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消しゴムの行方


少しして、知ったところでどうなのだと不機嫌になっている自分に気付く。

100%自分ではないのだから。


コロンと後ろの席から消しゴムが転がる。

ギリギリ席を立って取るか立たないかの微妙な場所で止まる白い塊に俊が困惑していると、スッと大人しそうな細い身体が横切った。


白い、手首。


細いしなやかで柔らかそうな指が消しゴムに伸びて的確に摘まむ。


バッ


俊は見てはいけないものを見てしまったかのように顔を赤くして目をそらした。

別に、どれだけ見ても大丈夫なものなのに。

伸ばされたせいで、少し隠れていた彼女の手首が見えただけだ。それだけだ。


…ああ。


俊は机に頬をつけて反省した。


自覚したのだ。


自分は高校一年生の、ただのエロい、青い男なんだということを。




後ろの席の千葉澄香という女の子は、よくものを机から落とす。

消しゴム、ペン、プリントに教科書。

でも、俊はどれも拾って上げることはできなかった。

拾える距離なのに、迷いが生じる。

迷ってる間に、彼女がさっさと拾いあげるの悪循環。

だって、誰だって思うだろう。

これ以上嫌われるのはいやだって。

拾った後、嫌そうにされたら、凹むどころではない。

心の中で怒り狂うかもしれない。


…俊は柄にもなく、臆病になっていた。




「俊くんが、好き。」


目の前の背の低い女の子が顔を真っ赤にして、そうつぶやく。

目が、希望に揺れていた。

俊はずるっと肩をずらして目の前の信じられない光景を他人事のように見る。

部活の休憩時間にグラウンド外に呼び出されたと思ったら、こんな事がこんな所で始まってしまったのだ。

金網越しに、先輩や、同じ部活の同級生の目もある。


…なんでだ。


この子は、…人に見られているのに恥ずかしくないのだろうか。

後でからかわれる事を想像し、俊は内心ため息をついた。



「…悪いけど。」


言葉少なに、俊はポーカーフェイスのまま頭を下げる。

地面に、自分の影が伸びた。




「あー!千葉っち!あんたの大好きな滝井君があんなとこで告られてるよーっ!」


俊は目を見開いて広がる土を脳内に焼き付ける。


衝撃。


そう、衝撃だった。



彼女の通る声の内容が、俊に殴るような衝撃をくわえたのだ。



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