第四章 星は何でも知っている③
中島と会った帰り道、気まずくなった二人は、珍しく口論になってしまっていた。
「どうしていつもそうなの?」
奈緒は本当の気持ちを聞かせて欲しかった。
「なんで怒っているわけ」
「もういい」
駆け出そうとする奈緒の腕を掴んだ歩は、また同じ言葉を繰り返した。
「本当に、なかじぃが言ったこと、奈緒は心配しなくていいから」
「中島さんだけじゃないでしょ。間宮さんだって言ってたじゃない。劇団マーブルを背負って立つ男だって。そういう話が出るってことは、少なからず、お芝居をしていたってことよね」
手を掴む手に力篭める、歩を奈緒は睨む。
歩は何も答えられないままだった。
「だって歩さんは、ヒーローになるために、上京してきたんでしょ? 大道具なんてしてても、その夢、叶わないじゃない」
「もうその夢は良いんだ」
「どうして? どうしてもういいのよ。私、歩さんの気持ちがさっぱり分らない。そんな人とは、一緒に暮らせないわ」
ついに言ってしまった。
「奈緒だって、オレのこと言えないだろ。オーディションまで受けてたくらい芝居が好きなくせして、なんでやらないんだよ。のぐさん達も受け入れるって言ってくれているんだぜ」
「やらないんじゃなくて、やれないのよ。分かる。人には与えられたフィールドっていうものがあるの。私にはないのよ。どこを探しても、私が入り込める隙はない。でもあなたは違うでしょ。みんな、あなたがそこに立ちことを望んでいるのよ。それをどうして素直に聞けないの?」
声のトーンが上がり、すれ違う人が見て行く。
止めどもなく流れる涙。
「もう会うの、やめにしましょう」
奈緒はそう言い残すと、歩の手を振りほどいて立ち去る。
恋の始まり方も簡単だったが、終わり方も簡単なものだと、その夜、一睡もできずに奈緒は思った。
奈緒はしばらく、玄さんの顔を見に行く元気もなかった。
偶然、出会って声を掛けられても、以前のように話し込む素振りも見せずに、簡単な挨拶だけで済まし、その場を逃げるように立ち去っていた。




