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夜鷹  作者: mokecke
3/8

二夜

夜鷹が目を覚ましたのは、空が茜色に染まる頃だった。


まだ夜行性だった頃の癖が抜けてないな。


夜鷹は大きな窓に近づき、暮れ行く日を眺めていた。しばらく見惚れていたが、大切なことに気がつく。


そういえば、昨日は月読尊様に視界に入るなと、言われていたんだった。


目だけで部屋を見渡すが、月読の姿は見当たらない。


あれ?おかしいな。この部屋、そんなに広くはないはずなのに…


始めて屋敷に来たとき、夜鷹は屋敷の広大さに驚いた。しかし、この部屋のみで言うなら、それほどでもなく、置いてある物も、壁に沿って置かれた本棚と、窓際の文机、その隣の夜鷹の身長ほどに大きい鏡。その他、筆記用具によく分からない機器が床に散乱していた。その床は長く掃除されていなかったためか、埃が積もっている。


よく分かんないけど、僕はこの部屋から出ても良いんだよね。


夜鷹は、掃除道具を探しに部屋を出る。


そういえば、昨日は廊下に戸も窓もないと思ったけど…


夜鷹は、左右を見渡しながら、廊下を確認する。しかし、やはりその廊下には戸も窓もない。


広いお屋敷なのに、どうなってるんだろう?


夜鷹はとうとう、玄関に到着する。


これって、流石に外に出るのはマズイよね。でも…


夜鷹は不思議でたまらなかった。これだけ広い屋敷に、あれだけの部屋は割に合わない。何か秘密があるはずだった。


出るなとは、言われてないし。


夜鷹は玄関の引き戸に手をかける。

次の瞬間、夜鷹は心臓を冷たい手で握られたような奇妙な感覚を味わう。


気持ち悪い…


夜鷹は口を両手で抑えて、玄関の土間に膝をつく。脳内に月読の声が響く。


「君はバカなのかい?もう、君はこの屋敷から出ることは出来ないんだよ。私のような強力な神を封印しているのだから、一部の隙間もあってはならないんだ。今、君がその戸を開けたなら、君は一瞬で木っ端微塵になっていただろうね。」


月読の説明に、夜鷹は自分の思慮の浅さを痛感する。


そうだったんだ。僕は、月読尊様と一緒に封印されているんだ。もう、外には出られないんだ。


覚悟していたはずのことではあったが、実際にそうなると無性に悲しくなる。


もう、あの空を見ることは出来ないんだ。


夜鷹は昨日まで、当たり前に眺めていた昼間の青空や夕暮れの茜空、夜の星々瞬く星空を心に思い浮べる。


「そんなに空が見たいのか?」


気がつけば、奥の部屋の戸の前に月読が立っていた。


はい。だから、さっさと天照大神様との約束を果たします。


「あっそ。」


月読は再び夜鷹に興味を失うと、部屋の奥へと戻ろうとする。


あの、ありがとうございました。助けてくださったんですよね。

「別に。グロテスクな光景は御免蒙りたいからね。」

それでも、ありがとうございました。お陰で命拾いしました。

「はいはい。じゃあ、もう話しかけないでね。」


月読は本当に、部屋の奥へと戻って行った。夜鷹も回復すると、ヨロヨロと部屋に戻って行った。


そういえば、掃除するものを探していたんだった。


夜鷹は部屋を見渡す。しかし、何もそれらしいものはない。


仕方ない。


夜鷹は半尻の狩衣を脱ぎ、狩衣を割く。夜鷹の奇行に、狼狽えた月読は文机から慌てて駆け寄る。


「何をしている。」

掃除をしようと思っています。床を拭くものがありませんので、僕の衣装で代用させていただきます。

「そんなことしなくて良い。」

掃除してはいけませんか?

「いけなくはないが…」


月読が言葉に詰まると、夜鷹は話はこれで終わりとでも言うように狩衣を再び割き始める。


「分かった。拭くものがあれば、自分の衣装を割くのをやめるんだな。」

あ、はい。僕なんかの衣装で、月読尊様の居所を掃除するのは、良くなかったですか?

「…そうではないが。まあ、少し待っていろ。」


苦い顔をして、月読は鏡に向き合う。そして、徐に月読は鏡の表面に足を近づける。月読の足は鏡に吸い込まれるかのように、飲み込まれていく。


なんだあれ。鏡じゃなかったのか?


夜鷹はその光景に、目を瞬かせる。スッポリと月読が鏡の中に入ってしまうと、夜鷹は鏡に近づく。


この中に月読尊様が入って行かれた。


夜鷹は鏡の表面を撫でる。


ただの鏡だ。僕は入れそうにない。


しげしげと鏡に顔を近づけていると、ニュッと現れた月読の足に、夜鷹は勢いよく顔を蹴られる。夜鷹は鏡に夢中になっていたために、後ろに盛大に尻餅をつく。


「大丈夫か?」


鏡から現れた月読は、夜鷹を蹴ったことに気がついたのか、夜鷹に声をかける。


はい。すいません。


夜鷹も自らの不注意を謝罪する。


「あったぞ。これで拭け。足りなかったら言え。決して、服を破いたりしてはいけないからな。その服も借せ。」


夜鷹の破いた服を奪うように借りると、月読は狩衣の皺を伸ばすように、パシッと振る。すると、どこも破れていないどころか、埃のついていない綺麗な状態の狩衣に戻った。


すごい。ありがとうございます。これ、実は気に入っていて、本当にありがとうございます。

「気に入っているのに、破いたのか?」

は、はい。それ位しか適したものが見つからなかったので…


まじまじと月読に見つめられ、夜鷹は居心地が悪くなり、夜鷹は頭を下げると、早速もらった手拭いで床を拭き始める。


月読尊様って、優しいんだな。

「優しくなどない。勘違いするな。私は君のように優しさを押し売りする奴が大嫌いだ。だから、阻止したまでのことだ。分かったら、さっさと私の視界から消えろ。」

はい。


夜鷹は月読に見られないところで、クスクスと笑う。


それが、優しいと思うんだけどな。


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