑張ったな」

「ありがとう、おじさん……その、私……」

「泣けばいい。悲しいことを隠さなくていいんだ」

「うん、うん……!」


 父さんも辛かっただろうに、俺達のためにここまでしてくれた。体を震わせる俺と泣くリーリア、2人に生きる意思を与えてくれた。

 だからこそ俺は、いつまでも父さんを尊敬する。俺は、こんなに強くないのだから。


「艦長!もう収容できません!」

「分かった。ガイル、リーリア、乗るぞ」

「え、でも並んでなくて……」

「お父さんの部屋がある。そこに入ればいい」


 父さんは部下の人に命令して避難民を他の船へ誘導させ、俺達は艦長室へ入れられた。船の中心に近く、安全だと言って俺達を安心させようとしてたな。

 そして俺達を乗せた巡洋艦が、生まれた星から逃げるために飛び立つ。俺達は艦長室にある船外モニターを見ていたが、心ここに在らずといった状態だった。


「ガイル……」

「リーリア、そんな泣きそうな顔しちゃダメだ」

「でも、パパもママもいないのに……」

「おじさんもおばさんも絶対に逃げてくる。だから……あっ⁉」


 さらにそんな画面の中で、俺とリーリアの家のあった区間がミサイルで消し飛ぶのが見える。


「あそこって、そんな……お母さん……」

「パパ、ママ……」


 俺とリーリアはあの時、絶望の淵に立たされていた。それは自分達を狙うミサイルが画面に映っているにも関わらず、それを知覚できないほどだった。

 さらに嘲笑(あざわら)うかのように、迎撃はミサイルに当たらない。ようやく気づいた俺達だが、もう遅い。そして……


「ガイル……!」

「リーリア……!」











「はっ⁉……はぁ、はぁ、はぁ……」


 その瞬間に目が覚めた。ベッドから起き上がった体は汗だらけで、恐らく酷い顔をしているんだろう。誰もいなくてよかった。

 そんな時にシュミルが震え、リーリアから通信が来たことを知らされる……またか。


「おはよう、リーリア」

『おはよう……顔色が悪いわね、貴方』

「あの夢を見たんだ。仕方ないだろ」

『そう……私達の中で、1番うなされているのは貴方かもしれないわね』

「そうかもな。俺は、弱いから……それにしても、あの夢を見た日はほぼ確実にリーリアが通信してきてるな。誰かに見張らせてるのか?」

『まさか。そんなこと、する意味が無いわ』

「……まさか俺の行動が読めるからとか言わないよな?」

『当然よ?』

「……まあ、俺も分かるけど……」


 ただ、俺がリーリアを予想するよりリーリアが俺を予想する方が正確だ。

 戦術の読み合いなら俺の方がほんの少しだけ上なのに……


『それにしても、今日は特に酷い顔ね』

「そうか?今日はレイが死んだ所は見てないぞ」

『関係なさそうね』

「そうか……時折、自分の心が分からなくなるな」

『狂ったりしないでよ?』

「当たり前だ。リーリアを1人にするわけにはいかない」

『私だけじゃないでしょ、まったく……まあ、そんな貴方に朗報よ。ある意味では悲報なのかもしれないけど』

「朗報?」


 そしてこの日、朝一番に伝えられたのは……


『帝国軍を見つけたわ。それについて、戦略艦隊総会議を招集するわよ』


 俺達が長年待ち望んでいた報告だった。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「早いな」

「貴方こそ」


 戦略艦隊総会議。それは第1から第11までの11ヶ戦略艦隊司令長官と戦略艦隊総司令官の、合計12名により開かれる戦略艦隊の最高意思決定機関だ。若干例外はいるが……まあ実質的には、生体義鎧の動きを決める会議と言える。

