第10話
新王国歴7267年4月21日
「もう集まってるか?」
「は。殿下を含め、全員揃っていらっしゃられます」
ここは王城の一角、一般に解放されることもある講堂のような場所だ。だが今日は近衛軍により、厳重な警備を敷かれていた。
まあ、当然なんだが。近衛の責任者に聞いてみると、どうやらもういいらしい。
「なら、俺も入る。あとは頼むぞ」
「了解しました!」
ここに集まっているのは中学生と高校生、王都に住む10〜18歳の貴族の直径の子弟達だ。彼らが50人ほど、さらに直系の王族であるシュン殿下とルルア殿下もいる。
警備が厚い理由だ。
「「「「「おはようございます!」」」」」
「おはよう。練習したのか?」
「はい!」
「まったく……こんなことをするくらいなら、質問を1つでも多く考えておけばいいものを」
と言いつつも、俺も笑ってしまう。こういうのも悪くない。
だが、手を動かすのはやめない。シュミルをこの部屋のホログラフ投影機にリンクさせ、資料を映し始めた。
「さて、今日は知っての通り軍事学、特に政治に関する面の講義を行う。ただし、君達は王国の将来を担う者ではあるが、今は軍人ではなく、他の職業に就く者も多いだろう。それゆえ、専門用語は使わない初歩的なもののみを伝える。質問があるなら、その都度手を挙げてくれ」
全員の顔を見渡し、問題無いことを確認する。
そして、王国軍の各種兵器、及び過去の戦闘映像を流した。
「じゃあ始めよう。軍事、つまり戦争というものは、昔から外交の1つとして行われていたものだ。基本的には言葉での外交が上手くいかなかった場合に行われるが、理念の対立で最初から生存をかけて戦った場合もある」
戦争の動画を増やし、特に前線での映像を流す。開戦直前の会談もいくつかあるが、そこまで重要ではない。
「ただしそのような場合でも、第1次世界大戦より前までは軍のみが関わる限定戦争だった。それはひとえに、手に入れたいものがあるから戦うという目的からだ。稀にそういうことを理解できない勢力もいたが、すぐに滅んでいった。何故だか分かるか?」
この質問に対して、もっとも早く手を挙げたのはシュン殿下。
贔屓にするつもりはないが、最初はこの子でもいいだろう。
「その土地から民がいなくなれば、手探りで開発する必要があるから、ですか?」
「その通りです、殿下」
「やめてください、シュルトハインさん。今の僕は1人の生徒です」
「了解した。例えば大量の穀物を得られる土地があったとして、敵対するからとそこに住む農民全てを殺してしまっては、穀物を得ることはできない。新しい農民を連れてきたとしても、その土地に合った農法を探ることに年月が必要だからだ」
一から土地を開発していくというのは、難しいことらしい。それに、その土地に住んでいた者の伝統というのも馬鹿にはできないそうだ。俺も詳しいことは知らないが。
なので話を切り上げ、映像を第1世界大戦の塹壕戦に切り替える。
「だが、第1次世界大戦からはそれも変わる。国家の存亡を賭け、全国民が一丸となって戦う戦争……いわゆる総力戦が始まった」
機動力の増大や兵器の質の変化など原因は様々だが、総力戦が展開されると被害は大きくなる。
さらに厄介なのは、総力戦から抜け出すのが難しいことだ。
「これ以降、小さな紛争以外で総力戦とならなかった場合は無い。紛争が限りなく続いていたように感じられる第3次世界大戦でも同じだ」
1度戦争を始めると賠償を恐れて負けるわけにはいかず、なかなか終えられないという状況が起きた。そして被害は増大、2国間でもこれなのだから、世界大戦は未曾有の大災害とも呼べる。
なお、その総力戦にはいくつかの形態がある。
「総力戦というものも、いくつかに分類することができる。1つは第1次、第2次世界大戦のように、国家の存亡を賭け、ほぼ全ての生産能力を軍事関連につぎ込むもの。これはその生産拠点も攻撃目標になる場合があるため、勝っても負けても国の基盤が大きくダメージを受けてしまう」
