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第三章 ヤマアラシとアリスの恋①

 夢のような出会いから半年。


 本当に付き合っているのかと、かえでに疑われつつ、奈緒と歩の交際は続けられていた。

 あれから二人で会うこともなく、ときどき思い出したかのように送られてくるメールのやり取りだけの付き合い。古い言い方をすれば、ペンフレンド的な存在で、中田歩とは繋がっている。

 唯一の繋がりであるメールさえ、一言二言の短い文面で、絵文字など一切ない。

 ベラベラと喋るタイプではないのは、会ったその日の印象で分かっていたが、かえでの横に座って楽しそうにしゃべっている真淵を見ながら、どちらがいいのだろうと、奈緒はつい考え耽ってしまう。

 商事会社に就職が決まり、一安心したかえでが彼氏を奈緒に紹介すると、映画に誘ってくれたのだ。

 映画を観終わってから、三人でイタリアンレストランに入ったのだが、ずっと休むことなく、真淵は喋り続けている。

 「奈緒。今度、ダブルデートしない?」

 奈緒は食べかけていたパスタを、思わず詰まらせそうになり、慌てて水で流す。

 「奈緒大丈夫。私、変なこと言ったかな?」

 そう言いながら真淵の方へ、かえでは顔を向ける。

 「言ってないと思う。俺もその中田って人に会ってみたいっす。普通に考えたって怪しいですよ、そいつ」

 情報はしっかりかえでから入手しているようで、得意げに真淵は話す。

 その言葉にムッとした奈緒は、何も言わずに黙々とパスタを口に運ぶ。

 「まだ、あれから進展ないんでしょ」

 アイスティーを一口飲んだかえでに訊かれ、奈緒は曖昧な笑みを見せ、すぐに目を伏せてしまう。

 

 二人出合うことを考えると、少し気が重くなってしまうのだ。

 出掛けに玄さんと行きあい、休みの日じゃねーのかと首を傾げられてしまった。

 かえでの彼氏が一緒と聞いて、奈緒は奈緒なりに気を使っての服装をしたのだが、これが自分のデートと思うと、居心地の悪さを感じてしまうのだ。かと言って、歩に自分の趣味を受けてもらえるかどうか、自信がなかった。


 「ないと言えば、ない」

 「何よそれ。良いチャンスじゃない。来週にでも決行しようよ」

 そう言われても喜べずにいる奈緒を見て、かえでが首を傾げる。

 「もしかして、もう飽きちゃった?」

 「そうですよね。付き合っているって言っても、会えないんじゃねー。俺だったら、気が狂うな。きっと」

 「芳信はちょっと黙ってて」

 「チッ」

 舌打ちをされたかえでは、真淵を睨み返す。

 まずい。

 そう思った奈緒は、無理に笑顔を作る。

 「そんなんじゃないよ。真淵君みたいに格好良くないしさ。前にも話したと思うけど、髭むくじゃらだしさ、年齢の割におじさんだから、恥ずかしいかなって」

 「奈緒。そんなこと言っていたら、恋は成就しないのよ」

 しっかり手を握り言うかえでに、奈緒は笑いを堪えながら頷く。

 店を出た後、これからどうすると聞くかえでに、奈緒は行くところがあるからとそこで、手を振り別れる。


 痛いところを突かれてしまった奈緒は、つくづく二人の関係を考えてしまう。

 遠藤からは、奈緒が積極的にリードしてやってくれと、何度かメールを貰っていた。

 自分に自信がない奈緒は、そこで立ち止まってしまう。

 

 ショーウィンドウに自分の姿が映り、ため息を吐く。

 

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