第15話
新王国歴7267年5月1日
「……父さん」
『言うな。分かってる』
「いや、言わせてくれ」
司令長官執務室で受けた連絡は、愚痴らないとやってられない内容だった。
海軍との演習は慣れたことだけどな……
「流石に、休暇明けにいきなり30ヶ艦隊は無茶苦茶だろ……」
『それも分かるが、3ヶ戦略艦隊にも勝ったからできるだろう?』
「今日のは10倍近いじゃないか。機動兵器だって3倍以上いるんだぞ」
1ヶ艦隊は約100万隻、つまり今回の相手は3000万隻だ。フォルスティン級要塞艦以上の艦はいないとはいえ、総数361万5523隻の戦略艦隊からしたら厳しいことに変わりはない。
もっとも、数だけなら不可能じゃないんだが……
「しかも指揮を取るのが統合艦隊司令2人、それもアウシュトレイ兄妹……海軍総長も本気か」
この2人が相手っていうのが厳しい。
現在でも16個しか席がない統合艦隊司令に、兄妹そろって同時期に任命されるのは王国奪還後初めてのこと。つまり2人には、それに裏付けされた実力があるということだ。
しかも、現在30代と若かったりする。
『問題無いだろう?』
「確かにウチを相手取るならこれくらいは欲しいだろうが……だったら戦術兵器くらい許可してくれ」
そして、これが1番厳しい。
戦術兵器は広域掃討のためのものだが、こっちは主力が要塞艦だ。高出力のシールドでどうにかできるから、互いに使えば損害率勝負でそのまま勝てる。
演習とはいえ、これだけいるなら使ったっていいだろ……身内同士で隠し球なんて無いんだぞ……
『こんな条件になったのには理由があってな……』
え?
「ん?」
『国王陛下がご覧になる』
「はぁ……あの馬鹿」
結局、壮大な艦隊戦が見たいってことか。戦術兵器を使ったってそう大して変わらないってのに。
『ガイル、そういうことは言うな。誰にも聞かれていないからいいものを』
「誰かに聞かれても不敬罪にされるわけがないだろ。自分で言うのもアレだが、シンパが怖い」
『まあ、確かにな。まだ狂信者でないだけマシだろう』
「確かに」
暴走しないし、歓声以外は静かだしな。
『それで、やれるか?』
「やるしかない。まあ、策はある」
『なら、楽しみにしているぞ』
この条件、絶対父さんも関わってるだろ……1人で愚痴を言っても仕方ないか。
とりあえず、艦橋への通信を開く。
「ポーラ、司令書は届いたか?」
『はい先生。海軍30ヶ艦隊との演習の件ですか?』
「そうだ。開始は今から4時間後の12:00、11:30には戦闘準備を出す」
『では、そのように通達します』
「頼む」
今のうちに作戦を考えておこう。にしても、絶対教導艦群とかの特殊艦群がいるよな。第999はいないだろうが……上手くやらないと。
そうしている間にも時間は過ぎていき、昼食後に艦橋へ上がった。
「お兄ちゃん、何なのアレ?」
「上層部揃ってのイタズラだ。どうやら、陛下が見るかららしい」
「やはりそうなりましたか」
「……できる?」
「時間は短いが、まあ何とかな。もう作戦はできてる」
「凄いね。流石お兄ちゃん」
「これが俺の長所だからな……ん?」
「たっだいまー!」
入って来たのはメリーア-ハルシュバイン中将、ウチの艦隊参謀長だ。彼女の後ろには、同じく第11戦略艦隊に行っていた艦隊参謀や航空参謀達がいた。
休暇の開始は俺達と同じだから、どうやら待ち合わせていたらしい。
「あ、ガイルおひさー」
「久しぶりだな、メリーア。それで、これが今日の作戦だ」
「あたいに?」
「ああ。今回のやつは艦の動きが重要だからな。それには目的と航路が書いてあるが、何かマズかったら直してくれるか?」
「そっかー、いいよー」
彼女は戦略艦隊司令長官の座を争った相手でもあり、ノリは軽いが腕は確かだ。
「ポーラ、それに書いてあるものを元に潜宙艦隊の索敵範囲図を作ってくれ。後のためにも、先に発見しておきたい」
「分かりました。少し待ってください」
「急いではいないから、確実にやってくれ。シェーン、今回はお前が1番重要だ」
「……分かった、守る」
「頼む」
「メルナ、いつも通り任せる」
「はい。ガイルも、頑張ってくださいね」
「ああ。海軍の艦も機動兵器も、侮れないからな」
「注意するべきは3種ですか?」
「1番危険なのは超重爆撃機だ。そしてそれを考えると、最も可能性のある作戦は1つに絞られる」
「やっぱり?」
海軍には戦略艦隊の持っていない艦や機動兵器もある。というか、警戒するべきはそいつらだ。
ウチの艦艇は良くも悪くも万能型、状況次第では特化型に遅れを取りかねない。大まかな数しか分かっていない今、注意してもしすぎることは無いだろう。
というか、参加する艦群くらい教えてくれてもいいだろ……ハンデが重過ぎやしないか?
