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詐欺師の少女と旅する道化師  作者: 浅木翠仙
第1章 旅する道化が望むのは。
7/22

詐欺師の少女が騙すのは。

感想、評価、誤植の指摘などあれば遠慮なく下さい。

心に衝撃吸収(?)のシートを貼っておこう。ほら、窓とかに貼ってある"あれ"。

『ねぇ、私は何を騙していると思う?』


  ―――そうだねぇ。……他人を、じゃあないのかい?


『違うわ』


  ―――まあそうだろうね。でも、君には前科があるから一応さ。


『あら、信用されないのね……ていうか、まだ覚えてたのね』


  ―――私は存外根に持つタイプなんだよ。


『何となくわかってたわ』


  ―――それで、何を騙しているんだい?


『それはね―――』



        ☆      ☆



  旅する道化師の噂を聞いたことがあるかい?


  そう、知って―――え? そろそろしつこい? いや、お決まりのパターンを作るのは重要だと思ってね。嫌ならやめるよ。


  さてねぇ、そんなことより私は今とても重要な場面に居るんだよ。


  私の目の前に居る少女は、私が殺したのにも関わらず、運命を断ち切って殺したのにも関わらず、私を騙して生き続けていたのさ。


  普通じゃあない!

  尋常じゃあない!


  だから私は訊かなければならないんだよ。


  彼女が"何者"なのか。


  そして確かめねばならない。

  彼女が、私を楽しませることが出来る人間かどうかを。


  道化はいつだって道楽を求めているのさ。


  それにとは何だが、彼女はあの人の地雷を遠慮無く踏み抜いたクソ女と違って優しそうだし。私を騙したことについても自衛的な側面が強いしね。


  あのクソ女と違って。

  ―――あのクソ女と違って……ッ!

  あんのクソおnおっと、思考があらぬ方向に向きかけてしまったようだね。


  少しクールダウンしよう。

  そうだね、素数でも数えようか。2進法で。1、10、11、101……おや、ところで1は素数ではなかった気がしてきましたねぇ……どっちだっただろうか……。面倒臭いから考えるのはやめておこう。


  と、しようもないことを考えていたら詐欺師の少女が怪訝な顔を……。


「すまないねぇ、少し考え事をしていたよ」


  どうやら急に黙ってしまって心配してくれたようだ。

  そこら辺のところもあのクソおnこれ以上はやめておこう。何だか戻れなくなりそうな気がする。


「ねぇ、究極の詐欺師ってどういうのだか覚えてる?」

「究極の詐欺師?」


  また妙なことを訊くねぇ。

  究極の詐欺師とは、騙すことを極めた先に辿り着ける最後の境地って感じに言ってた気がするけど。


  それをもっと詳しくってことかい?


  何でクソ女もこの詐欺師も、遠回しな言い方ばかりで直接はっきり答えを教えてくれないのかねぇ……。


「ふむ……自分以外の他人全員を騙しきることが出来る、とか?」

「甘い」

「何?」


  即座に来た否定の言葉に眉をひそめる。

  いや、否定か……? た、たぶんそうだろう。少なくとも肯定ではない。


  うん、否定の意味だろう。きっとそうだ。


  しかし、全ての他人以上の何を騙すというのだろうねぇ。


「甘い……とは?」


  言葉の真意は測りかねるが、しかしその返答が嘲りを含んだものであったからには聞き流すことは出来ない。


「そのままの意味。もしも自分が究極の詐欺師であるならば"どこまで"騙せるか、それを想像してそう答えたというならば甘いとしか言いようがないわ」

「人間の限界を過信しろと? 盲信しろと?」

「いいえ。『"こちら側"の可能性を舐めるんじゃねぇ、この道化風情が♪』ということです」


  見た目の通りの可愛い声と笑顔で罵倒されてしまったようだね。何だろう、なかなか悪い気がしない。

  いやいや、別に変態なんかじゃないよ?

  これくらい普通だろう? あ、いや、冗談だ。おふざけで言ったんだ。だからそんな社会のゴミを見るような目を向けないでくれ。


  しかしそうか。"こちら側"の可能性か。

  良い言葉であるが、それが無ければ"こちら側"には絶望しか残らないということに彼女は気づいているのかな?


