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天翼王国銀河戦記  作者: ニコライ
第1章

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第13話

 

 新王国歴7267年4月29日




「うわぁ……」

「……凄い規模」

「片側だけで1万人集めるゲームも珍しいからな。結構楽しいぞ」

「そうかもしれませんけれど、指揮が大変そうですね」

「経験者が指揮をするという風潮ができています。プレイヤーには軍人も多いですから、問題はありません」


 単一ワールド系のゲームならともかく、ゲーム毎にフィールドを作るものでこの規模は珍しい。

 まあ、そこがこのゲームの売りで、人気なポイントなんだろう。


「ただまあ、俺はそっちに関わる気はないぞ」

「陸戦は違うもんね」

「仕方ありません」

「この時代の海軍なら楽しめるかもしれないけどな」

「その場合、立場は隠すんですか?」

「……自分で言う?」

「場合による」


 前線でも戦ってみたいからな。ゲームだし、自由でいいだろう。

 すると、シェーンが周りを気にしていた。何かあったのか?


「……また増えた」

「今でもまだ7000人程度らしい。今のうちに少し移動しておくか」

「狭くなるでしょうからね」

「たくさん置いてあったもんね」

「土地に限りがないとはいえ、このゲームだけで1フロアを使い切るとは思いませんでした」

「あそこは元々広い。多少整理すればやれるだろ」


 っと、言うのが遅れたな。

 今日、俺達5人はゲームセンターへ、前にポーラとやった第3次世界大戦のリオルゲームをやりにきた。どうしてもやりたいとレイがうるさかった。


「お兄ちゃん?」

「どうした?」

「何か変なこと考えてなかった?」

「失礼な。このゲームでどう動くか、考えてただけだ」


 女って時々鋭いよな……一瞬肝を冷やしたぞ。


「そっか。じゃあ、どうするの?」

「適当にやる。絶対に勝たなきゃならないわけじゃないからな」

「……分かった」

「了解です」

「では、前線で暴れるんですね、ガイル」

「ああ。ただ、人前ではユーザーネームを使えよ」

「もちろんですよ」

「ならよし」


 まあ、全員ゲームはよくやるし、分かってるか。

 ちなみにユーザーネームは前と同じく俺はディレス、ポーラはアーマだ。そして新しく始める3人はそれぞれ、メルナはバディ、シェーンはレスト、そしてレイはアレスと名乗っている。

 全員が兵器から取ってるのは……まあ、仕方ないな。


「それで、武器はそれで良いのか?」

「ええ。私は射撃戦が得意というわけではありませんので」

「わたしも、狙うのはそんなに上手じゃないもん」

「確かにメルナはあまり前線に出なかったし、レイは経験が少ないが、陸軍から見ても十分な実力は持ってるはずだぞ?」

「ですけど、生体義鎧としては下から数えた方が早いですよ」

「まあ、編成としては悪くないし……これでいいとしよう」

「……ディレスは……それでいいの……?」

「俺は大丈夫だ。レストと違って突撃兵みたいな感じだからな」

「お兄ちゃんならできるよね」

「先生は強いですから」

「俺はまあ……ずっと前線にいたからな」


 今日の俺の獲物は、アサルトライフルが1丁、手榴弾が6発とナイフが2振り、そしてサーベルと拳銃が1つずつ。この2つはいつも腰に差しているのと同じサイズだ。

 メルナはグレネードランチャーを持ち、予備武器としてサブマシンガンを2丁持っている。

 シェーンはメルナの護衛らしく俺と同じアサルトライフルで、補給も考えてか弾薬は多めだ。

 レイはショットガンをメインに、拳銃やナイフもいくつかある。

 そしてポーラは前と同じくスナイパーライフル、他は護身用の拳銃だけだ。


「さてと……そろそろゲームが始まるみたいだな」

「動き始めますか?」

「ああ。森の中を移動するぞ。少人数ならその方が良い」

「はーい」

「……了解」


 山岳系の戦場では奇襲を行いやすく、少数精鋭が特に映える場所だ。拠点破壊が目的の1つだし、都合が良い。この移動で周囲から人影がほとんど無くなったが、むしろこっちの方が都合が良い。

 ところが、近くの集団から1人、走ってくる気配があった。もしかして知り合いか?


