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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第1章
2/85

第2話

 

 新王国歴7267年4月2日




 炎が巻き上がる。


「…イ……」


 天まで届く塔が、根元から折れる。


「ガ…ル…」


 空から、次々と落ちてくる。


「ガイル…」


 そして最後まで見ることなく飛び起きた。

 隣で声をかけてくれていたが……俺を覗き込んでいた瞳は、翠ではなく金だ。


「は!……はぁ、はぁ……」

「ガイル、大丈夫ですか?」

「メルナ……ああ、気にしなくて良い」


 それにしても、またアレ(・・)か……畜生。しかも仰向けになってたせいで、翼も少し痛い。

 メルナが上目遣いに見上げてくるが、これは彼女に相談しても意味がないしな……とりあえず起き上がり、手っ取り早く洗浄機で体を洗う。


「先に食堂へ行く。急がなくて良いぞ」

「ですけど……」

「大丈夫だ。心配するな」

「……はい」


 白と赤を基調とした配色の軍服、数え切れないほど着たこれが、戦略艦隊(ウチ)の正装だ。近衛ほどじゃないとはいえ、軍服とは思えないほど派手なんだよな……

 ちなみに、翼があるから背中は開いている。まあ、これはほぼ全ての服で同じなんだが。

 そうして軍服を着た後、右腰にハンドガン、左腰にサーベルを差し、髪を整えれば終わりだ。

 それにしても……しっかりシーツで胸元を隠すあたり、いくら軍に染まっても変わらない。


「後から来るか?」

「はい。少し整えてから向かいますね」

「分かった。食堂で待ってるぞ」

「分かりました」


 そして部屋から出ようとした時、呟く声が聞こえた。


「私では、駄目なんですね……」


 残念ながら、その通りだ。

 けどなメルナ、そんな悲しげな顔をしないでくれ。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「司令、おはようございます」


 歩いて食堂に着く。

 ここの内装は無機質だが、食事をするだけだから問題ない。内装までこだわった場所が良いなら、モールのレストランに行けばいい。

 シュミルもあるし、食うだけなら十分だ。


「シュルトハインさん、おはようございます!」

「ガイル、おはよう」

「おはよう。何か報告したいことがあるのか?」


 この食堂は高級将校の居住区画に近いから、俺に仕事を持ってくる奴も多い。

 食事はゆっくり取れるようにしてるから、軽くなら打ち合わせだってできる。


「いえ、ありません」

「あたしもー」

「ああガイルさん、ここの部分ってどうしますか?」

「ん?……確かこれはこっちだったな。詳しいことはメルナに聞いてくれ」

「了解」


 いくら書類仕事が得意じゃないとはいえ、俺はこの艦隊のトップ。俺が決済しないといけない案件も大量にある。ある程度メルナに手伝ってもらっているとはいえ、一応1人でもできる。時間はかかるけどな。

 そういうわけで部下から貰ったデータをホログラフで確認していると、シェミルにメールが届いた。これは……舞踏会への招待状、俺とメルナにか。今度の休暇、予定が入りすぎだな……っと?


