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小さな勇気大きなスイッチ


…やっぱり信じられない、かも。


俊は、顔を引きつらせてガチンゴチンに固まる彼女を前に、心の中で頭を抱えた。

昼休みに、落とした弁当のスカーフを拾っただけなのに。

それを受け取る彼女と来たら世界の終わりを見たような顔をしていたのだ。

…単純に、凹む。

ため息を隠しながら、前を向いて自分の席に戻った。


…あーもう、かっこ悪。


ズキズキと胸が擦り傷だらけで痛む。

こうなることは、予測していた。

でも、それでも拾ってしまったのは…どの道後悔するからだった。

拾わず後悔するのなら、いっその事拾って後悔してみよう。

今日は強気だったはずの自分は、見事このなんの破壊力もなさそうな女の子に打ちのめされたのだが。


そんな彼の後ろで、やっと決心したように千葉澄香は目をギュッとつむった。


「あ…り、がとう…。」


消えそうな、声。


目を見開きながら俊はゆっくりと振り返る。


そこには、もう俊の方を全く見ていない、いや、意地でも見ないぞという気配を背負った小さく震える彼女がいた。

下を向いた彼女の首が淡く紅潮している。

次に耳がポッと花が咲いたように赤くなった。


「………っ」


たまらず。

俊は音も立てず前を向く。


それは、…答えだった。


カチンッと肺の奥で音がする。


彼女からのその小さな小さな合図は、俊の中では大きな大きな爆弾スイッチになってしまった。




胸の奥でカチリと確かな音を聞いたその日から俊は彼女を黒い色眼鏡で見なくなった。

むしろ優しい色合いの色眼鏡を改めて掛け直し、彼女を垣間見ると、相変わらず避けられているにも関わらず俊はこっそり微笑んでしまうのだ。


プリントを配る、震える白い手だとか。

ほんのちょっと間合いを取られた後の顔を両手で恥ずかしそうに抑える仕草だとか。

今まで気付けなかった小さな事が、俊の鈍い胸を甘く優しく刺す。

彼女の制服が半袖になって、更に長袖に戻る頃には…俊の心臓はボロボロだった。


明らかに避けられては凹み、


部活に出て爆弾が落とされれば自分の動悸を落ち着かせるのに必死になり、


更にまた避けられては凹み、


そしてその行動の影に、ふと彼女の甘い頬の色が運良く見られれば、妙に気持ちが切なくなるのだ。


ああ、


俊は部室で疲労を隠し切れず胸をかく。


なんだか、


あの無害そうな伏せられた瞳に、振り回されている気がする。

情けなくもあり心地良くもあり、そして困ってさえいた。

野球以外でこんなにも心を砕く事があるのかと。

表向きはポーカーフェイスを保ちつつ、その小さな小さいため息は隣の松浦にしか聞こえなかった。



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