「兄貴!」

「ん?……誰だ?」


 いや、そんな不思議そうな顔をされても、知らないものは知らない。陸軍海軍とも割と付き合いはあるが、こんな男は知らない。

 というか、兄貴と呼ばれたこと自体がほぼない。


「ああ、忘れちまっても仕方ないっすね。前に兄貴やそこの姉御と戦って、簡単に殲滅されちまったんすから」


 殲滅?……ああ、あの現役軍人組か。そしてその集団は、前に揉んでやった時と同じく今も100人ちょうど。

 もしかして部隊か同期かで参加してるのか?


「ああ、思い出した。それで何の用だ?」

「見かけたからっすよ。前は敵でしたけど、味方ならこれほど心強い人はいませんぜ」

「まあ、実際そうだろうな。それで、軍人がそんな口調でいいのか?」

「流石にこんなんでいやしませんぜ。こういう演技っす」

「なるほど、町のチンピラか」

「せめてギャングとか言ってくだせぇ……」

「分かった分かった」


 そんな三下臭を出されてもなぁ……というか、この演技は100人全員らしい。

 それでそんなボロボロかつ統一性の無い見た目なのか。


「いやー、でも光栄っす。あのシュルっひ⁉」

「誰に聞い……ああ、なるほど」


 正体をバラそうとしやがったから、ナイフを抜いて首に突きつける。

 だがその直後、こいつの後ろに見覚えのある4人組が見えた。


「お前か」

「お久しぶりです、閣下」


 ジンが言ったのか。

 その後ろの3人は……面白そうな顔をしてるな。若干不安みたいだが。なお、プレイヤーネームは本名のままだった。有名人以外はこっちの方が多いらしい。

 流石に、名字や屋号までは入れないそうだが。


「元気そうでなによりだ」

「この間会ったばかりですが?」

「修学旅行の後に体調を崩すってのはよく聞くからな。周りにいないか?」

「います。閣下もそうだったんですか?」

「あの時代、小学生には修学旅行なんてなかった」

「……すみません」

「ああいや、気にするな」

「お兄ちゃん、この子達が?」

「ああ。ジンは元からやってたそうだが……俺との話で3人も興味を持ったから、誘ったってところか?」

「その通りです」


 変わりがないようでなによりだ。

 ジンは俺が相手をするからいいとして、他の3人は……メルナ達のオモチャになりそうだな。


「閣下のことを話してしまってすみませんでした。では俺はアリス達の方に……」

「大丈夫だ」

「え、でも……」

「口出ししない方がいいぞ。いたたまれなくなりたくなければな」

「何があったんですか……」


 確かに助けを求めるような視線を向けてるが、実害は無いから気にするな。

 むしろ行った方が実害になる。主に精神的にな。


「ゲーム開始まで後少しだから、どう動くか決めるべきだ」

「そうしましょう」

「じゃあよ、早速兄貴に指揮とってもらおうぜ」

「断る」

「兄貴の好きなようにでいいですぜ」

「見てえなぁ」

「閣下、お願いします」

「おいお前ら、休暇だってのに仕事をさせるな」


 この間飛び込んだ?あれの半分は義務だ。

 ……自分で言っててアレだが、説得力無いな。まったく。


「はぁ……分かった。ただし、この集団だけだぞ。1万人全員なんて面倒だ」


 やるのは簡単だが、楽しくない。


「なら、そうだな……軍人どもは80人と20人に別れて、少ない方がここの防御を固めろ。指揮役でアレスとアーマを残す」

「……分かった」

「任せてください」


 前回もそうだったが、だいたい参加者の3割ほどは防衛に残る。それを効率的に動かせば守りきることもできるだろう。

 シェーンとポーラの指揮はそこまで上手くないが、まあこれも経験だ。