 なお、これは全員が仮想空間に入って行う会議で、この議場は現実には存在しない。

 だからこそ、リーリアともこうして会うことができる。


「あれを聞いて待てるわけがない。リーリアも分かってるだろ?」

「私も早く決めたいわね」

「それで、あれに間違いは無いんだな?」

「ええ。私は寝ていたからその場に立ち会ってないけど、精度は100%よ」

「なら問題ない。問題なのは……」

「何故あの場所なのか、ね」

「そうだ。帝国を叩き出したのは500年前だが、帝国も王国の精強さは知ったはず……王国がいる限り、この近辺で帝国が支配権を取るのは不可能だ」


 最後の戦いでは全軍の力を出しきり、蹂躙したのだから。ボロボロにしたが逃してしまった艦もいるし、増援は壊滅させたから、よく分かっているだろう。

 分かっていなかったら……500年も経ってないか。


「何も考えずに再侵出してきたとは思えない。必ず王国に来るはずだ。可能性としては……王国攻略のための前哨基地、もしくは兵站確立のための補給基地、ってところだろうな」

「この星系はファルトス銀河の中でも辺境だから、ありえる話ね」

「ああ」

「それにしても、誕生日が終わってすぐなんて、貴方も大変ね」

「まったくだ」


 祝ってもらったのは昨日だぞ。

 保存庫にはシェーンの特大ケーキが残ってるってのに……それにしても、5人で食べて半分以上残るってのも中々だよな。美味いからいいんだが。


「2人とも早いな。まだ30分はあるぞ」

「父さん、俺達が遅れるわけにはいかないだろ?」

「当然よ、おじさん」

「まあ、それも当然だろう……リーリア、アレは間違いないんだろうな?」

「それは俺が確認済みだ。詳しいことは全員揃ってからなんだよな?」

「ええ。経緯はほとんど送った資料の中にあるけど」

「直接説明した方が楽だろ。資料を纏めるなんて……」

「それは貴方くらいよ。全然変わらないわね」

「そうだ。流石に任せすぎだぞ」

「そう言われてもなぁ……」


 書類仕事が苦手なのは変えようがないじゃないか。

 メルナに手伝ってもらってるんだから、最初の時ほど酷いのはないはず……って、それだよな。


「お早いですね、シュルトハイン上級元帥閣下、シュルトハイン元帥、メティスレイン元帥」

「そっちこそ。ミルティシュル元帥」

「久しぶりね」

「お久しぶりです、メティスレイン元帥。シュルトハイン元帥は20日ほど前にお会いしましたが」

「ただの通信だけどな。それはともかく、よく来てくれた」

「招集だぞ。それでガイル、一度席を外すがいいか?」

「まだ打ち合わせか何かが残ってたのか?こっちは任せてくれ、父さん」

「頼む」

「ではシュルトハイン上級元帥閣下、また後でお願いします」


 次に来たのは、第3戦略艦隊司令長官のアイリス-ミルティシュル元帥。975歳と若い世代だが、その的確かつ有機的な艦隊指揮能力を買われ、第1(俺達)がいない時の回廊の防衛を担っている。

 早く来たのも、王国の守りを強く意識しているからなのかもしれない。


「ちっ、負けたか」

「あ、やっぱりいた」

「お元気でしょうか?」


 そして、ほぼ同時に来た男1人と女2人は第2のファルス-ベークファウンドと第6のアンジュ-ラシェトレイ、第8のメグ-ユーンクリブ=フォルグシュバイク。それぞれ順に2469歳、1789歳、2889歳と、ラシェトレイ元帥以外は苦しい時期を共に戦って来た者達だ。