「通信……あいつからか」


 こうして話すことはよくあるが、実際に顔を合わせるのは何年間してないだろうか。

 流石に喜びを抑えきれず、急いで空中に画面を投影する。


『おはよう、貴方。顔色が悪いわよ?』


 彼女はリーリア-メティスレイン。第4戦略艦隊司令長官の元帥で、俺の幼馴染。そして数少ない生き残りでもある。

 見慣れた銀の翼とポニーテールに纏めた髪、紅色の肌に映える翠色の眼。本当、昔から変わらない。


「おはよう、リーリア。朝からだが、仕方ないだろ」

『……アレ(・・)ね』

「ああ、アレ(・・)だ」

『貴方の女の中で、アレ(・・)を生き残ったのは私だけだものね』

「そんな言い方をするな」

『実際そうじゃない。1番は私だけど』

「そこは変える気は無いのか」

『もちろん。貴方だって分かってるでしょ?』


 そりゃあ、付き合いは1番長いからな。

 分かってないなら、頭がどうかしてる。


「独占欲が強いのはな。それでよくポーラを許したもんだ」

『いつまでそれを言い続ける気よ?』

「死ぬまで、かな」

『それじゃあ永遠じゃない』

「おいおい、俺だって殺されれば死ぬんだぞ?」

『そう言って生存確率10%以下の任務ばかりやって、生還してるでしょ?』

「それはそうだが……お前だって、俺が本当に死にかけた時には号泣してたくせに」

『そ、それは……』


 こう言い返されるのもいつものことだろうに、事あるたびにこの話を振ってくる。俺も飽きるを通り越して、流れるようにセリフが出てきていたりする。

 さて今日のセットは、1つ目がカウリンド肉入りのノーラスにスープとサラダ、飲み物はドルか。

 他は……いや、これにしよう。


「昏睡してた時は知らないが、起きた時は面白かったな。怒りながら泣きながら笑うなんて、珍しいものを見たもんだ」

『あの時は本当に心配したのよ!』

「……リーリアだけじゃなくポーラや父さんも、相当心配してたそうだな」

『ええ。貴方があんなことになるなんて、初めてだったからね。毎日行っても起きないから、気が狂いそうだったわ。これはポーラも同じよ』

「ああ、知ってる。その後散々泣きつかれたからな」


 宥めるのも大変だった。必要だったとはいえ、俺の無茶のせいだ。悪いことをしたな。

 そんな風に話しているうちに装置の前に着き、選んだセットメニューが光とともに出てくる。これも初めて見た時は感動したものだが……見慣れすぎて感慨も何処かへ行ってしまった。