「残りは進むぞ。森の中だが、問題無いな?」

「当然ですぜ」

「今の軍人を舐めないでくだせぇ」

「登山やフィールドワークは何回かあります」

「ならよし。バディ、アレスもな」

「ええ」

「はーい」


 そして俺はメルナとレイ、現役軍人80人とジン達を連れ、敵陣を奇襲するために動き始めた。


「歩く場所は……獣道を1列でだ。俺達が先頭で次はジン達か。軍人ども、注意点は分かるな?」

「へい。音を立てない、周囲の警戒を怠らない、襲われても驚かない、っすね」

「わざわざ言うことじゃないかもしれないが、前後と一定間隔を保つこともだ。じゃあ、行くぞ」

「あの、俺達は……」

「ジン達には常々注意する。バディ、アレス、4人の後ろにいろ」

「分かりました」

「分かったー」


 メルナもレイも生体義鎧の中では弱いとはいえ、一般軍人のトップクラスと同程度には強い。

 護衛には十分だな。


「……あたし達がいていいのかな……?」

「海軍でも白兵戦の訓練はあるからな。エリは違うが、彼氏に付き合ってやれ」

「それは知ってますけど……俺達を連れてきて大丈夫なんですか?」

「何でだ?」

「お邪魔じゃないかなって……」

「これはゲームだ。楽しんだ者勝ちだぞ」


 そのまま歩き続け、だいたいフィールドの半分くらいまでは来ただろう。

 途中でいくつか小規模なグループを見つけたが全て素人、銃を使わずに仕留められた。


「ねえお兄ちゃん、リーリアお姉ちゃんがいたらどうするかな?」

「リーリアか?あいつが相手方にいるなら、多分同じような場所に……」


 そう言って視線を向けた所へ、人影が飛び込んでくる。多少は違うものの、見覚えのある姿。

 この程度の差異なら、間違えるはずがなかった。


「「「「あ」」」」


 そしてリーリアの後ろには、俺達と同様に100人近い集団がいる。動きからして、恐らくあれも現役軍人だろう。

 やっぱり、考えることは同じか。


「……お前ら、あの集団は迂回して進め。先導はバディに任せる」

「「「「「へい兄貴!」」」」」

「……あなた達、あれと戦うのは禁止よ」

「「「「「はい姉御!」」」」」


 メルナとレイも行かせたから、問題はないだろう。

 リーリアの方に知り合いはいなさそうだが、軍人相手で油断はできない。


「ようリーリア、まさかこんな所で会うなんてな」

「今はリンティアよ。貴方も遊んでたのね」

「レイにせっつかれた。ポーラと遊んだ話を聞いて、やりたくなったらしい」

「あら、私は仲間はずれなのね」

「今やってるじゃないか」


 わざと言うな、まったく。ただまあ、楽しい。

 このまま話しててもいいが……絶対に終わらないな。


「さて、話はこれくらいでいいか?」

「もちろんよ。だって」

「白兵戦じゃないと」

「戦わさせて」

「もらえない」

「ものね」


 2500年間戦い続けた俺とリーリアの白兵戦闘技術は、共に生体義鎧の中では上の下といった所。その手の天才には敵わないが、普通の軍人とは卓越している。

 体の性能が劣っていても、関係ない。


「しっ!」

「てぇ!」


 俺はアサルトライフルとサーベル、リーリアはサブマシンガンとナイフ。得物は違うが、俺達は同時に突撃した。

 なお、体の性能が劣っていても変わらないものが2つある。1つは経験、そしてもう1つは……反応速度だ。


「よく避けるな」

「貴方もよ」


 レーザーや粒子砲を避けるのに比べれば、遅い実弾を避けるなんて容易い。銃口の向きにしか弾は飛ばないのだから簡単だ。もちろん隙間無く撃てば避けきれないが、1人でそんなことができるはずもない。