 ユーンクリブ元帥は特にな。


「遅かったな」

「あんた達が早すぎるんだっての。オレだって早めに来たってのに」

「そう言わないように、ベークファウンド元帥。両閣下、遅れてしまい申し訳ございません」

「ユーンクリブ元帥、そんなに畏まらなくてもいいわよ?私達は対等でしょう?」

「いえ、わたくしどもはあなた方に命を救われました。そのご恩を忘れることは一生ありません」

「リーリア、こいつは昔からこうだ。いちいち言っても変わらないぞ」

「そうね、貴方と同じだわ」

「おい、どういう意味だ」

「そのまんまだって」

「ラシェトレイ元帥、お前もか」


 リーリアは良い、いつも通りだ。

 だが他の連中まで同調するなんて……早く次の奴来い。


「失礼します」

「あ、久しぶりー」


 と、念が通じたようだ。

 タイミング良くやってきた男女は、第7のゴード-ティアマレスと第10のアルカ-フルブランジェ。2人とも1200歳前後の若年層で、戦闘経験は少なめだが才能は豊富だ。


「シュルトハイン元帥、遅くなりました」

「まだ時間はある。ティアマレス元帥、気にするな」

「ありがとうございます」

「もー、君は固すぎ」

「人それぞれよ、フルブランジェ元帥」

「さっきと同じような会話をしていないか?」

「アレは貴方のことよ」


 好き勝手言いやがって……覚えてろよ、次会ったら鳴かせてやる。

 と、ここでまたやって来た者達がいた。


「あっと、ごめんなさい」

「ただ今到着いたしました」


 最後……と言ってももう1人残ってるが、この2人の男女は第5のマール-レスティニア=アイリスディーンと第9のゲン-アッザーディア。共に1000歳に満たない若者だから遅れたのか、それとも俺達が早いだけか……俺達の方か。


「遅れちゃいました?」

「いいえ、まだ大丈夫よ、レスティニア元帥」

「その通りだ。だから……アッザーディア元帥、そんなに頭を下げるな」

「いえ、そうは参りません」

「これもまあ、変わらないわ」

「……流石にもう言わないぞ?」

「そう?残念ね」


 流石に3回目は無しだ。いくらなんでもな。

 ストッパーをかけないと、いつまで経っても話が終わらないだろ。


「遅くなってしまい申し訳ございません、皆様」

「時間まではまだまだある。それに父さんもいないから、大丈夫だ」


 そして、本当の意味で最後に来たのが、第11のゼクト-ティレシア=メーラスレイン元帥。第11戦略艦隊だけは生体義鎧ではない者達、陸海軍からの派遣員で構成されている。当然、司令長官の彼も年齢は2ケタだ。

 なお、彼は現役のメーラスレイン卿だったりする。


「む、もう集まっていたのか」

「父さん、遅いぞ」

「すまん。早めに戻ってきたつもりだったが……」

「急な招集だったのは確かなのよ。仕事が残っていても仕方ないわ」

「分かった分かった。それで父さん、時間にはなってないけど、始めていいか?」

「ああ、いいぞ」

「じゃあ、お前ら座れ」


 同時に俺は円卓を出し、会議の形を整えた。

 父さんを基準にして、右が俺で左がリーリア。そしてティレシア元帥が父さんの対面になるように、左右に4人ずつ振り分けられて円卓に座る。


「ではリーリア、始めてくれ」

「はい。送った資料に全て載せているけど、改めて説明するわ」


 そしてリーリアがシュミルに入れてあるデータを投影させ、戦略艦隊総会議が始まった。


「問題となった場所はここ。アルストバーン星系から約9000光年の位置にある星系よ。星系番号は0000000185067、知的生命体が第3惑星、仮称アクティムヘインズに住んでるわ。文明の程度は第2次世界大戦と第3次世界大戦の間くらいね」


 映した図には1つの恒星を中心に惑星が8つ、第4惑星と第5惑星の間に小惑星帯があり、第8惑星公転軌道以遠には多数の小惑星や彗星がある。そしてアクティムヘインズは……どうやら陸と海の割合が3対7らしい。随分と海が広いな。

 だが、問題はそこじゃない。


「それでこの星系……仮称アクティムバーン星系の調査を開始したところ、潜宙艦に似た反応がソナーに映ったのよ。そこで調査艦隊を増強、潜宙艦も多数投入して調べたら、第5惑星と第6惑星の衛星に紛れる位置に、帝国軍の軍艦を20隻ほど見つけたわ」


 拡大された映像には、確かに20隻近い軍艦が映っている。

 それらは特徴的な六角柱を組み合わせた形、間違いない。


「具体的には、どんな状況だったんです?」

「残念ながら、その時私は寝ていて確認していなかったのよ。発見の報告で起こされたけど、それ以前は副司令のキュエルがやっていたわ。だから、そのあたりは報告書を読んで頂戴」

