表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詐欺師の少女と旅する道化師  作者: 浅木翠仙
第3章 詐欺師の告白。
15/22

消せるものではなく。

今回は少し短めです。いや、まあ段々短くなる一方なんですけど。

「わざわざ死ぬ前に導かなくても、どうせ死んで覚醒していたはずなのに」


 何で、何で……と声を漏らす。


 彼女の顔には、やるせなさが浮かんでいた。

 彼に頼まれることはいつも、彼のためにはならない。彼を思うがゆえ、彼女にはそれが辛かった。


「わざわざお金の制約までつけて、時間をかけさせて、あんな風に彼らを引き合わせて……」


 女と男は二人で対の存在。

 それは彼らも同じ。


「これじゃあいかにも死なせてあげる気があるみたいじゃない」


 死なせてあげる。

 この言葉の先にある意味。

 それなのにきっと彼はこれからもそれを繰り返し続けるだろう。

 彼女自身においては別に気にしていなかった。彼女が気にするのは彼のことだった。


「このままじゃ、彼はいつまでたっても……」



         ☆      ☆



「ねえ道化、私を殺して」


 彼女がここに来たという事実を否定して、私は彼に切り出した。


 彼は大して驚きもせず、可愛い娘が来たと思ったのに自殺志願か、と残念がった。


「殺して」

「……」


 彼は押し黙って、私を見つめてきた。

 仮面の下の目は見えないが、見つめられていることは分かった。


 じっと、見つめられた。

 私も、見つめ返した。


 何れくらいたっただろうか、短かったようにも長かったようにも感じた見つめ合いは、彼の言葉で唐突に終わりを迎えた。


「良いでしょう」

「ああやっぱりダ……え、良いの?」

「良いというより、既に終わっております」


 ぐにゃり、と視界が歪み、身体の力が抜ける感覚と、首がずり落ちる感覚が同時に訪れる。


 首もとが、妙に熱かった。


 何をされたのか分からなかった。

 分からなかったゆえに、嬉しかった。


 これなら死ねるかもしれない。


 だが期待を裏切り私は、そこに立ち続けていた。


 首が取れて、倒れそうになったはずなのに。


 だが、何もなかったかのように、いつの間にか私はさっきまでと同じように立っていた。


「君は……私と同じなのかい?」

「え?」

「私と同じで、死ねないのかい?」


 道化も……死ねない?


 いや、何となく分かっていた。

 彼女がわざわざ彼を指定したのだ。何かあるとは思っていた。その何かが"死ねない"ことだった。それだけの話だ。


 ただ、それが明らかになったとき、彼の様子を見て私は悟った。

 もはや彼は、私を殺してはくれないだろう、と。


 痛みを共有できる者が居た。


 彼は『私と同じ』と言ったとき、その喜びを滲ませていた。それを殺すということは、つまりは"同志"を失うも同義だ。


 彼はもう、殺してはくれないだろう。


 だから私はやり直すことにした。リセットすることにした。


 私は彼を騙し、"会っていない"ことにした。


 それから私は、何度も方法を変えてチャレンジし続けた。

 失敗しては騙し、騙しては失敗し、失敗しては騙し、また騙しては失敗し、そして失敗しては騙した。それを延々と続けた。


 うんざりするほどに、何度も何度も、何十回と、何百回と、繰り返す。


 ずっと、ずっと。


 手を変え品を変え、姿や性別までもを変え、私は彼を騙し続けた。


 世界を渡るときに隠れてついていけるよう、依頼とは別のところでも近づいたりしていた。


 そして、あまりにも長い繰返しに私は嫌気が差し……ついていくことにした。



         ☆      ☆



「私は、あなたを騙していたの。何年も、何十年も前から私たちは既に知り合っていたの」

「……ほう」


 私の告白に、彼はただ頷いた。


 でも、自分でも分かっている。こんなのはただの自己満足でしかない。


 だって私には、この告白さえも"無かったこと"に出来てしまうのだから。

 それでもせめて、何か……。


 せめて何か、消えないものを。消さなくてすむものを。


 彼に渡したい。


 言葉などではなく、物を。


 私はそこで彼が言ったことを思い出した。



『奪われたものを取り返すためだよ。そのために、私はお金を集めている』



 お金ならば。


 お金ならばまた繰り返そうと、消す必要はない。


「道化、私は能力の練習で色んなものを騙したわ。その時に、お金も稼いでいたの。でも使う機会はなかったから……あなたにあげる」

「いや、しかし……」


 彼は渋った。


 何か思うことがあるのだろうか。

 それでも私も引く気はない。


「今まで騙してきたことへの慰謝料として、もらってほしい」


 私のこの一言に、彼は折れてくれた。

 良いだろう、分かったよ。と彼は私の出した大量の金銀銅貨、紙幣、貨幣を受け取ってくれた。


 だが、どういうことだろうか。



 彼が私の出したお金に触れた瞬間、突然辺りに光が満ちた。


 何が起きたのか、さっぱり分からなかった。


 だが彼は、


「まさか……っ!?」


 と、何か分かっているようだった。

第3章はこれで終わりです。


次の章が一番の盛り上がりになるんではないでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