プロローグ
夜鷹は暗い暗い夏の空を飛んでいく。ここ数日、ろくに食べていない夜鷹は、ほとんど気力で飛んでいた。ふと、夜鷹の頭上に青白く力強い光を発する星が現れる。夜鷹はあらん限りの声を振り絞って、オリオン座に懇願する。
「西の青白いお星様。どうか、僕を星にしてください。」
オリオン座は悠々と歌を歌うばかりで、夜鷹の声などまるで届いてないようだった。夜鷹はすっかり心が折れて、ヨロヨロと南の方へと飛んでいく。
南の空には青い星々が輝いて、夜鷹は再び勇気を出して、おおいぬ座に呼びかける。
「南の空の青いお星様。どうか、僕を星にしてください。」
おおいぬ座は、青や紫の星々を瞬かせ、クスクス笑う。
「あなたは無理ね。だって、ただの鳥だもの。それに醜い。」
夜鷹はすっかり悲しくなって、それでもめげずに北の空のおおぐま座まで、強張って動かしにくい羽をバタつかせる。
「北の青いお星様。どうか、僕を星にしてください。」
おおぐま座は、不愉快そうに喉を鳴らす。
「おまえが、星にだと?おこがましいにも程がある。何の伝説も持たないお前が、星になどなれるわけがない。」
ピシャリと却下され、夜鷹の僅かに残っていた気力は、底を突きそうになる。そんな夜鷹に、甘い声が東の方からかかる。
「おーい。君、星になりたいのかい?」
夜鷹は、今度こそと最後の気力を振り絞り、東の空の鷲座目掛けて飛んでいく。
「東の空の白いお星様。僕を星にしてくださるのですか?」
「そうだね。君はどのくらいお金を持ってるのかな?」
「いえ、全く持っていません。」
夜鷹の返答に、鷲座は少し眉を顰める。しかし、すぐに商売人のような笑顔で、夜鷹に向き直る。
「では、夜鷹というくらいだ。鷹の一族と親戚なのだろう?」
「いいえ。僕はカワセミやハチドリの一族と親類ですが、鷹の一族とはまるで…」
「話にならん。お前が星になど、到底なれるわけないだろ。」
鷲座は大きな翼を広げて、夜鷹を威嚇する。夜鷹は、星になれないショックと鷲座の迫力に、最後の気力も潰えて、高い空から何の抵抗もすることなく落ちていく。
たまたま、落ちた先はその辺りで一番高い木の上だった。夏の夜は短く、既に東の空は明るんでいた。
ああ、結局僕は何もままならないまま、死んでいくのか。
夜鷹が諦めかけたその時、東の空から優しい女性の声がした。
「夜鷹。あなたは本当に星になりたい?」
「はい。」
夜鷹は自分でも驚くほど、大きな声で太陽に返事をしていた。太陽はなおも夜鷹に問う。
「死ぬよりも辛いことでも?」
「はい。」
夜鷹に迷いはなかった。星になれるのなら、文字通り何でもやるつもりだった。
「その言葉に偽りはないわね?一度こちらに来たら、もう二度とあなたは元の輪廻に戻ることは出来ないわよ?」
「星になれるのなら、何でもします。どんな地獄にも耐えてみせます。」
先ほどまで死にかけていた鳥の言葉とは思えないほど、夜鷹の声はハッキリと太陽に届いた。
「分かった。じゃあ、私が星にしてあげる。だけど、あなたには一つ私の願いを叶えてもらう。いいわね?」
「神様が叶えられない願いを、僕が叶えることなんて出来るのでしょうか?」
「どうかしら?分からないわ。叶えられなければ、あなたは星になることも出来ないで、ずっと地獄のような日々を送るだけ。」
「…分かりました。ほんの少しでも、星になる機会があるなら、僕は頑張ります。」
「契約成立。」
女性の声が夜鷹の中で響くと、不思議と夜鷹の体が今までにない速さで上空へ引っ張られていく。その様子は彗星のようだった。




