第17話
新王国歴7267年5月6日
「システム正常、仮想空間の展開に問題はありません」
「揚陸参謀長より伝達、揚陸艦展開終了」
「陸軍より、戦闘準備完了との報告です」
「じゃあ、仮想空間展開。戦闘開始はまた後だ」
「了解しました」
目の前に展開される情報を元に、オペレーター達が報告と伝達を行う。
それに指示を出していくのも、監督役としての業務になる。
「仮想空間、展開」
「思考加速開始します」
「システム最終シミュレート、開始」
「外部部隊とのリンク良好。警戒体制に問題はありません」
「各艦、機動兵器、演習システムとの接続確認終了」
「最終シミュレート完了。システムに異常は認められず」
「揚陸部隊、陸軍、ともにシステム正常とのこと」
「よし、では演習開始だ」
アルストバーン星系、第3惑星。岩石で覆われたこの惑星は最終防衛線の1つであり、また重力や地形などがシュルトヘインズに近いため、よく陸軍の演習で使われる。
なお、同じくらいの大気圏もあるのに何故生命がいないのか、学者達が不思議がってるんだが……水が無いからじゃないのか?
また、この演習で使用する仮想空間はアーマーディレストの量子コンピューターを介して作られており、俺達は俯瞰的な映像で戦況を見ることができる。だが当然ながら、揚陸部隊も陸軍もこのデータは得られない。
というか、得たら演習にならない。
「演習開始。繰り返します、演習開始」
「陸軍、行動開始を確認。迎撃部隊が展開しています」
「揚陸艦隊も行動開始」
「重装揚陸艇、降下開始しました」
重装揚陸艇はアーマーディレストにも搭載されているが、今日は全て揚陸艦隊へ与えられている。
潜宙揚陸艦のものも下ろされているから、文字通り全部隊だ。
「揚陸艦隊の制空戦闘機及び戦闘攻撃機が護衛につきます。また、攻撃機と爆撃機も順次発艦していきます」
「惑星より陸軍の要撃部隊が出撃。制戦闘機、戦闘攻撃機だけでなく、防空要撃戦闘機も存在」
「惑星上の大型ミサイル発車車両、対宙攻撃車両が対宙迎撃を開始。機動兵器への攻撃も行われています」
本来、揚陸艦に重爆撃機は載せられない。今回は特別に載せているが数は少なく、航空部隊の打撃力は普段より低い。また軌道爆撃も、揚陸艦では戦艦ほどの火力は出せないため、効果はかなり限定的になるだろう。
それに対し、陸軍の対宙攻撃能力は高めだ。この惑星には海が無いため海上護衛艦と海上戦艦はいないが、それでも十分過ぎるほどの大火力を持つ。ただ、今はまだ超重戦車は参加していないか……切り札扱いで秘匿してるんだろうな。
揚陸艦隊からの対地飽和攻撃でやられるのもマズいだろうし。
「揚陸艦隊が砲撃、及びミサイル攻撃を始めました」
「陸軍の被害予想はどうだ?」
「ミサイルは航空部隊の迎撃により、ほぼ全てが撃ち落とされると予想されます。陽電子砲は無人防壁により75%が防がれる予想です」
「これに対してですけれど、無人防壁の予想損耗率は2%ですよ」
「揚陸艦の方は、全然かなー」
「制空戦の結果次第ではどうにでも転ぶな。見落とすなよ」
「了解です」
そう言っている間に、制空戦が本格的に繰り広げられ始めた。規模が小さいのは、まあ仕方がない。追加された重装揚陸艇の分だけ航空部隊も増やされてはいるが、約1億機と本隊に比べればそこまで多くはない。
だが陸軍に対してなら、重爆撃機が少ないとはいえ十分な数だ。
「陸軍要撃部隊、重装揚陸艇への攻撃を開始」
「防空要撃戦闘機を軸に、積極的攻勢を仕掛ける模様」
「揚陸部隊の航空部隊が迎え撃ちます」
「交戦、開始しました」
「揚陸部隊優位で戦闘は推移中」