「そんな中で、艦隊間距離は200万km……これだけはこっちに有利なんだよな」
「遠望交戦距離ですからね」
「……艦隊は?」
「最初から戦艦と要塞艦を前に出す。他の出番はまた後だ」
いくら数十万から数百万kmの砲撃戦に対応しているとはいえ、磁界や重力などの影響で狙った所に当たるとは限らない。だからこそ射撃諸元は常に訂正しなければならないし……そしてその点において、俺達戦略艦隊に勝るものはいない。
まあ、これを埋める手段なんていくらでもあるから、油断はできないんだが。
「ねえお兄ちゃん、航空部隊は?」
「最初は直掩だけだ」
「えー?」
「すぐに忙しくなるぞ」
「うん。分かってるけど、言ってみた」
「おいこら」
「だって多いもん」
まあそうだけどな。
「確かに数は驚異だ。艦と機動兵器の性能は変わらないから、消耗戦に抑え込まれたら勝ち目は無くなる。技量以外の全てで俺達が不利と言ってもいいな」
「では、どうするのですか?」
「決まってるだろ?」
圧勝する方法は、無いわけではない。
「局地的な有利を作って、一方的にハメ殺せばいい」
できるかどうかは少し微妙なんだが。
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「5、4、3、2……時間です」
「戦闘用意、全艦砲撃開始」
宇宙空間での砲撃では、諸元の設定が重要だ。
だが200万kmも離れていると着弾まで現実でも6秒以上、思考加速装置を使うと1時間近くかかる。着弾してからの修正は現実的ではない。
そのため、別の2つの方法が使われる。
1つ目は、レーダーから得られる情報を元に変化量を予測する方法だ。基本的には、初弾から10発程はこれが使われる。
「全艦砲撃開始。エラーは認められず」
「航空部隊、全機緊急発艦準備完了」
「潜宙艦隊、全艦規定深度への潜行完了」
そして2つ目は、撃った後の弾道を元に適時訂正していく方法だ。レーダーは一瞬で情報を届け、射撃コースも映る。だからこそ取れる方法だ。
なお、発射した粒子の詳細なデータが無ければ追えないため、敵弾を回避するためには使えない。粒子奔流は宇宙にありふれてるから、敵弾かどうかの判別は至近距離じゃないと無理だな。
この2つは基本的にはオートだが、生体義鎧なら1万隻からの情報を元に、さらに追加で修正することも可能だ。そして戦略艦隊の場合、アーマーディレスト級要塞艦に搭載されている大型レーダーから得られる膨大な情報を元に、諸元を変更できる。
その結果として得られる遠距離での砲撃精度は、海軍に比べて圧倒的に高い。海軍の方も撃っているが、命中しそうな弾は少なかった。
「だからこそ、奇策に出てくる……ポーラ、周辺の空間データに異常は?」
「今はありません」
「ガイル、来ますよね?」
「必ず来る。このままだと、近づけずに全滅するだけだ。そして、あいつらはそんな愚を起こしたりしない」
「そっか」
「それより、砲撃精度はどうなってる?特にシールド艦と砲撃戦艦、及び各種要塞艦を狙ってるものだ」
「着弾確率予測は60%、シールド艦は76%、砲撃戦艦は71%、要塞艦は平均して……83%です」
「低い。シールド艦は要塞艦2隻で確実に仕留めていけ。砲撃戦艦には大型戦艦で対抗しろ」
互いにステルス装置を使っているが、ほとんど意味は無い。
第1戦略艦隊は旗艦のレーダー出力が高いおかげで、軽駆逐艦がステルス装置を全開にしても簡単に分かる。
海軍からしたら、巨大過ぎるアーマーディレストなんてバレバレ、ラファレンスト級だってステルス装置はあってないようなものだろう。
だが、砲撃精度を低下させる効果はあるため、無意味ではなかったりする。
それにしても、今すぐ来るわけでもなさそうだし……頃合いか。
「潜宙艦隊、所定の行動を開始しろ」
「了解。潜宙艦隊は所定の行動を開始してください」
「砲撃精度を高めるぞ。メリーア、艦隊陣形を広げて砲撃可能場所を拡大させろ。どうやら、艦隊の一部が太陽風の影響で狙いづらいらしい」
「りょうかーい」
「……攻めてきたら?」
「対策は取ってあるだろ?心配するな」
「ミサイルはどうするの?」
「撃たない。この距離だと時間がかかりすぎる」
「向こうが撃ってくる可能性もありますよ?」
「その前に終わらせるからな。そのための作戦だ」
艦の密度を減らしつつ、陣形を組み替える。状況に応じた指示変更は、指揮官の必須技能だ。
そして、こちらが陣形を変えたことは向こうも分かったはずだ。だが海軍は動かない。
そうこうしているうちに、もっとも速い陽電子砲が着弾する時間になった。
「陽電子初弾命中まで、3、2、1、着弾」
「命中率は?」
「初弾は61%、第2弾は63%です。また重粒子砲も着弾、命中率は62%、陽電子砲と合わせて敵艦の0.1%を撃沈しました。そのうち、シールド艦は21隻です」
「まだまだ少ない。重力子砲の補正はしっかりやらせろ」
0.1%ということは、約3万隻。だがこれで沈むのは、大半が巡洋艦以下のシールドの薄い艦だ。
特に集中した場合以外では、重力子砲が無いとシールド艦は沈めにくいからな。
「それで、こっちの被害は?」