「本隊は別にいたのか?」

「ええ。そして、これは偵察部隊に間違いないと考えて、まず半径25光年以内の星系の調査を始めたわ。そこで見つけたのが……これよ」


 図が2分割され、片方に映ったのはまた別の星系。

 そしてその中心近くに、あの連中がいる。


「これはアクティムバーン星系から約4.3光年の位置にある星系番号0000000185068、仮称ケンティスバーン三連星系。ここに、約1億隻の帝国軍艦隊を見つけたわ」

「攻める星に対して、随分と多いような……」

「対象がアクティムヘインズなら、確実に過剰戦力よ。むしろ、私達王国軍を警戒してるんだと思うわ」

「恐らく、その通りだろう。リーリア、他の星系に帝国艦はいなかったんだな?」

「ええ、貴方の言う通りよ。文明を持てるような知的生命体もいなかったわね」

「なら確定だ」


 王国を……もしかしたら未知の帝国敵対勢力かもしれないが、警戒しているのは間違いない。

 誘い出す意図は……なさそうだな。


「メティスレイン元帥、機動要塞はどれだけありましたか?」

「戦闘距離までは近づいてないから確実ではないけど……確認できただけで94、最大でも300だと思うわ」

「300ならー……1つで十分?」

「ですけど……」

「欺瞞だったりしませんか?」

「確かに、ありえるかも」

「罠かもしれないだろ?もう少し様子を見たって……」

「確かに。詳しく調べても……」

「いえ、もっと調べた方がいいと考えます。罠なら何かあるかと……」


 おいこら……


「お前ら、何言ってる?」

「ええそうね」

「ガイル、リーリア、落ち着け」


 ふざけたことを言ってるんじゃない。平和だったからって腑抜けたか?


「落ち着いてられるか。欺瞞だ?だとしても何かしらのヒントはある。罠?そんなもの見つけて破壊すればいい。それくらいの力、俺達だけでも自由に振るえる」

「この時のために私達がいるのよ。王国のために、王国の敵を倒すため、この力を得た。それは全員同じでしょ」

「だいたい、これが500年ぶりなんだぞ。それを様子見?ふざけるな。これを逃したらどれだけ待てばいい?明日とかならまだマシだ。500年か?1000年か?」


 これには……まあ、怨みも入ってる。だけど、逃せられないのは事実だ。


「父さん、第1(俺達)が行く。良いか?」

「まったく……ああ、行ってこい。総帥府への説明は任せろ」

第4(私達)もこのまま参加するわ。貴方、待ってるわよ?」

「任せておけ。ミルティシュル元帥、ユーンクリブ元帥」

「はい」

「何でしょうか?」

「アルストバーン星系は任せる。それと、そうだな……アッザーディア元帥」

「どういたしましたか?」

「お前達第9も来い。2ヶ艦隊でも殲滅はできるだろうが、逃す可能性もある。完全に殲滅したい」

「了解しました」


 3ヶ戦略艦隊なら……逃さないように陣を敷けるな。

 できれば生け捕りにして情報を……いや、自爆する可能性が高いか。


「派遣しない艦隊にもやることはある。ティアマレスは第7艦隊を率いて、アルストバーン星系から500光年以内に戻ってこい」

「了解です」

「他の艦隊はいつでも戦闘態勢に入れるよう待機だ。陸海軍との連携も忘れるな」

「もちろんだ」

「はい」

「了解」


 これを機に帝国が侵攻してくるのであれば、本格的な戦争になる。

 陸海軍との協力、防衛線の構築は今まで以上に重要だ。


「では行くぞ。全ては王国のために」

「「「「「「「「「「全ては王国のために」」」」」」」」」」

「え、あ、はい……」


 父さんの号令をキッカケとして、俺達11人は立ち上がって敬礼をする。

 ティレシア元帥は……そういえば彼が聞くのは初めてか。まあ、関係ない。


「ガイル、任せたぞ」

「もちろん、殲滅してやる。ただ、もしこっちに来たら任せることになるんだが……」

「そこは気にするな。存分に戦ってこい」

「貴方、指揮をお願いね」

「大丈夫だ。作戦はもう決めてある」

「それと、ご褒美は欲しい?」

「よし分かった。これが終わったら俺の部屋に来い。1日閉じ込めてやる」

「い、1日……楽しみにしてるわ」


 ……戻ったらちゃんとメルナ達に説明しないとな。大丈夫だろうけど。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「お帰りなさい」