高火力高機動の防空要撃戦闘機は重装揚陸艇の天敵だが、他の飛行型機動兵器で抑えこむことが可能だ。
重装揚陸艇が何機か落とされたものの、揚陸は無事成功する。
「揚陸部隊、3ヶ所への揚陸に成功しました。残り2ヶ所もまもなくです」
「了解だ。陸軍の配置は?」
「司令部を中心に、10層の防御陣地を形成しています。他の地点にいる部隊のうち、200ヶ師団が揚陸部隊の迎撃に向かう模様です。残りは防御陣地に合流するものかと」
「……たった200ヶ師団?」
「遅滞防御のためだろうな。この間に最外部へ戦力をまわすんだろう」
陣地といっても、大昔みたいに塹壕線が延々と続いているわけではない。師団単位で相互協力ができる位置にいるだけだ。配置転換も簡単だからな。
「お兄ちゃんの言う通りだよ。防御陣地が5個に減ったもん」
「おいおい、減りすぎじゃないか?」
「その代わりに、外縁部に戦力が集中していますね。突破は容易では無いでしょう」
「……でも……ハーヴェ、正面から戦うつもりみたい」
「あはは、あいつらしいねー」
「まったく」
あいつのことだから、ただの力押しとは違うだろうけど……無茶をさせすぎだ。
「遅滞防御は……上手くいっていませんね」
「まあ、少数だとな。姿を見せた瞬間に撃たれるだけだ」
「……航空部隊がいる。けど……余裕は無いから」
「こっちが抑えてるもんね。だから……あれ?」
「んー?」
「どうした?」
「ううん、いつもの光景だよ」
「ああ、なるほど」
レイが見ていた画像の中では、制空戦闘機1ヶ小隊400機が、たった10機の爆撃機によって次々と落とされていた。他の場所でも似たような状況が起こっており、というか重爆撃機にやられている場所もあり、陸軍の被害は大きい。
だが陸軍は慌ててはいるものの、混乱はしていない。知っているからだ。
「エリサさんだね」
「あそこまで鮮やかにできるのはあいつしかいない。爆撃機や重爆撃機で最前線に出る変人もな」
「変人……そうですね」
「否定は……できません」
「……実際、その通り」
エリサ-アウラルド=ザッツバーフィ少佐。第1戦略艦隊旗艦航空部隊所属で、今回は揚陸部隊についてもらっている。そして彼女は、今やっているように制空戦闘機を爆撃機や重爆撃機で落とすほどの空戦技量も持ち、本分の対艦攻撃も上手い。
爆撃系のトップクラスだ。もはや意味分からん。
「陸軍遅滞防御部隊、損耗率35%を超えました。作戦を放棄して撤退する模様です」
「やっぱりか。追撃はどうなってる?」
「積極的に行なっていますが、数は限られています」
「……罠の、警戒?」
「多分な」
数で劣る200ヶ師団での遅滞防御はあまり意味をなさず、すぐに崩壊したようだ。
追撃を受けつつ、残存部隊は防御陣地へ逃げていった。
「ポーラ、主戦場となりそうな場所を予測、メインモニターに表示してくれ」
「了解です」
「シェーンは揚陸艦を、レイは航空部隊を見ておいてくれ。変な動きは無いだろうが、もしあったら報告を頼む」
「……分かった」
「お兄ちゃんとメルナお姉ちゃんはどうするの?」
「揚陸部隊と陸軍の進路予想を出す。メルナ、手伝ってくれるか?」
「もちろんですよ」
まだ少し時間があるので、データまとめの準備をしておく。と、そのタイミングで揚陸部隊の上空にて爆発が起きた。
この位置はミサイルじゃない。となると……
「砲撃戦車の砲撃か?」
「はい。ミサイルも使い、遠距離からの同時攻撃を行なっています」
「確かに、遅延攻撃にはこれも使えるな。ただ……あいつらには効いてないか」
「分かってたみたいだよ。最初から待ち構えてたもん」
「あいつも上手いからねー」
