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夜鷹  作者: mokecke
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七夜

月読は目が覚めた。しかし、目を開けたからといって、月読の視界に変化はない。なぜなら、月読のいる所は光の届かない鏡の中。月読は自分の手ですら、判別のつかない闇の中で、鏡の外にいる小さな小間使いについて思いを馳せる。


あの子は、竹取物語を読めただろうか。あの子は、文字が読めないと言っていた。それなのに、なぜ昨夜は本を読むなどと言い出したのだろう。


月読は再び瞼を下ろし、昨夜の別れ際に見た夜鷹を思い出す。夜鷹は月読の部屋に来てからというもの、月読が鏡に戻る前に床に伏していた。その夜鷹を運ぶのが月読のささやかな楽しみであり、近い未来への償いであった。それが、昨夜の夜鷹は月読が鏡に戻る時間まで、皺くちゃの紙と竹取物語の本を真剣に見比べていた。


あれで、本を読んでいたのだろうか?しかし、文字が読めたところで、大体の意味しか通じないだろう。それにしても、あのシワシワの紙は、誰が寄越したのだか。


月読のささやかな楽しみを奪ったであろう、白い蛇を思い月読は舌打ちをする。


そろそろ、いいだろうか。


月読は鏡から這い出る。外は薄暗く、まだ日が沈んだばかりのようだった。月読は鏡から出て、違和感を覚えた。


あの子はどこだ?


いつもの少し礼儀知らずな夜鷹の声がしない。月読の胸は少しざわつき始める。


まさか、もう逃げたのか?まだ、月夜見の夜は来てないのに…


月読は焦って、部屋中を見渡し、視線を彷徨わせる。月読の視線は部屋の隅の小さな塊に目が止まる。


あれか…汚すぎて、その辺の道具と一体化してたな。


よく見れば、竹取物語の本を枕に夜鷹は規則正しい寝息を立てていた。


全く、神様の本を枕にするとは、とんだ罰当たりな奴だ。


月読は夜鷹の側にしゃがみ込むと、寝息を立てる夜鷹の顔を覗き込む。しかし、顔のほとんどは天照大神の羽衣に隠され、辛うじて今は閉じている目だけが見える。


どんな顔なんだろうか…


好奇心を抑えきれず、月読は夜鷹の頭巾に手を伸ばす。


バチッ


あまりの痛みに、月読は顔をしかめる。


何だこの布。服なんかとは比べものにならないほど、強力な結界が張られてた。


月読は痛む手を摩りながら、夜鷹から距離をとる。


これほどの結界を姉さんが張ってくるなんて、相当警戒されてるんだな…


月読はどこか寂しくなって、文机に戻ろうと、夜鷹に背を向ける。


つくよみさま…?


寝ぼけたような、夜鷹の声が月読の耳に届く。月読が振り返ると、目をこすりながら起き上がる夜鷹がいた。


なんか、今すごい音がしたような…

「気のせいだ。」

そうですか?僕の夢だったのかな?

「きっと、そうだろ。」


月読は再び夜鷹に背を向ける。


今日も月が綺麗だ…


夜鷹の心の声に反応して、月読は窓の外に視線を流す。


「君は毎日そうだな。そこまでのものか…あんなもの、近づいてみればただの石。まるで面白味もなければ、自らで光ることすら出来ない。ただ、太陽の光によってのみ、存在を示すことが出来る。そんな星が綺麗か?」


月読は鼻で笑って、夜鷹を振り返る。視界に入ったのは、どこか悲しそうな夜鷹だった。


何で、そんな酷いことを言えるのですか?月読様は、月の神様ではありませんか。

「月の神様は、月の悪口を言ってはいけないのか?」

いいえ、そんなことは…でも、何だか寂しく感じます。

「…ふん、君の感情など知るものか。」


月読は夜鷹の燻った燃えカスのような、心の声を聞かないフリをして乱暴に文机に腰を下ろす。

しばらくして、月読は服を引っ張られるような感覚がして、月読が肩越しに振り返ると、思っていたよりも近くに夜鷹は立っていた。


「君、そこで何している。」

あの…申し訳ありませんでした。

「…なぜ、謝る?」

だって、月読様に失礼なことを…

「失礼?今更だろう。」

いえ、今回は今までで一番失礼でした。月読様と月を同じものとして、僕は見てしまいました。

「君は何を言っている?」

本当に申し訳ありません。どうか僕のバカな考えを許してください。月読様は月と同じではありません。だって、ご自分で存在を示すことが出来るのですから。


夜鷹はそう言って、月読の書いた本を掲げる。


それに、月読様は月の観察者であって、月を具現化した者ではありませんでした。本当に、なんと…


月読は夜鷹の言葉の途中で、大きくため息をつく。途端に夜鷹の肩が跳ね、全身に緊張が帯びる。


「何を今更、当たり前のことを言っているんだ。全く、主のことをもう少し知りなさい。」


そう言って、月読は文机に置いていた、文法の辞典を夜鷹に手渡す。


「それを使って、もう少し知識を深めなさい。ここにある本を全て読めば、私のことを1%くらいは知ることが出来るだろうさ。」

はい!


いそいそと、本を読み出す夜鷹を見て、月読は再び窓の外の月を見る。


私とお前は違う。そんな、当たり前のことを忘れていたのは、私の方だったな。


月読が再び眺める月は、何故だか美しく感じた。


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