「おかえり、お兄ちゃん」

「……お帰り」

「どうでしたか?先生」


 司令長官室にある専用端末を外すと、そこに4人がいた。

 総会議の内容はおろか、正確な実施時間すら公表してないはずなんだけどな……


「リーリアお姉ちゃんが教えてくれたよ」

「心を読むな。というかあいつか」

「はい。内容は教えてもらえませんでしたが、もうそろそろ終わるとリーリア先生が」

「まったく……」


 そのまま説得しろってことか?


「それで、どうだったんですか?」

「分かってるだろ?行くぞ」


 やっぱり、同じ結論に至ったらしい。それ以上追求が来ることは無く、4人は俺と一緒に艦橋までやって来た。


「あー、ガイル、どうだったー?」

「メリーア、分かってるだろ?」

「じゃあ……やっぱりー?」

「ああ」

「ちょ、おい、怖すぎんだろ」


 そうか?って、そう思ったのはハーヴェだけじゃないみたいだな。

 まあ、だとしたら多分……


「第1世代だからな」

「第1世代だからだねー」

「お、おう……」

「そんなことはどうでもいい。さて、と」


 今言ったって変わらない。

 それはそうと、俺は滅多に使わない艦隊・艦内放送のスイッチを入れた。


「艦隊全艦総員に達する。30分前に通達した通り、第4戦略艦隊が帝国軍と思わしき艦隊を発見した。俺達第1戦略艦隊は第9戦略艦隊とともに第4戦略艦隊に合流、帝国艦隊を攻撃する」


 戦略艦隊総会議が始まる前に簡単な状況説明のデータを配布したから、こうなることは予想できていただろう。

 だからこそ、想いをそのまま告げる。


「あの日から500年……欠片すら姿を見せなかった帝国軍だ。この機会を逃すわけにはいかない。2500年間王国を占領し続けたことへの利子が貯まってるんだ。奴らの命で返してもらうぞ」


 第1世代(俺達)の持つ狂気、それを見習えとは言わない。だがこいつらも、戦友を奴らに殺されている。

 だからこそ……


「遠慮はいらない。好きなだけ暴れろ」


 小細工はなしでいい。圧倒的な力で叩き潰せ。


「シェーン、座標は?」

「……来てる。セットは……完了」

「全艦、収容まで2分かかります」

「第3、第8、第9戦略艦隊が来るまで、あと5分かかるそうですよ」

「総会議の前に非常呼集をかけていたか。それなら、第9戦略艦隊が到着次第亜空間ワープを開始、第4戦略艦隊に合流する。久しぶりの帝国戦だ、気合い入れろ」

「ええ」

「……当然」

「うん!」

「はい」


 各種指示を終えてしばらく待った後、その時がようやく来た。

 いやまあ、ようやくっていうほど待ってはいないけどな。体感時間は長かった。


「第3、第8、第9戦略艦隊、到着しました」

「第1戦略艦隊全艦再確認、固定状況に問題はありませんね」

「機動兵器は全機即時発艦可能だよ」

「……ワープ準備、問題無し」

「良し、じゃあ……アーマーディレスト、亜空間ワープ開始」


 さて、借金の取り立てに行くとするか。












・戦略艦隊総会議

 戦略艦隊総司令官と戦略艦隊司令長官11人の、合計12人が仮想空間で実施する会議のこと。

 巨大な自由裁量を与えられた各戦略艦隊の行動を縛ることができる、王国内唯一の機関。ただまあ構造的に、戦略艦隊の軍議と言っても差し支えない。



・第11戦略艦隊

 生体義鎧だけが持っているのはいけない、という生体義鎧の訴えによって設立された、生体義鎧ではない者達による戦略艦隊。

 陸海軍から交代で人員が派遣され、定期的に生体義鎧による軍事指導が行われる。そして基本的には、シュルトバーン星系内で訓練などに励んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