砲撃戦車は王国兵器の中で唯一、実弾をメイン武装としている機動兵器だ。そしてその特性故、惑星上、及び衛星上での使用しか考えられていない。
実弾はミサイルに比べるととても遅いが、比較的小さく装甲部分が厚いため、迎撃されづらい。弾速の低さによる威力不足は弾体の重さに加え、ミサイルと同種の弾頭によって補っており、地上における有効な攻撃手段となっていた。
これとサイルと実弾の同時投射によって地平線外の敵を撃滅することも可能となったが……戦略艦隊の揚陸部隊にはあまり効いていない。ミサイルは対空迎撃で十分だし、実弾は戦車の主砲で撃ち落としたりするからな、こいつら……
無意味とは言い切れないが、結果だけ見れば何もしていないのとほとんど同じだった。
「地上部隊の予想会敵時間まであと1000秒だが……ほぼその通りになりそうだな」
「航空部隊も足並みを揃えてるから、そうだと思うよ」
「戦略艦隊の連携の方が上ですから、2回に分けるつもりは無いのでしょう」
「……陸軍は……突出したらやられる……それは、避けたいんだと思う……」
「多分な。結局、陸空揃った正面戦闘だ」
戦車も空間機動で飛べるから、地上戦で陸空と分ける意味もあまりないが。
まあ、便宜上だ。
「ハーヴェは上手く混戦に持ち込むつもりなんだろう。混戦なら確実に勝てる」
「……被害も少なくできるし」
「ああ。陸軍としてはそれを避けたいだろうが、どうするだろうな」
「組織だった防衛戦を行うのが1番でしょうね。最も難しい手でもありますけど」
「でも、混戦を防ぐにはそれしか無いよ」
「罠を張ったとしても、混戦は避けられないでしょう。他には……圧倒できる数を投入すること、ですか?」
「どちらにしろ、陸軍の被害は大きくなる。っと、そろそろだな」
「接敵まで、3、2、1……」
互いが地平線の陰から出た瞬間、砲撃戦が始まった。
同時に地面を這うように飛んでいた航空部隊は増速、高度を上げて格闘戦にもつれ込む。
「各機、戦闘開始」
「航空部隊の戦域が拡大していきます。地上からの支援により、被害が出ているエリアもあります」
「航空部隊、爆撃を開始します」
陸軍の爆撃機や重爆撃機が地上へ攻撃を仕掛けようとするが、制空戦闘機によりレーザーソードで切り刻まれる。
その隙に揚陸隊の攻撃機が陸軍を撃破しようとするも、マイクロミサイルの一斉射から回避して攻撃コースを外れる。
しかし何機かの攻撃機は防空網を抜け、クラスターミサイルで戦車を撃破し始めた。
また逆に、地上からの砲撃やマイクロミサイルで撃墜される飛行型機動兵器も出ており、混戦になりそうな感じがする。
「揚陸部隊、なおも防御陣地に接近中」
「航空部隊、敵戦線への本格攻撃を開始しました」
「多砲塔戦車の一部が変形、突撃します」
「機甲装甲車より重装歩兵が降車、攻撃開始」
接近戦となると飛行型機動兵器や戦車は変形し、人型形態になって戦う。揚陸部隊からは多砲塔戦車の半数が、陸軍からは重装戦車の支援を受けた高速戦車が突撃し、レーザーソードで敵戦車へ切りかかる。
重装歩兵の火力では単機で地上型機動兵器を、戦車を撃破するのは難しい。だが、数機が同一目標に同時着弾させることで次々と破壊していった。
「揚陸部隊、第1防御陣地第1層を突破。第2層へ向かいます」
「他の戦場でも、揚陸部隊が攻勢を強めています」
「航空部隊、依然制空戦継続中」
「敵、増援を次々と投入しています」
陸軍は揚陸部隊を押し留めることができず、ハーヴェの思惑通り混戦となり、陸軍の被害はどんどん増えていく。