「不運な軽巡洋艦が1隻沈んだのみです。被弾率は18%ですが、戦艦及び要塞艦のシールドを突破するほどではありませんでした」
「分かった。艦隊陣形を再度変更、突型3層円盤陣だ」
「はいはーい」
「ポーラ、今までに得た結果から砲撃に影響する因子についてのデータを整理しろ。出来次第艦隊全体へ共有だ」
「了解です」
近距離になれば敵弾もレーダーに映るが、回避するには遅すぎる。そのため砲撃で得た各種データを元に回避運動と砲撃を行い、敵弾に耐えながら自軍の有利を作っていくのが、今の艦隊戦だ。
それらのデータを艦隊用に纏めるのは大変な作業だが、生体義鎧なら、それもポーラほどの情報処理の達人なら、片手間でもできる。
と、その片手間が終わった所で、予想が当たったらしい。
「先生来ました!全方位に亜空間ワープの反応あり、航空部隊です!」
機動兵器の亜空間ワープ装置は艦載の物より性能が低く、最大距離は短いし時間もかかる。事前に分かるのは本来駄目なんだが……艦隊との距離を一気に縮める有用な戦法となるのは確かだ。
第1戦略艦隊は機動兵器を出していないから、防空戦闘で劣ることは無いだろう。ただ、数はこの1波だけでもこっちの総数より多そうだ。
出てくるまで……大体100秒、十分だな。
「対空戦闘。制空戦闘機、戦闘攻撃機は全機発艦」
「艦隊運動はこっちが指示するから従って!防空多重球形陣へ移行!」
「……アーマーディレストも対空戦闘……陽電子砲、対空レーザー砲、ミサイル発射管の半分をわたしに……」
「航空部隊の防空行動は全てアーマーディレストで管制するから、全部こっちに送ってもらってね」
レイとシェーン、そしてメリーアが準備を始める。戦闘艦・要塞艦が防空戦闘の準備をし、機動兵器は直掩につく。このアーマーディレストだって旗艦だからと守られる側ではなく、むしろ積極的に狩る側だ。
ん?ハーヴェ?あいつは艦隊戦は専門外だから、揚陸参謀達と一緒に情報処理をやらせてる。まあ、暇してられる人員なんていないからな。
それにしてもこの反応だと、編隊編成はウチとほぼ同じか?いや、高速爆撃機もいるな。だが……本命は次だろう。
とはいえ、今はこっちの対処だ。
「出現と同時に短距離対空ミサイル斉射、その後はクラスターミサイルに切り替えろ」
「ガイル、砲撃は私が見ておきます」
「ああ、頼む」
「ええ、任せてくださいね」
対空戦闘中でも砲撃は続ける。諸元はオート入力に切り替わるが、今までのデータを使えば命中率90%はいけるだろう。少しでも早く数を減らしたい。
そうこうしているうちに、タイムリミットが近づく。この陣形だと外に布陣している艦に被害が大きいかもしれないが、許容範囲内に収まるだろう。
というか、抑えるのが俺達の仕事だ。
「敵航空部隊出現!数、30億以上!」
「短距離対空ミサイル斉射。陽電子砲、対空攻撃開始」
「攻撃開始!」
航空部隊は砲撃戦中、余計な被害を減らすために母艦に入っていた。
だが迅速な出撃により、ほぼ全機が配置についている。問題は無い。
「全艦短距離対空ミサイル発射完了。敵航空部隊も迎撃態勢を取っています」
「対艦ミサイルは?」
「造成はされているようですが……今、発射されました」
「迎撃しろ。ミサイルは全て対空迎撃に使え」
対艦ミサイルのランダムな回避パターンに合わせ、各種迎撃ミサイルも複数のパターンを描いて接近していく。そして近接信管で炸裂、多くの対艦ミサイルを誤爆させる。
第1波を抜けたものにも第2波、第3波が襲いかかり、大きく数を減らす。それを抜けても各艦の対空レーザーによって撃ち落とされていき、着弾したものはとても少ない。この程度なら許容範囲内だ。
やっぱり、遠距離から撃ったらこの程度だな。そして、近づいたとしても……
「メリーア、誘い込めるか?」
「陽電子砲でやっちゃうー?」
「ああ。拡散させて、まとめて消し去れれば最高だ」
「おっけー、少し待っててー」
「殲滅も好きなタイミングでいい。任せる」
メリーアはこういった対空戦闘の指揮も上手い。条件が揃えば1度に10万機くらい、まとめて消してくれるだろう。
そして、旗艦を守る最後の砦は艦長そのものだ。
「シェーン、どうだ?」
「……問題ない……少ないくらい」
「ならこのまま頼む。できるなら他の艦も援護してやってくれ」
「……大丈夫、できる……」
この巨艦の武装は、生体義鎧が数十人で操るように設計されている。これでも生体義鎧の同時操作能力を存分に発揮させたんだが、他の艦に比べて多くの人員が必要なことは確かだ。
だがシェーンは、全武装の約半分を1人で操ることができ、他者を圧倒する防空戦闘の展開が可能になっている。
なお、当人は100ごとのブロック化だとかグループ管理とか言ってたが、他に誰も真似できていない。というか、どういう思考回路をしてるんだ。
っと、忘れないようにしないとな。
「レイ、囲み始めろ」
「もう?」
「そろそろ撤退するはずだ。というか、もう3割は落としてるぞ」
「あ、本当だ。数字見忘れてた」
「忘れるな」
数字を忘れて殲滅するってのがあり得るから、レイも規格外なんだが。囲まれ始めているのに向こうも気づいたのか、前衛を厚くしつつ下がっていく。
