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ワンバイト''クラウン  作者: ネコの舌。
悪を背負う王冠。仇討ちの英雄。
3/5

強き魔王VS水の精霊

 オリトが魔王になって3年の時が経過した。


 最近少しずつ、周りの護衛魔族や、近隣に住んでいる民衆にも声を掛けるようになり、少しずつ地域密着型の魔王というような立ち位置を獲得しつつあった。

 魔王というのは、歴代武闘派な家系だ。

 オリトの父親である先代魔王は、人を動かす力、恐怖政治の仕方などに長けた人物だったが、魔王が穏やかなオリトに変わり、民衆たちは現在束の間の安息を得ていたため、戦闘部族等の一部からもオリトへの反感はなかった。


 だが、力を示さないというわけでもなく、時には悪事を働いている魔族を相手に絶対的な力を使ってねじ伏せ、魔王城で一日中説教をして帰すという行動も行っていた。


 そうして、本当になんでもない日常が流れて……ある日、その時が来た。


「魔王さま。アイリス様が倒れました」


 オリトが執務室で書類にサインや代案を書くなど、いつものように執務を片付けている最中、ドアをけたたましく開いたフィリスが声を荒らげて、言う。


「なんだって!?」


 その日、何もかもを投げ打って、母の元へと急いだ。

 一部の魔族が心配するようにオリトに声をかけ、オリトを急がせた。


 やがてオリトとフィリスが病院となっている城の一室へと辿り着き、オリトは顔を青ざめてベッドに横になっている母に寄り添った。


「……母さんの容態は?」

「正直に言って芳しくありません」


 苦々しい顔で、フィリスが言う。

 それだけでオリトの心に陰りが差した。


「……私が水属性魔法でなんとか頑張ってはみますが……期待しないでください」


 フィリスが魔法陣を展開し、水属性のマナを込めると、魔法陣は真っ青に光を漏らし、魔法陣の端から溢れてくる水がオリトの母の体を包み込む。やがてそれはシャボン玉のように弾けると、効力を失い、オリトの母を濡らしていた水は全て消える。