だが陸軍も大したもので、揚陸部隊はある一定ラインを越えられていない。戦力の逐次投入は下策だが、この混戦では全軍を投入しても戦える数は限られる。そして総戦力は陸軍の方が多い
肉を切らせて骨を断つには、むしろこの方がいいのかもしれない。
「揚陸部隊、重装揚陸艇が対地攻撃を開始しました」
「陸軍も対地攻撃機及び小型揚陸艇を投入、制空戦が激しさを増しています」
「重装揚陸艇、2.7%撃墜」
「揚陸部隊損耗率2.4%、及び航空部隊損耗率3.2%」
「陸軍損耗率、総計で5.1%となりました」
重装揚陸艇も対地攻撃ができるようになっているが本業は揚陸艇だ。専業の対地攻撃機や、重視して設計された小型揚陸艇には劣る。陸軍の方が数も多く、マイクロミサイル一斉射によって揚陸部隊にいくらか被害が出ていた。
だがその直後、上方から迫った制空戦闘機により対地攻撃機は撃墜される。また、その近くにいた小型揚陸艇は、多砲塔戦車の対空射撃で落とされた。
損耗率は、戦略艦隊が有利なままだ。
「……若干、押されてる?」
「突出した所は囲まれかけているな。それに、第1層が下がって第2層と合流しようとしてる。対応してきたか」
「これって大丈夫じゃないよね?」
「地上型機動兵器の数が少ないので、火力勝負では不利ですね」
「包囲殲滅の恐れがあります。ここは撤退するのが定石ですが……」
「ここで退くハーヴェじゃないよねー」
「その通りだ」
戦略艦隊の揚陸部隊はその性質上、戦車等の地上型機動兵器の数が少ない。それは砲撃の量に大きな差を作るが……飛行型機動兵器と軌道爆撃でその差は埋めることはできる。
そして、ハーヴェもそのつもりのようだ。
「揚陸艦隊、軌道爆撃を強化しました。無人防壁の損耗率が急上昇」
「……そういうこと」
「うん、そーだよー」
ここにきて揚陸艦隊は陽電子砲とミサイルの密度を高め、無人防壁を次々と破壊していく。いくつかは地上に着弾して陸軍を薙ぎ払っていた。
だが、攻撃地点を見る限り……
「ブラフですね」
「そうだよね、お兄ちゃん?」
「ハーヴェはこの軌道爆撃に注意を向けさせて、揚陸部隊への攻撃を減らすつもりなんだろう。対宙攻撃部隊やその護衛って形でな」
「……上手くいく?」
「前線からの移動はありません。後方から抽出しているようです」
「まあ、牽制という意味では有効なはずだ。無人防壁が完全に破壊されたら、無視できなくなるからな」
目論見は半分外れたようだが、無意味ではない。というより、これによってハーヴェの取れる手札が増えたな。
戦況はまだそこまで大きく動いていない。
「お兄ちゃん、まだ混戦になれてないよ?」
「……脱落は、あまり多くないけど……集まると、もっと増える」
「防衛線に穴を開けられていないからだな。1度突破する、もしくは大打撃を与えれば突破できる」
「ですけど、陸軍も対応してくるでしょう。できますか?」
「あいつならどうにかする。いくつか手はあるからな」
「方法ってねー、上からだけじゃないからー」
優勢だからこそ、打てる手は多い。どれを選択し、どれの対策をするか、それが指揮官に求められることだ。
そしてそんな中、主戦場から少し離れた防御陣地に突撃する歩兵部隊がいた。
「あれ?アレって……」
「……そういうこと」
「その手を取ったか」
第2軍団第54戦団第024重装機歩混成師団へ、約100万機の重装戦車と重装歩兵の群れへと向かうのは、たった1000機の機動歩兵だけだ。
だが、実際の優劣は数と異なる。
「たった1ヶ師団じゃ……死神の相手にはならないぞ」
その1000機の機動歩兵を操るのはリエル、戦場の死神なのだから。
「……全部、避けてる」
「凄い……」
砲撃が来ても問題ない。
