気付く
ガウゥンンン…と脳に衝撃の波紋が広がる。
笑ったのだ。
千葉が。
…知らない男に。
それは、殺傷能力抜群の斬れ味だった。
クラスの前の廊下で、俊は見てしまった。
特に仲のいい様子には見えなかったが、二言三言話して、ふっと彼女が笑ったのだ。
遠慮がちに、控えめに。
でも、思わず笑ってしまったと、あの白い手を添えて彼女は知らない男に笑うのだ。
眉を垂らして、目を少し細めて。
あんな顔…見たことない。
悔しいのか悲しいのか衝撃を受けたのか落ち込んだのか、はたまたそれ全部か。
そんなどうしようもない感情を背おって、俊は廊下を歩く。
彼女の方は…見なかった。
ひたすら心臓が痛かった。
◆
久しぶりに空を見つめてボケーッとする。
いつもいつもボールを追いかけているからつい忘れてしまうが、俊の頭上にはいつでもこんなにデカい空が広がっているのだ。
…はぁ。
空に逃がす、ため息。
あの、地味に衝撃的だった一件で、俊はまざまざと思い知らされたのだ。
変わらないと思っていた、彼女との関係。
…変わっていないと思っていた。
彼女が歌って、俊が聞く。
グラウンドで、野球をしながら。
クラスが変わっても、これだけは。
これだけは変わらないと。
でも、違うかもしれない。
変わるかもしれない。
彼女が明日から急に気が変わって歌わなくなるかもしれない。
急に気が変わって…、
あの爆弾が根本から無くなるかもしれない。
俊は後悔した。
なんで、なんでなんで。
いくらでも、いくらでもあったじゃないか。
なんで、自分から動かなかったんだ。
なんで。
もう、既にクラスは離れてしまった。
彼女から直接聞いたわけではない。
俊のどこが気に入ったのかまったく分からない。
本気じゃないかもしれない。
…そんな事はどうでも良かったのだと今、俊は知る。
赤くなる前の空をもう一度見上げた。
彼女がどうのこうのじゃない。
自分が、
彼女の事を好きだったのだ。