「どう?」

「ダメですね。体力の回復ぐらいにしかなりません。コレ以上はもっと強力な治癒術を持つ属性を必要とするかも知れません」


 事実、オリトの母の容態は変わらず、息は荒く、顔は青ざめたままだった。

 死期がすぐそこに迫っているかのような様子に、オリトは今は亡き父の影を重ねた。


「フィリス……魔族でそういった術師に心当たりは?」

「ありませんね……私は人間種族に片棒突っ込んでいるようなものですから、水属性の回復魔法なんてものが使えますが、そもそも魔族の黒ずんだ魂では……」

「……そうだね」


 フィリスの使う水属性の中でも癒しの魔法は聖域魔法として人間の中で使われている。魔族には、使われれば効果はあれど、使えるような魔族などいない。

 例外としてフィリスの種族が人間と魔族のハーフであり、それであれば、多少なりとも使えるようにはなる。そもそもの効力が少し弱くなってしまうのが難点だったが。


「なにか他に方法は?人間の術師を拉致する?」

「いえ、それこそさらなる火種を呼びかねません。戦いになれば魔王さまも私も、アイリス様の容態を見ることができなくなります」

「それもそうだね……他にあるかな?」

「そうですね……これはなるべく頼りたくはありませんが、水の精霊の力を奪うのが最も適当かと……」


 水の精霊。その言葉にオリトは顎に手を当てて熟考を始める。

 神の作りし14精霊……それはこの世界トリスメギストスを産み落とした神がこの世界を管理するために生み出した属性を司る人形たちのことだった。

 その力は、全部集まれば、産み落とした神さえも超えられると言われている。


「水の精霊……か。どこにいるのかな?」

「スツルム神殿ですね。奪う方法は、魔王さまのその未知の力が頼りになります」


 言われてオリトは両手を眺める。


「無属性の魔法……父さんの力だね」

「水の精霊であれば、人間は基本干渉しませんし、大丈夫でしょう」

「問題は……精霊自体の実力と、勇者の干渉……だね」


 先代。オリトの父も戦ったことがあるというらしいが、父は精霊と対峙した時、形勢を不利と見て逃げ出したと言っていた。かなりの実力者であることはわかっていた。

 だが、フィリスは首を横に振って、オリトに笑いかけた。


「大丈夫でしょう。魔王さまは魔族最強と謳われたお二人の子です」

「そうだといいんだけど……ね」

「まぁ、先代様の例がありますので、油断せずに行きましょう」

「そうだね。じゃあスツルム神殿に行こうか」


 言ってオリトは、予め手元に置いてあった武器を手に取る。

 それは禍々しく黒光りする黒曜石で作られた歯車が折り重なったような剣であり、先代であった魔王が愛用していた魔剣ギアーズである。


「父さん。借りるよ……この剣」

「魔王さま。御手を」


 フィリスも同じように金色の歯車が折り重なった杖を持ち、オリトに手を差し出す。

 オリトも「ん」と言って、ごく自然な流れで手のひらを重ねた。


「制御はお願いね。フィリス」

「おまかせを」

「魔法陣起動……無属性の転移魔法ポーテーションを使用……フィリス」


 魔法陣がオリトを中心に展開され、白色の光が魔法陣から溢れる。

 そしてオリトがフィリスに視線を向けると、フィリスは目を細めて、呟く。


「発動点設定、動作設定、基礎制御……完了」


 その一言で、全てが完了し、魔法陣は高速回転を始め、光が一層強くなる。

 そして、オリトは最後の仕事にとりかかった。


「発動」


 それだけで、二人は未だに眠る母の前から消え失せた。

 オリトの母、アイリスの唇が少し動いた。



 深い霧が煙る樹林の森の中、オリトとフィリスは石造りの何やら荘厳な雰囲気を漂わせる建物の前……ではなく、その近くの大きな木の後ろで立ち尽くす。入り口があり、その近くを騎士兵と見られる鎧の男が5人うろついており、何やら警戒しているようだった。


「ここに、水の精霊がいるの?」

「はい。騎士兵団の連中がウロウロと目障りですが、なんとかなるでしょう?」

「そうだね。ちょっと行ってくるよ」


 言い残して、オリトは、仮面を被った。ドクロをイメージした顔だけを隠すマスク。

 目が特徴的なオリトには半分あってもないようなものだが、一応必要だろう。

 歩き出し、入り口の前にふらりと現れたマントとマスクの男に、騎士兵達が気づく。


「おい!そこの怪しい男!止まれ!」


 構わず、オリトは歩みを進める。

 すると沸を切らした騎士兵の一人が剣を抜き、オリトに差し向ける。


「止まれ!止まれと言っている!……貴様、死にたいようだな」


 一人をはじめに次々と剣を抜き、オリトを注目する。

 注目を受けたオリトは、右手を差し向けて魔法陣を展開した。一目で危険色を放っているのが分かるほどの魔力の奔流が、騎士兵達の肌を舐めた。


「僕が誰かをちゃんと判断してから喧嘩を売ったほうがいいよ」

「不浄な魔力の流れ……貴様、魔族か」


 剣身を帯びてきたと思えるほどの鋭い眼光をオリトに向ける騎士兵。

 その声に、自身ですら驚くような不敵な声音が、オリトの口から出た。


「挨拶代わりに教えてやろう。僕は、魔王だよ」

「貴様!たあああああああ!」


 剣を大上段に構えた騎士兵が全部で5人、オリトの元へと駆けた。

 その疾風のような駆けに、オリトは何も危険と感じていないように、つぶやいた。 


射出魔法シュート発動」


 瞬間、魔法陣が5人の騎士兵達の足元から現れ、白い色の光を漏らし、光速回転すると、騎士兵たちは地面と垂直に、高々と上空へ打ち上げられた。


「な、なに!? ああああああああああああああああああああああああ!?」

「このぐらいの高さから落ちたら、流石に死ぬかな?」


 騎士兵達が上空へ打ち上がったところまでを確認したオリトは、踵を返した。

 もう興味などないし、元から興味など持っていない。

 あるのは、ただ其処に騎士兵がいたなという認識だけだ。


「人間は脆いからね」


 耐久力では魔族は随一と言っても良い。

 基本的に高位の魔族になってくると、なまくらな剣の刃は通らない。

 オリトに上空100m打ち上げられても、魔族であればそうなかなか死なないのだ。


「お疲れ様です。行きましょうか」


 終わったのを見計らってフィリスが隣にやってきて言う。

 二人の視線はお互いから離れ、今度は神殿の入り口へと導かれた。


「行こう。もうじきココは雨が降る」


 神殿の入り口をオリトとフィリスが潜り、やがて二人の姿が闇に消えると、石造りの神殿の入り口で「ぐちゃり」という音と共に、陰りの無い空から地面へと雫の集まりが叩きつけた。




「君が、水の精霊……ティリーナだね」


 数分後、対侵入者用のトラップギミックなどを無視しながらオリトとフィリスは、最奥の、精霊の信地へとたどり着いた。そこには、青髪の少女が、暇そうに積み木遊びをしており、その少女はオリト達に気がつくと、眠たげな視線をオリトに合わせる。