重装戦車の重力子砲は直径15mを圧縮するが、リエルなら避けることなど容易い。
着弾までが一瞬でも、発射までは相応に時間がかかってしまうのだから。
「流石です」
「まーあの子はねー」
そして連射のできる機関砲系統は最前列が受け止める。追加装甲と盾によって増えたシールドは、流れ弾で破れるほどヤワではない。
それに、集中射撃を許すほどリエルは下手ではない。
「突破できますね」
また、降り注ぐマイクロミサイルは陽電子砲とレーザーで薙ぎ払われ、お返しとばかりに高火力装備の機動歩兵からマイクロミサイル、さらに大型重粒子砲や重力子砲が撃ち込まれる。
それは重装歩兵へ向けて集中的に撃たれており、陣形に穴を開けていった。
「突入されたら終わりだぞ。まあ、もう無理だろうが」
そしてリエルの編成の中で最も多い、レーザーソードを装備した機動歩兵が突入、片っ端から切り裂いていく。いくら重装戦車でも、数機掛りでレーザーソードを当てられればシールドは破れる。
最後のあがきとばかりに至近距離で放たれるナノミサイルは陽電子機関砲などによって対処され、より苛烈な砲撃が重装歩兵を襲った。
「あーあ」
「陸軍は残念でしたね」
「……相手が悪い」
「リエル相手では、よく持ち堪えた方かと思います」
現実では1秒にも満たないような間に師団の5%以上が撃破され、第024機歩混成重装師団は目に見えて混乱している。
そして、リエルはそれを見逃さない。
「完全に決まったな」
「ええ。部隊の崩壊は止まらないでしょうね」
「後続部隊もいます。戦線の立て直しは不可能だと考えられます」
「……もう無理」
リエルの突破を待っていた部隊が次々と防衛線の中へ入り込んでいく。
さらに、同様のことが残り9ヶ所……全てリエルが行なっていた。やりすぎだっての。
「陸軍、全ての第1防御陣地を破棄。残存部隊は第2防御陣地へ逃げていきます」
「揚陸部隊は……おいおい」
「揚陸部隊、第2防御陣地を強襲。防衛体制変更の隙を突いた模様」
「陸軍、第2防御陣地を放棄します。揚陸部隊に対しては、第3防御陣地を前進させることで対応させています」
「航空部隊、前進していた第3防御陣地を奇襲。第3防御陣地の損耗率17%、なおも攻撃継続中」
「……一方的」
「このまま押し切られちゃう?」
「そんなわけないだろ」
確かに、揚陸部隊の一気呵成な攻撃によって、陸軍の最前線は半壊している。とはいえ、陸軍の持つ戦力はまだまだ多い。上手く使えば押し返せるはずだ。
と、どうやら同じ考えだったみたいだ。ここで陸軍も切り札を切ってきた。
「陸軍、各戦線に超重戦車を投入しました。揚陸部隊に被害が出始めています」
「さあハーヴェ、どう抑える?」
戦車師団等に配備されている超重戦車、戦車形態時で全長180mの化け物戦車は、その巨体に見合った高火力を投射し始める。足が遅く戦線への投入は遅れたが、最前線はまだ壊滅していない。
ここから巻き返すことも可能だろう。
「揚陸部隊、戦力を集中させています」
「陸軍第241超重師団、損耗率2.4%。超重戦車は全機健在」
「揚陸部隊、超重戦車へ攻撃を集中させています」
「超重戦車1機撃破。続いてもう1機撃破」
「揚陸部隊損耗率増加。時間あたり63%上昇」
何ヶ所かに出現したうちにある最大の激戦区は、第2軍団第12戦団の主力が展開し、超重戦車1万機を中核に構成された第241超重師団が陣取るエリアにある。敵味方を合計すれば、機動兵器が1億5000万機もいる場所だ。
仮想空間内とはいえ、既に更地を通り越してクレーターになっていたりする。元々岩しかなかった、なんて言うなよ?