 互いに円を描いて、銃弾を避けつつ接近していく。


「ふっ!」

「はぁ!」


 そしてサーベルとナイフを打ち付け合った。何度も銃撃し斬りかかるも、リーリアには当たらない。

 まあ、それは俺も同じだが。


「やるわね」

「リーリアこそ」

「次は生身で戦ってみたいわ」

「そんなのっ、いつになるか分からないぞ!」


 本来の生体義鎧の体の場合、本気でやりあうと被害がとんでもない。

 周囲を装甲板で覆っていてもボロボロになるだろう。山1つ砕くのだって簡単だ。


「むしろ壊してみたいわ」

「環境破壊になるだろうが。というか心を読むな!」

「無理よ。いつもそうじゃない」

「まあ確かに、リーリアとの模擬戦は読み合いだが……」


 至近距離での銃撃戦になっても、1発も当たらない。

 リーリアも目的は時間稼ぎだろうが……このままだとジリ貧だな。


「このままいた方がリーリアの目的は達せられるわけか」

「そうね。それで、貴方はこれじゃ駄目よね?」

「さて、どうかな?」

「そんなこと言って……まさか……!」


 アサルトライフルで牽制しつつサーベルから手を離し、リーリアの後ろへ手榴弾を投げる。それは破片の少ないタイプの手榴弾で、爆風が強い。

 予期したとしても、体勢は崩れる。


「きゃぁ⁉」

「もらった!」


 そしてそこへ突っ込み、腕を取ってナイフを奪い取る。

 さらにそのまま地面に押さえ込み、ナイフを首に当てた。


「……押し倒すなんて情熱的ね」

「それはナイフを突きつけられた状態で言うセリフじゃないだろ」

「突きつけてる張本人が何を言うのよ」

「押さえ込まないと当てられないだろっと、これも時間稼ぎだな」

「乗らないのね」


 リーリア相手だとついつい話しすぎる。

 メルナ達のためにも、早く終わらせるべきだろう。


「さて、送り返すぞ」

「ええ……次は負けないわよ」

「次も俺が勝つさ」


 ナイフを刺し、リーリアを送り返した。

 予想以上に時間がかかったな。


「さてと、戦線は……」

『ディレス、聞こえますか?』

「ちょうど良い。聞こえてる、どうした?」

『本拠点周辺は防御が固く、突破は難しいですね。一当てしてみましたが、13人やられました』

『リーリアお姉ちゃんが来ちゃったし、もう無理だよ』

「分かった。ならリスポーン地点に後退しろ。再編成だ」

『了解しました』


 所々に点在する敵小部隊を蹂躙しつつ、俺はリスポーン地点、つまりスタート地点まで戻ってくる。

 こっちも戦闘があったようだが、本拠点に被害は無さそうだ。

 ただ……


「3000人近くやられた?」

「はい。主戦場となったエリアですが、そこにいたプレイヤーが壊滅しました。ほぼ連続してリスポーンしてきたので、ここも一時騒然となりました」

「連続して、か。爆撃か何かでもあったのか?」

「それが……」

「それが?」

「1人にやられたんだって。生体義鎧かな?」

「……可能性は高いな。リーリアもいるし、俺達だけで強襲するべきか」


 生体義鎧を相手に戦える一般軍人はほとんどいない。一般人にはいるわけがない。

 ゲームの中とはいえ、生体義鎧は生体義鎧が相手をするべきだ。


「よしそれじゃあ軍人ども」

「「「「「へい!」」」」」

「ブラックホークと同じことをやってこい」


 バーディスランド王国陸軍第1西方大陸派遣軍団第1飛行機動師団第1特務強襲大隊、通称【ブラックホーク】。

 第3次世界大戦時、王国軍が同盟国へ援軍として送った部隊の1つで、当時列強の1つだった軍事独裁国家との熾烈な戦闘を繰り返し、この戦線を王国勝利に導いた最強部隊。

 他にも飛行歩兵部隊は山ほど存在するが、彼らほど有名な者達はいない。

 その戦法は機関銃や対戦車ミサイルなどで重武装を施した兵士が地表スレスレを高速で飛び、塹壕を焼き、戦車を破壊し、砲兵を殺し尽くすという危険極まりないもの。だが互いに制空権が無く、というかジェット機で歩兵を攻撃するなんて難しく、ヘリもミサイルで簡単に落とされる戦況では、犠牲を出しつつも有用性を示していた。

