第五章 夢の行き先③
木枯らしが吹く道を、奈緒は暗い気持ちで歩いていた。
玄さんに相談したいことが、たくさんある。
ふらりと立ち寄った公園は、すっかり秋色に変わっていた。
6年もの歳月は、いろいろなものを変えさせていた。
その一つが、玄さんとのパイプ役をしてくれていた、駄菓子屋がなくなってしまっていたこと。
店番をしていたおばあさんが亡くなり、継ぐ者もいないため、店を閉めたのだ。
あちらこちら細やかな変化を見つけながら、奈緒は、玄さんの姿を探していた。
知り合いの顔も見つけられなかった奈緒は、人けがない公園で、一人ブランコに座る。
答えが出せずにいた。
もし玄さんがこのことを知ったら、何て言ってくれたのだろう?
奈緒は、玄さんがいつもいた場所へ、視線を送る。
秋もそろそろ終わろうとしている。
奈緒は、ゆっくりとブランコを揺らし、この街に引っ越して来たばかりの日を思う。
どうしても好きになれない家族。
反発して飛び出した家。
それでも玄さんは、同じ後悔をするなら思いの洗いざらいをぶちまけてからした方が、良いんじゃねーかと、歯のない歯茎を見せながら笑っていた。
帰ってもいいのだろうか。
「何も気にすることないさ。おとっさんの時だって何も言わんで、おっかさんはいてくれたんだろ」
そんな玄さんの声が聞こえた気がして、奈緒はブランコを止めた。
決心するしかない。
奈緒はその足で、総合病院へと向かう。
人懐っこい目をした医師が、妊娠を告げる。
分かっていたことだが、やはり堪える。
カルテをしばらく眺めていた医師は、少し困ったように口を開く。
言わんとしていることは、聞かなくても奈緒には分かっていた。
籍が入っていない一人身の自分の妊娠。
当然、しなくてはならない説明を、医師は口重にした。
期限は一週間。
帰り道。
川べりを歩く奈緒の足は止まり、伸びきった芦屋滞留している粗大ごみを迷惑そうに流れて行く川を、ぼんやりと眺める。
木綿子の言葉を思い出していた。
間宮さんや中田さんも同じような目をして、歩が舞台に立つことを望んでいる。今ここで妊娠のことを知れば、どんな答えを出すのかも、奈緒は想像できてしまうのだ。
奈緒はそっと自分のお腹に手を当てる。
同じ後悔するなら、やらないでするより思いっきりやった方が良いんじゃねーか。
そうだよね玄さん。
奈緒は吹っ切れたように歩き出す。