そろそろ亜空間ワープで逃げるか。
「敵航空部隊、撤退していきます」
「追撃しろ。できるだけ数を減らせ」
「了解」
亜空間ワープの直前が最も狙いどきだ。反撃のできない無防備な状態なんだからな。そして、誰も容赦なんかしない。実戦では容赦なんてしてもらえないから。
この追撃自体はすぐに終わったが、与えた損害は戦闘と変わらないほど甚大だ。
「終わったな。被害は?」
「撃沈及び大破の割合ですが、航空部隊は7%、巡洋艦以下は3%、戦艦・空母・揚陸艦は0.5%です。ですが中破以下も含めると、この3倍になります。要塞艦に撃沈と大破はありませんが、スティアレグラ級とニーランレント級は合わせて19隻が中破、41隻が小破しています。それ以外に被害はありません」
「中破以下は自力で直せ。大破はアーマーディレストかフォルスティン級に入り、修復しろ。撃墜された機動兵器も、制空戦闘機を優先して再度造れ」
「了解しました」
全艦に修復用の元素操作装置があるから、大破だって勝手に直る。それだと時間がかかりすぎるから、ドックに入れるだけだ。大破していても、しばらくすれば戦線復帰できるだろう。
ただ、これだと機動兵器を造るのは間に合わない可能性もあるが……やらないよりはマシだな。
「それで、敵の撃破率は?」
「撃墜だけで56%です。大破も含めると、1.5倍程度にになるかと思われます」
「だが、最低でも5億機は無事ってことだ……もう少し落としておきたかったな」
戦略艦隊に搭載されている飛行型機動兵器と同じだけの数を撃退したとはいえ、今回の海軍にはまだこの倍以上の部隊が残っている。
厳しくなりそうだ。
「メルナ、砲撃の結果はどうだ?」
「命中率は67%、落としたのは敵艦の11%ですよ」
防空戦の間も続いていた砲撃だが、どうやら有利に進めれていたようだ。ただ、こちらもかなりの被害が出ている。
片舷に大量の陽電子砲が着弾し、火球に飲み込まれた重駆逐艦。
正面装甲を重粒子砲に貫かれ、ジェネレーターの暴走で内部から爆発した軽巡洋艦。
運悪く要塞艦クラスの重力子砲が複数直撃し、抉れた艦体を膨大な熱によって蹂躙された高速戦艦。
似たような光景は艦隊のあちこちで起こっている。気を抜けば、すぐに劣勢となるだろう。
「予想より低いな」
「シールド艦が前に出たためでしょう。そのためシールド艦の84%を撃沈することに成功しましたが、完全にオーバーキルでしたから」
「……陽電子砲の命中分布から逆算されたな。なかなかやる」
「はい、そう考えられます。動き始めるタイミングが明らかに早いです」
「ポーラ、この後も解析とデータの更新を頼む。できるなら、砲撃コースの精査も進めてくれ」
「分かりました」
さらにいくつか指示を出しつつ、待つ。この距離での砲撃戦はこちらが有利だから、焦る必要は無い。罠を作って待ち構えているべきだ。
そうしていたところへ、ようやくその報告が来た。無くても大きな問題にはならないよう手は打ったが、やはりあった方が良い。
「敵潜宙艦隊発見!」
「場所は?」
「方位121.83,94.27、距離1万km。こちらの潜宙艦隊とは離れています」
「予想より近いが、好都合だ。潜宙艦隊以外の全艦は魚雷発射用意。一斉射で仕留める」
「は!」
こちらの潜宙艦隊が邪魔をされては、作戦が崩れる。一気に攻め立てて殲滅するのが最良だ。
すぐに準備は完了し、全艦から一斉に魚雷が放たれる。
だが……
「……何か、あった?」
「何か気になるな。ポーラ、敵潜宙艦隊の数は?」
「約3000隻の艦隊が5つです。要塞艦は確認されていません」
「少ないか?いや、詳しいことは……全艦、敵潜宙艦隊が他にも潜んでいる可能性がある。気を抜くなよ」
「敵潜宙艦隊が気付いた模様。迎撃ミサイル、発射されました」
「被害は?」
「魚雷撃墜率、4%。迎撃ミサイル第2陣、来ます」
「たった4%、足りませんね」
「ああ。2陣も5%は超えないだろうし、それ以降は撃てない」
「迎撃ミサイル第2陣、撃墜率3.5%。魚雷着弾まで、5,4,3,2……着弾!」
「戦果はー?」
「少しお待ちください……撃沈68%、大破29%、中破が3%です」
「へぇ、結構いいねー」
「ですが、中破では完璧ではありませんね」
「お兄ちゃん、2発目行く?」
「ああ。魚雷の数はさっきの3割でいい。斉射準備が終わり次第撃て」
「りょうかーい」
そして2射目で敵潜宙艦隊は全滅する。
ただ、潜宙艦隊がたったこれだけ……1.5ヶ艦群分とは少ないな。牽制には多く、攻勢には少ない、そんな微妙な数でしかない。
まさか、こいつらは囮か?なら本隊がどこかにいるはずだが……
「亜空間ワープ反応を確認。航空部隊、いえ……大きな反応もあります!」
「ガイル」
「お兄ちゃん、超重爆撃機がいるよ」
「いや、それだけだと分かりやすすぎし、不自然な隙間もある……フリゲート、水雷高速駆逐艦、水雷高速巡洋艦もいるぞ。全艦敵艦隊への砲撃を停止、対空対艦戦闘用意。航空部隊全機発艦」
予想した中でもかなり嫌な手を使うな。
だが単独とは解せない……今の潜宙艦隊と連携するつもりだったのか?