「航空部隊、制空戦闘機と戦闘攻撃機を先頭に突撃します」
「攻撃機、爆撃機、重爆撃機が追従。対艦ミサイル造成終了」
「陸軍航空部隊、制空戦のため対地攻撃機等を撤退させました」
「制空戦、開始します」
そしてどうやらハーヴェは攻撃機、爆撃機、重爆撃機の3機種で飽和攻撃を仕掛けるつもりらしい。その前段階として、制空戦闘機と戦闘攻撃機が制空権を取りに来たようだ。
だが陸軍は防空に防空要撃戦闘機も投入しており、現在3種の機動兵器によって激しい制空戦が繰り広げられている。
「航空部隊、超重戦車への攻撃を開始しました」
「航空部隊損耗率、現在8.3%」
「陸軍地上部隊、対空迎撃を開始」
「対艦ミサイル、全弾迎撃されました」
爆撃機5機が対艦ミサイルを放つが、超重戦車や対空装甲車、多砲塔戦車の陽電子砲、対空レーザー、及びマイクロミサイルに迎撃される。
「……防がれた」
「でも、次があるもんね」
「ああ、連携はこっちの方が上だ」
だが5機が防がれたなら次は30機、それが防がれても次は100機、さらに攻撃機と重爆撃機も加わり、激しい飽和攻撃か行われる。
陸軍の戦車が作り出すファルドレバトラーの許容用などすぐに超え、超重戦車は次々と撃破されていった。
「第3防御陣地壊滅。陸軍は残存兵に加え、第4防御陣地の兵力も第5防御陣地に集中させています」
「最終決戦ってことか。まあ、悪くはない」
「揚陸部隊はどうするのかな?」
「……応じる?」
「そんなこと、ハーヴェがするわけないだろ」
「……だよね」
そんなことをしても、無駄に被害が大きくなるだけだ。
予想通りならそろそろ……
「ポイント1382-9241で爆発が発生!陸軍司令部が壊滅、陸軍各部隊は混乱状態です」
この爆発により一帯がクレーターになっている。
どうやら、陸軍の総司令部が置かれていた特殊揚陸艦が消し飛んだらしい。
「……やっちゃった」
「え?誰が?」
「アッシュだ。流石だな」
アッシュ-メティスバイト少佐。軽装歩兵1万機を操る彼は、リエルと対をなす影のエースとも言える。
まあ、レイはアッシュが猛威を振るった時代を知らないから、すぐに結びつかなくても無理は無い。
「凄いですね」
「軽装歩兵を生かしきるのがあいつの特技だ。この程度、造作もない」
「何回か見たけど……慣れないよ」
「ここまでできるのはアッシュだけですから」
火力に優れる重装歩兵、機動力に優れる機動歩兵同様に、軽装歩兵にも優れる点がある。
それはステルス装置の稼働効率だ。
「あいつほど、ステルス装置の扱いが上手い人間はいない」
地上では周囲に空気などの物体があるため、ステルス装置の稼働効率が宇宙より低い。そのためステルス装置を使っても、物体の周囲を精査されると、宇宙と比べると見つけやすい。
地上型機動兵器やパワードスーツは色々と補正をするようになっているが、宇宙と同等まではなれていない。比較的とはいえ、この差は大きい。
「うまーくやっちゃうよねー」
だが、アッシュは人の意識やレーダーの走査範囲を見極めるのが上手く、さらにその場で最適なパラメータ補正を行うこともできるため、潜入や暗殺任務を何度も成功させてきた。
足場の多い地上だからこそ、その技巧を使って宇宙以上の隠密能力を出せる。
「それで、アレってどうやったの?」
「特殊揚陸艦に潜入してシステムを操作、ミサイルを限界まで造成して自爆させたみたいだ」
「シミュレート結果より、全てのミサイル発射口に反物質弾頭対艦ミサイルを造成した模様です」
「……やりすぎ?」
「ああ。死神と幽霊……まったく、あの夫婦はよくやる」
リエルとアッシュ。帝国軍指揮官にとって死の代名詞だった2人は、いまだ変わっていない。