「貴方たちは誰? ……不浄な魔力の臭いがする」

「折り入って相談があって来たんだ」

「誰?って聞いたんだけど」

「失礼。僕は魔王……人に仇なす悪さ」


 悪。

 正しくそう言う。悪びれもしない。そこが、オリトが自分で自分に驚くところだ。

 眠たげな水の精霊はゆっくりと立ち上がる。白いワンピースが、ふわっと揺れた。


「要件はなに?」

「その力を僕にくれ……っと言っても素直に引き受けてはくれないかな?」

「……っ!」


 白いワンピースがもう一度翻り、オリトとフィリスに正対する。

 右手にはすでに水の魔力が漂っており、水の精霊は右手を無作法に振ると、そこから水の爆発が辺り一面に散った。

 オリトは得意の転移魔法で瞬間的に回避し、フィリスは同じく水魔法の障壁で防御。


「くっ!まぁこうなるよねぇ……フィリス!」

「魔法陣起動」


 言われてフィリスは緑色の魔法陣を起動させる。

 緑色の魔法陣、その属性は風であり、風魔法はフィリスが一番得意な属性だった。


「風魔法ワイルドカットを発動します」


 荒々しい暴風の刃が、水の精霊の足元を叩き切るように薙ぐ。だが、水の精霊はそれをジャンプして、軽く交わして、さらに次に起こった風の刃を水の障壁で防ぐ。


「きゃあ!危ない危ない……アクアラピッド発動!」


 唇をぺろりと舐める仕草をして、水の精霊は足元と指先から水の弾丸と多数発射する。狙うのは風魔法を使って少々の硬直状態にあったフィリス。


「魔法陣起動、ポーテーション発動」


 横槍を入れたのは当然オリト。

 転移魔法を使って自分の元にフィリスを移動させて水弾を回避させると、おもむろにフィリスの肩を抱く。大切な者、割れ物を扱うように優しく。


「魔法陣起動プロセスが無いのはずるいね」


 マスク越しにフィリスに微笑むと、フィリスは「確かに」と言って肩をすくめた。

 二人が会話を交わす中、水の精霊はさらなる魔法を作成し、発動させた。


「スプラッシュポイント!」


 瞬間、オリトとフィリスの足元から水が爆散する。

 とっさにオリトは歯車の剣を盾にして防ぎ、フィリスを守り切った。

 フィリスと離散したオリトに次は水弾が多数届き、オリトは後方に飛び退る。


「おっと!?今度は僕に来たか……こうゆうのはどう?魔法陣起動!」


 水弾に少し隙が生じるのを見計らったオリトの足元に白い魔法陣が展開される。

 オリトが組み上げたのは先ほどの騎士兵に使ったものとほぼ同じ、発射の魔法。


「シュート!」


 発動と共に水弾の一つを蹴り飛ばす。それはオリトの魔法によって何百倍にも登るスピードで返され、水の精霊の腹に被弾する。


「あぐっ!こ、この人達……ただの魔族じゃない……!?」

「魔王だって、僕は先ほど言ったよね……魔法陣起動」

「スプラッシュポイント!」


 再びオリトの足元から水が爆散する。

 オリトの対応は、その水の爆散を躱すのは難しかったためか、再び剣で防ぐ。


「シュート」


 オリトの魔法が発動する。

 するとオリトの体が発射の魔法によって猛スピードで水の精霊目掛けて発射された。


「そこ!フリーズランサー!」

「っ!」


 水の精霊の手元から氷柱の弾丸が発射される。それはまさしく投げやりのような、それでいてパイルのようにオリトを貫かんとしていた……だが。


「であああああああああああああああああああああ!」


 オリトは推進力を活かしつつ、氷柱を蹴り砕いた。

 そのままの勢いで、水の精霊まで推進力は続き、水の精霊の肩を蹴った。

 蹴り飛ばされた水の精霊は壁に激突し、その場に崩れ落ちる。

 気絶一歩手前か、それぐらいなようで、すでに体の自由は効いていない。


「そ、そんな……私、倒れる……!?」


 悔しいという表情と、悔しげな声が漏れ、水の精霊は地面に手をつく。

 そして、気づけばすでに目の前にはオリトが、座った体制で顔を覗いていた。


「それでさ。力をくれる件、考えてくれた?」


 不敵なようで、優しい。

 そんな声が、なおさら水の精霊を苛つかせた。


「誰が……あなた達みたいな悪に……くっ……」

「だろうと思った」


 言葉少なげに、オリトは気絶した水の精霊を、転移魔法で連れ去った。

 後ろではフィリスが「愚かなことですね」と言って、微笑んでいた。


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