『そうだったわね……あの子はまだ付き合いが短かったし、仕方ないわ』

「短いと言っても、普通なら十分過ぎるほど長いぞ」

『私達に比べたらよ。でしょ?』

「確かに」

『そういうこと。さて、そろそろ後ろの人とも話をしなさい』

「ん?……メルナとシェーンか。すまない、気付かなかった」

「リーナと話していましたからね。気付かれないのはいつものことですよ」

「……もう、慣れた」

「すまない。そう言えば、メルナには企みが効かなかったな」

「……姫様……そうなのですか?」

「ええ。ガイルとリーリアは突発的に言うことが多いでしょう?あれは全部計画していたんですよ」

『でも、企んだうちの半分くらいは事前に見つかってるわ』

「何も悪いことはやってないのにな」

『本当よ。驚かせたかっただけなのに』

「そのために何回仕事を押しつけてきましたか?書類仕事が苦手とはいえ、許せませんよ?」

「『はい、すみません』」


 一言一句完全に同時になった。まあ、幼馴染で付き合いも1番長いから、そして一緒に怒られることも多いから、当然か。


「……歳上なのに」

「こういうことだとメルナには勝てないんだよ……生まれ持った素質か?」

『でしょうね。私達を言い負かせる相手なんてほとんどいないのに』

「他には父さんと……あと数人くらいだな。何でこうなったのか」

「2人に付き合わされていればこうもなりますよ。では、私達も取りに行ってきますね」

「分かった。席は取っておくからな」

「はい。では、お願いしますね」

「……お願い」


 ちょうど4人がけのテーブルが空いていたのでそこに座る。

 まずはドルを一口。そしてノーラスを千切って食べ、スープを口に含む。やっぱり美味い。


「これだけは敵わないな……」

『いつも、こういう時だけは負けるわね。貴方のせいで何回イタズラがバレたことか……』

「そういうリーナもだろ。プライベートだと、重要なところでいつも失敗してるじゃないか」

『何よ。それは貴方が失言するからでしょ?』

「いや、リーリアが書類の残りを間違えるからだ」


 俺がリーリアの失敗を言うと、リーリアは俺の失敗を言ってくる。

 その結果、口喧嘩になるが……この程度、いつものことだ。


『まったく、変わらないわね』

「リーリアこそ。昔のままだ」

『変わるわけ無いわ。私達の時間は……』

「あの時のまま止まってる、か。ああ、そうだ」

『悲しいけど』

「これは変えようがない」


 アレを生き延びた者だからこそ、こう思う。

 だからこそ、っ……頭を小突くな。


「何故2人だけでしんみりとしているのですか?ここは食堂ですからね?」

「……みんな、離れてくよ……?」

『うっ……』

「すまない……って、誰も離れてないだろ」

「……バレた?」

「流石に、その手にはかからないぞ」

「シェーン、もう少し上手にやりましょう」

「……ごめんなさい、姫様……」

『謝るのがそこ?』

「まったく……ああそうだ。メルナ、今度の休暇に舞踏会へ来てほしいそうだ」

「それは……あの立場で出るということですね?」

「そっちだ。というか、それ以外にない」

『仕方ないわよ。どれだけ年月が経っても、生まれは変えられないわ』

「はぁ……今の暮らしの方が気に入ってるのですが」

『諦めなさい。貴方もついていくんでしょ?』

「招待状は俺とメルナの2人分だ。まあ、当たり前だな」

「仕方ないですね……生まれの義務ですから」


 こう言っているが、メルナの顔は嫌そうではない。

 慣れているというのもあるだろうが、俺と行くのが好きなんだろうな。


『それはそうと、昨日またあったらしいわね』

「ああ。ザコにも程があるけどな」

『データは見たけど、あれは仕方ないわ。むしろ良くアレで喧嘩を売れたわね』

「無知だからだろうな。繰り返し攻めてきて、滅ぼした文明もあったか」

『私は外回りもあるから、よく分かるわ。未発展の文明や中で小さな国同士が対立する星はともかく、未熟な状態で大まかに統一された星は攻撃的な所が多いわね』

「強権での統一だったか?嫌な所だな」

「私達の星でも昔はそういう国があったそうですけど、長続きはしなかったそうですね」

『食料の制限や武力で抑えつけながらの発展なんて、正常にいくはずもないわ。どこかは必ず歪になって、壊れていくものよ』

「実際に見たのか?」

『ええ。ちょうどその途中でね、電波を使ってたから簡単に分かったわ』

「……聞いたことない」

「こっちに報告は上がってませんね。何も無かったのですか?」

『内乱を見てきただけよ。記録はしたけど、報告書の重要度は低いわね』

「そんなのが……あった、これか。確か、少し慌ただしかった時期のだぞ」

「本当ですね。1ヶ月に3回も来て、警戒体制の時でしたか」

『そういえばそうだったわね。それの後に1つ攻撃してきたわ』

「お疲れ様」

『貴方達ほどじゃないわよ』


 俺達の役割は休暇の時に他の艦隊に任せることもあるが、俺達は他の艦隊の仕事をしたことは無い。

 特に、今の第4の仕事はな。


『それじゃあ、そろそろ切るわね』

「その様子だと、今日は探索なのか?」

『ええ、3つの星系を一気に調べるわ。でも、昨日までの調査の結果だと……いなさそうよ』

「そうか……」

『残念そうね』

「当たり前だ。お前だって同じだろ?」

