打撃
慰めのようなものだった。
担任から「硬式は無理だけど、軟式なら通常の部活と一緒の扱いだから入れますよ。」という言葉で、そんな堅い決意もなくフラフラと入部届けにサインした。
帰宅して、何の高揚感もなくバリカンのコンセントを入れる。
「半年ぶりか。」
バリバリと音をならしながら肩に半年分の髪が落ちる。
後ろはいつも弟にしてもらっていたけれど、その日は生憎友達のうちに泊まるとかで不在だった。
手探りでバックも刈り、ふぅと息をつく。
「…。」
鏡の中のこの投げやりな顔。
流石にこんな表情のまま行くのは失礼だ。
俊は気合いを入れるようにパンパンと自分の頬を両手で叩いた。
◆
「もったいない!」
口々に周りから非難めいたヤジが飛ぶ。
…そんなこと言われても。
半年前までこの髪型だったわけだし。
「滝井!どしたんだよその頭(笑)」
「あー、部活入った。」
「部活?」
「軟式。」
「あー、野球ね!これまた似合わない所に(笑)」
に、似合わない?
「似合わないってなんなんだよ…。俺中学野球部入ってたんだけど。」
「へー、想像つかねぇ!」
こんな感じで周りからは散々の言われようだった。
◆
キーンコーンカーンコーン……
「ふぅ…」
放課後。
なんだかやっとチャイムが鳴った…って気分。
俊はやっぱりどうしても晴れない顔のまま荷造りを始めた。
「(後頭部かゆ…。)」
剃りたての頭が寒くて痒い。
いつも…、頭を刈る時は、自然と姿勢が真っ直ぐになるような、そんな儀式めいた神聖さがあったのに。
いつまで立ってもこの横になったままの気持ちは何なのだろう。
はぁ…
「(軟式なんて…軟式のなの字も知らないのに…俺何やってんだろう…。やっぱり、行くのやめるか…?)」
ばしぃぃいぃん!!
そのとき。
後頭部に結構な衝撃を食らった。
「?!」
まるで、全部心の中を見透かされて、叱られたような。
しっかりしなよ!といわれたような、そんな気がした。