「敵航空部隊、戦闘艦混成群出現。数……85億以上!」
「残り全てを出してきたか。総員、死ぬ気で迎撃しろ」
「「「了解!」」」
「短距離対空ミサイル一斉射!」
これを凌げばほぼ勝ちだ。意地でも負けるなよ。
「メルナは敵水雷艦隊に対するの砲撃指揮、メリーアは同じく防空行動だ。頼むぞ」
「はい」
「おっけー」
「シェーン、レイは変わらず続けてくれ」
「うん!」
「……任せて」
「それとポーラ」
「何でしょうか、先生」
「潜宙艦隊の誘導を頼む。そろそろ厳しくなる頃合いのはずだ」
「分かりました」
戦闘艦と機動兵器、残りのほぼ全力であろうそれらは数が多い。だが集団である以上、明確な狙いがある。
そして俺達は戦闘宙域のレーダー情報を見て、この攻撃の狙いを探っていく。戦術とは、極論で言えば思考の読み合いだ。
「こっちの機動兵器はこうだから、これをこう……」
「こう動けば来てくれる……来た!」
「まず狙ってくるのはアーマーディレストか……レイ、対処は?」
「変則的だけど、3重の防空網を敷いてるよ。あとはシェーンお姉ちゃんかな」
「……任せて」
艦隊の防御はもう任せた分で良いだろう。ただ……まだ何か気になるな。
気のせいかもしれないが、問題ない範囲で探すべきか。
「ポーラ、他に敵潜宙艦隊はいるか?」
「分かりません。ですが、潜宙艦隊は順調に航行中です」
「見つかったような様子は?」
「ありません。ソナーの反応も変わりなしです」
なら、本当に気づいてなさそうだ。
幸いだが……今ここを守りきらないとそれが無駄になる。
「超重爆撃機1万機編隊が2000、本艦を狙っています!」
「シェーン、恐らく重力子弾頭だ」
「……落とす」
海軍の持つ機動兵器の中でも、超重爆撃機は特にマズい。フリゲート、潜宙戦艦と同じ大型対艦ミサイルを1発造成できる。
あれだけの数から同時攻撃を受けるとなると、この艦も一瞬で沈みかねない。
ただ……当たれば、だけどな。
「超重爆撃機撃墜率、1%、3%、6%……」
「大型対艦ミサイルが発射されました!」
「……まだまだ」
突破するには、少し数が足りないみたいだ。このアーマーディレストの対空戦闘は、他の艦とは比べ物にならないぞ。
シェーンは各種ミサイルの中から3種の対空ミサイルとクラスターミサイルを使い分けて迎撃し、さらに陽電子砲を対空モードで使用して広範囲を薙ぎ払っている。大型対艦ミサイルにはシールドが張られているが、この艦の陽電子砲なら拡散してても撃ち落とせるし、マイクロミサイルでも複数発使えば破壊できる。
威力の低い対空レーザーでも、数を集めればどうにかできるからな。
「66%、72%、78%……」
「95%を超えたら大型対艦ミサイルは無視していい。超重爆撃機を集中して狙え」
「……了解」
危険域以下になれば、シールドで全て防げる。それよりも第2次攻撃を警戒するべきだ。まあ、本気のシェーンを抜くには……最低でもこの5倍は必要だな。
それに、航空部隊もよくやっている。
海軍の制空戦闘機が大量のマイクロミサイルを陽電子ガトリングとレーザーで迎撃するが、その隙に重爆撃機の重力子ランチャーによって撃ち落とされた。
その重爆撃機へ制空戦闘機と戦闘攻撃機の編隊が襲いかかるも、急接近した制空戦闘機15機がレーザーソードで切り捨てる。
海軍は約100機のマイクロミサイル一斉射で撃ち落そうとするが、重爆撃機1機を犠牲にしてそれを防いだ。
撃墜数は航空戦だけでも、戦略艦隊が1に対して海軍が10、上等だ。
「敵水雷艦隊はどうだ?」
「やはり機動兵器ほど苦戦はしませんね。戦艦以上の砲が当たればほぼ1撃で、こちらの方が数も多いですから」
「だが、油断はするなよ。特にフリゲートにはな」
「ええ、もちろんですよ」
メルナはこう言ってるが、水雷艦隊の相手だって大変なことは俺達もよく知ってる。特にこの第2波で来た戦闘艦のうち、フリゲートだけは戦略艦隊にも配備されている。
機動兵器より遅いとはいえ、小型艦なのでかなり速い。また投射可能火力は、水雷系戦闘艦の中で唯一大型対艦ミサイルを搭載していることにより、とても高い。
そのためだろう、メルナも優先して砲撃で潰していた。
だが、狙われているのはアーマーディレストだけでは無い。それに防空戦闘を行っている機動兵器にも被害は出ている。
損害は許容損耗率以下とはいえ……予想より多いな。気は抜けないか。
「超重爆撃機が他の艦……ラファレンスト級に行くぞ。迎撃しろ」
「あ、はーい」
「おっけー」
「水雷艦隊も向かっているようですね。迎撃させておきます」
「頼む。ポーラ、潜宙艦隊の到達率は?」
「現在86%です。この第2波が終わる頃に到着すると思われます」
「なら、なおのこと凌がないとな。クラスターミサイル50%斉射。超重爆撃機を狙え」
「了解」
遠距離から放たれたミサイルが機動兵器に当たることはそう多くない。数で圧倒することもできるが、迎撃されてしまうものが大半を占める。
空間ごと薙ぎ払うつもりだったが、上手く越えられたな。
「撃墜率は6%です」
「少しタイミングをずらした程度か……来るぞ」
「全艦、防空戦闘よーい」
「全航宙部隊、ミサイルを迎撃して!」
「重力子砲、重粒子砲も対空戦闘に使ってください」
そして、大型対艦ミサイルが雨あられと降ってきた。さっきはシェーンがいるアーマーディレストを狙ってきたから防げたが、20隻もいるラファレンスト級を守ろうとすると、どうしても死角が無視できない。
ラファレンスト級からも大量の対空砲火が飛び、シェーンも撃ち続けるが……
「め、|第2戦術艦隊旗艦《メルティ-スランディート》轟沈!」
ちっ、迎撃しそこねたか。
「第2戦術艦隊の残存艦艇はアーマーディレストの直掩に回せ。レイ」
「爆撃機と重爆撃機、あとファルバーンの迎撃がメインだけど、こっちの被害も大きいよ。というか、こっちの爆撃機と重爆撃機がやられてるもん」
「損耗率は?」
「爆撃機が19%、重爆撃機が27%だよ」
「それなら続けさせろ。帰還は40%を超えてからだ」
「はーい」
