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詐欺師の少女と旅する道化師  作者: 浅木翠仙
第3章 詐欺師の告白。
12/22

詐欺師の死。

感想、評価、誤字脱字の指摘などありましたら、是非お願いします。

ブックマークも含め、そういった読者の反応が貰えると、狂騒乱舞します。近所迷惑になら無い程度に。

 真白の空間に彼らはいた。

 片方は男、もう一方は女の姿をしていた。

 何もないその空間に、彼らは二人きりだった。


 男は寝転んだり座ったりして、自分の納得できる姿勢を探していた。ただ、普通の人間としてはあり得ない方向に間接を曲げたりして色々ポーズをする様は、シュールを通り越して狂気とも呼べた。


 女の方はそんな男の方には目もくれず寝転がって、眠そうに欠伸をしていた。


 永遠もの白の中、彼らに動きがなければ時間すら感じることすら不可能であっただろう。


 納得のいく姿勢が見つからなかったのか少し不満そうな男が、女に向けて話を切り出す。


「彼は今ごろどうしてるかな?」


 そう訊きつつも本気で気にしたり、心配している様子はない。

 本当にただの話題として使っただけのようだった。


「精神でも病んでるんじゃない?」


 それに気付いてか、女も同じように適当な返事を返していた。もしかしたら単に眠いだけの可能性もあるが。

 事実答えた直後、うつらうつらと頭が下がっては上げて、下がっては上げてを繰り返していた。


「そうならないよう君に動いてもらったんだけど」

「そうよ、感謝しなさい」


 互いに気のない会話を続けるが、女の方は眠そうに目をこすっていたがやがてそれも止めて目を閉じて、下がった頭を上げようともしなくなっていた。


 女の言葉を聞いていなかったのか、無視したのか、夢の世界に旅立とうとする女の方を見もせず、男は独り呟く。


「早くこれ、返せると良いなぁ……」


 それまでとは違い、この言葉だけは妙に感慨に満ちていた。



       ☆      ☆



 手に持った手紙を読むか迷う。

 私は彼をずっと騙し続けてきた。

 その罪の意識が、私に手紙を開くのを躊躇わせていた。


「……読まないのかい?」


 不思議そうにこちらを見る道化。

 不気味に暗い仮面の目口の穴が、妙な迫力を生んでいた。


 彼の素顔は今まで1度として見たことがない。

 何度も繰り返して、何度となく会ってきた彼だけど、仮面を外すことだけは決してなかった。


 食べるときも、飲むときも、寝るときも彼が仮面を外すことはなかった。

 一体どういう構造になっているのか気になるところだ。"こちら側"の男に貰ったと言っていたから特別な、それこそ人の手では到底不可能な仕掛けが施されていても不思議ではない。


 道化が自分で奇跡を使って仕掛けを施した可能性もある。


 もしかしたら彼の言った私ではない方の"詐欺師の少女"がしたのかも知れない。


 意味もない思考を中断し、改めて道化の顔―――正しくは仮面―――を見る。


 素顔は格好良かったりするのだろうか。


 一瞬浮かんできた疑問を慌てて振り払う。私は何を考えているのだろうか。

 せっかく無意味な思考を中断しても、その後に再び意味のないことを考えては何のために思考を止めたか分からない。


 それに私にはそんなことを思う資格もない。

 彼を騙し続けてきた私は、今ここにいるのも場違いであるのに。


 暗くなった考えを頭の角に追いやり、手紙と向き直る。


 この中に、彼の奪われたものが書かれている。

 奪われたもの。

 それは私にもある。

 彼は私にもそれがあることを知らないだろう。


 彼は話した。過去を。そしてその時奪われたものは私の手の中の紙を見れば分かってしまう。


 それで良いのか?