 機動歩兵(バルシンキ)の先祖みたいな兵科だ。

 そしてここの大隊長を務めていたのがアルク-スランディート中佐、最終的には中将となった彼は大戦中、王国最強の英雄と言われていた。


「そ、それは……」

「不服か?今は使われない戦法とはいえ、当時の英雄を作り出したものだ」


 本物は専用の飛行用スーツを使ってたらしいが……ゲームだし大丈夫だろ。


「い、いえ!光栄であります!」

「なら行け。俺達はダークナイトの真似事をしておく」

「「「「「了解!」」」」」


【ダークナイト】、それもまた第三次世界大戦中の大隊の名で、【ブラックホーク】と対をなす英雄達だ。

 彼らは都市や敵基地への潜入、及び浸透作戦を得意とし、奇襲やゲリラ戦術を上手く使っていた。この2部隊が戦線に与えた影響は計り知れない。

 というか、こいつら演技をどこにやった。


「よし、行くぞ!」

「「「「「おう!」」」」」


 元気良く防御陣地を出ていった。

 俺はそれを見送るものの、4人は納得していないらしい。


「お兄ちゃん、いいの?」

「あいつらは囮だ。突破できれば儲けものでしかない」

「……何で?」

「リーリアの防御をあいつらが抜けるとは思えない。俺は全員を指揮するつもりなんてさらさらないしな」

「リーリアがいれば楽しそうですよ?」

「前線にいる方が楽しい。それに、俺とリーリアの模擬戦結果を忘れたのか?」

「……終わらなさそう」

「このゲームには時間制限がありますが……決着はつかないと思います」

「そういうことだ。それに、リーリアも本気ってわけじゃない。あいつも楽しみたいだけだ」

「リーリアお姉ちゃんだし、そうかも」

「そうだ。だから、俺達も行くぞ」


 そして、今度は俺達だけで進んでいく。約100人と5人、行軍のスピードは圧倒的に今の方が早い。

 艦内(閉所)戦闘の方が得意な俺達だが、経験は応用できる。だからこそ、察知できる。


「止まれ」

「……あ」

「敵ですね」

「向こうだよね?」

「ああ。恐らく……100人規模だろう」

「倒しますか?」

「全貌が分かってからだ。ただまあ、そうなるだろうな」


 木の上に飛び乗り、少し低い場所にいる相手を偵察する。

 アレは……リーリアが率いてた連中だな。つまり現役軍人、やれる。


「聞こえるか?」

『ええ』

『……もちろん』

『うん』

『はい』

「殲滅するぞ。バディとアーマは離れて攻撃、雑で良いから逃げ出そうとする奴らを倒せ。アレスは飛びつつ上から射撃、俺とレストが突っ込む」

『はーい』

『……アーマ……姫様をお願い』

「バディとアーマも必要なら移動しろ。接敵されるなよ」

『了解です』

『分かりました』

「それじゃあ……攻撃開始だ」


 メルナの爆撃とポーラの狙撃を皮切りに、俺達は攻撃を開始した。


「行くよ!」


 レイが飛びながらショットガンを連射、広域に弾を降り注がせる。

 撃ちおろされる散弾は威力の減衰が少なく、防弾装備の無い肩などを貫いていった。


「よし、行くぞ!」

「……うん」