ラファレンスト級がここでリタイアするのは火力的に辛いが……1隻で済んでよかった。
許容範囲は3隻だが、被害は少ない方がいい。
「再集結地点を狙え。恐らく、1000ヶ所以上に分かれて集まるはずだ。流動的にな」
「……重力子砲、陽電子砲、用意……ポーラ、分析お願い……」
「分かりました。各機動兵器の予想進路を算出、集結地点は……この2438ヶ所です。時間も併記します」
「良くやった。シェーン、レイ、メリーア、頼むぞ」
「うん。割り振りは……これでいいかな」
「ミサイルよーし、陽電子砲拡散よーし、重力子砲よーし。シェーン、いいよー」
「……斉射」
拡散モードの陽電子が放たれ、射線上の広範囲を薙ぎ払う。重力子砲も直撃した機動兵器を圧縮し、避けられない破壊を生みだす。
さらに砲撃から逃げた相手はミサイルが追い、混乱に漬け込んで相当数を落とす。
「追撃だよ!」
さらに機動兵器、特に制空戦闘機と戦闘攻撃機が追撃をかけた。これが他の戦略艦隊ならすぐに立て直すんだが……練度が高いとはいえ、流石に海軍じゃ無理か。
ちなみに、既に7割以上減っていた水雷艦隊も、流れ弾で完全に壊滅した。現在バラバラに撤退中だったりする。
「今のうちに数を減らせ。短距離対空ミサイル一斉射」
「全砲門角度合わせー、てー!」
「……発射」
なお、この指揮所で口に出てる言葉はほんの僅かなもの、実際はこれの1000倍以上忙しい。
その努力のおかげで第2波は壊滅し、僅かな残存戦力も亜空間ワープで逃げていった。
「……終わった?」
「終わりました、よね?」
「先生、これで終わりですか?」
「ポーラ、レーダーを見れば分かるだろ?凌ぎ切った。それで、損耗率は?」
「機動兵器は34%、巡洋艦以下は23%、戦艦・空母・揚陸艦は12%に増加しました。また、|第2戦術艦隊旗艦《メルティ-スランディート》を筆頭に要塞艦が24隻撃沈、その影響で約3000隻の戦闘艦と約300万機の機動兵器に操縦者がいなくなりました」
「それは手持ちが減った連中に割り当てろ。種類が違ったとしても、上手く使うだろうな」
「了解です」
直接操作していた要塞艦がやられても、アーマーディレストを介せば他の艦から動かせる。割り振るまでは案山子なのが痛いが、まあ仕方のないことだ。
それよりも、この段階で|第2戦術艦隊旗艦《メルティ-スランディート》が沈んだのはやっぱり痛いな。沈んだのは1隻だけで、最初の砲撃戦で多くのシールド艦と戦艦を撃沈させ、機動兵器の相当量を撃墜したとはいえ、火力の低下は無視できない。
海軍の戦力はまだまだ残っている。
「大破した戦艦の修復、急げるか?」
「可能ですが……間に合うかどうかは分かりません」
「構わない。保険だからな」
「分かりました。優先順位を変更しておきます」
「頼む。それとメルナ、砲撃を再開させてくれ」
「はい。ですが、いいのですか?邪魔になると思いますよ」
「こちらの意図を察知されるよりはマシだ。それに砲撃のある方向に逃げても、被害はほとんど減らないだろうな」
「お兄ちゃん、航空部隊も準備する?」
「航空部隊は艦隊と同時だ。今は修理を優先しろ」
「はーい」
しばらくは砲撃戦だが、これは時間稼ぎにすぎない。
そうこうしているうちに、作戦の準備が全て整った。
「潜宙艦隊が配置につきました」
「よし。第2段階、潜宙艦隊魚雷一斉射。ハーヴェ」
「おっしゃ!潜宙艦隊全艦浮上、敵旗艦へ向けて重装揚陸艇を出せ!」
この間の演習では失敗したものを、俺達が完璧な形で見せてやる。
最初に大量の魚雷で奇襲を行い、海軍には魚雷の対応で慌てさせる。そしてその間に潜宙艦隊は浮上、重装揚陸艇や他の機動兵器を発進させ、再度潜った。
「重装揚陸艇全機順調に飛行中」
「航空部隊、敵直掩機との戦闘を開始しました」
「敵旗艦を確認、各重装揚陸艇は突撃を開始」
「迎撃により、撃墜率3.1%」
「機動兵器を援護に回して。絶対に守りきるんだから」
「重装揚陸艇、1機目が取り付きます!」
敵旗艦、指揮能力の高いハルヴェスティ級要塞艦のユン-ゴルディレスに重装揚陸艇が取り付き、シールドを干渉させて内側に入っていく。あの様子なら、10分もしないうちに部隊を突入させられるだろう。
重装揚陸艇のいくつかは飛行型機動兵器に排除されるが、大半は潜宙空母や潜宙揚陸艦から発艦した航空部隊が阻止していた。
「今だ。第3段階、混乱している所を突く。全艦、敵艦隊周囲へ亜空間ワープ。航空部隊は亜空間ワープ終了後に即発艦、包囲殲滅だ」
そして、旗艦以外はこっちが叩く。
機動兵器も母艦に乗って亜空間ワープし、その後発艦するからバレにくい。艦艇なら、亜空間ワープはすぐだしな。
「全艦、亜空間ワープの準備が完了しました」
「航空部隊も終わったよ」
「分かった。亜空間ワープ開始」
亜空間を経由し、海軍艦隊を包囲するように布陣した。潜宙艦隊の奇襲を受けた向こうは、いつもと比べて動きが鈍い。それも当然だが見逃したりはしないぞ。
ただ、デブリが多いな。大破した機動兵器や戦闘艦のものがここまで……まさか。
「っ⁉フリゲート12隻撃沈、軽駆逐艦5隻撃沈、さらに重駆逐艦3隻撃沈!他の艦もシールドに攻撃を受けています」
「なんで⁉」
「機雷だ。対空レーザー砲で迎撃、陽電子砲を使って薙ぎ払え。ミサイルも重力子弾頭で短距離対空ミサイル50%斉射。それと、ソナーに注意しろ。もしかしたら潜宙艦隊がここに……」
「ソナーに反応!敵潜宙艦隊です。5000隻の艦隊が17個、本艦隊を囲むように布陣。リーシェンティア級要塞艦も80隻確認」
「さらに包囲ってことか。重巡洋艦以下の艦に対処させろ」
「いいのですか?」
「中は砲撃でかたがつく。ワザワザ突入させる必要は無い」
いつもより少し広めにワープさせておいて良かった。
レーダーには、海軍艦隊を包囲するかのように機雷を含むデブリ群が映っている。機動兵器は避けながら進めるが、戦闘艦は無理だから、迎撃するしかない。それにしても、予想より派手だな。
コルベットが出ていなかったのはこのせいか。ギリギリまで機雷をばら撒いていたな?
