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詐欺師の少女と旅する道化師  作者: 浅木翠仙
第1章 旅する道化が望むのは。
3/22

少年少女は奇跡を望む。

5話で一区切りつきます。

感想、評価、誤植の指摘などあれば遠慮なく下さい。

『何で人は嘘を吐くのか分かる?』


  ―――さてねえ? 私にはさっぱりだよ。


『簡単よ。それはそこに嘘があるから』


  ―――おいおい、登山家みたいなこと言うんじゃあないよ。


『あら、私は大真面目よ?』


  ―――何を言う。道化は私一人で十分だ。



        ☆       ☆



  旅する道化師の噂を聞いたことがあるかい?


  何? 聞いたこともない?


  それはショックだなぁ……。


  あー。まあ良い。聞いたことがないのならば仕方ない。でも、『放浪道化ワンダリング・ピエロ』というのは聞いたことあるだろう。


  ―――無い。


  そうか……。それは本当に困ったなぁ。有名になったとてっきり思っていたのだが……そうか、自惚れだったか。


  何だか恥ずかしいね。これこそ、本当に道化じゃあないか。


  だが、だからと言って自己紹介するのも気が引けるものだ……。


  ……ん?


  誰か来たようだね。もうこんな時間だったか。


  ……え?


  あ、いや別に誰とも会う約束なんてしてないさ。


  ただね、知ってるだけさ。


  ああ、信じてないね?

  まあ良いよ。こっちのことを知りもしない人に信じてもらえるなんて都合の良いことは思ってないから。

  まあでも、見てれば真偽は分かるんじゃあないかな?


「おいっ本当にこんな廃墟に誰かいるぞ!」

「あの噂は本当だったんだ!」


  子供だね。

  怖いもの見たさで無謀なこともしてしまう餓鬼共と言うべきか。


  ……まあ前者にしておくよ。


「うっわ、仮面つけてる!」

「シルクハットかぶってるし!」

「これってカッコいいからかぶせてんのかな?」


  ―――やはり後者にしようかな。


「五月蝿い餓鬼共だ。少しは静かに出来ないのかね?」


  のそりと立ち上がる。


  ほお……この餓鬼共、動くと思わなかったという顔をしている。

  私のことを石像か何かだとでも勘違いしていたのかねぇ……。さっきもかぶせてる、とか言ってたし。


  いやしかし、まったく馬鹿馬鹿しい。相手にするのも面倒だ。


  適当にあしらってやろうか。


  いやでも、それは私の道化の名前が廃ると言うものか。

  何? 別にどっちでもいい?

  いやはや、興が冷めることを言ってくれる……。


「ウェルカム、ボーイズ!」


  両手を広げ、高らかと言い上げる。

  仰々しい言動も『道化師ピエロ』の仕事の一部さ。


「しゃべった!」

「放浪道化がしゃべった!」

「旅する道化師がここら辺に来てるって噂本当だったんだな!」


  少年たちが興奮したように目を輝かせる。

  ふむ、こういう反応もなかなか悪くないね。


  私のところに来るのは殆どが瞳の濁った愚かな大人だからね、こういう純粋な反応はどうにも嬉しくなってしまうのだよ。

  そう、瞳が濁ってるか、心が荒んでるか、根が腐ってるか、頭がイカれてるか、そんな奴ばかりさ。特に最後のは厄介だね。まず言葉が通じないことがある。


「さて、君たちは私の元へやって来た。

  ……さあ、君たちは何を望む?!」


  金か。名誉か。地位か。権力か。


  子供だし、菓子か金くらいかねぇ。

  即物的なのは良いことだ。

  こちらが楽だからね。


  いやいや、別に楽がしたいわけではないさ。

 

  ただね、形無いものはね人間には毒となり得りやすいんだよ。

  執着さ。

  すがり付くんだよ。


  見ていて滑稽さ。

  自分で望んだものに振り回される者というのは。


  果たして私とどちらが道化なのか分からなくなるね。


「お菓子! いっぱいのお菓子!」

「いや、お金もらって好きなもの買った方が良いよ!」


  口々に騒ぐ。

  まったく騒々しいことだ。何故こんなにも元気があるのか私には理解しかねるね。だから餓鬼は嫌いなんだよ。

  え?

  ピエロにあるまじき言葉だって? 人間そんなもんだろう? 探せば子供嫌いの保育士さんくらいいくらでも見つかるだろうよ。


「お菓子と金だね?

