第四章 星は何でも知っている①
奈緒は、歩に誘われて高原の空を見上げていた。
劇団の仕事にアルバイト2つをこなす歩と会える時間は少ない。
それでも歩は何とかやりくりをして、奈緒と会う時間を作ってくれている。
二人が出会って2年。
少年のような無邪気さを持つ歩に、奈緒はどんどん惹かれていっていた。
玄さんも、手に取るように分るって、奈緒の幸せを喜んでくれている。
二人にとって初めての旅行だった。
別にすねたり怒ったりした覚えはなかったのだが、ときどき黙り込んでしまう奈緒を見て、何を思ったのか、歩は急に旅行の話を持ち出してきた。
おそらく木綿子の差し金だと思う。
木綿子は、劇団の主宰者である野村氏と結婚し、一子の母親になっていた。
歩の計らいで、奈緒はちょくちょく劇団にお邪魔する機会が増え、何度か団員にならないかと誘ってくれている。
奈緒はそれを頑なに断り続けている。
「やればいいのに。奈緒ならきっといい演技すると思うけど」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、本格的な練習を見せつけられて、自分の実力がどれだけのものか思い知らされてしまったのだ。
玄さんにその話をしたら、ニカッと例の笑みで、
「おいらもそう思う。やればいいよ。ねえちゃん、さゆりちゃんみてぇだもんなぁ」
嬉しそうに言うし、ふざけてサイン貰っておこうかななんてことも付け加えてきた。
今回の旅行も、今度公演予定のセットの資料集めというのが、第一目的だった。
満天の空。
歩が奈緒の肩を抱き寄せる。
「なぁ奈緒、今度やる芝居ってさ、七夕伝説なんだ」
「そうなの」
「のぐさんがさ、すごく乗り気で。ベターな恋愛ものなんだけどね。だけどさ、考えてみるとさ、切ないよな。1年に一度しか会えない恋人っていうのも」
「そうだね」
「好きになっちゃったらそりゃねー、仕事なんて放って、会っていたいさ」
いつになくお喋りになっている歩を見て、奈緒は微笑む。
2日目の夜だった。
コテージで空を見上げていた歩が、大三角を指さし、幼いころから慣れ親しんでいる七夕の伝説を話し終え、そんなことを付けたし、急に黙り込んでしまう。
そんな一瞬の変化も、奈緒には不安にさせてしまう。
一緒に居ればいるほど、歩にふさわしくない自分を思い知らされてしまうのだ。
重い時間が流れ、歩が口を開く。
「愛し合う者が、離れ離れで暮らすなんて考えられないよなぁ。オレには耐えられないよ。オレは一秒でも長く奈緒の傍にいたいな」
そう言うと、歩は奈緒を強く抱きしめた。
断る理由なんて何もない。
奈緒は高原から帰って来ると、その足で玄さんに会いに行った。
玄さんは生憎、群馬の方まで出張営業へ出かけていた。
早く会いたかった。
会って、このことを、報告したかった。
そんな募る奈緒の気持ちとは裏腹に、玄さんはなかなか姿を現さなかった。