「これからどうなるかな?」
「このまま続きますよ」
「恐らく、ほとんどの師団本部や戦団本部にもアッシュや他の面々が潜んでる。すぐに混乱は加速するだろうな」
その直後、いくつもの師団本部中隊に配属された指揮装甲車が爆散した。
手口は様々だが、決定打には違いない。
「終わりだな。指揮官がいなくなれば組織的抵抗はできない。すり潰されるだけだ」
総司令部、戦団本部、さらに師団本部のあった特殊揚陸艦が破壊されればされるほど、陸軍部隊は孤立していく。
それに気づいた部隊から降伏していき、戦闘は終了した。
「陸軍全部隊の降伏を確認しました」
「分かった。演習終了、仮想空間閉鎖」
「了解」
「各種データは量子コンピューターに接続、分類と抽出をしてまとめろ」
「はい」
「各艦、機動兵器のシステムチェックも忘れるな。演習システムからの切り替え、及び機体に異常が出たら報告しろ」
「分かりました」
今まで1度も問題が出たことは無いが、気は抜かない。
様々な指示をオペレーターに与えつつ、論評に入る。
「さて、今回の演習はどう思った?」
「どっちも、航空部隊と連携してたよね。揚陸部隊は特に重視してたと思うよ」
「陸軍は遅滞防御をほとんど重視せず、防御陣地で待ち構えることで数の差を利用しようとしていました。戦略艦隊揚陸部隊を相手にする場合、これは有効かと」
「……超重戦車の投入が遅かった……開戦直後にいれば、押せたはず」
「いえ、それでは揚陸艦隊に狙われたでしょうね。航空部隊の飽和攻撃を防いだとしても、破壊されるまでの時間はあまり変わらないと思いますよ」
「……でも姫様、遅すぎると勝てない」
「まあ、その辺りはやってみないと分からない。というか、超重戦車相手に少ない被害で勝てる揚陸部隊がおかしいんだからな?」
「100機で1ヶ戦車師団相当だっけー?」
「言われているだけですが、その通りです」
「まあ、あれは誇張も入ってるけどな」
ただ、同時着弾の難しさを考えると、間違ってないのかもしれない。
そんな風に考えていたところへ、陸軍から通信が入る。
『流石です、シュルトハイン元帥閣下』
「戦った相手はハーヴェで、俺達じゃないぞ、スタッカート元帥」
年齢を理由に陸軍総監は辞退したが、彼女の指揮能力はこの演習でも遺憾なく発揮されていた。
あと数年で引退してしまうというのが惜しい人材だ。
『演習終了後の手際の良さについてです。とはいえその指摘も当然のこと、お繋ぎしていただいても?』
「分かった。お呼びだぞ、ハーヴェ」
『おう、なんだ?』
『カーグシュルティス中将閣下、適切かつ勇猛な戦闘指揮に感服いたしました』
こう聞くと、ハーヴェも貴族みたいだな。名字が屋号みたいに長い。
また階級はハーヴェの方が下だが、元帥が中将を敬うのも、生体義鎧と一般軍人の間だとよくあることだ。俺も上級元帥にまで敬われる。
『そんなことか。むしろオレ達の方が驚いたぜ。あんまりにも防御が硬いんでな』
『そんなことはありません。ゼスティレン中佐に突破されてしまいましたし、メティスバイト少佐には本部を破壊されてしまいましたから』
『リエルとアッシュを使うしかなくなった時点で、オレ達の負けみたいなもんだ。誇れよ』
第1防御陣地における戦力損耗率は陸軍の方が圧倒的に多かったが、揚陸部隊が進めなくなっていたのも事実だ。リエルを使って突破した後も頑強に抵抗しており、アッシュを使うしかなくなった。
時間をかければ他の部隊だけでも突破できただろうが、確実に被害が増えただろうな。
「ああ。戦略艦隊の揚陸部隊が艦内戦闘向きなのは事実だが、揚陸作戦ができないわけじゃない。こちらの特性を考えても、十分すぎるだろう」
