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第二話 役割 2

誤字修正 04/19 


「おはとう」 → 「おはよう」 に


再び口から出た「おはとう」の言葉。この後に訪れる奇妙な胸のざわめきが、本当に『寂しい』と表現して良い感情なのか、自分の心に抱いているはずの問題だったが、テイナ自身でさえ分からないのだ。

 しかし、そんなテイナも完全なる孤独を味わっているわけではない。



再び口から出た「おはよう」の言葉。この後に訪れる奇妙な胸のざわめきが、本当に『寂しい』と表現して良い感情なのか、自分の心に抱いているはずの問題だったが、テイナ自身でさえ分からないのだ。

 しかし、そんなテイナも完全なる孤独を味わっているわけではない。


 ――おはよう。

 朝を迎えたテイナは誰に言うわけでも無く、儚げにそう呟いた。

 一人の生活。これを寂しいと思った事は一度も無い。

 何故なら、テイナは初めから孤独だったからだ。やることをやれば、明日を生きるための食料は貰える。頑張り次第では、生活を豊かにすることだってできる。

 再び口から出た「おはよう」の言葉。この後に訪れる奇妙な胸のざわめきが、本当に『寂しい』と表現して良い感情なのか、自分の心に抱いているはずの問題だったが、テイナ自身でさえ分からないのだ。

 しかし、そんなテイナも完全なる孤独を味わっているわけではない。

「お金、渡しに行かなきゃ」

 今日は、旅人から得ていた金貨を納める日になる。外出のために、少し小綺麗に整えた身なりのテイナ。この日はテイナの数少ない楽しみの一つである、納金の日。森を抜けた先にある村の長に金を納め、褒美をもらうのだ。テイナは納金の度に記録を更新しているため、貰える褒美の価値も増してきている。

 しかし、テイナはいつも受け取りを辞退していたのである。自分の成果なのに、もったいないと村人は言うが、テイナは首を横に振る。

 ――私が幸せになるのはまだ早い。それなら、この褒美は他の人たちに渡して、分けあって欲しい。

 流石に、村長もテイナの意思を折るような事も出来ず、その日から、テイナの褒美だけは他の村人に平等に配分されているのである。

 変わった人。村の外れの森に住む道具屋の主人は、そう呼ばれていた。

 構わない。テイナは、相手の幸福を願って道具を作り続けているわけで、相手から得た利益を褒美のために使うのは間違っているような気がしていたからだ。それがどんなに正当なものであったとしても、頑固なテイナは変えないだろう。

 金貨がたんまりと入れられたお手製のバスケットを揺らし、森を歩くテイナの前に、一頭の獣が現れる。

「あれ?」

 尖った耳と鋭い爪を持つ獣。そう言えば、動物の姿を見たのは数年振りかもしれない。旅人が狩ってしまうせいか、獣がこの森に住みつくことは無くなったはず。まさか人以外の生物を森の中で見ることができるとは思わなかった。

 目を取られていたのも束の間、灰色の毛が風になびくと同時のことだ。その獣の姿は深い森の奥へと消えてしまう。

 追いかけようとしていた足を止め、行き先を村へと戻すテイナ。生きてさえいてくれれば、きっとまた会えるだろう。

 テイナは獣が消えた方に体を向け、「また出会えたら」とお辞儀をした。

 

 森を抜けると、下には小さな村が広がる。豊かな畑と田んぼが連ねる景色、大雨でも降れば、簡単に壊れてしまいそうな程に脆そうな家々が目立つ。それは、数年前に家を建て直す事が出来る技師がいなくなってしまい、頼める相手がいなくなってしまったからだ。

 同じ村に住んでいるわけだが、テイナの家には自身の手が加えられているため、技師の力は一切借りていない。生まれた時から家の形は変わらず、施した事と言えば、古びた所の補修作業のみである。

 最終的には、機能性よりも雨風をしのげる場所であれば何でも良い、という興味が惹かれる事象以外には無関心なテイナらしい結末に至る。

 テイナは木々の間を通り、すぐ側に作られた木製の階段を降りる。テイナのために作られた階段だったが、作り方を間違えたのか、急勾配過ぎて降りるのに不安が残る。

 怪我も無く無事に降りると、田んぼと畑を挟んだ真ん中の道に並ぶ人の列があった。この人たちも、村長に金貨を渡しに来た人たちなのだろう。テイナはそう頷くと、最後尾に並び、自分の番を待つ。

「またあの人……」

「ええ、きっと……」

 囁く声。それが自分を指した会話であることに気付いたテイナ。

 村から離れた場所に住むテイナには、気軽に会話ができる親しい人はいなかった。基本的に、材料は直接家まで運ばれてくるし、食料だって森の中にある泉や自分で耕した畑から採れる魚や野菜があれば生活するのに不自由はしない。

 そのせいもあり、テイナが村に来る時は納金以外では殆ど無い。

 俯き、急に恥ずかしくなってしまったテイナは、後ろから声をかけていた人物を他所に、妄想に浸っていた。

「おい、聞いているのか!?」

 肩を揺さぶられ、驚くテイナ。振り向くと、お世辞でも若いとは言えない、無精ひげを生やした男がそこにいた。

 男はテイナが聞こえていると分かると、肩から離した手を下に向けて動かした。

 少女。男の子供なのだろうか、落ち着いた雰囲気の少女は、テイナに頭を下げた。

「……え」

「あんた、褒美をもらってないだろう? その褒美を我が家も頂いているんだが、前の納金の時は不作で、生活に苦労していたんだ。でも、その褒美をもらって、何とか今回の納金まで保つことができた。あんたのおかげだ、感謝している」