  持てるだけ持っていきなさい」


  ぱちんっ。


  指を鳴らしてみせる。

  いや、別に鳴らす必要は無いんだけどね? 何て言うの? パフォーマンス? そう、政治家がよくやってるあれさ。


「うわぁっ!」


  子供の歓喜の声が廃墟に響く。


  彼らの目の前にはお菓子とお金の山ができていた。


「すげぇっ!」

「魔法ッ!?」

「お金とお菓子がたくさんある!」


  いいねぇ、純粋な驚きだ。これが何年か経つと、何か種があるんじゃないかとか疑い出すんだろうね。寂しいものさ。


  子供たちは口を動かしながらも、手は自分の好きなお菓子を求めガサガサと山を漁っている。


  欲望に忠実だねぇ。


  ま、大人になってからもそのままでないことを祈っておこう。


  いや、そうすると商売相手が減るということか……ふむ、今のは無しだ。


  何?


  酷い奴だとは酷いねぇ。

  こっちだってビジネスなんだよ。

  顧客が減るのは経営者として由々しき事態じゃあないか。


  それを回避することの何が悪いのかね?


  ん?


  悪いと思わない奴が居るせいで従業員が過労で死んだり、消費者が被害に遭ったりするんだって?


  うん、そこはノーコメントで行かせてもらおう。

  私自身が社会から飛び出たような存在なんだ。社会問題について語り合うような気はさらさらないね。そういうことは皮肉に使うくらいが一番さ。


「ああ、そうそう。

  知っていると思うが、私は2回目からは有料だ。勘違いしてまた銭無しで来ることのないように」


  お金と菓子を好きなだけ取って廃墟から出ていこうとする少年たちに声をかける。


「わかってるー!」

「ありがとねっ」


  了解と感謝の意の言葉をおいて子供たちは去っていった。


  たまにはあのような客も悪くない。


「うん、少ししたらまた客が来るね」


  何で分かるのかって?

  私はこの世の動きには敏感なんだ。


  意味が分からない?

  まあ、そうかも知れないね。


  次は大人が相手だ。

  慇懃に対応してあげないとねぇ、こちらもビジネス。相手の気を悪くするようでは上手くやっていけない。


  ああ、そうだよ。

  その人は2回目なんだ。つまりは有料さ。


  有料でも来る人が居るのかって?

  当然じゃあないか。でないとこんなこと続けていないよ。


  さっきも言ったろう?

  形無きものは人の執着を生むんだよ。




「やあ、来たみたいだね」

「俺が来ることを分かっていたと言うのか? この結果が分かってやったって言うんならとんだ詐欺じゃねぇかッ!」


  私が迎えると彼は早速苛立っていた。

  まあ、それもそうだろうねぇ。


  いやしかしにもその口調はちょっとばかり悪すぎると思うけどね。貴族とは思えないよ。いや、成り上がりなんて言うとこんなもんなのかな?


「いえいえ、私はただあなたが来ることを少し前に知っただけでございますよ」

「少し前だあ?」

「ええ、ほんの()に」


  彼はとある元下流貴族にして前成り上がり上流貴族にして現失脚者。


  彼に頼まれ、前に私は彼を上流貴族に仲間入りさせてあげた。

  ちょちょいとこの世の摂理を動かして彼に、王の娘が襲われているところを助ける運命を授けたのさ。


  でも、私を頼って来た者はだいたいこのように再び来る。


  何故かってのは簡単で、名誉も地位も権力も、その者に力が無ければ保つことは出来ないものだからだよ。

  自分で掴み取った運命でないのだから余計のことさ。


「貴様、ふざけているのか?