それより、ここまで読まれていたのが誤算だ。旗艦の制圧がバレてなかっただけマシか。まあ、俺がよくやる手の対策をするのは当然だな。
「重装揚陸艇、ハッチ解放。装輪装甲車、多砲塔戦車を発進させました」
「突入場所の確保は?」
「シールドの下で機動兵器用ハッチをレーザーソードで切断中。まもなく突入できます」
「しっかり歓迎されるはずだ。油断するなと伝えろ」
「了解」
発艦ハッチは機動兵器が出るための場所で、開閉のためにどうしても装甲は薄くなっている。普段はシールドで守られているため問題にはならないが、シールドの隙間に入られたら弱点になってしまう。
そして、今回はそこを突く。
「機雷除去率68%」
「機雷源が完全に消滅したエリアを出してくれ。そのうちの半分で航空部隊を進ませる」
「了解しました」
ついでに、陽動もいくつか仕込んでおこう。
というかこれは、揚陸部隊が失敗した時の保険の方が近いな。
「突入開始!」
「多砲塔戦車を先頭に突入。防衛線を確認しました。制空戦闘機と戦闘攻撃機もいます」
「ハーヴェ、行けるな?」
「当然だぜ。これを抜けれなかったら、生き残れるかってんだ」
「突入部隊、防衛線を突破!」
少し気になったので、その光景をシュミルで再生してみる。
人型形態の制空戦闘機と戦闘攻撃機はマイクロミサイルとロングライフルで迎撃していた。だが、マイクロミサイルは機動歩兵のレーザー砲により迎撃され、ロングライフルは同じく人型となった多砲塔戦車がシールドで防ぎきる。そして反撃で壊滅させた。
いつも通りでなによりだ。
「ポーラ、敵潜宙艦隊はどうなった?」
「30%を撃沈、リーシェンティア級も10隻を撃沈しました」
「もう少しペースを上げさせろ。こっちの潜宙艦隊の半分を向かわせても構わない」
「了解です」
もう既に、通常艦隊はほぼ抑え込んでいる。
潜宙艦があれば沈めるのが楽になるが、他に抑えなければならない場所があるなら、そっちに向かわせた方が効率は良い。
「突入部隊はどうだ?」
「良い感じだぜ。制圧率34%、他の艦からも歩兵が来てるみたいだが、あいつらの敵じゃねぇ。隔壁に足止めされてるだけだ」
「なら任せる」
「おうさ」
「エース連中もいるし、何も言わなくても勝手にやりそうだけどな」
重装揚陸艇で突入させた機動兵器や歩兵を操作している連中は、本来の面々からエースに代えている。それに、余剰スペースに何機か追加しておいた。艦隊旗艦の要塞艦とはいえ、1隻に対してこれは過剰戦力かもしれないな。
基本的には機動兵器や戦闘艦の方しかやらないが余裕もあるし、歩兵部隊の……重装歩兵の視界を借りてみる。
「またこれは……」
そこに映っていた光景は、蹂躙だった。重装歩兵はシールドを張った盾に隠れながら大口径陽電子ガトリングで通路を削り、大口径重力子ランチャーで隔壁ごと兵を消したりしている。海軍側が反撃しようと出た時にはもう消滅していた。
次に軽装歩兵と同期させてみる。
「滅茶苦茶だな」
ステルス装置の出力が高いことを生かし、他2種とは別の通路で暗殺を繰り返していた。海軍も同じ3種類のパワードスーツを使っているのだが、ウチのエースは人の気配を読むのが上手い。
というか、艦内戦を重視していない海軍に相手ができるはずもない。
そして最後に、機動歩兵を覗いてみた。
「……最早イジメだろこれ」
艦内は狭いためスピードは出しにくいが、専門家なら問題ない。重装歩兵がこじ開けた穴に突っ込み、レーザーソードで蹂躙したり、陽電子機関銃で蜂の巣にしたりしている。
と、どうやら顔に出ていたらしい。
「お兄ちゃん?」
「ガイル?どうしましたか?」
「突入部隊の様子を直接見ただけだ。相手が海軍だから、やり過ぎな気がしたせいだろう」
「余裕があるの?」
「1つだけな。流石にハーヴェ達と同じようには無理だ」
突入部隊の全体を把握しているのは、ハーヴェと揚陸参謀達くらいだろう。
オペレーター達は自分の担当グループに絞る場合が多いため、全体を見る余裕はあまりない。
宇宙用か地上・艦内用かの違いだけで、やってることは俺達と変わらないものだ。
「ゼスティレン中佐から通信、敵旗艦ユン-ゴルディレス艦橋を占拠。第5方面艦隊司令レックス-アウシュトレイ元帥、第9方面艦隊司令ミーシャ-アウシュトレイ元帥、両名の拘束を確認しました」
リエルがやったか。流石だな。
「降伏勧告は?」
「それは……今、降伏勧告が受諾されました。我が艦隊の勝利です!」
その瞬間、歓声が上がる。数の差に苦しめられたからか、余程嬉しいようだ。
まあ声こそ上げないものの、俺も同じだが。
「戦闘体制解除。皆、良くやった。ポーラ、ウチと海軍双方の戦力損耗率はどうなった?」
「第1艦隊が28%、海軍が82%です。内訳も読み上げますか?」
「いや、それは後で送ってくれればいい。それより、王族御座艦1番艦に通信を繋いでくれ。父さんが乗っているはずだ」