 男も続いて頭を下げる。感謝の意を理解したテイナは遠慮がちに、「気にしないでください、私のわがままでやっていることですから」と話す。けれど、男は退こうとしない。

「後で我が家に寄っていってくれ。今回は豊作だったから、良い野菜を渡せると思う」

 にっと明るく笑う男に、少女も似たような笑みを浮かべて「うちの野菜美味しいんだよ」と言った。

 頷くテイナ。自分が何気なくやっていたことが、他の人の為になっていると分かった瞬間、心の中が晴れやかになった気がした。


 列が次第に前へと動く。袋いっぱいに褒美をもらっている者もいれば、指一本で支えてもまだ軽いと思える程に少量しかもらえない者もいた。

 ちなみに、褒美とはこの村で使われる通貨である。どうして、外で使われている物と分別しているのかは分からないが、生活する上では大して気にかける問題でも無いはずだ。

 戻っていく村人を見ながら歩いていたせいか、前の列が止まっていることを知らずに歩いていたテイナは、目の前の人にぶつかってしまう。

「す、すみません」

 しかし、ぶつかられた事さえ気にかけないその村人は、怒りの矛先を後ろにいるテイナに向けていなかった。

「いい加減に諦めろ! 努力しなかったお前が悪い!」

 大柄な村人の横から、前の様子を見ることにしたテイナ。村長の家の前で、村人の一人が褒美を受け取ろうとせず、頭を地面に深く押し付けていた。

 話し声は聞こえない。だが、前にも同じようなことがあった気がする。

 確か、病気に患い、殆ど仕事が出来ず、受け取れる褒美が片手で数えられるほどしか無かったという出来事。その時も、村長の目の前で必死に説得していたようだが、最後まで聞き入れてもらえなかった村人は、この村を出て行ってしまったのだ。

 今回は、先に話しかけてくれた人と同じように、不作のせいで金貨が殆ど得られなかったせいだと勝手に推測してみる。

 人の入れ替わりが止まってからしばらく経つと、男は諦めたのか、肩を落として来た道を戻っていく。テイナの金も加わっているはずだが、涙ぐむ村人の様子を見るに明日も生きれるかどうか分からない程なのだろう。テイナの目の前で腹を立てていた村人も、その様子を汲んだのか、それともやっとどいてくれたと安堵したのか分からないが、去り際に文句は言えないようだった。

 そして、テイナの番になると、久しぶりに見たテイナに村長は握手で応える。

「久しぶりですね、テイナ。おお! 今回も稼いでくれたようで安心したよ」

 バスケットいっぱいに入れられた金貨を別の村人に渡すと、手際良く量を測っていく。その間、テイナは村長に庭で見た花の話をしようと思いついた。

「あの、村長。私の庭にとても綺麗な花が咲いているんです。村人を連れて一度、見に来てもらえないでしょうか?」

 整った顔立ちと長めの黒髪、加えて丁寧な言葉遣いが特徴のこの村の長。村長さながら、人望は厚く、村人の話を熱心に聞き入れ、要望があれば出来る範囲で応えるようにしていた。

「花……ですか?」

 期待していた表情とは異なり、村長の表情は曇っていた。もしかして、村長は花が嫌いだったのだろうか。不安になるテイナに対し、村長はすぐに普段の顔になると、頷いた。

「では、後ほど向かうとしましょう」

「ありがとうございます。あ、お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

 話している内に、金貨の換算が終わったのだろう。今回も、テイナの金貨は前回を遥かに上回る量となった。

 気分が良いまま、テイナは帰路につく。すると、先ほど礼を言ってきた男と少女が走ってきた。男の肩には、袋いっぱいの野菜が乗せられている。

「え、お、多いですね?」

「何言ってんだ。このまま森まで運んでやるよ」

 にっと笑う男に、テイナは首を横に振る。途端、野菜を降ろした男は、「なら、どうやって持っていくんだ」と尋ねる。

 テイナは野菜が入れられた袋、正しく言えば、その置かれている地面に向けて声を送る。

 ――精霊よ。私の願いを聞き入れなさい。

 これが、テイナが一人で生きてこれた理由。

 精霊使い。道具屋でありながら、テイナは精霊を呼び出す方法を知り、尚且つ利用する術まで心得ていたのだ。

 地面が形を作り、野菜が入った袋を包んで姿を変える。土に覆われた袋は完全に土に飲み込まれると、次に土は自分の形を形成していく。

 自分とほぼ同形の物体。質量共に一致する人の姿に似た土の人形は、テイナの家に向かうため、森の中に入っていった。

「あんた、精霊を使えるのか」

 初めて見た精霊の呼び出しに、男と少女は唖然とする。人前で披露するような特技ではないが、人に誇れる特技ではあった。

「ええ、何かあればお手伝いさせて頂きますよ。その時は、お代は頂きますけど」

 ちゃっかりと宣伝をしておくテイナ。男と少女と世間話をし、そのまま別れるとテイナは、地面に向けて再び語りかける。

 盛り上がる地面。扉が開くかのように土が移動すると、そこにはもらった野菜のほぼ全てが置かれていた。

「……先ほどの人の家に、この野菜を届けてください」

 土が再び移動すると、何もなかったかのように先と同じ地面に戻る。

 そう、テイナは自分の幸せなど考えていない。他の人の幸せを守るために、テイナは生きていた。

 それが一体何になるのか。今は分からない。

 けれど、一つだけ言えるのは、この『役割』はテイナにしかできないことだということだ。

 心地良い風と、土の香りを身に浴びて、テイナは家へと戻る。

遅れてしまい申し訳ありません。


一週間以内での更新と言っておきながら、それを守れなかったことを謝ります。

しかし、またこのような事が無いとは言い切れません。ですので、ご了承下さいという言葉を付け足しておきます。


キャラの紹介については、また章終わりにしていきたいと思っています。


では、また次回の更新で。

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