  俺が失脚したのは昨日の話だぞ?」


  おお怒っていますねぇ、怖い怖い。

  でも問題はありません。

  これくらいはいつものことで、慣れていますからね。


「いえいえ、私めは至って真面目でございますよ。

  あなた様も体感したじゃあありませんか。私の不思議な力を」

「う、うむ……」


  さて、そろそろ取引の話に入るとしますかねぇ。


  その者に出せない値段を強要しても取引は成立しない。

  まあ、そこが私の腕の見せどころでしょうかね。

  ふふ、腕が鳴ります。


「まず、何をお望みで?」

「上流貴族に戻ることだ」


  まあ、でしょうねぇ。

  これがまさしくさっきも言った地位への執着。

  醜いたらありゃあしませんねぇ……。


  おっと、反吐ヘドが出る。


「その方法について、何かご注文は?」

「どういう風でも構わん。とにかく私を元の地位へ戻すのだ」

「へぇ、分かりました」


  方法はどうしようかねぇ。

  王の娘を助けるのはもう無理だろうし。


「ちなみに、どうして失脚したんで?」

「知ってるんじゃあないのか?」

「一応でありますよ。本人の口から聞いた方が、あなたが暗に何を求めているかも見えたりしますからねぇ」


  曰く、由緒ある家の上流貴族が彼の政治不正を察知、調査して告発したとのこと。


  まったくもって自業自得としか言いようがないねぇ。

  これは良い金蔓かねずるになりそうだよ。


  いやぁ、別にそんな悪いことは考えてないよ? 私が小細工しなくても彼は勝手にまた失脚してくれるだろうからねぇ。


  もしかしたら失脚しなくても来るかも知れない。


  彼が生きてる間はここに居続けても良いかも知れないねぇ……。


「そうですね、ではその告発した貴族を失脚させて信用を失わせ、あなたへの告発を冤罪に変えてしまいましょう」

「そんなことが出来るのか?」

「ええ、過去に不整合を起こさせるので少しばかり高くなりますが、あなたの不正は無かったことになり、さらに邪魔な貴族を排除できる。一石二鳥ではありませんかな?」


  実際問題としては、名誉挽回は難しいために汚名返上の手を取るだけなんですがね。

  汚名返上のためには不正をなかったことにして、さらにそれに気付かせる必要がある。


  とすると自然と告発した貴族の失脚やもしくは失脚させようとする動きが必要になる。

  告発が冤罪だとなればどちらにせよその貴族は失脚するでしょうしどう転ぼうと結果は同じなのですが、いかにも得をさせる手を選んでるように見せる。


  金を搾り取るための常套手段ですよ。


  いえいえ、詐欺ではありませんよ。これは正当な権利。気付かない方が悪いんです。

  向こうだって悪いことしてるんですからね。


「では、お金の方はこのくらいで宜しいですかね?」


  紙に金額を書いて提示する。


「おいおい、正気か? こんな額払えるわけないだろう」


  まずは無理な値段を吹っ掛ける。

  え? 出せない値段を強要しても取引は成立しないって言ってたじゃあないかって?

  まあ、見てなさいな。


「では、どれくらいなら良いですかな?」

「多くてもこの程度だ」

「いやぁ、そんな少ないのですか……。

  そうですね、では数歩譲ってこれくらいでどうですかな?」


  自分の言った金額と相手が示した金額のちょうど中程に下げる。


「まだ無理だ。こんなじゃ借金だ。

  上流貴族に舞い戻ってもまたすぐに駄目になってしまう」

「では幾らほどで?」


  相手も少し値段を引き上げる。


  私は口の端を持ち上げまだそれよりも高い値段を言う。


  こうした交渉の後、結局相手が提示した1.3倍ほどの値段に落ち着いた。

  悪くない結果です。

  自分の腕に惚れ惚れしますね。


  良いじゃないですか、自画自賛したって。

  誰にも迷惑はかかりませんし。

  そもそも私にノルマとかはありませんからね。取れるだけ取れればそれで良いんですよ。だってこの仕事において経費はないんですから。強いて言えば私の能力代。それも私からすればタダですからね。


「では、お金はいつ?」

「5日後までにすべて揃えよう。

  先に今日半分は払っていくから、できるだけ早くやってくれないか?」

「了解致しました」


  最後に重要なことを確認して帰りを見送る。

  踏み倒されては敵いませんからねぇ。


  私はその日の内に過去を弄り終えて、結局彼は見事に返り咲いたそうで、大変満足そうな顔で残りのお金を持ってきてくれましたよ。


  ふふ、過去の金蔓と被りますね。


  おっと涎が……。


  すみませんねぇ、つい出てしまいまして。まあこれくらいは勘弁してくださいな。


「……おや」

「おっと、気付かれちゃった?」


  いつの間にか背後に気配がしますねぇ。

  まあ、こんなことを出来るような者は限られているのですが……。


「もう潮時なのですかな?」


  この世界も色々弄くってしまいましたしね。そろそろ留まるのは危険なのだろうことは予想できなくもなかったですが。


「まだ大丈夫だろうけど念には念を、だよ」

「ギリギリのスリルが良いんじゃないですか」


  まったく、安全第一は工事現場で十分ですよ。

  せっかく楽しくなってきそうだったのに残念でなりません。

  ええ、もちろん楽しくなるのはあの彼のことですよ。"彼"と書いて"金蔓"と読みますが。


  しかし、ようやく軌道に乗ってきた仕事から転勤させられる会社員はこんな気持ちなんですかねぇ。


「さて、旅を再開しますか」

「うん、それがいい」


  今度はどこに行きましょうかね。

  どうせなら楽しいところが良いですが……。


「次の滞在先くらいは勝手に決めてくれて構わないよ」

「ええ、そうさせていただきますよ」



  私は旅する道化師。

  放浪道化はぶらぶらと、一人孤独にどこかをほっつき歩くのです。

読んでくださりありがとうございます。

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