『ありがとうございます、シュルトハイン元帥閣下。ですが防御陣地を突破され、司令部を破壊されたことは事実、それを防ぐために一層努力させようと思います』
『あの2人をどうこうする方が間違いだと思うけどなぁ』
「違いない」
軌道爆撃で惑星をマグマの海にしても反撃してきそうだからな、あいつら。
「さてスタッカート元帥、部下達と反省会でも開いてはどうだ?システム的な整理はこっちでやる」
『よろしいので?』
「ああ。おいハーヴェ、さっさと揚陸部隊を回収して戻ってこい」
『おいおい司令、オレの扱い酷くねぇか?』
「年寄り爺さんと若い女性、優しくするならどっちだ?」
『まあそれなら……っておい!』
『あらあら、私が若いですか』
「自嘲みたいなものだ。俺達は老いることができず、朽ちることすらできるか分からない。王国を守ることに誇りを持っていても、今までの選択を信じていても、普通の人生が羨ましく思う時もある」
『そうなのですか?』
「第1世代は特にな。3000年経っても未だにあの頃を夢見たりするんだ」
最も、大抵は悪夢なんだが。
あの日にできた傷はいつまで経っても癒えることが無い。
『……申し訳ございません』
「いや、謝ることじゃない。俺が勝手に言い出しただけだ」
『了解しました。では、これにて』
「ああ、ご苦労だった」
通信を切り、周りを見ると、心配そうに見つめてくる目があった。
「……お兄ちゃん」
「レイ、心配になったのか?」
「うん。でも、大丈夫だよね?」
「当然だ。レイ、俺はお前の何だ?」
「……言わないと駄目?」
「言ってくれないのか?」
「……レイの大好きな最強のお兄ちゃん」
「ああそうだ。その最強のお兄ちゃんを信じてくれ」
「もう!結構恥ずかしいんだからね!」
まあ年齢1桁の時だからな。だが、こうやって赤くなったレイも可愛い。
「さてと、さっさと始めるぞ」
「どこまで編集しますか?」
「どうせ娯楽番組が使うだろ?だったら、こっちで素人でも見やすいようにしてやろう」
「でも、お兄ちゃんがやれることってないよね」
「そ、それは……」
「先生は遅いですから」
「ぐっ」
「……ごめん、邪魔」
「うっ」
「先に戻っていてもいいですよ」
「メルナ、お前もか……」
ここぞとばかりに責めやがって……ちくしょう。
「はぁ……俺は部屋で大人しくしてるか」
「あ、戦術的な評価は欲しいですからね」
「先生、お願いします」
「分かってる」
それくらいしかやれないからな……
・ファルドレバトラー
イージスシステムの類似品。大量の敵を同時に捕捉し、マルチロックオンが可能。また操作の全てをシステムに任せることにより、効果的な対空砲火を行うことが可能。大人数で艦を動かす海軍向けのシステムなので、陸軍で搭載されているのは超重戦車のみ。
なお戦略艦隊にも載せられているが、生体義鎧が自前でやった方が効率が良いため、あまり使われない。
・ナノミサイル
マイクロミサイルよりさらに小さなミサイル。主に対歩兵用。
マイクロミサイルより小さいからこの名前になっただけで、別に大きさが艦載ミサイルの10億分の1というわけではない。
・バーディスランド王国人
平均寿命は150歳だが、肉体の老化のスピードは地球人と異なる。
0〜20歳は地球人と同じだが、20〜100歳は地球人でいうところの20〜40歳と約5分の1。なので92歳のスタッカート元帥も、地球人的にはまだまだ若い(王国的には定年間近)。
100歳以降は地球人と同じスピードになるので、150歳の時は地球人だと90歳。
また王国は医学もとても発達しているため、老衰と事故での即死以外の死因がほぼ存在しない。というか、風邪や持病になることもまず無い。そしてなったとしてもすぐ治る。