 そして俺とシェーンが横合いから突撃、レイに注意が向いていた連中を蹂躙する。


「なっ⁉」

「さっきの、がはっ!」

「反撃しろ!」

「撃て撃て!」

「はやっ⁉」

「ぎゃあ!」


 反抗しようとする奴から倒し、反撃を許さない。軍人でもこうなれば烏合の衆、多少の銃弾は飛んでくるものの、避けるなんて造作もない。

 慌てて振るわれる刃など怖くない。すぐに殲滅し終えた。


「殲滅完了。怪我はあるか?」

「無いですね。私も、みんなもですよ」

「……当たり前」

「経験が違います」

「お兄ちゃんとシェ……お姉ちゃん達がほとんどやってくれたもん」

「アレスだって十二分にやってたじゃないか。3人もな」

「お兄ちゃん……ありがとね」

「それで……リーリアは?」

「今の集団を指揮してたわけじゃないらしい。ただまあ……来たか」

「ええ、来たわ」


 視線を向けた先の森から、リーリアが出てくる。

 だが気配通りなら、もう1人いるな。


「それで、2人だけで何の用だ?それだけじゃ俺達は倒せないぞ?」

「私は通りかかっただけね。用はないわ」

「何だって?」

「用があるのはこっちの仲間よ。来なさい」


 リーリアが出てきた時と同じように、森からもう1人が出てきた。

 それもまた見覚えのある姿で……というか……


「げっ、リエル⁉」


 前も言ったが彼女は第1戦略艦隊(ウチ)の揚陸部隊エースであり、白兵戦でも圧倒的な才を誇る。他のエースが2ケタ単位で挑んでもリエルが勝つ。

 つまり……どう頑張っても、俺達に勝ち目なんてない。


「じゃあリエル、任せたわよ」

「はーい。というわけでガイルさん、お願いします」


 そんな風に言われたって恐怖だぞ。


「あ……負けましたね」

「リエルさんの話って本当なの?」

「……本当……化け物」

「先生、どうしますか?」

「……逃げた所で誰も戻れない。やるぞ」


 どう逃げようと回り込まれて殺される。こいつはそういう奴だ。

 正面から戦った方がまだ可能性はある、かもな。


「こい、死神。経験の差ってのを教えてやる」

「いいよ、ガイルさん……久しぶりに楽しくなってきたかな」


【死神】、それがリエルに対して帝国軍がつけたコードネーム。

 だが……すぐに俺達も呼ぶようになった。


「この殺気……ゲームでも叩きつけてくるか」

「な、なに、何これ……」

「レイちゃん、呑まれないでくださいね」

「……これは、ゲーム……死なないから」

「う、うん……」

「……それで、準備はいい?」

「もちろんだ」


 帝国との戦闘でリエルが投入されると、王国軍(こっち)の勝ちは確定した。もはや死そのものとまでなったリエルを止められる者は誰もおらず、敵を殲滅するか目標が達成されるかを待つしかなかったからだ。

 帝国軍の特殊陸戦兵器10万機を1機(ひとり)で殲滅した、なんていう逸話も持っている。


「やれ!」


 俺がアサルトライフルとサーベルで突撃。メルナは2丁のサブマシンガンで、シェーンはアサルトライフルで、レイはショットガンで、ポーラは少し退いてスナイパーライフルで援護。