「ところで、あなたって不死身なのよね?」


  気軽な話の転換のように、私にとって重大な質問をぶつけてきた。

  しかも確信を持った訊き方で。


「ああ……、私は世界の理に逆らうことが出来る力を持っている。言わばイレギュラーな存在だからね。

  そのせいで世界の理に当てはまることも出来なくなってしまったのだよ。

  つまり、死ぬことができなくなった」


  悪意のある訊き方でなかったこともあり、思わず丁寧に答えてしまう。

  あのときは、あんなに動揺し、怒り狂ってしまったというのに。


「死にたいとは思わない?」

「死ぬことは諦めたよ」


  いや、死ぬ方法自体はあるね。


  イレギュラーな私は、世界のバグとなる。留まるだけでその世界は綻び、ほつれ、そして崩壊する。

  その崩壊に巻き込まれれば私の身体も一緒に消えることが出来るだろう。


  でも、私にはそれは出来なかった。

  怖かったんだよ。


  自分の知らない沢山の人を巻き込んでしまうのが。


  いや、本当に怖いのはそんなことじゃない。

  私が怖いのは―――。


「だからお前は甘いんだよ」

「ん?」

「ううん、何も。

  ただ1つ訊くね。

  もしも私があなたを()()()()()()()()()()()()って言ったらどうする?」


  実は、この質問の意図が最初よく分からなかったんだ。彼女が何を言いたいのか。

  でもね、私は思い出したんだよ。さっきの質問を。

  そして、―――全てが頭の中で繋がり始めた。


  なぜ彼女は運命を断ち切られても死ななかったのか。


  なぜ彼女は世界を移動していたのか。


  なぜ彼女は既に何度も殺されているにも関わらず、私に殺されたタイミングで世界を移動していたのか。


  なぜ彼女は私を普通の人間のように死なせることが出来るのか。


  究極の詐欺師とは何なのか。


  私は悟ったよ。


  彼女は。


  究極の詐欺師は。


「君は。


  ―――()騙しているのだね?」


  そう、答えは至って簡単。


  彼女は世界を騙せるから、世界に対して自分が死んでいないと思わせて、死ななかった。


  彼女は世界を騙せるから、世界に対してイレギュラーな存在になり、嘘を重ねて世界を移動していた。


  彼女は世界を騙せるから、イレギュラーな存在だから、世界を動かざるを得なかったが、決して死なない代償として世界を移動するわけではなかった。


  彼女は世界を騙せるから、世界に対して"私が世界の理に当てはまっている存在である"と錯覚させることができる。


「世界を騙すことで生き続けている。違うかい?」

「半分正解。半分不正解」


  ……半分? どういうことだ?

  いや、「生き続けている」をわざわざ正解と言うとは思えない。

  世界を騙していているのは事実だろう。

  とすると、生き続けていない?

  それはおかしい。事実彼女は目の前にいる。実際に生きている。いや、実は死んでいるのか?


  運命の糸は切れていない。

  つまり、生きている。


  とするならば、生き"続けて"いないということか?

  つまりは……?


  ―――そこでようやく、自分のことを思い出したよ。


  彼女が言ったことが繋がった。

  そして私は導き出した。彼女の用意した答えを。いや、彼女の望みを。


  その望みは当然。

  その望みは必然。

  その望みは私との共通点。


「君は―――死にたいんだね?」


  彼女は……今までの儚い笑みとは違う、溢れんばかりの笑顔で答えた。


「はいっ」


  と。


  そう、1度吐いた嘘によって彼女は―――私と同じように、死ねなくなっていたのだった。


  嘘として真実は言えない。

  死なないと言う嘘を、死ぬと言う嘘―――否、真実―――で上書きすることは出来ない。

  だから彼女は―――自分は死なないと世界を欺いてしまった彼女は、死ぬことが出来ない。


  そう、まさに生き地獄。彼女はそれを味わっているのだ。

  いつからかは知らない。

  見た目はかなり若いように見えるが、彼女は詐欺師で"こちら側"だ。外見くらい、ただ存在しているだけでも偽れるだろう。性別すら本当に女かどうか怪しい―――もちろん便宜上"彼女"と呼び続けはするが。そんなもの信用するに能わない。当てにするだけ無駄だ。


  長い永い時間、永遠とも思えるほどの時の中、彼女は願ったのだろう。


  死にたい、と。


  だが、その答えは私に重くのし掛かったんだよ。


  私たちが普通の人間として死ぬには、どちらか片方が生き続けなければいけない。

  全くの同時に死ねば良いのかも知れないが、果たしてちゃんと死ねるか怪しいところだ。

  いや、前者の方でも本当に死ねるかは分からない。

  そもそも我々の不死は、世界の単位ではないだろうからね。

  世界の上を行く何か大きなくくりの理があるのだろうと思うよ。そうでなければ"世界の理"から外れた場所なんて存在しないはずだからね。


 ……いや、そもそも世界を移動してる時点で世界より大きい枠組みがあることは疑いようがないか。


  さて、ここまでごちゃごちゃと連ねてきたが、はっきり言おう。


  私だって死にたい。


  世界と一緒でなければ消えることのできない身体。しかも消えた後、"私"はどうなるかが分からない。死ぬのか? それとも……?


  私は身体が消えたとき、いわゆる魂とでも呼ぶのだろうか、それがどうなってしまうのかが分からない。皆が言う"死"が先に待っているかも分からない。


  私は、それが怖い。

  他の人たちと違う最期を辿るかもしれないのが、果てしなく怖い。


  だからだろうかね。

  その怯えから逃げてしまったのだろうか。私はこんなことを口にしていたよ。


「旅は道連れとも言う。私と一緒に、旅をしないか?」


  言ってから後悔した。

  こんなの、彼女の望む言葉じゃない。彼女の願いはついさっき、この私が、自分の口で言ったではないか。


  軽蔑されるだろうか。

  嫌味くらい言われるかも知れない。

  呆れて帰ってしまうかも知れない。


  だが思いに反して、彼女は先程よりも一層輝くような笑顔で答えた。



「はい、一緒に生きましょう!」


















          ☆       ☆


















  おや、どうやら誰かお客さんが来たようだ。

  初めての客だね。派手なキャスケットを目深に被った、様々に色を反射させる綺麗な髪の男の子だ。美少年というより美幼年とでも言うかな。

  ま、こんなところに来るには珍しいタイプだね。


「初めまして、今日はどんな用件で?」

「実は―――」


  果たして彼はどんな依頼をしてくれるのかな?

  いやはや、楽しみだよ。純粋な子だと良いなぁ。




「―――殺してほしい詐欺師がいるんだ♪」




  私は旅する道化師。

  放浪道化はぶらぶらと、一人孤独にどこかをほっつき歩くのです。

読んでいただきありがとうございました。


ひとまずの第1章完、です。

2章目は執筆中です。狂人キャラが増えて困ってます。

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