2つの世界大戦の各戦場、及び後方地域への攻撃映像を投影し、そう説明する。後方地域には民間人も多いが、容赦無く爆撃されていた。
王国だって、人口密集地の軍事工廠へは攻撃をしなかったが、基地内だったり田舎にあったりするものは容赦無く攻撃してたからな。
核分裂反応兵器が落とされるまでは、だが。
「2つ目は第3次、第4次世界大戦みたいに、局地的な戦闘が複数起こり続けるというもの。これは比較的限定戦争に近いものだ。戦時中だから軍の増強は行われるが、長大な戦線を抱える場合は少ないため、生産能力が軍事に取られる割合は低く、国民生活への影響は他に比べれば少ない。ただしテロ行為やゲリラ戦が行われていたりもするから、これでも国はダメージを負う」
各戦線の変化状況を表した当時の世界地図、及びいくつかの戦闘シーンを流す。また当時の公共機関への爆破テロや国家機関への襲撃など、後方地域での被害映像も出しておく。
ここは他に比べると、まだ大人しいな。
「そして最後は第5次世界大戦のように、相手の国民も攻撃対象としたもの。当然ながら、前の2つとは比較にならないほどの被害が出る。いわゆる殲滅戦だ」
低軌道艦隊戦や軌道爆撃、コロニー破壊にコロニー落とし、多くの被害が出た時の映像を流していく。これらの資料映像はここにいる者達なら見たことあるだろうが、こういった流れの中で言うと別の捉え方になるようだった。
と、ここで高校生くらいの1人が手を挙げる。
「帝国との戦いはどうなんですか?」
「帝国との戦いは分類しづらい。一応総力戦ではあるが……分からないな」
「え?」
「帝国との戦いでは、元素操作装置によって生産というものが無くなったと言えるからだ。元素とエネルギーさえあればどれだけでも作ることができる。生産能力に限界が無くなったから、国民に無理を強いる必要が無くなった。長大な戦線を抱え、無数の戦闘を繰り返しているにも関わらず、兵士以外での制限は無い。資本主義が崩壊した場合では、上の定義は役に立たなくなる。その見本だ」
元素操作装置によって資本そのものが成り立たなくなり、既存のシステムが破壊された。戦時配給制の時だから良かったものの、もし帝国が来なかったら……いや、その場合だと発明されないか?
っと、この言い方は中学生組には難しすぎたみたいだな。ポカンとした顔をしている。
「難しいか」
「えっと……」
「……はい」
「なら簡単に言おう。金銭というものは昔、生活に絶対に必要なものだった。だがそれが不要となれば、以前の常識は無意味になる。そういうことだ」
簡単すぎるかもしれないが、実際この通りだ。
「今の感覚からすると分かりにくいかもしれないが、金銭というのは昔の重要なファクターだ。これは戦争でも変わらない」
「そうなの?」
「何を求めるにも金銭が必要で、金銭が無ければ何も得られない。だからこそ人は努力し、協力し……争う。その一形態が戦争だ」
物を作るのには人と資源が必要で、それを集めるには金銭が必要。子どもだったとはいえ懐かしい時代……だが、それが戦争の一端となっていたというのも正しいことだ。
って、今は郷愁に浸る時じゃない。
「話が逸れたな。言った通り総力戦では失われるものが多すぎるが、それでも外交の一種であったことに変わりはない。ただし被害を嫌う風潮が出て……協調外交といった、戦争を避ける方針も普通に出てくる。弱腰とかじゃなく、真面目にな」
確か第1世界大戦後の世界がそうだったはずだ。
結果的に色々と崩れて、植民地の独立戦争になったが、この時にできた基本骨子はその後も使われていたりする。
「協調外交については専門家に聞いてほしい。俺は軍人で、政治に詳しいわけじゃないからな」
まあこんなことは分かりきっただろうし、誰も質問してこない。
そして次に進むため、過去の、特に第2次、第3次世界大戦あたりの軍事関連映像を出す。