『もちろん。さっさと見つけて、借りを返してやりたいわ』

「その意気だ。じゃあ、またな」

『ええ、またね』


 画面がブラックアウトし、リーリアの顔が消える。

 当たり前とはいえ……やっぱり寂しい。


「……いつもだけど……寂しそう」

「分かるか」

「もちろんですよ。リーリアには負けますけど、私も長いですから」

「2人……いや4人には悪いが、リーリアは1番辛い時に一緒だったからな。どうしても特別だ」

「……知ってるから……大丈夫」

「私達だって、半年も昏睡されてたら辛いですよ?」

「あんなことはもう起こさない。だから安心してくれ」

「……信じる、から」

「信じてますよ」


 裏切るつもりは一切ない。むしろ今の立場だと、裏切る状況が想像できないんだが……そういう問題ではないか。

 と、そこで後ろからまた小突かれた。


「よおガイル、今メシか?」

「ハーヴェか。ああ」


 この筋骨隆々の大男は第1戦略艦隊揚陸参謀長のハーヴェ-カーグシュルティス。後ろには揚陸参謀達も控えている。帰還して、そのままメシに来たようだ。

 ただ本来なら、この星系の第4惑星から帰ってくるのは今日の昼頃だったはずだが……


「報告は見たが、予定より早いな」

「陸軍の連中が優秀だったからさ。手加減もしていたが、厳しい条件だったんだぜ?」

「精鋭でも何でも無かったよな?今の一般人もなかなかやる」


 俺達程では無いとはいえ、やはり一般人の練度も高いようだ。

 これなら、今の第11も期待できる。


「それなら、俺達が出ていっても問題ないか」

「問題は、その相手がいないことですね」

「わたし達以外がずっと探してるのに……1回もない」

「何処かに隠れちまったんじゃねえかって噂が出るくらいだ。もし本当にそうなら、探し出すのは不可能だぜ?」

「まあ、もしそうだとしても……」


 国として、それが駄目なのは分かってる。

 アイツらからなら、色々と取れることも分かってる。けどな……


「見つけたらすぐに滅ぼしてやるんだが。星系ごとでもな」

「それは駄目ですよ」

「……やりすぎ」

「流石にそれはありえねえぞ。つうかいくら王国軍でも無理だぜ」

「それだけ恨んでるんだよ。お前達が分からないのは仕方ないけどな」

「それは……そうだよ?」

「司令と同じってなると……上にメリーアがいるが、他には数人だもんな。少ねえよ」


 今名前の出たメリーア-ハルシュバインは、第1戦略艦隊(ウチ)の艦隊参謀長で、話の通り俺やリーリアと同じだ。

 そして想いも同じ。そんな同志はもう100人もいない。

 だからこそ、こいつらの力を借りないといけなかった。不甲斐ないことにな。


「だとしてもだ。というか、分かって言ってるだろ?」

「ええ、そうですよ」

「……ずっといるから」

「知らないのなんて、若い連中くらいだぜ。そいつらだって察してるだろうがな」


 それに、俺達の怨念が国を動かしてきたようなものだった。俺達のやりすぎを心配する声はあっても、反対する声は無い。

 それだけのことが、あったからな。


「さてと、メルナ、シェーン、行くか」

「……艦橋だよね?」

「演習の調整と報告書だ。そろそろ技術報告のまとめが上がるはずだしな。俺もやるが、メルナ、頼むぞ」

「はい。ですが、ガイルもちゃんとやってくださいね」

「分かってる」

「そうだな……オレも艦橋に行くか」

「ハーヴェ、お前は今日非番だろ」

「非番は艦橋に入ってはいけない、なんてルールはねぇよな」

「まったく……後でしっかり休めよ」

「おう」


 プレート等を廃棄ボックスに入れ、食堂を出る。同じように食べ終わっていたので、2人もついてきた。

 なお混雑した時に困るので、食堂から転送装置までは若干の距離があり、話をするにはちょうど良い。


「調整と報告書が終わったら、今日やることはほとんど無い。一緒に何処かに行くか?」

「片付けないといけないものがありますので、ちょっと無理ですね」

「そうか。シェーンは?」

「……特に無い……視察?」

「じゃあ、どこかの格納庫だな」


 デートというには無骨だが、まあ、よくあることだ。

 流れでモールにも行くだろうしな。












・カウリンド

 バーディスランド王国で最もよく食べられている家畜。美味しく、調理しやすく、部位によって味や食感が異なり、生でも大丈夫で、栄養価も良いという最高の肉。育て方や環境によって味等が変わるので、市民用から高級品まで網羅する。

 地球で言う所の、豚と牛と馬を足し合わせて6本足にしたような動物(キメラではない)



・ノーラス

 バーディスランド王国の国民食。ほぼ毎日食べている。むしろ食べない日が珍しい。

 もち米に似た粘り気のある穀物(マッシャ)を蒸してすり潰し、そこに肉や魚や野菜や香辛料などを使ったスープを加えてこねて焼いた、パンのような食べ物。

 味付けは無数にあり、おにぎりに近い感覚で色々試す。なので好みでしばしば喧嘩になる。



・ドル

 コーヒーのような飲み物。独特の苦味と若干の甘味があり、多くの大人が好んで飲む。

 だが、原材料は植物の葉で、これを焙煎してから抽出する。


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