ルール。
世界の渡り方についてはこんな感じだ。理解できたかな?
さて、最後に再び"顔"についてだ。君としても返してほしいだろうし、ぶっちゃけて言えばこちらとしても君の顔なんて正直要らない。
そんなわけで、君が顔を取り返すための条件を設定しよう。
顔の変換の条件は一つ。
君が何らかの手段で金を集め、それが一定額を超えた時、そちらに顔を変換しよう。
ただし、強奪は無しだ。
取引でも何でも、正当な取引において金を集めること。もちろん上手く誤魔化そうとしても無意味だよ。こちらは全てを把握しているから。
それともう一つ。
奇跡によって直接金を創り出すのは無しだ。
ただし、奇跡を使って創り出した物によって儲けるのはアリだ。だが、その世界においてオーパーツとなりうるものをホイホイ流出してもらうのは困る。そこら辺は注意してくれたまえ。目に余るようならば、直接手を下す必要が出てくる。
もちろん、殺すことは出来ない。
こちらが手を出す必要に迫られた暁には、君は本当の意味で、永遠の牢獄に囚われることとなるだろうね。
では、君の良き運命を願って。
親愛なる友より
☆ ☆
「あ、やっぱり格好良いね」
「お世辞は結構だよ」
ようやく顔を返してもらい、道化は一息吐く。あの後男が素直に返すわけもなく、一度福笑いのようなことをされる羽目になった。クククと笑い声を上げた男に女が自分の顔の横で手を握り、閉じ、また握りを繰り返して見せると、途端男の顔色が変わり必死に謝って正しく整えた。
一体あのジェスチャーにどんな意味があるというのか。興味はあるが知りたくはなかった。
「世界を創る上で一番重要な段階がある。何か分かるかい?」
「そもそも世界を創る上でどんな過程があるかも知らないのに分かるはずないだろう……」
顔を返したところで気を取り直し、本題へと入る。世界創造の話だ。はっきり言って、どんな話が飛び出るか道化にとっても未知数であった。
そんな世界創造の方法の説明を質問から始めた男に、道化は呆れることしか出来なかった。ため息を吐いて文句を言う。
「それは世界のルール決めだ」
だが男はそれを無視した。
道化も大して気にしない。気にしても疲れるだけだ。あまりに酷かったら女がどうにかしてくれるだろう。例え、少女と楽しそうに談笑してたとしても。そして時々少女が男に向けて、ゴミを見るような視線を向けていたとしても。だから一体どんな話をしているのか。
「まずそのルールが誰に適用されるかを決める。基本的にはその世界で生まれた非超越存在までを適用内とするんだ。そして次に物理法則。これは――」
「ちょっと待ってほしいねぇ、何だい非超越存在って。突然新しい用語を出さないでもらいたいんだが」
「ん? 説明してなかったっけ? まあ良いじゃん、気にしないでよ」
監禁して世界創造を教えるとか言っておきながら、面倒臭そうに適当に流そうとする。こいつふざけてんのか。道化は思うが言わない。既に女が冷たい視線を男に向けていたからだ。
女が親指で自分の顎を一定の速度で叩く。地味な動きで男はなかなか気付かなかったが、気付いてからは劇的だった。
「非超越存在とはつまり、"こちら側"では無い人たちのことです!」
ビシリと敬礼して言った。
よく訓練されている。
「ちなみに"こちら側"を適用内に含めるとどうなるんだい?」
「その分世界の"器"の大きさが必要となるだけだよ。普通の数百万倍くらいかな?」
「器の大きさ?」
「世界に込められたエネルギー、とか力とかの量と言えば良いかな? どれだけの力を使って世界を創ったかに左右されるんだ」
女は笑顔で頷くと少女との談笑に戻った。というか少女は世界創造に関係ないのか。
「そして物理法則。これは適当で良いよ」
「おい」
道化の端正な顔が引き吊っていた。
物理法則の調和に神の存在を見出だす人も居るというのに、それが適当で良いとは如何なることか。
全くもって信じがたいことであった。
目的論的証明が泣いている。
「世界には予定調和というものがあってね、適当にやってもそれが解決してくれるんだ」
神が神らしくなかった。
神を超える力任せだ。もはや神が必要なのだろうか。予定調和で世界が生まれても不思議ではない。
「むしろ細かく設定しすぎると、矛盾があったときに予定調和ですら解決不可能な時もあるから」
全知全能の神様の幻想が道化から消え去った。予定調和様の信仰を始めることにする。
「しかし適当って言ったって何れくらい何を設定すれば良いのか分からんよ」
「だよね、最初は失敗も多かったよ。何度世界を滅ぼしたことか」
「予定調和が働くんじゃないのか?」
「それは物理法則が決まるまでだよ。物理法則が確定した先に滅亡があるかは出来てみないと分からない」
君の故郷の世界だって滅びたしね。
男は笑って言った。
実に軽く。大したことでは無いように。
嗚呼、彼にとって世界とは数有る中の一つでしかないのだ。そして何れ自分も同じようになるのか。道化は言いえぬ不安を覚えた。自分もあんな風になるのかと。
「さて、物理法則の次は世界のルールだ」
「それ最初にも言わなかったかい?」
「ああ言い直すよ。世界の理だ。創造と破壊の設定だよ。このバランスが全てを決める」
男の目がいつになく真剣なものとなったのを見て、こんな顔も出来るのかと少々失礼なことを道化は考える。男の今までの態度からして仕方のない評価なのかも知れないが、これまで多くの世界を管理してきた存在であることを考えると彼はやはり出来る存在なのだ。
ただ飄々としているだけでは世界の管理など不可能なのだ。
「あなたってそんな顔出来たんだ」
女が何か言っているが、並みの存在には世界の管理など不可能なのだ。
「このバランスは実際試してみた方が分かりやすいんだよね」
百聞は一見に如かず。
確かに素晴らしい言葉だろうが、あそこまで真剣な顔をしたならば、それに見合った説明をまずしてほしかった。そう思う道化と女だった。
ちなみに、少女はそんな微妙な顔をした二人を見て疑問符を浮かべていた。道化と男の話は一切聞いていなかったらしい。
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