「何度も言うが、戦争は外交の一種だ。軍備然り、軍事教練然り、軍事研究然り、プロパガンダ然り。それは今も変わらないし、侵略するしか能の無い帝国もある意味では同じと言える。だからこそ、軍人は自身の行動が政治的に何をもたらすのかを分かっていなければならないし、政治家も軍をどう動かすべきか知らなければならない」
政治家と軍人が互いに無視しあっていては、国は正しい方向に向かなくなる。政治家が舵を取り、軍人が適切なアドバイスをする、それが理想だ。
ただまあ、今の王国はこれが成り立つのか微妙なんだよな……
「ただし現状、俺達は例外に属す。我々戦略艦隊は限定的ながら国王陛下より、外交権、通商権、交戦権を頂いている。つまり、軍人が勝手に政治を行うことも可能だということだ」
制度としてこれができた時は一波乱あった……生体義鎧の中でのみ、だが。
何故か一般人は誰1人として反対せず、生体義鎧は政治的権力を持たないためそのまま決められた。
しかもこれができたせいで苦手な軍政だけじゃなく、政治についても詳しくならないといけなくなったんだよな……役立つ面もあるから、文句は言えないんだが。
「だがこれは同時に、戦略艦隊によるファルトス銀河探索で大きな意味を持つ。これは本来、帝国を探し出すために行われているものだが、その目的は未だ達せられていない」
帝国軍を追い出したとはいえ、帝国が滅んだわけではない。帝国を滅ぼす、もしくは干渉できなくさせる、それは俺達生体義鎧の悲願だ。
ただし、見つかっていない現状では役立てようがない。
役立ったのは別の意味で、となる。
「その代わりに、多数の文明が育った星を発見した。その多くは宇宙まで来られない、もしくは原始的なロケットでしか宇宙に上がれない文明だったが、稀に艦隊クラスの宇宙艦群を持っている星もあった」
他の戦略艦隊戦が撮ってきた、他の文明のデータを映す。
文明レベルは様々だが共通点は1つ、王国にかなうような文明はまだ見つかっていない。
「もちろん俺達に勝てるレベルじゃない。ある程度秘密裏に調査して、レーダー等を星系に配置し、帝国の影響が無ければ撤退する……そのはずだった」
俺も最初は驚いたな。
「だがいつでも強欲な連中はいるらしい。どうやったのかは分からないが、アルストバーン星系までやってきた連中がいる。偶然迷い込んだ者達以外は侵略の意図を隠そうともしてなかったから、すぐさま殲滅した」
ハッキングして得たデータを見ても何も分からなかったから、恐らくは偶然なんだろう。
そのうち過半数は1度殲滅されればもう来なかったが、いくつかは何度か来て……そして1つだけはしつこかった。
「そして1度だけ、1つの星を完膚なきまでに滅ぼしたことがある。3ヶ戦略艦隊が動員され、容赦無く、だ」
当時の資料をいくつか流す。
出てきた艦隊を蹂躙し、砲やミサイルを使った軌道爆撃で地上を更地にした。そして揚陸部隊を地上に降ろし、地下施設への直接攻撃を敢行する。軍人はもちろん、抵抗するなら民間人でも容赦はしなかった。
これは非難もあるかもしれないが、仕方のないことだ。
「なんでこんなに……」
「まず1つはアルストバーン星系に侵攻したことが30回以上あったこと。さらに武力を示しても変わらなかったことだ。連中の本星にて、戦略艦隊は外宇宙観測機器や軍事施設等も破壊した。宇宙艦隊の殲滅も1回や2回じゃない。その都度メッセージを残しても無視される。そして最後の手段、直接の通信による恐喝も行ったが拒否され、王国を侵略すると息巻いていた。これを放置するわけにはいかないからな」
「それで星を1つ滅ぼすんですね……」
「酷いと思うかもしれない。だが、俺達軍人には王国を、50兆の国民を守る義務がある。そのためには躊躇なんてしていられない」
完全に文明は滅んだが、生命体が絶滅したわけではない。
