第一話 役割 1
長きに渡る争いは無くなり、失われた地にも平和が訪れていた。
そんな、森の中にぽつりと佇む一軒の家。その中に、一人の少女は住んでいた。
平和を手に入れた世界での少女の『役割』は酷く単純で、人であれば誰にでもできるようなことであった。
家の裏に生える薬草を集め、その薬草を潰すことによって採れる液を日を跨ぐ毎に家の前に置かれる瓶に詰めていくという作業。それが、少女の『役割』。
道具屋。
周りは少女の事をそう呼び、少女自身も、その呼び名を気にする様子も無いまま生きてきた。
――生まれてから、死ぬまで。これだけを続けて生きていくのだろうか。
時折訪れる旅人から、外の世界の話を聞こうと試したことがあったが、少女の事は見えていないのか、金貨を置いて瓶だけを彼らは取っていくのだ。
少女は今日の仕事を終えて、机の上に腕を置いて顔を伏せた。日に日に仕事量が増えていっているが、それだけ自分の腕が上がってきたのだと、少女は腕の中でだらしない顔を浮かべていた。
この国で道具屋を始めてから、もう二十年以上は経つ。体が丈夫なのが取り柄な少女だが、衰えを知らないというのは恐ろしいものだと感じている。
――いや、健康なら良いじゃないか。
独り言。
癖のようになってしまっているそれは、もう治らないだろうなと少女は思っていた。
親譲りの茶色の髪を目元から上げると、少女は言葉を空に乗せる。
「髪、切ろうかな」
誰も自分に気を留めないせいか、身だしなみに気をかける事が無い。しかし、生活に支障が出る程までに伸びてしまった髪は、些か容認できたものではない。
――切ろう。
少女は、長机の下に並べられた箱から、赤茶色に色褪せた刃物を取り出す。
軋む床に破損への不安を感じながらも、少女は外に出ることに成功した。
反転。『開いています』と書かれた小さな板を扉から外し、板から垂れ下がった紐を再び、扉へとかける。
今度は、『閉じています』という文字が表された。
店を閉じる時間を多少早めても、誰にも怒られない。
自分のペースで、作業すれば良いのだ。
少女は店内へと戻ると、そのまま裏に抜けて、外で髪を切り始めた。
――そして、いつもと変わらぬ日常だと、日が沈むことによって知ることになる。
首元まで短くなってしまった自分の髪。
鏡を見て、不思議と気分が明るくなったような気がした少女は、薬草を作るための草をお構いなしに踏みつけながら、家の裏に咲く一輪の花の前に座る。
この花が、今の少女の生きる希望になっていた。
いつもと変わらない毎日を変えた、この花。月明かりが差し込む時にだけ流れる雫を少女は熱心に集めていた。
これが何の意味になるのか分からない。けれど、薬草の液を作るより、銀色の花びらを輝かせるこの花の雫を集める方が楽しかった。
昼間は、花びらを閉じてしまうこの花。月が出てくる時間にだけ開花し、ほのかな甘い香りを漂わせてくれるのだ。
週間付いてしまっているせいなのか、空き瓶一杯に雫は溜まっていた。人の涙にも満たない程に少量の雫が縁にまで到達していた空き瓶は、捨てようにも捨てられず、少女は三日程、雫が地面に落ちていく様を見届けるようにしていた。
月の光を纏って落ちる雫は、地面に落ちて四散したとしても、周りの草たちに纏って再び輝き始める。
少女はその光景にうっとりとする。
その時、少女の心の中に、この光景を他の人とも共有したい気持ちが現れる
――他の人にも見せたい。一緒に、この感動を分かり合いたい。
透き通るように滑らかな花の表面をなぞりながら、少女は頷いた
そして、『役割』を与えられた少女――テイナの、小さな、小さな『反逆』が始まった。
上雛平次と申す者です。
前作、『さる武器屋の英雄伝』から二十数年後の世界という設定で書き進めていこうと考えている作品です。
実際は、こちらの方が先出なのですが、あまりにも内容が不安定な物となってしまったため、前作の方から出させて頂こうと考えた次第です。
久しぶりに作品を投稿したい、という甘い考えで執筆を再会したわけですが、
※まだ、就活は終わっていません
一刻も早く投稿しなければという謎の使命感に駆られ、投稿を開始したこちらの作品ですが、予め言っておきます。
文字数が少なく、尚且つ投稿頻度が悪いです。
正直、読むに堪えない作品になってしまうことは覚悟していますが、それでも読んでくれるという方がいてくだされば幸いです。
では、また次回の更新を。