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詐欺師の少女と旅する道化師  作者: 浅木翠仙
第3章 詐欺師の告白。
14/22

死ぬために。

感想、評価、誤字脱字の指摘など貰えるとうれしいです。

スライムみたいに"ぷるんぷるん"なハートでお待ちしております。


―――何言ってるかよく分からないですよね。すみません、自分でも分かりません。

「お人好し」


 彼女は呟いた。


 何が暇だ。それが普通だ。

 自ら異常を探して回るなんて。

 異常なんて、余程大きなものでない限り"自浄作用"で基本的に解決される。


 管理だなんだのというが、結局は"なるようになる(ケ・セラ・セラ)"。そういうものだというのに。


「お人好し」


 わざわざ自ら会って教えなくても、勝手に覚醒し使い方を覚えるものだというのに。

 彼はかつてを思い出したのだろうか。

 そういうことするのが嫌いなのに、わざわざあんなことまでして。


「何であんたはそんなにも……」


 お人好しなの?


 その問いに、彼は答えなかった。



         ☆      ☆



「死ね……ない?」

「ええ」


 かすれ、今にも消え入りそうな声に彼女は確かに頷いた。

 認めたくない現実が肯定される。

 拒否したかった。拒絶したかった。


 あの"死"のように、"不死"も否定したかった。


「それは無理よ。あなたのそれは世界の理を否定することは出来ても、それを越えたものには効果を発揮しない。世界の最大の理である"死"を否定した今、あなたを縛るのはそれより上位のもの。それをどうこうすることはあなたには不可能よ」

「そんな……」


 辺りが暗い。

 もう夜なのだろうか。家に戻らなくては……。親に怒られるけど仕方ない。


 また動物に襲われたりしないように気を付けないと……。


 ガチャッ。


 扉が、開かない。

 何度揺すろうとびくともしない。

 押しても引いても動かず、ドアノブも回らない。


「残念だけど、家に帰すわけにはいかないわ。"不死"のあなたは決して普通には生きられない」


 固く閉ざされた扉の前で尻餅をつく。

 もはや扉に触れる力さえ出なかった。


 逃げたい。逃げたい。逃げたい。

 早くこの場から逃げ去りたい。


 そして日常に―――。


「戻らせるつもりはないわ。そうね、じゃああの人みたいに貰ってあげる。あなたならこれがないことを隠すことができるわ。でもね、これがないと言う事実がある限り、あなたは非日常に囚われ続ける。寿命や年齢の問題に行き当たらなくても、あなたの精神は囚われ続ける。返してほしければ、私の言う通りにしなさい」

「え?」


 無い、無い、無い!

 私の、私の⭕⭕が! 無い!


 無い無い無い無い無い!?


「ちゃんと誤魔化し方も教えてあげる。そして―――」


 誤魔化すだけではダメだ。

 無いと言う事実が、私を、私の心を蝕む。


 嗚呼、確かにもう日常には戻れまい。


 私はいやが応にも彼女に従うしかなかった。


 だが、


「―――そして、あなたが死ぬことのできる方法も、教えてあげる」


 俯いていた私の頭の上から投げられた言葉。それに反応して思わず顔を上げる。


 死ぬ方法がある。


 それは希望だった。


 藁にもすがるような思いで彼女の顔を見て、次の言葉を待つ。


「今日からあなたは詐欺師になりなさい。理を、真理を否定し、まことを歪める詐欺師。そしてとある人間に会いなさい。その人が、あなたの"死"の鍵を握っているわ」

「とある人間?」

「その前にすることがあるわ」


 すること?

 まだ終わらないの? 早く私は死ねる身体に戻りたい。普通になりたい。


 死なないなんて、怖い。


 他の人と違うなんて、怖い。


 考えられない未来の先が延々と続くなんて、怖い。


 生きるのに精一杯だった私に、生き続けろと言うの?


 嫌だ。


 怖い。


 怖い。


 怖い。


「彼の元へ行くのに必要なことなのよ。それができるようになって、説明を終えたらあなたは自由よ」


 自由。


 私に縁の無かった言葉。

 慌ただしく時間が過ぎ、ただ生きるためのことだけで1日が終わる私にとって、自由など無かった。


 自由など、知らなかった。


「あなたならきっとすぐ出来るようになる。さあ、世界を渡る練習をしましょう」


 彼女に差し伸べられた手を、私は掴んだ。


 藁を掴むように、すがるように、求めるように、手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。


 そして私は、3ヶ月という時をかけて、世界を自由に渡れるようになった。

 同時平行で、私の能力の使い方も教わった。



 ついに必要なことをやり遂げた私は、彼女に連れられてとある世界のとある廃墟を訪れた。


 そこで私は見た。


 暗闇の中に映える、不気味な白いピエロの仮面を。お世辞にも趣味が良いとは言えない派手で毒々しいシルクハットをかぶり、それとは対照的にピッチリと着こなされた高そうな服。


 仮面に開いた目口の穴は虚ろに暗く、底のない孔のようだった。


 彼は果たして生きているのだろうか。


 私にはピエロの姿をした人形か、はたまた幽霊かのように思えた。


「何を覗き見していらっしゃるのかな、お二方? 入ってきて構いませんよ。ようこそ、本日は依頼ですかな?」


 突然動き出した彼の瞳は、やはり真っ暗だった。


「バレちゃうものね。どうも、道化さん?」

「はじめまして、レディ」


 彼女はバレてからすぐ、誤魔化すこともせず堂々と中に入っていった。覗き込んでいた窓から。

 トンと跳んで入り、身軽で鮮やかな見惚れるような着地を見せた。


「あら、お上手なこと。そうやって依頼主の女の子を口説いてるの?」

「生憎、依頼主のほとんどが醜い男共でね、口説く気がまず起きないんだよ」

「お気の毒」

「同情はしなくて良い。するくらいなら口説かれてくれたまえ」

「嫌よ。好みじゃないもの」


 私が中に入ろうか迷っている間に会話が進んでいた。明らかに意味のない会話だけど。


「そうか、ダメか。残念だ」

「あら、軽口で言ってるだけかと思ってたけど、わりと本気だった?」

「いや、単に君を見てるととある人を思い出してね」

「好きだったんだ?」

「いや、突然いなくなってしまってね。いつかそうなるとは分かってたんだが……少しばかり寂しくてね」


 彼女が、息を飲んだのが分かった。

 なぜ彼女は、微妙な微笑みを浮かべているのだろうか。


「あなたに用があるのはこの娘だから。私にはもう関係ないし、帰るわ」


 少し顔を俯かせたあと彼女はそう言って、窓から入ったばかりの私を前に押しやった。

 そして私の耳元で、


「あの子に、私のこと"騙して"おいて」


 と言って窓から外へ出てそのまま夜の闇に消えていった。


 言葉の意味は明らかだった。


 私の能力を使い、ここには私一人のみが来たと彼に思わせろ。


 そう言うことだった。


「は、はじめまして、道化師さん」


 私は強ばった笑みを浮かべて道化に挨拶をした。




 この日から、私の嘘にまみれた日々が始まった。

読んでいただきありがとうございました。

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