戦略艦隊によって定期的に行われている経過観察によると、どうやら王国成立当初レベルの文化が再発生しているそうだ。
「さて、こんな風に戦略艦隊には大きな裁量が与えられているが……俺達が望んだことじゃない。時の陛下が、政府が決めたことだ。とはいえ、これが国の安定に大きな貢献をした」
「え?」
これに納得しているのは2割ほど……ほとんどが高校生だ。前に同じことを聞いたやつがいたのかもな。
「現在の王国軍は、国民を守る陸軍と海軍、国体を守る近衛軍、そして国家を守る戦略艦隊で構成されている。陸海軍は数が多く、近衛軍は国の最重要部を掌握し、戦略艦隊は精鋭揃い。この三者が互いを監視し協力することで、王国は安定して発展してきた」
陸海軍は数が多く、物量で対処できる。
近衛は数が少ないが、リールウェブや通信などインフラ機器の警備をしているため、他へ与えられるダメージは大きい。
戦略艦隊は言わずもがな。陸海軍の数にこそ大きく劣るが精鋭であり、唯一任されている戦略兵器によってどうとでもできる。
各種兵器の細かいスペックは軍機だが、この程度の話ならみんな知ってるはずだ。
「ケンカしたことはあるんですか?」
ここでその質問が出るのか。まあ、ルルア殿下は10歳だしな。
「武器無しでのケンカ程度ならあるな。だが、仲が険悪になったことは無い。この監視が上手くいっているとも言えるし、交流が盛んだからとも言える。仲が良くて損は無いからな」
内乱なんて国力を下げるだけだ。
そしてこれもまた、彼らには知っておいてほしい。
「歴史上、同一国内の軍が対立して上手くいった試しは無い。第2次世界大戦、及び第3次世界大戦にて、いくつもの例が上げられる」
その中でも規模の大きな国、5国の各種データを出す。分かりやすいように、公の場で対立している映像もだ。
「対立の原因は、主に予算分配だった。政治家が間で仲裁することも少なくなかったが、上手くいかなかった例も多い」
「じゃあ、今はそれが無いから?」
「ああ。帝国から星系を解放した後の王国軍の仲が良いのは、1つに予算が必要無くなったからとも言える。人と時間さえあれば研究開発、量産し放題。生産性もほぼ考慮する必要が無くなった。必然的に、分配する必要は無くなる。軍同士の対立原因で最も大きなものが無くなったわけだ」
だが、良い面ばかりではない。
「ただし理論的上、政治としては悪い面もある。何か分かるか?」
今の感覚だとこれは難しいかもしれない。
とはいえ知ってほしいこと、抜くことはない。
「兵器の更新がすぐに行われることですか?」
「いや、違う」
「……いつでも戦えること?」
「それも違う」
「軍がドンドン大きくなる?」
「なかなか惜しいな。正解は、政治家が軍の手綱を握れなくなる可能性があることだ」
これには全員驚いていた。だが、俺は話し続ける。
「予算というのは、政治家が軍に対して与えるエサとも言える。軍は国民と国家に忠誠を誓っていたが、動ける環境を作っていたのは政府だ。その鎖が無くなったということは……」
「軍が暴走してもおかしくない?」
「その通りだ」
現実では起こらなくても、理論上はありえる。そういうものは全て知っておくべき……ということらしい。
戦術、戦略の考え方に似てるとはいえ、やはり何か違うな……
「軍というものは、国に取り付けられた暴力装置だ。そして存在意義は戦うこと、敵を排除することだ。それが暴走しかけて新王国歴初期、帝国戦以前に問題になったことが何度かあったらしい」
内乱こそならなかったが、険悪な時期は何度かあったそうだ。俺も直接は知らないが、危なかったらしい。
「今は各軍とも自制が効いている。強大な帝国が仮想敵国筆頭である以上、仲違いなんて馬鹿らしいからな」
「確かに……」
「戦略艦隊がいるからっていうのはどうですか?」
「確かに、そうとも言える。ただし俺達戦略艦隊も、政府が王国の誇りを汚すことを始めれば、すぐさま敵対するだろう。恐らく、容赦はしない」