 不安が首をもたげる。

 別に話さなかったことで何か起こるわけでもない。


 でも……。


 言い様のない黒い何かが私の中で渦巻く。

 きっとこれは彼は関係ない。恐らく自己完結的な、どうしようもなく利己的な自己中心的な不安だ。


 そう私は直感した。


「道化、私の話を聞いてもらえる?」


 だが、利己的だろうと利他的だろうと、このまま話さなければ、話すまで何かが停滞してしまう。


 そうとも感じた私は彼に切り出す。


 そして表情のない仮面の下で驚く道化に構わず続ける。


「―――これは、私の今までの話」



       ☆     ☆



 私は道化と違い、一般家庭で育った。


 格差の激しい所だったから、豊かか貧しいかで言えば確かに貧しかった。

 でもそれが普通だったから、私は少しも気にしていなかった。


 家の手伝いをして、日々を必死に生きていた。未来を考えるなんてことはしてなかった。その前に明日を、明後日を、明明後日を、一週間先を、確実に生きていかないといけなかったから。


 でも充実していたと思う。

 長いとは限らないこの先の運命に向けてひたすら走り続けるような毎日はとても濃くて。色があって。


 色があるってことは、光があるってことなんだ。光がなければ色は感じられないから。


 光が見えてなければ、色なんて無いはずなんだ。


 だからちょっとくすんでいても、光があってとても素敵な日々だった。


 でも―――。


 私が確か12才くらいの時だったかな。

 彼女と会ったのは。


 彼女と会ったことで私は普通ではいられなくなった。

 いや、違うね。

 別に彼女は私を悪いようにしようとしたわけではないから。

 あくまで彼女は私を助ける形で、私という生き物を異質なものに変えたから。


 あ、いや恐らく彼女は道化の言った"詐欺師の少女"ではないと思うよ。

 だって彼女は大人だったから。

 背の高い、大人の女性だったから。


 それに名乗った名前も違ってた。


 あなたの言ってた"背の低い、変に大人びた美少女"って特徴には全然当てはまらないから。


 美少女なんて言ってないって? でも可愛かったんでしょう? あなた話してる時ニヤけてたわよ。


 仮面つけてるからそんなの分かるはずないだろって煩いわね、続き話せないでしょ。


 ―――私はあの日、いつも通り家の近くの湖に水汲みに行っていたの。家の近くって言っても結構離れてるんだけどね。


 その近くに森があって、そのついでに野生の動物に気を付けながら果実を食べたりもしてたの。


 私はその日も木の実を食べて軽い休憩をとっていたわ。

 帰りは重い水の入った容器を持って長い距離歩かないといけないから、その前にせめてひと休みをって。本当はダメなんだけど、親とかもみんな知ってて、ていうか自分たちもしてたから目を瞑ってくれてたの。


 それでいつも通り食べてたらね、近くから低い唸り声がしたんだ。

 辺りを警戒してたつもりだったのに、すぐ近くに獣がいたの。


 これは危ない。

 今すぐ逃げないと。


 幸運にも向こうはまだ気付いてなかったみたいだから、慎重に距離をとれば安全を確保できるに違いないって。


 焦らずちゃんと判断できた。


 姿勢を低くして、獣を気にしながら足音をたてないようにゆっくりと移動してたんだ。


 でもね、ちょっと進んだところで木の根っこに足を引っかけて転んじゃってね。

 獣の方を気にしてたから、少し足元が疎かになっていたのかも知れないわ。

 それにしたって間抜けな失敗だけど。


 もちろん、その音で私のことを獣に気付かれてしまったわ。まあ当然の結果と言えるわね。


 近付いてくる足音がしたから、もはや全力で逃げるしか助かる方法がないことが分かったわ。


 奇跡的に足は挫いてなくて、擦った膝とかが痛んだけど、難なく走ることができた。


 必死だった。逃げ切れなければ死んでしまうから。その時は死にたくなかったから。


 頑張って走って走って走って、背中に衝撃があった後、私の目の前は真っ暗になったわ。

読んでいただきありがとうございました。

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