 レイは恐怖が顔に浮かんでいるが、上手く撃っている。だが……


「甘いよ」


 1発もかすりもしない。抜ける隙間なんてないはずなんだが……やっぱり化け物だ。


「あぅ……」

「あっ!」


 そして拳銃の二連射で、シェーンとポーラがやられる。


「ちぃ!」

「レイちゃん!」

「こ、来ないで!」


 次の瞬間には、レイの懐にリエルが突っ込んでいた。

 レイもショットガンで対応するが、リエルは散弾までも避け、レイの後ろに回り込む。


「む、無茶苦茶だよ……」

「ごめんね」


 後ろからナイフで首を刺され、レイも脱落した。

 一方的だな……


「まったく、レイはその状態のお前を知らないんだぞ?」

「そうだった……トラウマにならない?」

「大丈夫だと思いますよ。強い子ですので」

「ああ。しばらくは泣きつかれそうだけどな……ってリエルも知ってるだろ」

「そうだけど。で、もう始めていいでしょ?」

「ああ、やるか」


 2対1となり、もう勝てるとは思ってない。

 だが、足掻けるだけ足掻くのが俺達だ。


「しっ!」


 メルナの援護の元、再度突っ込む。

 今度は俺も撃ちながらだが……相変わらず1発も当たらない。


「そんなのじゃ当たらないよ」

「避けるからだろうが」

「避けないと当たるでしょ?」

「言ってることが矛盾してるぞ」


 リエルの銃撃も避けるが……これは牽制だな。

 それなのに、避けづらいところばっかり狙いやがって。


「ここだと戦いづらいかな」

「逃げるな!」

「逃がしません!」


 木々の中へ潜り込んだリエルを追うが、森の中に入ると思うツボだ。

 だがそれだと……っ⁉


「メルナ!そっちだ!」


 いつの間にか後ろに回り込まれ、俺達が隙を晒してしまっていた。

 咄嗟に動いたメルナはナイフで右腕を切られるも、サブマシンガンで射撃する。俺もアサルトライフルを連射した。


「当たらないよ」


 だがその銃弾は全てかいくぐられ、もう一方の手に握られていた拳銃で左手も撃たれてしまう。


「でも、きゃ⁉」

「……終わり、だからね」


 そのままメルナは押し倒された。

 リエルが銃口を向ける先は、額で固定されている。


「やはり、強いですね」


 そして、メルナもリタイアした。


「まったく、強すぎるぞ」

「そんなこと言わないでよ。必要だからつけたんだよ」

「知ってる。俺もそうだ」

「だったら、わざわざ言うことじゃないでしょ?諦めたら?」

「そんなことするわけないだろ?俺は諦めが悪いからな」

「知ってる」


 俺は右腰から新しくサーベルを抜き、ナイフも取り出す。リエルはナイフを2つ、それぞれの手に持っている。

 まあ、そうなるよな。


「行くぞ」


 射撃戦では絶対に勝てない。火器ではなく刃物を使っても勝率は低い。それでも、やるしかない。

 駆け出した勢いで振り抜いたサーベルはナイフで防がれ、突き出したナイフは(かが)んで避けられた。だが、本命はまだだ。


「はぁ!」

「っ!……ガイルさんとやるとびっくりするね」


 ちっ、この膝蹴りも避けるか。

 とはいえ、後ろに下がったなら好都合。


「なら、まだまだ驚かせてやる」


 攻め立てる。サーベルがリーチで勝るからこそ取れる手だ。

 リエルには1つも届いていないが、まだやれることはある。


「そこだ!」


 不意を突き、俺はサーベルでリエルの右手のナイフを打ち上げた。サーベルはその直後に弾き飛ばされるが、その隙に左手のナイフも打ち上げる。

 ただ、俺の持っていたナイフも上に飛ばされてしまった。


「これで勝った気?」

「まさか。だが、簡単にやられもしないぞ」


 だがそれでも拳で……

 ん?ナイフ?さっき打ち上げた……ってまさか⁉


「そこ!」

「がっ!」


 リエルは落ちてきた3本のナイフを手で払い、正確に俺へ向けて飛ばしてきた。

 首を狙った物は左手で防いだが、残り2つは太ももに突き刺さる。

 その状態でリエルのタックルを喰らって耐えられるわけもなく、俺は地面に倒れこんだ。

 そして額には、いつの間にか抜かれた小型拳銃が突きつけられている。


「ちっ、やっぱり無理か」

「勝てないって分かってたでしょ?楽しかったけど」

「こっちは真剣なんだぞ、ったく……それで、もう気は済んだか?」

「そうだね。じゃあ、バイバイ」


 そして俺はリスポーン地点に戻された。

 また後で知ったことだが、このゲームでもリエルは【死神】と呼ばれているらしい。やっぱりやりすぎてたみたいだな。












・リオルゲーム

 仮想空間でのゲーム、いわゆるVRゲームのこと。家庭用やゲームセンター専用など、様々な媒体がある。

 この呼び方は最初の開発主任の名前から取られた。

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