もっとも、もしそうなったなら陸海軍も近衛軍も離反してるだろうから、制圧は簡単だな。
とはいえ、国が完全に無傷でいられるとは思えない。
「だからこそ、君達には軍のことを知っておいてほしい。内乱で国が荒れるなんて、俺達は望んでいない」
内乱で荒み、そこに帝国が来ては、守りきれる保証は無い。王国を強く保ち続ける必要がある。
「俺達戦略艦隊が講演を行うのには、そういった理由も含まれる。帝国から取り返したこの国を、馬鹿らしい理由で滅亡させるわけにはいかないからな」
せっかくここまで発展させた。だからそのためなら、俺達は努力を惜しまない。
だから、まだ続けるぞ。
「さて、前置きはこれで終わりだ。次からは具体的な例をあげて説明していく。できる限り噛み砕いた説明をするが、分からなくなったらその時点で聞くように」
終了までまだ時間はある。この様子なら大丈夫だろう。
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「第1戦略艦隊司令長官、ガイル-シュルトハイン元帥だ。国王陛下に御目通り願いたい」
「はっ!お通りください!」
「ご苦労」
講義が終わり、良い頃合になっていたので直接ここに来た。
近衛が見ているので、部屋に入ってすぐに最敬礼を捧げる。そして、扉が閉まってから声をかけた。
「ようザルツ、来たぞ」
「ガイルさん、遅かったじゃないですか」
「それはシュンに言ってくれ。勉強熱心だし、良い大人になるぞ、あいつは」
「そう言ってもらえると嬉しいですね」
プライベートな場では、こいつは若い頃の口調のままだ。
まあ、それが普通なんだろう。俺だって時と場合によって言葉を変える。
「じゃあ、これで乾杯といきますか」
「お、スコッチ-ウェルスティングじゃないか」
「300年ものです。これがツマミに合うんですよ」
「元素操作装置で作った偽物だけどな」
「そう言わないでください。昔みたいに毎日自然の物を食べられるわけじゃないんですから。ガイルさんは経験があるんでしょうけど」
「おいおい、父さんは未成年に酒を呑ませるような男じゃないぞ」
「そうでしたね」
「ったく。っと、忘れるところだった」
懐から白い粉を出す。別に怪しい物じゃない。
「それですか」
「これが無いと酔えないからな。まあ、少し不便ではあるが」
生体義鎧は体内をナノマシンが巡回している影響で、アルコールはすぐに分解されてしまう。
そしてこの薬は酒に混ぜて吞むことでナノマシンの動きを抑制し、生体義鎧が酔えるようにする。無味無臭だから、酒を悪くしたりはしない。
「それにしても……ここまで質問攻めにあったのは久しぶりだな」
「10年ごとですし、久しぶりなのも仕方ないですね」
「士官大学での講義も含めて、だ。それを含めると……いや、案外多いかもしれない」
「結局いつも通りと?」
「そうなる」
結局、皆変わらないのかもしれないな。
そんな風にくだらない話をし、ツマミを食べ、酒を呑む。今では普通の幸せだが、長い間不可能だったことだ……
「……ありがとな」
「どうしたんですか?急に」
「同類以外で一緒に酒を呑んでくれる奴は珍しい。祭り上げる連中は多くても、プライベートに踏み込んでくる奴はそういないからな。そう言う意味では、お前らみたいなのは希少だ」
「そうですかね」
「3000歳だぞ?3000。普通なら関わろうとしないだろ」
「普通なら、ですから」
「思い出した。お前は物好きだったな」
それも子どもの時から。
もう50を超えて人の親になったってのに、変わらないな。
「なあザルツ、明日の予定は?」
「議会が午後からあるだけなので、大丈夫です」
「なら、もっと呑むか」
「ええ」
酒をなみなみと入れたグラスを掲げる。
「王国の繁栄と……」
「国民の平和に……」
「「乾杯」」
そして、2人で打ち鳴らした。