「了解です」
こっちが連絡を入れなくても、絶対に何か言いにくる。なら、俺からかけた方がマシだ。
と考えていたが、ポーラが繋ぐ前にメインモニターに父さんの顔が映し出された。遅かったか。
『ガイル、流石だな』
「いや、潜宙艦以外は読まれていたからまだまだだ。やっぱり、海軍も上手い」
『勝ったのはお前だぞ。もっと誇れ』
「そう誇れることじゃない。仕方ないとはいえ俺は兵の質で勝負していただけだ。ほぼ予想通りにことを運んでいたけど、戦術としてはそう高いわけじゃない」
『確かにそうかもしれない。だが、謙遜しすぎではないのか?』
「海軍を褒めてるからな」
『では本当のことを言え。上官命令だ』
「はぁ……数に対処することに慣れた第1戦略艦隊を相手にして、ただの物量戦術に出るなら酷評してた。だが、アレは囮だったからな。俺が上手く誘い出された。いくつか打っておいた予防策を使う羽目になるとは思わなかった。それに負けたからって、海軍が弱いってわけじゃない。実戦無しであの練度は称賛ものだ」
『なるほど。どうでしょうか、陛下』
『ふむ、素人ではよく分からぬが、シュルトハイン元帥が言うのであればそうなのであろうな』
っと、すぐ近くにいたのか。
いつもと場所が違うから気づかなかった……というかなんで応接室にいる?会議室とか謁見室とかあるだろ。
「陛下、挨拶が遅れてしまい申し訳ございません」
『よい。余は見ていただけであり、批評する立場では無いのだからな』
「は、ありがとうございます」
『とはいえ、海軍もなかなか精強と見える。素晴らしいな』
「はい。我々抜きでも、問題は無いでしょう」
『そう申すな。余らがそなたらを排斥することなどありえぬ』
「いえ、帝国の本拠地を見つけた場合、2度と被害を負わぬように対処する必要があります。その場合は、自分達が行かねばなりません」
『ふむ、確かにそうだな。ではそれまで、兵達の修練に付き合ってくれ』
「了解いたしました」
今の世の者達は、帝国との戦争を知識でしか知らない。
だからこそ、帝国を討つのは俺達の役目だ。
『ガイル、ご苦労だった。では、元の配置に戻ってくれ』
「了解。第3が暇してたらしばいてくる」
『お手柔らかにな』
「1ヶ基幹艦隊も使わないから大丈夫だよ」
もしやるとしても、司令長官同士の簡単な演習で終わらせるつもりだ。まあ、やる必要は無いだろうけどな。
そしてこの艦は既に、システムが演習モードから戻されている。残りは少しのチェックだけだ。
「さあ行くぞ。亜空間ワープ用意」
「了解、亜空間ワープ用意」
「シールド出力問題なし」
「ジェネーレーター出力、最大の70%で安定」
「第3戦略艦隊へ通信、座標確認通知を送ります」
「半亜空間奔流との差異は誤差の範囲内」
「エネルギー制御力場、正常に作動中」
「亜空間ワープ、微小ワームホール展開」
「重力変位、情報と差違なし」
「安全確認完了。全システムオールグリーン」
「亜空間ワープ、準備完了しました」
時間の無駄かもしれないが、これは必要な手順だ。
俺も面倒なんだが、規則になっているから仕方ない。
「亜空間ワープ開始」
そうして、俺達はシュルトバーン星系を後にした。
・バーディスランド王国海軍
約8000億人が所属している、王国最大の政府組織。16ヶの統合艦隊と、完全に軍事用となった秘匿要塞、多数の軍事用宇宙港を保有している。
普段はコロニーや宇宙港の警護、そして海上保安庁のような宇宙の警察としての任務なども行う。
階級は陸軍と同じ29段階。
トップは海軍総長で、階級は上級元帥。
1ヶ統合艦隊は100ヶ艦隊で、艦艇の数は約1億隻で、人員は約500億人。方面艦隊司令の階級は元帥。
1ヶ艦隊は100ヶ艦群で、艦艇の数は約100万隻で、人員は約5億人。艦隊司令の階級は大将〜中将。
1ヶ艦群は5ヶ戦隊で、艦艇の数は約1万隻で、人員は約500万人。艦群司令の階級は少将〜准将。
1ヶ戦隊は5ヶ小艦隊で、艦艇の数は2500〜1500隻。戦隊司令の階級は大佐。
1ヶ小艦隊は5ヶ分艦隊で、艦艇の数は700〜200隻。小艦隊司令の階級は中佐。
1ヶ分艦隊は艦艇の数が150〜40隻。分艦隊司令の階級は少佐。
分艦隊以下の規模は王国海軍の規定にはなく、それぞれの分艦隊で決められる独自のものとなる。なので専用の指揮官はおらず、艦長が兼任する。
戦艦・空母・揚陸艦は艦長が准佐で副長は中尉、大型駆逐艦・巡洋艦・発展型潜中艦は艦長が大尉で副長は少尉、小型駆逐艦・フリゲート・通常型潜宙艦は艦長が中尉で副長は少尉、コルベットは艦長が准尉〜三等曹長で副長は一等軍曹〜三等軍曹。
なお、要塞艦艦長は特別に大佐〜少佐で、必ず戦隊か小艦隊以上の旗艦。なお、要塞艦は戦闘艦数百隻分として扱われている。
機動兵器のパイロットは最高でも中佐まで。なお、1隻の空母の航宙部隊長は中尉が務め、それ以上の階級も必ずより大きな航宙部隊の隊長となる。




